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26章
収穫大宴
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『収穫大宴』の招待状を手に、黒の燕尾服で正装したルーファスは、私の腰に手を回しながら会場入りした。
ルーファスの黒の燕尾服は私とお揃いの様に、金色の縁取りと金色の薔薇の装飾がタイにしてあって、もしルーファスの番じゃなかったら、見惚れて一歩も動けないところだった。
ルーファス、格好いい~っ!
リュエールもキリンちゃんとお揃いの薄い緑色の燕尾服に金の薔薇の装飾を付けている。
袖口のカフスとかも金薔薇で、お揃い演出が夫婦の仲を見せている感じがする。
「ルーファス、緊張してきた~」
「大丈夫だ。なんなら大女将モードで、気品ある憮然とした態度でいればいい」
滅多にやらない私の大女将モード……去年、見習いの子達の前で正体を明かした時の私のことです。
たまーに、大女将モードで対応する事もあったから、そう言われているけど、実際問題、アレは演技なので内心はビクビクな小心者の私でしかないから無理!
『リュエール・トリニア様、キリン・トリニア様ご夫妻、ご入場』
私を緊張させてくれたのが、この入場入りする時に一々、人の名前を読み上げてくれたことだ。
どこの誰々なんて紹介されて入場するとは思わなかった……
リュエール達も入場入りして、ほぅっと何処からともなく感嘆の吐息が聞こえる。
うちのリュエールは親の私が言うのもなんだけど、顔が整っているからエルフのキリンちゃんと並ぶと絵になるんだよね。
出逢った頃のキリンちゃんは少女という感じの姿ではあったけれど、結婚してからは、どこはかとなく色香が漂う妖艶なエルフの美少女という感じで、子供を産んでからはそこに母親の優しい眼差しも加わって、見る人を魅了する。
リュエールに向かってはにかんだ笑顔を見せる姿に、男女問わず頬を赤らめてしまうのだ。
なんせ、今日はドレスも着てお化粧も大人っぽく仕上げているので、いつもの倍以上の効果だろう。
「キリンちゃん凄いねぇ」
「オレにはアカリの方が凄いと思うが?」
「私はキリンちゃんみたいに人を魅了する力は無いよ」
「知らぬは本人ばかりなり、とは言ったものだな」
まぁ、一番魅了したいのはルーファスだけなので、私を凄いと言ってくれるだけで十分である。
「母上、父上。やっと合流出来た」
「少しばかり招待状の順番に間があったようだな」
「まぁ、五十年に一度のことだから、ミスがあっても仕方が無いのだろうけどね」
私達のところにリュエールとキリンちゃんが来ると、すぐさま飲み物を乗せたトレイを持ってお仕着せを着たボーイの様な人が来る。
「こちら、ソディアム領の赤ワイン。こちらは東国のビセン領の清酒。こちらはー……」
「この酒でいい」
「はい。こちらは温泉大陸の果実酒になります」
少し緑がかった果実酒は、アルビーとケルチャとアクエレインに私が、この時の為だけに造ったお酒である。
温泉大陸の格を落とさず、尚且つ、称賛される様な一品が作りたかったので頑張ってみた。
ベースはミッカの実とバナナとイチゴに隠し味に梅が入った物。
甘い中に酸味と舌に残る爽やかさを演出するのに、ドラゴン達と頭を突き合わせて作った物である。
ただし、輸入や輸出という売り買いはするつもりも無い。
あくまで、温泉大陸のお酒は女性にも飲みやすく、男性にも頷いてもらえるような一品を目指したのだ。
四人でグラスを持って、主催者となる人物が登場するのを待つ。
主催者はこの会場のある土地の領主らしく、五十年に一回のこの日の為だけに、豪邸……宮殿の様な大きなホールがある建物を維持しているらしい。
全面豪華なダンスフロアで二階などはなく、一階のこのフロアと入り口と奥に料理を作る厨房しかない。
一応、控室の様な物はあるけれど、服が汚れた場合に汚れを落とす魔法使いが待機していて、トイレや化粧直しもそこなのである。
だから、私が心配していた迷子になるかも? なんてことは無い。
『五十年に一度の収穫大宴にお集まり下さり、誠にありがとうございます』
魔道具の拡声器で広いフロアに主催者の男性の声が響く、どうやら挨拶が始まったようだ。
ルーファスの隣りで私はアルビー達と作ったお酒を見ながらうっとりとしていたら、私の手からグラスの入ったお酒が、上にヒョイッと持ち上げられて盗られてしまった。
「あっ」
「やぁ、ルーファスにアカリ、元気でしたか?」
飄々とした声の主を、私は眉間にしわを寄せて睨みつける。
銀色の髪をして、ルーファスによく似た顔をした金色の眼をしているギル・アーバント。
言わずと知れたルーファスの叔父であり、アーバント家の当主だ。
「ギル叔父上……」
「ギルさん~」
「ああ、これが私の愛息子が造ったお酒ですね。うーん、甘いのにスッキリとした味わいで、コクのような物もありますね」
「ああ~私のお酒~」
クイッとグラスを空にしてギルさんは「アカリは授乳中なのでしょう?」と空のグラスを返してきた。
ぐぬぬ……授乳中ではあるけれど、今日はお乳は搾乳してきて、哺乳瓶に入れてハガネに任せたので、お酒を飲む気満々だったのに酷い!
味見もほとんどできなかったから楽しみに、うっとりとお酒を見つつ主催者の挨拶が終わるのを待っていたのにぃぃ~。
ジロッとギルさんを睨めばフフンという顔で笑い返され、絶対にわざとだとわかる。
ルーファスが自分の分を私にくれて、ボーイさんに自分の分をもう一杯頼んだ時には、ギルさんは他の人に挨拶をしにスイスイと人だかりの中を、自然な感じで動き回っていた。
ルーファスの黒の燕尾服は私とお揃いの様に、金色の縁取りと金色の薔薇の装飾がタイにしてあって、もしルーファスの番じゃなかったら、見惚れて一歩も動けないところだった。
ルーファス、格好いい~っ!
