黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと出産 ※

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 うーん……落ち着かない。
真夜中の三時過ぎぐらいから、ソワソワと落ち着かず、クローゼットの中に潜り込んでは外に出て、ルーファスの寝ているベッドに潜り込んでは出てを繰り返す私は、かなり怪しい。
お腹が痛い気もするけど、すぐ収まり、ウロウロとしては立って座ってである。

「アカリ? どうした?」
「クゥーン……クゥーン」

 獣化したまま一緒に寝てくれているルーファスにとって、普段よりも私がゴソゴソ動き回る音は大きく聞こえていたのだろう。心配そうに私の周りを歩いては顔を舐めて寄り添う。

 予定日まではまだ日にちはあるし、ただでさえ狼の出産期間として短い妊娠期間で、子供に十分なものを与えられているのかも不安なのに、これが出産だとしたら申し訳ない。
まだ産むわけにはいかない。

「キュー……」
「アカリ、まさか陣痛か!?」

 それは駄目だと首を横に振るけど、ジッとしていられずウロウロしては声が押し殺せずにキューキュー声が出てしまう。

「アカリ、少し待ってろ! 医者を呼んで来る!」

 ああ、駄目だってばっ!
ルーファスが部屋から出て行ってしまい、あー、どうしよう……と、またクローゼットの中に潜り込んでヒィヒィ鳴く私である。
凄く落ち着かない。

 それに、今回は産院へは入院出来ないので自宅分娩だし、来るのは獣医にシルビアさんにシュトラールとなる。
赤ん坊が生まれたと同時に人型に戻り、私も人に戻れたら産医さんを呼ぶ手筈も整えてはあるけど、予定日より一週間は早い。
人には色々予定があるのだから、呼びつけて出産じゃなかったというのも、申し訳ない……。

「キュゥーン……」

 なんだかメンタルがガタガタに沈んでは、お腹の痛みで発狂しそうになる。
落ち着かないよぅ~っ! ウロウロとまた部屋を歩き回っているとお腹がまた痛くなって、うぐぅっ……と、クローゼットで穴掘りのように前脚で布団をガリガリしていると、ぬるんっとした物が足の間にある気がする。

 なんだろう? 見えない……おっぱいが邪魔過ぎる……ぐるぐるしていると、ルーファスが部屋に戻ってきた。

「アカリ! ハガネに医者を呼びに行かせた。シューとシルビアは直ぐに来るからな!」

 ルーファスが私に手を伸ばすのを見て、なんだか無性にイラッとしたのかわからないけどガブリッと噛んでしまって、手を引っ込めそうになったルーファスは、再び私を触る。

「ヴヴヴ―ッ」
「アカリ、悪い……しかし、少し見せてくれ。血の匂いがしている」
「ヴーッ」

 どうしてこんなにイライラとしているのか自分でもわからないまま、ルーファスの手に噛みついたまま、もう片方の手で抱き上げられてベッドの上に下ろされると、尻尾を上に上げられる。
もぉ~っ! 触らないで! と、私はカンカンに怒って騒いでいたと思う。

「アカリ、落ち付け。子供が出かかっている」
「ヴー……」
「オレを噛んでていい。それぐらいしか出来ないからな。もう少し頑張ってくれ」
「ヴーヴーッ」

 ルーファスの腕に噛みついて力を入れると、グツリとルーファスの皮膚に自分の牙が入ってしまった音が耳に響いて、口を放したいのにお腹も痛くて、噛みついたまま「フーッフーッ」息と唸り声を上げていた。

「母上! 大丈夫!?」
「シュー、もう出かかっている! 出産用の湯とタオルを!」
「わかった! 直ぐに用意してくる!」

 シュトラールの足音に、うるさーい! と理不尽な怒りがこみ上げてくる。
私、イライラし過ぎだと、頭のどこかで思いながらもルーファスの腕に噛みついて、涙がぼろぼろ溢れていた。
今の私は凄く情けない……出産経験はあるのに、心の余裕がどこにも無い。

「アカリ、泣かないでくれ。アカリの痛みはオレが代わってやれないからな。二人の子供なのに、アカリに負担をかけてすまない」
「キュー……」

 ルーファスの腕から口を放して、ペロペロと舐めるとルーファスの血の味がした。

「クゥーン……」
「気にするな。それに、噛んで力を入れた方が産みやすいだろう?」

 申し訳なさに耳がぺしゃんと下がると、ルーファスに頭を撫でられて反射的にまた噛んでしまい、すっかり私は狼っぽくなってしまっているらしい。
元に戻ったら謝り倒そう……足を踏ん張って、ルーファスには申し訳ないけど噛みつかせてもらったまま、何度かいきむとズルリと温かい物が出て、ズルズルとまだ何かが出ていく。

「父上! 用意出来たよ!」
「丁度生まれたところだ! 急げ!」
「わかった! 母上、少しごめんね。診せてね」
「ヴーッ!」
「アカリ、落ち付け。大丈夫だ。少しだけシューに任せて休め」
「ヴヴ……」

 シュトラールが羊膜に包まれた小さな赤ちゃんを手にタオルでゴシゴシと拭いていて、「早く返して!」と、焦りが私の中に充満していく。

「ミュー、ミィー」
「わぁ。この子、白黒だ」
「白黒?」

 ルーファスがシュトラールと一緒に手の平の赤ちゃんを見て「本当だな」と声を出す。
私の赤ちゃん早く返してー! と、私が起き上がるとシュトラールが「あ、ごめん」と、私を手でベッドに横にして、胸の所へ赤ちゃんを置いてくれる。

「ミィー」

 子猫みたいな声で鳴きながらオッパイを探してもぞもぞ動く小さな赤ちゃん。
確かに、白黒だった。体の半分の色が綺麗に白と黒に別れていた。
オッパイを吸い始めた様子を見て、私もホッと息を付く。

「シルビアです! 失礼しますー!」

 シルビアさんが来た瞬間、また私は怒りがこみ上げて、酷い声で唸り声を上げていた。
全身の毛が逆立つ感じで、歯をカチカチ言わせていて、ルーファスがシルビアさんを手で制して「来るな!」と声を上げる。

「あの……? えーと、私はどうすれば?」
「悪いが、アカリが狼に近い状態で気が立っている。もう出産は終わっているから、戻ってくれ」
「はーい。間に合いませんでしたけど、アカリさん、おめでとうございます~朝にでもまた来ますー」

 シルビアさんが出ていくと、ようやく私も落ち着いてきた。
ルーファスに頭を撫でられている間に、シュトラールが胎盤の処理もしてくれたようだ。

 私の九番目の赤ちゃん。
私がまだ狼のままだからなのか獣化したままで、ルーファスの手の平より小さくて、ルーファス待望の女の子である。
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