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26章
命水 ルーファス視点
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「婿よ、嫁御寮は何をしておるのだ?」
「『らじお体操』とかいう、異世界の運動らしい」
「怪しげな踊りであるな……」
縁側から、庭でスクルードと一緒に『らじお体操』という体を動かす運動をしているアカリを、アクエレインが不思議そうな顔で見て、首を捻っている。
運動音痴のアカリの事なので、おそらくは運動の動作はもっと機敏なものでは無いかと思うが、スクルードの様な小さい子供には丁度いい運動かもしれない。
「はーヒィー……はーヒィー……」
「ははうー?」
体力不足のアカリの体力がもう尽きたらしい。
まぁ夏の暑さの中で運動をするのはアカリの体力上、いつもより体力が無くなるのが早かったのだろう。
元気いっぱいのスクルードに手を引かれてヒィヒィ息を切らしながらアカリが戻ってきた。
「み、水……」
「【命水】……どうだ? 嫁御寮」
「ぷぃー……生き返るー……」
「んまーっ」
アクエレインが出した水をアカリとスクルードが頭からかぶりながら飲んで、笑顔で縁側に倒れる。
「うわぁー! 縁側熱っ!」
「きゃはー!」
ガバッと跳ね起きて、アカリがスクルードを持ち上げると「焼きせんべいになっちゃう!」と、キャアキャア騒いで、アクエレインが縁側に水を流して「これならどうだ?」と、アカリとスクルードが「冷たーい」「きゃはー!」と大喜びで縁側ではしゃいだ声をあげた。
水竜というだけあって、縁側だけに水が流れ、部屋の中には入らないようにしているのだから水を支配下に置くドラゴンの力は凄いものがある。
普通の者が同じことをするには魔力のコントロールがかなり必要で、気を抜いた瞬間、縁側も部屋の中も水浸しになるだろう。
「ねぇねぇ、命水ってなんの魔法なの?」
「うん? 疲労が回復したであろう?」
「あっ! そういえばしてる! 命水って疲労回復の水なの?」
「そんな感じだな。疲れた時に湧き水を飲むと癒されるであろう? 命水とはそういうものだ」
「私も使える?」
「嫁御寮なら使えるであろう。兄者とも契約しておるしな」
「やったー! 私疲れ知らずだー!」
ほほう。と、思わず口元がニヤリとしてしまったのをアカリに悟られないように手で口元を押さえる。
アカリに使える魔法ならば、自分にも番特権で使えるはずだ。
アクエレインやグリムレインと主従関係にないので、多少威力は落ちるが、早速今夜にでも試してみよう。
「なんかルーファスが変なことを考えている気がする……」
こういう勘だけは、アカリは鋭い。
まぁ、とりあえず「そんなことは無いぞ?」と誤魔化して、水で透けた浴衣から見えている下着に、今日は白に白百合のレースか……と堪能した後で、乾燥魔法でアカリとスクルードの着物を乾かす。
「さて、いっぱい遊んだし、私は元気にお料理に戻ろうかな?」
「うーっ、スーもあそぶぅー」
「スーちゃん、母上は遊ぶんじゃなくて、スーちゃんのまんまを作るんだよ?」
「スーもやるぅー」
「ルーファス、スーちゃんをお願いします」
台所はまだ危ないという判断で、アカリに断られたスクルードが目を瞑って眉間にしわを寄せて、「いぃーっ」と歯を出して不満を申し立てる。
「スーちゃん、そんな不細工なお顔しちゃ駄ぁー目」
「ぃぃぃいぃぃ~」
アカリに頬を両手で揉まれてスクルードがイヤイヤと顔を振りながら、アカリは「ウィナー」と訳の分からない言葉を言って、ベビーベッドのコハルを覗いてから台所に姿を消した。
後で聞いたところ「勝者」ということらしい。
小さな息子相手に何をしているのかと少し苦笑いをしてしまったが、台所は油ものをする場合もある為に、まだスクルードには立ち入り禁止場所でもあるから仕方がない。
「むぅぅ~」
「スー、そんなにむくれては、コハルの兄として情けないぞ?」
