黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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26章

お土産

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 収穫大宴が終わった次の日、貴族達は交流会の様なお茶会が催されて、そこでゆっくりと昨日の宴に出された物に関して色々話題にしていくようだ。
貴族の話題程、流行になりやすいから、昨日の時点で交流を持って交渉した人は運がよく、今日、じっくり交渉の席に着くのは少し大変なのだそうだ。
なんせ、皆酔って無いからね。
スッキリシャッキリした頭で交渉するから、なかなかに交渉は難航するようだ。

 まぁ、何にせよ……あんなに大勢いた中で、どこどこの誰々さんだとか瞬時に見抜いて、食べ物もこれはあの国の誰々さんが持ってきた品か! と、分かる人っていないと思う。

「アカリ、帰るぞ」
「はぁーい。待ってー」

 昨日とは打って変わって、冒険者スタイルの服装で私とルーファス、そしてリュエールにキリンちゃんは四人パーティの冒険者を装ってホテルから出た。
 ホテルの一階の応接間では貴族の従者の人が多く座っていて、ここに泊まっている昨日の収穫大宴の参加者に交渉するように主人達から言われた人達が集まっている。
外も貴族の馬車で行列が出来ている状態だった。

「凄いねー」
「まぁ、オレ達には関係ない。土産でも買って帰ろう」
「はぁーい」

 ルーファスは黒い眼鏡を掛けて、全身黒ずくめの長い大きな剣を背負った剣士風。
私は杖を手に、茶色い外套を羽織った魔導士風。
リュエールは厚地の黄土色のジャケットとパンツに麻のシャツで、短剣を腰の両側に下げた盗賊風。
キリンちゃんは若草色の短いマントに、エルフの民族衣装で弓と矢筒を背中にしている弓職風……まぁ、キリンちゃんは元々、弓は得意なエルフ族なのでバッチリお似合いです。
結構バランスのいいパーティメンバーに見えると思う。

「流石に僕等だと気付く人も居ないだろうし、ゆっくり子供達にお土産を選ぼう」
「うん。そうだね。レーネルに何か面白い物でも買って帰ろうね」

 楽しそうに軽い足取りでキリンちゃんが先を歩き、リュエールがその後を尻尾を振りながらついていっている。
仲良し夫婦でお母さんは安心です。

「ハガネとスーと、ドラゴン達にも色々買って帰らないとな」
「そうだね。特にアルビー達にはお酒で協力してもらったから、いっぱい買わないと!」

 ルーファスと手を繋いで、お土産屋さんを目指す。
五十年に一回の収穫大宴が開かれたとあって、露店商が街の至る所で店を構えているので、全部見て回るのは大変そうだけど、お祭りやバザールみたいでワクワクする。

 簡易テントや簡易屋台に並ぶ物を見て、たまにルーファスが「貴族相手にぼったくる気の店だな」とか「贋作の商品しか置いてないな」と言っていくから、たまに店主の人にシッシッと手で追い払われたりした。
 ちなみにリュエールも同じようなことを言っていてシッシッとされていたのを、キリンちゃんが「周りには言わないであげるから、まけてよ!」と値切り交渉していた。
うちの嫁出来る!!

「ルーファス、これ買ってもいい?」

 可愛い絵が描いてある木の絵本を指さすと、ルーファスが「ほう」と面白そうな物を見付けたと言わんばかりの顔で木の絵本を手に取る。

「店主、この絵本は何処で手に入れた物だ?」
「これですか? 古書市場ですよ」
「なるほど、どこの古書市場か聞いても良いか?」
「エルクバルドって街ですよ。一ヶ月に一度は開かれていますよ」
「ふむ。子供達に買っていくか。この本は幾らだ?」
「四白銅貨ですよ(400円)」

 ルーファスが四白銅貨を店主に渡し、木の絵本を手にして、私に「飲み物でも買いに行くか」と、少し露店を外れて人の居ない路地裏の方へ行く。

「どうしたの? ルーファス」
「まぁ、これを見てみろ。掘り出し物だ」

 ルーファスが木の絵本を開いて、手で絵本の上をスライドさせると、木の絵本の上に立体の絵本のキャラクターが出てきて動き始める。

「わぁ! 凄いね! 可愛い~」
「こういう魔法の掛かった絵本はオレも実物を見るのは初めてだが、古代図書館に保管されている物と同等価値だな」
「古代図書館?」
「ああ。世界中のあらゆる希少な本を取り扱っている図書館だ。魔法の掛かった本の類は大白金貨(一千万)クラスの物ばかりだから、四白銅貨で買えたのは幸運だぞ」
「ふえぇぇぇーっ!?」
「ククッ、アカリは運がいい。子供達に良い土産になったな。まぁアルビーが欲しがるかもしれないから、アルビーの土産でも良いだろうが」
「うわぁ~……凄いね。アルビー本好きだから喜びそう」
「アルビーにエルクバルドの古書市場を教えてやらないとな」
「うんうん。きっと喜ぶよ!」

 ルーファスが絵本を手渡してきたけど、流石に一千万クラスの物を持って歩く勇気は無いから、ルーファスの鍵倉庫に仕舞って貰った。

 この後も色々と掘り出し物を探したけど、絵本以外は掘り出し物っていう物はなく、ハガネがこの間、包丁の研ぎ石が良いのが欲しいと言っていたから、研ぎ石をお土産に買ってみた。
 ミルアとナルアにはお揃いのスズランの様な形の傘を買って、スクルードには鍵の付いた宝箱を買った。
 スクルードが初めて私の居た世界に渡ってしまった時に、出会った女の子から貰ったハンカチを大事にしているので、そのハンカチを入れる宝箱にしたら良いかな? という考えで買ってみた。
家族が気になって見せて貰おうとすると隠すから、鍵付きの宝箱なら安心かな? って思うんだよね。
私も見せて欲しい一人ではあるけど、スクルードの初恋の邪魔は出来ない。
 コハルには可愛いスプーンとフォークにした。あと少ししたら離乳食も始まるから、どうせなら可愛い物の方が良いだろうしね。
 ドラゴン達には珍しそうなお酒とかおつまみ系をチョイスした。

 お昼過ぎにリュエールとキリンちゃんと合流して、のんびりと馬車に乗って帰った。
移動魔法で帰っても良かったんだけど、折角のお出掛けだから周りの景色を楽しみつつというところだ。
 
 温泉大陸に戻ったら、お酒の注文が殺到していて、あのホテルに居た従者達は私達にお酒の交渉をするのが目的だった様だ。

 温泉大陸の幻の酒『竜灯ドラゴンとアカリ』として噂が飛び回ることになるけれど、【刻狼亭】の料亭でも旅館でも出ない秘酒となり、飲めるのはドラゴン達が気まぐれに経営している『悪友の集い』に極まれに振る舞われる幻のお酒になった。
ドラゴンは本当に気まぐれなのと、場所が温泉街から離れていて人にあまり知られていないこともあり、飲めた人は凄く少ないだろう。

 しかも経営者のアルビーが、しょっちゅう古書市場に出向くせいで、余計にお店は経営日が怪しくなったというオマケ付きである。
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