黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
860 / 960
25章

おヨメさまと子狼

しおりを挟む
 お宿の部屋の中でルーファスとハガネが帰り支度をしていて、私はベッドの上で邪魔にならないように丸まっている。
あの後、大聖堂に行き、女神像に向かって「元に戻せー!」と騒いだものの、返答はなく、むしろ不審者扱いを受けた私達は、今後のことも考え、早めに温泉大陸に帰ることになった。

「クゥーン」

 まだ、旅行続けたかったのになぁ。しかし、お腹に子供がいる以上は無理も出来ないし、安産用の『祝福』をグリムレインに貰わないといけない。
狼と人の体では妊娠期間が違う為に、とにかく急がなければ、人間の妊娠二ヶ月目までしか受け取れない『祝福』が貰えなくなってしまう。
アクエレインに貰ったのは、妊娠率を上げるものなので、大忙しなのである。

 一番の懸念は狼の体になった私の子宮では、人型の子供を育てるのは無理ということ。
安産の『祝福』で子供を獣化したまま育てていくしかないのである。

「アカリ、体調はどうだ?」
「キューン……」
「そうか、あまり良くないか……直ぐに帰ろう」

 体の中がぐるぐるして、朝ご飯も戻してしまったので私はぐったりモードなのだ。
耳が下がる私を、ルーファスが頭と体をゆっくり撫でてくれる。
私はいつも『祝福』を貰っていたから、悪阻経験は無くて、ここまで酷いものだとは思ってもいなかった。
ハガネが荷物を色々持ってくれて、ルーファスが私を抱きかかえてお宿からチェックアウトを済ませて、外へ出る。

「リューもオレもこの都市を魔法で座標を覚えたから、いつでも来れる。今度は子供が生まれてゆっくりしたら、また来ような」
「キュー……」

 雨宿りをさせてくれたお菓子屋のおばさんにお礼をしていないのが少し心残りかな……?
ルーファスが移動魔法を使い、ハガネの袖を掴んで久しぶりの屋敷の庭に出る。

 ああ、帰ってきた。
んーっ、匂いが我が家の匂いという感じで、今まで気にしたことは無かったけど、狼の鼻だとよくわかる。

「ちちうー! はがにゃ!」
「スー、ただいま」
「おっ、スーが出迎えか。リューはどうした?」
「おかなさー! りゅーないない!」
「そっか、リュー早速、医者探しに行っちまったかな」

 屋敷の縁側から元気なスクルードの歓迎に、口元が緩む。
今日は寒いから半纏はんてん羽織はおらせてもらっていて、頬っぺたが真っ赤だ。
ルーファスの足にしがみ付き、「んふーっ」と笑っている顔はやはり可愛い。
ハガネが縁側に荷物を置き、スクルードを抱き上げると屋敷の中へと私達と揃って入っていく。

 大広間に着くと、カウチソファに置いてもらい私はぐったりと横になる。
我が家が一番ではあるけれど、少し落ち着かない。
最近、貸家暮らしだったからかかなぁ? うーん……お腹の中もぐるぐるするし、気持ちが悪くて考えがまとまらない。

「アカリ、直ぐにグリムレインを呼んでくるから、少し待っててくれ」

 ルーファスが部屋から出て行き、ハガネは「なんか飲むもん淹れてくる」と台所へ行った。
スクルードは私の周りをウロウロして、不思議そうな顔をする。

「ふぇねー?」

 フェネシーじゃないよ。母上だよ。と、顔を近付けてきたスクルードの顔を舐めると、目を丸くしてコロンと転がると獣化して私の顔を舐めてくる。
尻尾をブンブン振って喜んでいる辺り、私だとわかってくれたみたいだ。
体を丸めるとスクルードが私のお腹の方へ入ってきて、ピッタリと寄り添ってくる。
スクルードの弟か妹が居るんだよ。
お兄ちゃんだね、スクルード。

「ははうー、ははうー」

 頭を摺り寄せて甘えてくる姿に、お腹の中の気持ち悪さはあるけど、沈みそうな心は浮上していく。
子供の声と匂いと体温はとても安心出来るものだ。
ついこの間まで、スクルードはミルクの香りのする赤ん坊だったのになぁ。

「アカリ、茶淹れたぞ。スー、お前はミルクで良いな?」
「あい!」

 カウチソファからスクルードが下りて、ハガネが木のコップで出したミルクを獣化したままなので鼻を入れて飲んでいる。
いつもならお行儀が悪いという所だけど、私もそうなりそうだ。

「嫁! どういうことだ! 狼になったというのは! 婿では話が分からん!」

 グリムレインが大広間に入ってきてルーファスが「少し足音に気を使え!」と怒って入ってくる。
確かに、狼の耳には足音はズガンズガン響くから、気にしてほしいかも?
カウチソファの上の私に気付くと、グリムレインが眉間にしわを寄せる。

「嫁……なのか?」

 コクコクと頷くと、グリムレインが目の前まできて私を覗き込むと、手の平に氷の珠を出して私の口の中に入れる。

「我の祝福だ。嫁は安心しろ」

『祝福』はスッと口の中で消えて、まだ具合の悪いのは治らないけど、これで子共は大丈夫だ。
ルーファス達も安堵の表情をして肩から力を抜いている。

「とりあえず、我に説明しろ!」

 グリムレインが眉間にしわを寄せたままルーファスに言いつのり、ルーファスが掻い摘んで説明をしてグリムレインがベネティクタの大聖堂の精霊に会って来ると飛び出して行ってしまった。
汽車よりもグリムレインの飛行の方が早いから直ぐに着くだろうけど、今更何を言ってもあの精霊には効かないかもしれない。
女神を有り難がっている精霊は「何故元に戻りたいのか分からない!?」と、不満そうだったと聞くし……まさかの女神オードリーのせいでこんなことになるなんて……これから先、妊婦生活大丈夫なのかが私は非常に心配なところだ。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。