黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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26章

コハルと花③

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 少し雪なのか雨なのか微妙な空模様のベネティクタ都市を歩き、細長く白い建物に色とりどりのステンドグラスが多く設置されている大聖堂へ足を踏み入れる。
去年と変わりなく、入って直ぐのホールには三角のクリスタルが浮き、その下には噴水と銀のコインが沈んでいる。
相変わらず、コインは英語で書かれている物ばかり。
 まぁ、今回はコインを投げ込みに来た訳じゃないから、ここは無視である。

 大聖堂の祭壇。
季節に関係なく、花が咲き乱れ、白い蝶が飛び交い、目的地の祭壇の奥では、似てはいるけど、実物は残念な女神オードリーの像が、四聖獣のステンドグラスと共に飾ってある。

「女神オードリー! 聞こえますかー! うちのコハルを今すぐ元に戻しなさーい!」

 私の声が聖堂の祭壇に響き渡り、私の左右の肩からグリムレインとアクエレインが顔を出して、白い蝶を人質に「出てこぬかー!」と騒ぎ立てる。
なんという極悪ぶりではあるが、こちらも、物申したい事が山ほどある為に遠慮は無しである!

 我が家の夕飯を台無しにした罪は重い!!
無駄になった食材の恨みを私は忘れなーい! そして花を片付けるのにどれだけ大変だったか……私が花を片付けている間に、泣き続けるコハルに、ルーファス達が元に戻ったり狼になったりとポンポンポンポン変化させられた事を……忘れないッ!

 花を片付けた後に、私も狼にさせられて、狼のルーファスに狼のままで後ろから襲われて、あんなことをされたのも忘れないんですからね!!
獣化と違う狼のエッチがあんなものだなんて知ってたら、絶対に拒んでた!
後ろから侵入されて、射精す時に子宮内で竿が水風船みたいに膨らんで、全部出すまで抜けなくて……途中で人に戻ったけど、終わった時に、ルーファスに思いっきりビンタしてしまったのだ……

 今現在、ルーファスは反省とコハルの面倒を屋敷の方で見ている為に別行動。

「オードーリー!! 出てきなさーい! 似非エセ女神ー!」


 ヒラヒラと聖堂の天井から白い花と虹色の光が溢れ、ステンドグラスがキラキラと輝くと、ステンドグラスに描かれた四聖獣が形を持ってガラス細工の体を持ってヌッと出てくる。
グリムレインとアクエレインが私の肩から離れると左右に二メートル程の大きさのドラゴンとして現れる。

「嫁、雑魚は任せろ」
「嫁御寮、遠慮なく我らに任せろ」
「戦うかどうかは、相手次第だよ。やられたら倍返し、それでいって」

 カポンカポンと缶ぽっくりの様な軽い音が近付き、馬の様な生き物_麒麟きりんに乗り、金髪碧眼の白いローブの女神オードリーが天井から降りてくる。

「女神オードリー、うちのコハルの能力はあなたの仕業でしょう! 今すぐ、元に戻しなさい!」
『オゥ。喜んでくれると思ってターヨ? ケミッ子最高ヨー?』
「ケモッ子も何も、人の意思を無視して狼にさせてしまうなんて、駄目です! あの子が将来『コハルちゃんに近付いたら狼にされるから、遊んじゃいけないって皆言ってる』とか、虐めにあったら、どーしてくれるんですか!?」

 女神オードリーは「んーっ」と綺麗な顔で人差し指を頬に付けて考える振りをして、ニッコリ笑顔で『そんなやからは、もれなくケモッ子にナーレダヨー! 丸く収マール!』と、残念な意見をかえしてきた。

「とにかく、うちのコハルにはそういう能力は必要ないんです!」
『折角のクーポンなのヨー?』
「そんなクーポンは、い・り・ま・せ・ん!!」

 口をアヒルのように突き出して女神オードリーが『ムゥー』と不貞腐ふてくされた顔をするが、怒りたいのはこっちである。
大事な娘に変な趣味を押し付けないで欲しい。趣味は自分の趣向と合う人と分かち合うもので、押し付ける物ではない。

「あと、あなたの所の精霊が毎回、白い花を片付けて行かないのも困ってるんですからね!」
『オーゥ。それなら、コハルチャーンには、お花の加護を与えマショー!』
「コラーッ! なにを次はするつもりですか!? 人を花に変えるとか馬鹿な能力をしようものなら、引っ叩きますよ!」

