黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
894 / 960
26章

ありすと朱里

しおりを挟む
 春の終わりに我が家の二女、ナルアが魔国へ嫁いでいった。
そして名実共に、ありすさんが私の親戚になった。

「アカリっちとまさかの親戚」
「ありすさんとまさかの親戚」
「うちの息子苛めないで欲しいし、お義母さん」
「うちの娘を苛めないで下さいね。お義母さん」

 二人で「やだもー」と笑い合って、肘で突き合いながら相変わらずの私達である。
出会った頃からの、このノリは私達の『自分達の世界』へは帰れない同郷を懐かしむ為のものだと思う。

「うちのミルアが今妊婦でしょ? それとシューちゃんの所もお嫁さんが妊娠してね、もう来年は孫に囲まれまくりかもしれないわ」
「もしかしたら、また増えるかもしれないし。うちのシノリアとナルちゃんの子供とか」
「うふふ。そしたら、どっちに似るか楽しみだよね。シノリア君は美形だし、うちのナルアも親ばかだけど、可愛いと思うし」
「とりあえず、うち的にはうち以外に似て欲しいし! 絶対に、リロっちの遺伝子を継いでほしーし!」

 そんな私達の後ろでは、リリスちゃんのところのウルベル君がコハルと遊んでいて、たまに気を付けないと、ウルベル君のサファイヤブルーの目を狙ってコハルが攻撃しそうになる。
なんだか、宝石みたいに見えるみたいで、コハルはウルベルくんの目をずっと狙いまくっているという、怖い子になっている。
 ウルベル君はウルベル君でコハルの左右の色の違う髪が気になるようで、引っ張ってはコハルにビンタをされたりしていて、なかなかに激しい攻防を二人はしている。
 そして、それをぼんやりとしながら、見ているのがシャルちゃんである。
シャルちゃんは基本マイペースで、コハルと一緒に遊ばせていても、延々と音の鳴る楽器を一つ一つ鳴らして楽しんでいて、逆にコハルはガンガン打ち鳴らして酷い音を立ててドヤッとした顔をする。
多分、大人しいシャルちゃんとお転婆なコハルは二人合わせて引けば、良い感じになるとは思う。

「あーっ! んむぅ!」
「なななんっ!」
「はふーぅ?」

 三人の言葉は通じているのかいないのか、なかなかに判断はつかないけど、お喋りのようなものを繰り返しては騒いでいる。

「そういえば、結婚式の写真出来たっしょ! 見てみる?」
「見る見るー!」

 ありすさんがカバンからアルバムを出して、色々なサイズに伸ばしたりしてくれたようだ。流石、女社長は色々として下さる。

「やっぱり、魔国のお城を貸してやらせてもらえたのは良かったっしょ!」
「だよねぇ。お城のダンスホール綺麗だったよねー」

 写真に写るナルアは、この一年自分達で縫い上げたウエディングドレスに身を包んでいて、とても綺麗。
銀の刺繍に屑石のダイヤをカットした物を細かく付けていたから、光を浴びる度にキラキラと光っていて、良く目を引いていた。
お城のダンスホールを借りての式に、王城騎士団の人達が道を作り剣を上に上げての入場と退場をしてくれたりもしていた。

 王様と王妃様の言葉も貰えて、シノリア君にナルアが「お姫様みたいですわ」と笑うと、「僕だけのお姫様」とキスをしたところで、ルーファスが横で拳の骨をバキバキ鳴らしていたのは、気のせいという事にしておこう。

「あっ、皆で集まった写真も大きく引き伸ばしたんだね」
「アルバムにドーンと大きく見開きで張り付けたし!」

 中心の花婿と花嫁に目が行きがちだけど、他の場所にも少し注目である。
ルーシーが頬を染めながら、よく見れば隣りの男性と手を握っているんだよね。

 結婚式中にフェンゼルさんが王様に王城に呼ばれていて、久しぶりの再会となったようで、式場の脇でもじもじしながらお互いにギクシャクとしていたから、私が背中を押しに行ったのだ。
 フェンゼルさんは私の事を覚えていたようで、ルーシーの母親だと教えたら「あの時の事はご内密に」と言われたのは言うまでもない。
 そして、集合写真でこの様な事になっていて……ルーファスにバレたら怖いから、ルーファスに見せる時は「ナルア可愛いー」と、ナルアにだけ注目するようにさせなくてはいけない。

 写真には結婚式の食事の写真も写っていて、王城で作られたとだけあって、細かい細工の多いお皿とかグラスで結構、手が震えたものです。

「料理も美味しかったよねー」
「魔牛ばっかだったけどねー」

 流石、魔国。
魔牛の特産地である。
あとはカラフルなマカロン尽くしのお菓子のタワーは、ちびっ子たちに人気があった。
人気があり過ぎて……、下から鷲掴わしづかみにされてあえなくマカロンタワーは床に落ちちゃったんだけどね。
写真には無事な時の姿があるのは、ナルアも喜ぶかも?

「コハルちゃんの食いしん坊なところは誰に似たん?」
「うーん、私かなぁ? ふふっ、ゼリーがコハルの手に潰されてる」
「頬張りすぎっしょ。子リスちゃんみたいっしょ」
「離乳食も、いつも口いっぱいに詰め込んで大変なの」

 写真に写ったコハルの頬っぺたに、頬袋でもあるのではないかと疑いもしてしまう一枚に私たちは笑う。
本物のコハルを見れば、ウルベル君の尻尾を口に入れていて、ウルベル君はコハルの三角耳を口に入れている。

「あっ、こらこら。二人共駄目よ。メッ!」
「あっちゃー、ベタベタっしょ」

 仲が良いのか悪いのか……、引き離すとお互いにワッと泣き始めるから困ったものだ。
しかも、つられてシャルちゃんも泣き出すオマケ付き。

「随分と今日は賑やかだな」
「アリス、ウルベル、迎えに来たよ」

 ルーファスとリロノスさんが大広間へやってきて、真っ直ぐ私達の方へ来る。
いつも通り、「おかえりなさい」「ただいま」と、キスをしてルーファスにシャルちゃんをお願いして、私はコハルを抱き上げる。

「アカリっち達って、今もラブラブなん?」
「え? 普通こんなものじゃない? つがい同士なんだし」

 アリスさんがリロノスさんを目で見上げると、気まずそうにリロノスさんが目を逸らす。
あらら……これは夫婦関係に若干のこじれがあるようだ。

「リロノス……その性格を治さんと、後悔しても遅いんだぞ?」
「それは、まぁ、分かってます……」
「まぁ、うちはあともう一人ぐらいは、子供を作るかもしれないがな」
「はいっ? ルーファスッ!?」

 なんて事を言ってるのー!!
ギャー恥ずかしいッ! ルーファスのお腹にボスボスと拳を入れながら、睨みつけるとルーファスは口角を上げて、私とコハルの頬にキスをして満足そうに笑う。

 アリスさんが「リロっち、あそこまでとは言わないけど、うちは少しばっかし、羨ましーんですけど?」と、頬を膨らませていた。
 若干、バカップルのようなニュアンスがあったのは気にしないでおこう。
リロノスさんとアリスさんがウルベル君を連れて帰り、私はルーファスと「元気な親戚が出来たねぇ」「騒がしいの間違いだろ?」そんな事を言って見送った。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。