黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
890 / 960
26章

コハルと花①

しおりを挟む
 我が家のドラゴン、グリムレインとアクエレインに冒険者試験を邪魔されたティルナールとエルシオンが、世界の中心イルブールの街へ試験を受けに行くことになった。
連れて行くのは、長男のリュエール。
ティルナールとエルシオンは「兄上は忙しいでしょ! 父上でいいから!」と騒いでいたが、リュエールに首根っこを掴まれて、移動魔法で早々に連れて行かれた。

「あらら~、リューちゃんが弟達を連れて行くなんて、珍しいね」
「なんでも、イルブールの街にエルフの耳飾りを作る有名な職人が滞在しているらしくてな。材料さえ持ち込めば作ってくれるとか言っていたぞ」
「なるほど。リューちゃんはキリンちゃんにプレゼントしたいのね」

 納得しかない。我が息子ながら、ワーカーホリック気味なくせに、この忙しい湯治の時期に、よく動いたなぁとは思ったけど……弟達の冒険者試験はついでなのね。
愛妻家なだけはある。

「アカリは何か欲しいものは無いのか?」
「んーっ、今欲しいのは栗の入った緑茶かなぁ?」
「わかった。淹れてこよう」
「ふふっ、ありがとう」

 ルーファスがお茶を淹れに行き、私はさっきまで追いかけっこをしていた、我が家のやんちゃな末っ子のコハルと、魔獣のクロとフェネシーを引き離しにかかる。
コハルはエネルギー切れで寝入ってしまったのだけど、クロとフェネシーの尻尾をガッチリ掴んで寝ている為に、二匹は逃げられなかったのだ。
流石の二匹も、赤ちゃん相手に爪で引っ掻いたりは出来なくて、なすがままの玩具状態にされていた。

「ごめんねークロ、フェネシー。二匹とも手を出さずに偉かったよ」
「ナーウー……」
「キュゥー……」

 コハルの指を少しずつ解いて、尻尾がスルリと抜けるとクロとフェネシーは一目散に逃げだした。
最近は赤ん坊が二人いるから、中々屋敷に戻ってこなかった二匹が、久々に顔を覗かせたけど、これは当分帰ってこないかもしれない。
二匹は玩具にされないように、大抵は可愛がってくれそうな従業員宿舎にある食堂に出入りしている。
ご飯もそこで貰うことが多くて、少しばかり、またふくふくしたボディになってきているから、そろそろメタボ魔獣な二匹を、どうにかしないといけないかもしれない。

「アカリ、茶が入ったぞ」
「うーん。いい香り。ありがとうルーファス」

 去年の秋に拾った栗を干して大雑把に砕いた物を緑茶に一緒に入れると、栗の風味と香りが緑茶にも出て、ほっこりして美味しいのよね。
お茶を飲んで、ああ、この味の為に栗拾い頑張ったのよ~。ハガネ達が。と、栗拾いを頑張ってくれたハガネやドラゴン達の冬眠している部屋の方に向かって、微笑んでおく。

「コハルは体力切れか」
「ええ。あれだけハイハイして回れば、直ぐに疲れちゃうよねぇ」
「足腰の強い子になれば、獣化した時のパワーも違うから、今のうちに体力を付けているんだろうさ」
「んーっ、うちの子達で、こんなにハイハイスピードが凄い子いたかしら?」
「コハルが特別凄いんだろう」

 コハルをゆっくりと抱き上げて、ルーファスが目尻を下げている。
本当に親ばかなんだから。でも、コハルも寝ている時だけは、天使のように可愛いのよね。
起きると何かしら悪いことをしちゃう悪魔になるけど。
ルーファスがコハルを連れて子供部屋に寝かせに行き、お茶をまたゆっくり飲んでいると、「なっ!」と、ルーファスの驚いた様な声がして、何かあったのかと階段を上っていくと、子供部屋にはルーファスの着物が脱げていて、ルーファスにしては体格の小さい普通サイズの黒い狼が居た。

「えーと、ルーファス?」
「ウォン……」
「どうしちゃったの? いつもより体が小さい気がするんだけど……?」

 ルーファスが鼻でベビーベッドを差し、首を振る。
ベビーベッドではコハルがニパーッとした笑顔で寝ているだけだ。
コハルに触ろうとすると、ルーファスが後ろから私の着物の裾を引っ張る。

「え、え? なにルーファス?」
「ウォンッ!」
「もしかして、コハルに触ったら、いけないってこと?」
 
 コクコクとルーファスが頷き、少しコハルから離れてルーファスの落ちた着物を拾い上げる。
言葉が通じないのは少し困った……

「あっ、私が狼になっていた時のボードがまだあったハズ! あれで会話をしましょう!」

 ルーファスが尻尾を振って、コハルを起こさないように子供部屋から二人で出た。
自分達の部屋に行って、狼の時に使っていたボードを探し、ようやくクローゼットの奥から見つけ出してベッドの上に置いて、会話を始めようとした時、「ふにゃあー」とコハルの泣き声がして、立ち上がるとベッドが大きく揺れて、ルーファスが元に戻っていた。

「ルーファス、一体何があったの?」
「よくわからん。コハルをベビーベッドに横にして離れた瞬間、動物の狼にされていた」
「あんまり思いたくないけど、女神が私を狼にしたみたいな力が、コハルにあったら、どうしよー?」
「考えたくないが、それが一番濃厚な気もする……」

 ベッドの上で二人で「どうすべきか?」と悩んでいるうちに、コハルの泣き声が「ふああぁぁん!」と激しくなり、ルーファスが着物を軽く羽織ってコハルの部屋へ行った。

「ルーファス、コハルは大丈夫?」
「おしめが濡れただけだ。大丈夫だ。アカリは部屋に入らないようにな?」
「うーん、でも、コハルに触らないとお世話は出来ないし……」
「コハルの何が引き金で狼にされているのか分かるまでは、オレがしばらくコハルの面倒をみる」
「ルーファスが狼にされた時に、コハルのお世話をしなきゃいけなくなったら?」
「それも考えておかないといけないな……」

 ひとまず、コハルがまた落ち着いて寝始め、ルーファスと対策を練る為に、今夜あたりに家族を集めて、家族会議を開く事になりそうだ。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。