黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
912 / 960
26章

ドラゴンの谷⑦

しおりを挟む
「爺様、マッズイ薬草の良い物なーい?」
「ああ、それならそっちの棚にあるじゃろ?」
「貰っていい?」
「いいぞ。しかし、それはかなり口にするのは嫌がられる薬草だぞい?」
「それでいいの! ドラゴンを食べたんだから、これぐらいは罰なの!」

 何やらエデンが物騒な事を言いながら、ウォルベクスさんに薬草を貰いギュウギュウと風呂敷に入れ込んでいっている。
うちのエデンが製薬部隊と一緒に行動し過ぎて、悪い子になってないかいささか不安だわ。

「ピィィー」「ピヤァー」「ピェー」
「はいはい。おチビちゃん達も元気ね。大きくなるんだよー」

 私の足元には生まれたばかりのドラゴン達がワラワラ集まり、頭を撫でろと列をなしている。
大人のドラゴン達も並んでいるのが気になるけど、チマチマした可愛らしさにギュッとしてしまいたいけど、それをするとジェラシーの塊のルーファスまで列に並びそうだから、撫でるまでに留めておかないとね。
すでに私の腰に手を回して、後ろに張り付いているルーファスではあるけどね。

「アカリ……」
「ルーファス、かないの」

 ドラゴン達だけではなく、眉間にしわを寄せてヴヴヴッと唸っているルーファスも子供のようだ。私達がドラゴン達と遊んでいる間に、エデンは薬草を詰め込み終わったらしく、「帰るのー!」と風呂敷を背中に背負って手を振っている。

「それでは、ウォルベクスさん、お世話になりました」
「うむうむ。また遊びにおいで。お前達もたまにはこの子らに会いに帰っておいで」
「はいなのー!」
「爺様も元気でね!」
「爺様、今度美味い酒を土産に持って来てやろう」
「爺様、達者で暮らせよ」
「「「ピィィィー」」」

 来た時と同じように木のかごに入り、チビドラゴン達とウォルベクスさんに見送られて私達はドラゴンの谷を後にした。
帰る時は、上空を上に上にと飛んで雲を抜けた時、雪の降る山岳地帯に出て、慌ててルーファスが移動魔法で温泉大陸の我が家の庭に繋げて帰ってきた。

「ふぅー、チビドラちゃん達可愛かったねぇ~」
「ピィィ」

 籠から下りて腕を空にあげて伸びをした時、足元で先程まで聞いた小さな声がした。
首を傾げて私を見上げる、黒いドラゴンで金の目が一つのチビドラゴンが、そこに居た。

「はっ?」
「え?」
「ふわぁぁぁっ!?」
「ピィィーッ!?」

 驚きの声が庭で上がり、チビドラゴンを捕まえようとしたグリムレインが手を伸ばすと、カッと白い光がチビドラゴンの目から放たれて、グリムレインが石にされてしまい、私の【聖域】が石化も溶ける事が解ったけど、このチビドラゴン、物を石に変える石竜らしい。

 一応、ウォルベクスさんにも通信出来るように腕輪を渡しておいた物を、こうも早く使うなんて思っても居なかった。

『ピスターシュは、そっちで育ててみると良いだろうて。こっちはまた卵が孵って子沢山状態じゃからな』
「はい。では、お預かりしますね」

 こういう訳で、石竜ピスターシュが我が家の預かりになってしまったのだけど、まだ小さい上に、記憶がある大人のドラゴンと違って、本物の赤ちゃんドラゴンなので『人を石化させてはいけない』と、教え込むのがなかなかに難しそうだ。
当分は私のポーションを大量に置いておかないと石像がいっぱい状態になりそう。

「あんなー!! ないないなーっ!!」
「こら! コハル、駄目よ!」

 ピスターシュの尻尾をバシバシ叩くのはコハルで、実はコハルはすでに何回か石化させられているのだ。
帰ってきてコハルにピスターシュを見せてあげたら、目に指を入れて石化させられ、コハルが悪いんだけどコハルはご立腹中で、止めれば良いのにピスターシュに攻撃しては、石化させられるのを繰り返している。

「コハル。ピスターシュはコハルよりも赤ちゃんなんだ。小さい子には優しくしないと駄目だぞ?」
「うーっ! ないなー!」

 ルーファスが優しく言い聞かせても、コハルは怒っているのだから、これは少々大変そうだ。
ピスターシュは私の後ろでピィピィ声を上げて泣いているし、小さい子同士の喧嘩みたいではあるんだけど、何分なにぶん二人共、特殊能力が特殊能力なので早めに和解させるか、ピスターシュかコハルが言葉を理解できるまで、引き離しておかないと危ない気もする。

「アカリー、このデケェキノコはどうすんだ?」
「ハガネにお任せ! エリンギっぽいから、ベーコンと炒めて塩コショウでも美味しいと思うし、天ぷらも美味しいと思うの! パスタには絶対入れて欲しい~!」
「へいへい。保存用にオリーブ漬けに半分ぐらいして、【刻狼亭】の従業員の食堂の方にも半分持って行くからな?」
「そうして~。ハガネの料理の腕を私は一番信用してまーす!」
「ピィピィ!」
「んぁ? チビ助もキノコ食うか?」
「ピィィ」

 ハガネがキノコを担いで台所に行くと、ピスターシュも尻尾を振りながらハガネについて行ってしまった。
小さい子の心を掴むのが上手いから、ハガネに少し任せて我が家のお姫様のご機嫌を治しておくかな?

「ほら、コハル。母上が抱っこしてあげよっか?」
「ああに! んふっ」

 ギュウッと足にしがみついてきたコハルを抱き上げて、だいぶ重くなってきたかな? と思う。

「なんだ、コハルはアカリがピスターシュに取られて、拗ねていただけか」
「あらまぁ、コハルったら妬き持ちやきさんねー。ふふっ、ルーファスに似ちゃったのかな?」
「オレは流石に……目潰しは、しない」

 流石にルーファスが目潰しをしたらシャレにならないけど、言い淀む辺り気を付けないとやりそう。
笑ってコハルを構ってあげてから、次に我が家のもう一人のおチビさん、スクルードを見に行くと、台所の椅子にピスターシュと一緒に座って、絵本をコハルに読み聞かせるようにやってあげている。
我が家の小さいお兄ちゃんはお兄ちゃんだなぁと、うんうんと頷くと同時に、ハガネのお兄さん気質なところも見習っているのかな? と思う。
ハガネの良いところはいっぱい見習って、駄目なところは見習わないように! これ重要。

「アカリ、天ぷらの味見するか?」
「します! 天ぷらは出来立てが一番だよねー!」
「チビとスーも食うだろ? 塩とつゆとソース、どれがいい?」
「私は塩!」
「ピィー?」
「つゆー!」
「俺はキノコはソース派だ」

 ハガネに四角く切られた一見キノコに見えないキノコの天ぷらを貰って、台所で味見をして「美味しい~」と騒いでいる間に、お昼ご飯を食べに屋敷に顔を出したリュエール夫婦とシュトラールにも、新しい家族としてピスターシュを紹介して、一応の為の私特性ポーションを渡しておいた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。