黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
901 / 960
26章

お祝いと反抗期

しおりを挟む
『祝・ティルナールの反抗期!!』
 書かれた垂れ幕に、屋敷の至る所に祝い飾りの黒と朱色の提灯ちょうちんと花が飾ってある。
ティルナールがそれを見た瞬間に、「何だこれー!?」と叫んで居間に行けば、居間では祝い料理の数々がテーブルの上に並べてあり、トリニア家の兄弟姉妹が顔を揃えていたのである。

「あ、ティル。何したのさ? 母上が笑顔で怒ってたよ」
「ティル。母上に何をしたんですの? 早く謝ってらっしゃいまし」
 長兄リュエールと長女ミルアに呆れた顔をされ、この反抗期を祝う宴を開いたのが、母親のアカリだという事を理解した。
いや、初めからこの屋敷でおかしな宴をしても、怒られない上に企画するのは、トリニア家の家長の妻であり、自分の母親であるアカリだとティルナールも気付いていた。

「ははうーに、あやまるー!」
「あいないなー!」

 末のスクルードとコハルにまで文句を言われる始末である。
少しばかり、アカリの小言がうるさくて文句を言った事は、ティルナールも認めよう。
しかし、やり方が酷くは無いだろうか? 人を煽るようなやり方は、母親でも酷いとティルナールはアカリに断固抗議する! と、居間から台所へ行くと、台所ではドラゴン達がハガネとアカリに作ったばかりの料理を持って行くように命じられて、右往左往しており、「邪魔だから居間に行っていろ」と言われる。

「母上! 酷いよ! 何あの垂れ幕!!」
「フフーン。母上に生意気な口をきくからよ。人の好意を無下にするのだから、今回のも私が勝手に、好意でしている事だから、気にしないで良いのよ?」

 シッシッとアカリに菜箸さいばしで邪魔扱いされ、「まっ、怒らせたティルが悪ぃな」とハガネも笑って揶揄からかい気味にティルナールに対してもアカリに対しても、笑って見せる。
ハガネ本人としては、子供の喧嘩を見ているような感じなのだろう。
ドラゴン達に「邪魔」と言われ、すごすごと居間に戻れば、シュトラールとルーファスが樽酒を持って帰って来ていた。

「あっ、ティル。懲りないよね、お前も。オレは酒が飲めるから別に良いけどさ」
「シュー、フィリアは妊婦でしょ? 匂いで怒られるよ」
「あー。フィリアに嫌われたくないし、どうしよー?」
「飲まなきゃ良いだけでしょ」
「リュー、酷くない?」
「酷く無いよ」

 長兄と次兄のやり取りに、ルーファスが小さく肩をすくめる。
ティルナールと目があえば、仕方がないというような目で見られ、一瞥されるだけで終わる。
子供といえど、全面的な味方をしてくれないのがルーファスでもある。
それは十二歳を超えれば、独り立ちする子供への親としての在り方でもあるが、子供の頃にニクストローブの卵を盗んでしまった頃から、少しばかり溝の様な物があるのも事実だ。

「嫁、ここで巨大な船を作れば良いのか?」
「ええ。氷で豪華客船を作ってー」

 ドラゴン達がテーブルに料理を運び、真ん中にグリムレインが氷で船を作り出すと、船の中へ刺身をアカリが載せていく。

「宝船~宝船~」
「嫁よ……我の氷細工を器にする気か?」
「そうよー。折角のティルの『反抗期のお祝い』なんだし、パァッと派手な感じにしたいじゃない?」
 反抗期のところを強調して言い、アカリがほんの少し意地の悪そうな顔をする。
得意気な顔にリュエールとルーファスが眉間を指で押さえ、シュトラールとミルアは片眉を上げてティルナールを半笑いで見ている。
小さな弟と妹は床で転がってハガネに拾い上げられているだけなので、意見はしていないが、口が達者になってこの状況に居たら、きっとワァワァ騒ぐことだろう。

「母上……やり方が陰険だよ」
「あら? 働きもしない息子を、文句を言われないように取り成してあげたのに、更年期オバサン扱いをされた事なんて、全然、私は気にしてないのよー?」
「うぐ……」

 笑顔のアカリに怒っている理由はそれか……と、ティルナールを家族の目が「ティルが悪い」と訴える。

「ティル。流石にこれは、アカリもやりすぎな気もするが、お前が悪い」
 ルーファスの言葉はこの屋敷では絶対で、ティルナールも分が悪いが、しかし、ここでアカリに謝るのも癪なのである。

「ボクも悪いかもしれないけど、母上だって、ここまでする事ないじゃないか!」
「あら? 子供の成長を喜んでいるだけよ。反抗期なんて、我が家では珍しいもの。ねー、ルーファス」

 アカリがルーファスに同意を求めると、ルーファスは子供達の顔をそれぞれ見渡し、確かに反抗期らしい反抗期を示した子供はいなかったなと、ふむ。と声を出す。

「まぁ、確かに成長の一つではあるか?」
「でしょー? コハルは一次反抗期中だけどねー。ねぇーコハル」

 ハガネに抱き上げられたコハルにアカリが手を伸ばして、頬をぷにぷに突きながら笑うとコハルがぷくぅと頬を膨らませて「いぃぃー」と騒いでいる。
一次反抗期らしい一次反抗期の無いままのスクルードは育っているし、リュエールの娘のシャルに関してもコハルと大差ない月齢ではあるが、反抗期のような物は無い。
末っ子で大人達から構われている分、コハルは性格がハッキリしている為に自分のを通したがる性格なのである。

「まぁ、ティル。お前も悪ぃし、アカリもやり過ぎだけどな。まぁ、美味いもん食える日だと思って、親に言っちまった悪態あくたいは反省しつつ、食って覚えとけばいいさ。なぁ、スー」
「ハガネ。うまいもん! うまいもん!」

 トリニア家のまとめ役の従者のハガネに言われては、ティルナールも反抗するだけ無駄なので、今日は家族にいじられつつも耐えるしかないと諦めた。
なにより、すでにドラゴン達が「ご・は・ん! ご・は・ん!」と騒ぎだしているので、どうしようもないのである。

「母上、ボクが悪かったから、こーういうことは止めてよね?」
「うふふーっ、反省すればいいのよ。でも、反抗期なんて珍しいから、親としては面白いものが見れて良かったわ」

 一応、アカリに謝る事はしたものの、どうもアカリの手の平で転がされた様な気がしてならない。
明日からは、真面目に仕事を探して、アカリや家族に干渉されないようにしようと、ティルナールは密かに思いを新たにする。

「さぁ、皆! 豪華なお祝い料理といきましょうか!」

 アカリの声に、それぞれ食事に手をつけ始めると、少し遅れてキリンやフィリア達も子供を連れてきて参加し、ミールも仕事を終えて屋敷へとやってきた。
最後にやってきたのはエルシオンで、ティルナールに「ティル~、母上に派手に噛みついて返り討ちにあったんだね」と笑われる始末だった。

 本当に早々に、屋敷を出て独り立ちしてやる! と、ティルナールは心に決めた。
賑やかなトリニア家の屋敷の宴会に、今日も温泉大陸はのんびりとした賑わいを見せていた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。