リュエールもキリンちゃんとお揃いの薄い緑色の燕尾服に金の薔薇の装飾を付けている。
袖口のカフスとかも金薔薇で、お揃い演出が夫婦の仲を見せている感じがする。
「ルーファス、緊張してきた~」
「大丈夫だ。なんなら大女将モードで、気品ある憮然とした態度でいればいい」
滅多にやらない私の大女将モード……去年、見習いの子達の前で正体を明かした時の私のことです。
たまーに、大女将モードで対応する事もあったから、そう言われているけど、実際問題、アレは演技なので内心はビクビクな小心者の私でしかないから無理!
『リュエール・トリニア様、キリン・トリニア様ご夫妻、ご入場』
私を緊張させてくれたのが、この入場入りする時に一々、人の名前を読み上げてくれたことだ。
どこの誰々なんて紹介されて入場するとは思わなかった……
リュエール達も入場入りして、ほぅっと何処からともなく感嘆の吐息が聞こえる。
うちのリュエールは親の私が言うのもなんだけど、顔が整っているからエルフのキリンちゃんと並ぶと絵になるんだよね。
出逢った頃のキリンちゃんは少女という感じの姿ではあったけれど、結婚してからは、どこはかとなく色香が漂う妖艶なエルフの美少女という感じで、子供を産んでからはそこに母親の優しい眼差しも加わって、見る人を魅了する。
リュエールに向かってはにかんだ笑顔を見せる姿に、男女問わず頬を赤らめてしまうのだ。
なんせ、今日はドレスも着てお化粧も大人っぽく仕上げているので、いつもの倍以上の効果だろう。
「キリンちゃん凄いねぇ」
「オレにはアカリの方が凄いと思うが?」
「私はキリンちゃんみたいに人を魅了する力は無いよ」
「知らぬは本人ばかりなり、とは言ったものだな」
まぁ、一番魅了したいのはルーファスだけなので、私を凄いと言ってくれるだけで十分である。
「母上、父上。やっと合流出来た」
「少しばかり招待状の順番に間があったようだな」
「まぁ、五十年に一度のことだから、ミスがあっても仕方が無いのだろうけどね」
私達のところにリュエールとキリンちゃんが来ると、すぐさま飲み物を乗せたトレイを持ってお仕着せを着たボーイの様な人が来る。
「こちら、ソディアム領の赤ワイン。こちらは東国のビセン領の清酒。こちらはー……」
「この酒でいい」
「はい。こちらは温泉大陸の果実酒になります」
少し緑がかった果実酒は、アルビーとケルチャとアクエレインに私が、この時の為だけに造ったお酒である。
温泉大陸の格を落とさず、尚且つ、称賛される様な一品が作りたかったので頑張ってみた。
ベースはミッカの実とバナナとイチゴに隠し味に梅が入った物。
甘い中に酸味と舌に残る爽やかさを演出するのに、ドラゴン達と頭を突き合わせて作った物である。
ただし、輸入や輸出という売り買いはするつもりも無い。
あくまで、温泉大陸のお酒は女性にも飲みやすく、男性にも頷いてもらえるような一品を目指したのだ。
四人でグラスを持って、主催者となる人物が登場するのを待つ。
主催者はこの会場のある土地の領主らしく、五十年に一回のこの日の為だけに、豪邸……宮殿の様な大きなホールがある建物を維持しているらしい。
全面豪華なダンスフロアで二階などはなく、一階のこのフロアと入り口と奥に料理を作る厨房しかない。
一応、控室の様な物はあるけれど、服が汚れた場合に汚れを落とす魔法使いが待機していて、トイレや化粧直しもそこなのである。
だから、私が心配していた迷子になるかも? なんてことは無い。
『五十年に一度の収穫大宴にお集まり下さり、誠にありがとうございます』
魔道具の拡声器で広いフロアに主催者の男性の声が響く、どうやら挨拶が始まったようだ。
ルーファスの隣りで私はアルビー達と作ったお酒を見ながらうっとりとしていたら、私の手からグラスの入ったお酒が、上にヒョイッと持ち上げられて盗られてしまった。
「あっ」
「やぁ、ルーファスにアカリ、元気でしたか?」
飄々とした声の主を、私は眉間にしわを寄せて睨みつける。
銀色の髪をして、ルーファスによく似た顔をした金色の眼をしているギル・アーバント。
言わずと知れたルーファスの叔父であり、アーバント家の当主だ。
「ギル叔父上……」
「ギルさん~」
「ああ、これが私の愛息子が造ったお酒ですね。うーん、甘いのにスッキリとした味わいで、コクのような物もありますね」
「ああ~私のお酒~」
クイッとグラスを空にしてギルさんは「アカリは授乳中なのでしょう?」と空のグラスを返してきた。
ぐぬぬ……授乳中ではあるけれど、今日はお乳は搾乳してきて、哺乳瓶に入れてハガネに任せたので、お酒を飲む気満々だったのに酷い!
味見もほとんどできなかったから楽しみに、うっとりとお酒を見つつ主催者の挨拶が終わるのを待っていたのにぃぃ~。
ジロッとギルさんを睨めばフフンという顔で笑い返され、絶対にわざとだとわかる。
ルーファスが自分の分を私にくれて、ボーイさんに自分の分をもう一杯頼んだ時には、ギルさんは他の人に挨拶をしにスイスイと人だかりの中を、自然な感じで動き回っていた。
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