 目を斜め上にあげて、小さく舌を出した女神……やるつもりだったの!? と、スパンッとハリセンで叩き上げたい気持ちだわ……

『オードリー、子等を苛めるものではない……私が能力に関しては戻しておこう。しかし、迷惑をかけた分、礼はさせて貰おう。何を望む?』

 女神オードリーの乗っている麒麟がそう喋り、そういえば、オードリーの番は麒麟で四聖獣は二人の子供……そこから獣人や海人族などが生まれていったというのが、この世界の人々の誕生だとか言っていた気がする。
まさに旦那さんが奥さんのお尻に敷かれているけれど、この奥さんオードリーが変なことする前に止めて欲しいものだ。

「なら、コハルは二ヶ月という短い期間で生まれたから、色々と心配なので、普通の子と同じ様に健康で健やかに育つように願います」
『子の健康を願うは母の想いだな。わかった。健康を約束しよう』
『ダーリン! クーポン付けヨーヨ!』

 麒麟の首をガシガシ揺さぶって、女神が騒ぎ……四聖獣達が『マム!』と、怒った声を上げて女神が眉間にしわを寄せて口を尖らせる。
威厳もくそも無い……と、少し思ってしまったのは仕方がない。

 カポンカポンとまた音を立てて、四聖獣を引き連れて女神ご一行はステンドグラスの光る中へと消えていった。
私は肩を下ろすと、グリムレインとアクエレインが小さくなって私の肩へ戻ってくる。

「なんだったのだ。あの変な女神たちは」
「そうだねー……とりあえず、コハルがどうなったか帰って様子を見なきゃねー」
「嫁御寮、蝶はどうする?」
「捨てて良いよー」

 ピンッと蝶をアクエレインが指で弾くと、フラフラと白い蝶はステンドグラスの方へ消えていった。

「さて、帰ろっかー」
「うむ」

 移動魔法で屋敷に帰ると、スクルードがコハルにしがみ付かれて「あーっ、いやぁぁーっ」と泣いて騒いでいた。
ルーファスが困った顔でコハルをスクルードから引き離そうとしていたが、ガッチリとスクルードの尻尾を持ってコハルが「あーっ」とご機嫌な声を上げていた。

「こーら。コハル、お兄ちゃんが痛いでしょ、メッ!」
「アカリ、おかえり。どうだった?」

 ホッとしたような顔でルーファスが、私の機嫌を伺う様に眉を下げたまま笑う。
もう別に怒ってない……というか、反射的に引っ叩いてしまっただけなんだよね。うん、申し訳ない。

「多分、もう大丈夫だと思うよ」
「そうか。なら、多少強引だが、コハル、スーの尻尾を放すんだ」
「いーっ! ああああーっ!」

 コハルの指をルーファスが一本ずつ外していき、コハルが奇声を発して怒っているが、狼になったりはしないみたいだ。

「あああーん。うにゃーぁぁ」

 泣き出したコハルにルーファスが耳を下げて、抱っこしてあやそうとして「あーっ、やーっ! うにゃああ」と癇癪かんしゃくを起して泣いて暴れられ、泣きそうな目で私を見る。
あー、うん。大好きな娘に拒否されているのは辛いね。

「ほら、スーちゃんもおいで、コハルもどうぞ」
「ははうー!」

 床に正座して手を広げると、スクルードが私の左脇からしがみ付いてきて、ルーファスにコハルを渡してもらって抱きながら背中を摩ると、「あー」とご機嫌な声になる。

「母親には敵わないな」
「お母さんですからね」
「世話している時間は同じくらいなのにな……」
「ふふーっ、コハルは母上が好きだもんねぇー。スーちゃんもねー」
「ははうー、しゅきー」
「あきゃー」

 コハルが笑うと、甘い香りがポンッとして、小さな花がヒラヒラと目の前を落ちてくる。
笑顔で固まったのは言うまでもなく、私は再びベネティクタ都市の大聖堂へ殴り込みに行ったものの、女神一行は現れることは無かった。


 コハルが後に『温泉街の親指姫』や『温泉街の戦花』なんて呼ばれるようになるのは、少し先の話。
 
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