黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
911 / 960
26章

ドラゴンの谷⑥

しおりを挟む
 夕食を皆で狩りに行こうという話になり、ドラゴン達は競争するように飛んで行き、ルーファスもドラゴン達が無茶をしないようについて行った。
私はウォルベクスさんと裏庭でキノコを巨大なノコギリでギコギコ切り取り中。

「ふぬぅー!」
「よいせー! ほれ、嬢ちゃんしっかりきばれ!」
「はいぃ~っ!! ウォルベクスさん、力強いですねー」

 まさか大木の様なキノコをノコギリで切り倒す日が来るとは思わなかった。
まぁ、小人気分で少し楽しいといえば楽しいんだけどね。

「ここの植物大きいですよねー」
「この谷は毒で出来ておるからの。それを吸い上げて浄化する為には、植物も巨大化していかねばならんかったのよ」
「毒ですか?」
「そうさの。一応、毒消しと混ぜて食べれば何でも食えるから、安心せい」
「んーっ、毒、消しましょうか?」

 ズダンッとキノコが倒れ、ウォルベクスさんがカカカッと笑い「そりゃええのぅ」と、やれるものならやればいいというスタンスだったから、私も少し張り切ってみた。
一応、魔力ポーションもあるし、水の都ベネティクタでアクエレインと一緒に水の魔法を使ったから最大の水の出し方は感覚で分かる。まぁ、聖属性がゴッソリとられちゃうだろうから、魔力ポーショングイ飲み決定ではあるけどね。

「いっきますよぉー!! 【水癒アクアヒーリング】」

 手の平の上に水を集め、一気に川のように流していく。まぁ、ウォルベクスさんを少し流しそうになってしまったけど、とにかく全力全開で足元に水を流し、地面に染み込ませれば【聖域】も自動で入っているから毒だろうとイチコロよ! 勿論、大丈夫な方のイチコロね。

「もう少しー……もう少し」

 途中で魔力ポーションの蓋を口で開けて飲んで、集中を切らさないように流していく事を続けていたら、急にフワッと魔力の勢いが大きくなったのに、魔力消費が柔らかくなっていく。

嫁御寮よめごりょう、こうした時は呼んで欲しいのだが?」
「ああ、アクエレイン。お手伝いしてくれてありがとう」

 私の肩にアクエレインが手を置いていて手伝ってくれて、魔力を操作してくれた為に水の勢いは良いままに谷全域とは行かないだろうけど、かなり広範囲で毒は消せたと思う。

「アカリ! 何をしているんだ! まったく!」
「あっ、ルーファス、グリムレイン、おかえりなさい」
「嫁! 我を呼ぶべきなのだ! 我が居れば水玉で霧状にして拡散してやるのに!」

 ルーファスとグリムレインが手に大きな鮭っぽい魚と、お肉にされた後の塊を持って私に怒ってきたけど、ちゃんと食料を手放さずに戻ってきた辺り、私を信用していると思う。
少し遅れて、エデンとスピナがジャガイモにしては少し大きい、ハロウィンのオレンジカボチャの様な芋を手に帰ってきた。

「もう、男共はレディを待たないんだから!」
「本当よ! あたし達を置いていくなんて信じられない!」

 こちらもこちらでプリプリ怒りながら戻ってくる辺り、我が家の面々は怒りっぽい性格なのかも?

「爺様、ただいまなのー」
「爺様、嫁御寮の飯は美味いから、期待していいぞ」
「爺様、酒があっただろ? 我は久々にアレが飲みたい!」
「爺様、見て見て、お芋採れた! 一番小さいのにしたけど、爺様の好きな芋揚げにする?」
「爺様、爺様と、お前等は親離れ出来ん奴等だのぅ」

 ドラゴン達にキャイキャイ騒がれてウォルベクスさんが杖で軽くコンコンと頭を叩いて、キノコを家の中に持ち運ぶように言って、ドラゴン達を家の中に入れていく。
ドラゴン達が家の中に入った後で、ウォルベクスさんは私とルーファスに振り向く。

「アカリ、じゃったな。この谷の毒を消し去ってくれたことに礼を言う。儂の体は毒でかなり弱っていたが、これなら後数百年は生きていけそうだわい。あの子らがアカリを頼るのは、こうした特殊な力と、お人好しな所に惹かれておるのかものぅ」

 数百年……エルフの血が混じると随分長生きのようだ。
嬉しそうに笑って、ウォルベクスさんは杖で庭に置いてある卵を差す。

「あれらはドラゴンの卵じゃ。毒に侵されて孵っても直ぐに卵孵りしてしまって、育たぬ子らじゃが、今ので治ったならば、生まれるやもしれん」
「そうなんですか? 楽しみですねぇ」
「連れて帰るかえ?」
「いえいえ、ドラゴンハーフの分離もありますし、ドラゴンは自由な生き方をしているから、ここで自由に自分で決めさせてあげて下さい」
「カッカッカッ、そうかそうか。よい主君をあの子らは持ったもんじゃわ」

 ウォルベクスさんが笑って家の扉を開けると、ドラゴン達は「爺様、遅ーい!」と騒いでご飯の準備だ、宴だと騒ぎ、私達も家の中へ入って行き、宴会好きのドラゴン達の為に巨大な食材と格闘して、夕餉ゆうげの準備をした。
 その日はウォルベクスさんの家に皆で泊まり、朝になるとウォルベクスさんが起こしてくれて、庭に出ると昨日の卵たちにヒビが入り始め、ピキピキ音を立てていた。

「もうすぐ新しい子らが生まれる」
「どんな子達でしょうね?」
「さてのぅ、いつも生まれては卵になってしまうから儂も知らんのよ」
「楽しみですねー」

 卵から小さな黒い手に赤い爪をした一つ目のドラゴンが生まれ、隣りの卵は桜色の鱗をしたドラゴンが卵の殻を抱きしめて金色の目をパチパチとさせている。
次々にドラゴンの子供が卵から孵り、ピィピィ鳴き始め騒がしさに家の中で寝ていたグリムレイン達も起きて来た。

「爺様、随分と生まれたな……」
「アカリのおかげじゃ。名付けはアカリにしてもらうと良いかものぅ」
「「「「それだけは駄目だ!!!!」」」」

 その場にいたドラゴンとルーファスの全否定である。
え? なにその全力拒否。酷くない?
ドラゴンの名付けはウォルベクスさんがしているものらしく、今回もウォルベクスさんがする事になった。
私だって、ちゃんと可愛い名前ぐらい付けられるのに……

 今回生まれたドラゴン達は、ウォルベクスさんが色々物を教えて育てて、いつかこのドラゴンの谷を出ていくのだろう。生まれたのは八匹で、まだ卵はあるから、ドラゴン達もこれで仲間が増えてくれたらいいのだけどね。
ドラゴンの卵はこの谷で生まれるらしいけど、どこから生まれているのかは分からないらしい。

 新しい後輩ドラゴンが生まれるのはアルビー以来なので、アルビーに腕輪で教えたら『私も行く!』と大騒ぎしていたぐらいだ。
何はともあれ、久々に【聖域】の能力がお役立ちして良かった。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。