黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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26章

春と子供と成長記録

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 冬の間はコハルの狼変化騒動で賑わった我が家も、春になると別の事で騒がしくなる。
本当に我が家は騒がしさの尽きない家族たちと、言えよう。
まぁ、私はそういう賑やかなのが我が家だとは思っているけどね。

「母上ーっ!! 赤ちゃん! 赤ちゃん出来ましたのー!!」
「まぁ! おめでとう。でも、ミルアは少し落ち着きなさい。……ルーファス、そこに座って、落ち着いて」
「うぐ……っ、しかしだな……」

 ミールを殴りに行こうとしていた気がするのは、私の気のせいではないはず。
まったく、もう結婚したのだから、孫が増える方に喜びを持って行きなさいと思うのだけど、落ち着きが無いんだから困った人である。
 ルーファスは嬉しいのか、複雑なのか、眉間にしわを寄せて口元を忙しなくウニウにさせている。
対して、ミルアは嬉しくて仕方が無いようで、手をブンブンさせて尻尾もブンブンである。

「ミルア、母上からのアドバイスです。お母さんになるのだから、落ち着きなさい。あなたは少し無鉄砲に飛び出したりするから、これからは喧嘩が起きても、飛び出したりしないのよ? あと、ピョンピョン跳ねない。妊娠初期は流れやすいから、ちゃんと大人しく過ごす事。いい?」
「はいですの!」
「あ、あと、お酒は……飲まないから大丈夫ね。ミールにもお酒は控えるように言っておいて。ああ、ナルアの結婚式は移動魔法で送るから、船は禁止よ」
「船、楽しみにしてましたのにぃ~」
「悪阻で酔いたいなら、母上は止めませんよ?」
「父上、母上が意地悪なのですわ」
「アカリは母親で言うなら大先輩だからな、言う事は聞いておけ」
「はぁーい。でも、ナルちゃんの為にウエディングドレスの最後の仕上げは頑張りますわー」

 にこにことミルアが二階へ上がって行き、二階でナルアとはしゃぐ声が良く響いている。

「ルーファス、また孫が増えますね」
「ミルアが、母親か……」

 困ったお父さんなんだから、まぁ、もう一人……我が家からは嫁入りが一ヶ月後に控えている娘が居ますけどね。

「あんあー! なんあー!」
「ハルは、そこにいるのー! めっ!」

 今度はこちらが騒がしいようだ。
コハルがベビーサークルをガシガシ揺らして、ベビーサークルの外に居るスクルードを追い駆けようとして、スクルードに怒られている。
最近、少しだけコハルに「メッ!」と、怒る事を覚えたスクルードである。
まぁ、「メッ!」と、言うたびにコハルは迫って行くんだけどね。

「こらこら、あなた達も元気ねぇ。コハル、スーちゃんはこれから、ハガネと一緒にお勉強なのよ? コハルにはまだ無理よ」
「あんあ! なんなーっ!!」
「こーらー、我が儘言わないの」

 ぷぅっと頬を膨らまして、眉間にしわを寄せる我が家の末っ子お嬢様は、とても不機嫌でいらっしゃる。
白と黒に別れた髪を二つ縛りにして春らしい小春色の桃と鶯の柄の着物を着せているけど、髪の毛がとてもパンクな色をしている為、着物より洋服の方が似合いそうなのがコハルだ。
そのうち、コハルの髪に合わせた着物を考えてあげないと駄目かもしれない。

「おっ、コハルが餅みてぇになってんぞ」
「ハガネ、今日もスーちゃんをお願いね?」
「ああ、スーそろそろ行くぞ」
「あい! ハル、ばいばーい」

 スクルードがコハルにバイバイと手を振ると、ガーンとした顔でポカンと口を開けてコハルが、下に顔を俯かせると、ルーファスが慰めに来たものの、時すでに遅しである。
大きなチューリップが姿を現して、コハルはチューリップの花の中でいじけモードに入ってしまった。

「コハル、お部屋の中でそれ出すの止めなさい? もう、スーちゃんにバイバイしてあげなくていいの?」
「あんあああぁぁ!!!」

 チューリップの中からのギャン泣き……我が子ながら、お兄ちゃん好きっ子になってしまった。
ルーファスが「参ったな」と言いながら苦笑いして、カメラを構えている。
タイトルは『我が家の親指姫』という所かしらね?