「ぷぅ~っ」
どうやらご機嫌斜めのようだ。
スクルードを抱き上げてコハルのベビーベッドを覗けば、グリムレインが小さく丸まってコハルと寝ている。
グリムレインがいれば、コハルはグズらずに寝るので、最近はコハル係りにされて、アカリに「グリムレインは優しいから子供にもわかるんだよ」とおだてられている。
良い様に使われてはいないか? とも思うが、コハルが暑さで泣くよりは良い。
冬は嫌われそうな気もするが……
温泉大陸の夏は、大抵はグリムレインが暑さを自分の氷で覆いつくして温度を過ごしやすいように調節しているのだが、今年は弟のアクエレインに魔力を分け与えている為、余分な魔力は残っていないらしく、暑さは我慢するよりほかにない。
何だかんだでグリムレインも弟思いの兄なのだろう。
「はるー」
「スー、もう少し眠らせておいてやろう。オレと一緒にアイスでも食いに行くか?」
「あいしゅー! いくぅー!」
「アクエレインも行くか?」
「行くに決まっておる」
アカリに「土産にアイスを買ってくる」と言って出掛けると、温泉街は夏休暇の客達で今年も賑わっている。
もうすぐ夏祭りも開催されるために、その夏祭り目当ての客もいるだろう。
氷祭りは今年はグリムレインが魔力不足の為に中止になった分、夏祭りに力を入れるようだ。
去年はアカリが毒蛇に噛まれて氷祭りはあまり楽しめなかったが、今年も中止で楽しめることなく終わった分、夏祭りはアカリと楽しむつもりだ。
「ちちうー、あいしゅー!」
「ああ。好きなのを選んでいいからな」
とりあえずは、アイスでも買ってアカリに口の中を楽しんで貰うとしよう。
スクルードを抱き上げて、アクエレインを肩に乗せて、アイスを買いに街中を歩いて「今年は暑いな」と呟けば、「夏とは本来こんなものだ」と至極もっともな意見がアクエレインからくる。
数年前も猛暑があったが、その時並みの熱さでは無いだろうか? そう思いながら、アイスを早く買って屋敷でアカリと風呂にでも入って涼みつつ、命水でも使ってアカリと楽しむかな? と、尻尾が自然と揺れていた。
「『らじお体操』とかいう、異世界の運動らしい」
「怪しげな踊りであるな……」
縁側から、庭でスクルードと一緒に『らじお体操』という体を動かす運動をしているアカリを、アクエレインが不思議そうな顔で見て、首を捻っている。
運動音痴のアカリの事なので、おそらくは運動の動作はもっと機敏なものでは無いかと思うが、スクルードの様な小さい子供には丁度いい運動かもしれない。
「はーヒィー……はーヒィー……」
「ははうー?」
体力不足のアカリの体力がもう尽きたらしい。
まぁ夏の暑さの中で運動をするのはアカリの体力上、いつもより体力が無くなるのが早かったのだろう。
元気いっぱいのスクルードに手を引かれてヒィヒィ息を切らしながらアカリが戻ってきた。
「み、水……」
「【命水】……どうだ? 嫁御寮」
「ぷぃー……生き返るー……」
「んまーっ」
アクエレインが出した水をアカリとスクルードが頭からかぶりながら飲んで、笑顔で縁側に倒れる。
「うわぁー! 縁側熱っ!」
「きゃはー!」
ガバッと跳ね起きて、アカリがスクルードを持ち上げると「焼きせんべいになっちゃう!」と、キャアキャア騒いで、アクエレインが縁側に水を流して「これならどうだ?」と、アカリとスクルードが「冷たーい」「きゃはー!」と大喜びで縁側ではしゃいだ声をあげた。
水竜というだけあって、縁側だけに水が流れ、部屋の中には入らないようにしているのだから水を支配下に置くドラゴンの力は凄いものがある。
普通の者が同じことをするには魔力のコントロールがかなり必要で、気を抜いた瞬間、縁側も部屋の中も水浸しになるだろう。
「ねぇねぇ、命水ってなんの魔法なの?」
「うん? 疲労が回復したであろう?」
「あっ! そういえばしてる! 命水って疲労回復の水なの?」
「そんな感じだな。疲れた時に湧き水を飲むと癒されるであろう? 命水とはそういうものだ」