 コハルの『特殊能力』が【花舞フラワーロンド】という、花を自在に操るものなので、こうした変な花を出してしまうんだよね。
女神の仕業ではあるけど、狼に変化させる能力よりはコントロールが出来るので、このままになった。

 魔法で出している物だから、コハルが落ち着けば花は消えるけど、大広間にドンッとチューリップが鎮座している状況は、なかなかにシュールである。

「スーちゃん、ハガネと一緒に頑張って魔法のお勉強してくるのよ」
「あい! がんばるー」
「んじゃ、アカリ。昼飯は用意してあっから、適当にやってくれ。俺とスーは外で弁当にして夕方には戻ってくっから」
「はーい。二人共気を付けていってらっしゃーい」
「ははうー、ばいばーい」

 ハガネとスクルードが手を繋いで屋敷から出ていき、次に騒がしいのは年中組達である。
ようやく、魔国の学園生活が終わり、卒業して屋敷に戻ったティルナールとルーシーは就職先に行くまでは屋敷に居る為に、朝食時間も終わった遅い時間に起きてくる困った子達でもある。

「おはよー、父上、母上」
「おはよー、あれ? コハルったらまた閉じこもってますの?」
「おはようじゃありません。もう、朝ご飯は片付けちゃいましたからね? 自分達でおかずを出して食べなさい」
「「えぇ~っ」」
「えぇーじゃありません。エルはキチンと朝起きてリューちゃん達と朝稽古してたんだからね? 学園組のあなた達がだらしなくて、どーするの」
「エルは昔から、そういうのビビりでキチンと起きてたじゃない? 僕らとは違うし」
「エルは朝ご飯が食べられないのは嫌だし、母上に怒られちゃうって、昔から言ってましたもの」

 三つ子でも、こうも性格が違うのも困りものである。
エルシオンは、今はエルシオン・アーバントとして、この大陸にあるギルさんの屋敷で貴族として過ごしている。まぁ、冒険者としても、遺跡に行ったりして色々古代文明の調査をするのが楽しいみたいだけどね。

 ティルナールは新聞記者になるとかで、近々新聞社に入社が決まっているけど、学園の時の様な感覚でやれるかどうか疑問なところ。
ルーシーは魔国の王宮のメイドとしてマデリーヌさん付きの侍女に花嫁修業で行くのが決まっている。
王宮の侍女は貴族令嬢たちの行儀作法を習う場所でもあるから、結婚したい人の元へ行く前にしっかり学んで欲しいところだ。

「お前達は、本当に騒がしい子達だな。本当にそんな騒がしさで就職出来るのか? 【刻狼亭】で修業してからの方が良くないか?」
「あー、それはパス」
「わたくしは、休みの時にやりましたから、充分ですの」

 まぁ、【刻狼亭】ではミスしたらリュエールに怒られかねないしね。ルーファスが切り盛りしていた時は、それなりにアットホームで、ミスぐらいなら「仕方がないな。次からは気を付ける様に」と、優しく微笑まれたりはしたけど、リュエールだと「母上は邪魔だから、大人しくしてて」と、低いトーンで怒られる。
うん。あれは家族に対する態度じゃない。
リュエールは家族にも厳しい。
まぁ、自分にも厳しい子だけどね。一体全体、誰に似ちゃったんだか?

 でも、リュエールに怒られてもシュトラールが、へらっと笑って慰めてくれるから、飴と鞭がハッキリしてる双子でもあるのよね。二人とも正反対な性格ではあるけど、バランスとしては丁度いいと言える。

「母上ー!」

 また、我が家の子供の声がする。
次は誰が何をしたやらである。

「はぁーい。もぅ、次はなぁーに?」

 我が家の子供達は、賑やかで騒がしい。

「アカリ」
「なぁに? ルーファスも私に用事なの?」
「いや、忘れ物だ」

 忘れ物なんてあったかな? と、ルーファスを見上げるとそっと包む様なキスをして、「朝、してなかったからな」と、子供達の前で何をするのかである。
まぁ、これも、我が家と言えば、我が家らしいけど……

「父上、思春期の子供の前でそういうのは駄目だと思う」
「父上、破廉恥はれんちですわ!!」
「フッ、お前達もつがいを見付ければ、いずれわかるさ」
「「父上は、もう少し子供の事を考えるべき!!」」

 見事にハモった二人に、なんだか可笑しくて笑ってしまうと、ルーファスも笑い、釣られる様に二人も笑いだし、笑い声が気になったのか、コハルがチューリップから顔を覗かせて、ルーファスに上からヒョイッと持ち上げられて確保された。

「あうー!」
「コハル、泣き止んだみたいだな」

 ルーファスの腕の中でコハルがぷぅっと頬を膨らませて、また何かしそうではあったけど、「母上ー!」と呼ばれる声に「はいはーい!」と、声を出して玄関へ向かう。
我が家の「母上」コールはいつになったら止まるのやらである。
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