「私も使える?」
「嫁御寮なら使えるであろう。兄者とも契約しておるしな」
「やったー! 私疲れ知らずだー!」
ほほう。と、思わず口元がニヤリとしてしまったのをアカリに悟られないように手で口元を押さえる。
アカリに使える魔法ならば、自分にも番特権で使えるはずだ。
アクエレインやグリムレインと主従関係にないので、多少威力は落ちるが、早速今夜にでも試してみよう。
「なんかルーファスが変なことを考えている気がする……」
こういう勘だけは、アカリは鋭い。
まぁ、とりあえず「そんなことは無いぞ?」と誤魔化して、水で透けた浴衣から見えている下着に、今日は白に白百合のレースか……と堪能した後で、乾燥魔法でアカリとスクルードの着物を乾かす。
「さて、いっぱい遊んだし、私は元気にお料理に戻ろうかな?」
「うーっ、スーもあそぶぅー」
「スーちゃん、母上は遊ぶんじゃなくて、スーちゃんのまんまを作るんだよ?」
「スーもやるぅー」
「ルーファス、スーちゃんをお願いします」
台所はまだ危ないという判断で、アカリに断られたスクルードが目を瞑って眉間にしわを寄せて、「いぃーっ」と歯を出して不満を申し立てる。
「スーちゃん、そんな不細工なお顔しちゃ駄ぁー目」
「ぃぃぃいぃぃ~」
アカリに頬を両手で揉まれてスクルードがイヤイヤと顔を振りながら、アカリは「ウィナー」と訳の分からない言葉を言って、ベビーベッドのコハルを覗いてから台所に姿を消した。
後で聞いたところ「勝者」ということらしい。
小さな息子相手に何をしているのかと少し苦笑いをしてしまったが、台所は油ものをする場合もある為に、まだスクルードには立ち入り禁止場所でもあるから仕方がない。
「むぅぅ~」
「スー、そんなにむくれては、コハルの兄として情けないぞ?」
「ぷぅ~っ」
どうやらご機嫌斜めのようだ。
スクルードを抱き上げてコハルのベビーベッドを覗けば、グリムレインが小さく丸まってコハルと寝ている。
グリムレインがいれば、コハルはグズらずに寝るので、最近はコハル係りにされて、アカリに「グリムレインは優しいから子供にもわかるんだよ」とおだてられている。
良い様に使われてはいないか? とも思うが、コハルが暑さで泣くよりは良い。
冬は嫌われそうな気もするが……
温泉大陸の夏は、大抵はグリムレインが暑さを自分の氷で覆いつくして温度を過ごしやすいように調節しているのだが、今年は弟のアクエレインに魔力を分け与えている為、余分な魔力は残っていないらしく、暑さは我慢するよりほかにない。
何だかんだでグリムレインも弟思いの兄なのだろう。
「はるー」
「スー、もう少し眠らせておいてやろう。オレと一緒にアイスでも食いに行くか?」
「あいしゅー! いくぅー!」
「アクエレインも行くか?」
「行くに決まっておる」
アカリに「土産にアイスを買ってくる」と言って出掛けると、温泉街は夏休暇の客達で今年も賑わっている。
もうすぐ夏祭りも開催されるために、その夏祭り目当ての客もいるだろう。
氷祭りは今年はグリムレインが魔力不足の為に中止になった分、夏祭りに力を入れるようだ。
去年はアカリが毒蛇に噛まれて氷祭りはあまり楽しめなかったが、今年も中止で楽しめることなく終わった分、夏祭りはアカリと楽しむつもりだ。
「ちちうー、あいしゅー!」
「ああ。好きなのを選んでいいからな」
とりあえずは、アイスでも買ってアカリに口の中を楽しんで貰うとしよう。
スクルードを抱き上げて、アクエレインを肩に乗せて、アイスを買いに街中を歩いて「今年は暑いな」と呟けば、「夏とは本来こんなものだ」と至極もっともな意見がアクエレインからくる。
数年前も猛暑があったが、その時並みの熱さでは無いだろうか? そう思いながら、アイスを早く買って屋敷でアカリと風呂にでも入って涼みつつ、命水でも使ってアカリと楽しむかな? と、尻尾が自然と揺れていた。
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