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25章
おヨメさまと雨の街
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目の前のルーファスを追って駆け出して、夢中だった。
ルーファスの匂いだけを追い駆けて、見失わないようにただ必死になっていた。
何度か人にぶつかって、どんどん引き離されて、雨で自分の体が重くなって毛の中の方まで雨が染み込むと冬の寒さはどんどん体温を奪っていく。
私達の楽しい旅行……なんでこんな風に大変なことにばかりなってるんだろう?
今日は、色々見て回りたかったのに……
子供がお腹に出来たかもしれないのに……
ウエディングドレスと式も挙げてもらって、幸せな旅行だったのに……
私の楽しい旅行ー!!!!
叫ぶように声を出すと、「アォォーン」と遠吠えが自分の口から出た。
「ハァ……クゥーン……」
溜め息と一緒に涙が出た。
もう疲れたよ? 夢なら、もう寝たら元に戻る?
グラッとして、地面が横に見えた。
ああ、私が倒れただけか……目が回る。
ザーッという雨の音が、大きいような小さいような……きっと、目を閉じたら全部、夢のはず。
そっと目を閉じて、自分の眼から溢れた涙が温かくて、私は生きているんだなぁと変な感じで実感した。
バシャッと水音がして、どこかで見た光景に見えた。
「ア、カリ……か?」
心配そうに揺れる金色の眼が、初めてルーファスを見た時のようだ。
ごめんなさい、私、あの時とは違う意味で喋れないよ。
「アカリ……」
優しく抱きしめられて、嬉しいのと寂しいのと、あと、疲れてしまったことで涙がぽろぽろ溢れた。
ルーファスが乾燥魔法をかけてくれて、自分のコートで私を包むと名前を呼びながら頬を摺り寄せて、互いに泣きながら雨の中を帰った。
お宿に着いてからまた乾燥魔法をかけくれて、部屋に着いたらリュエールとハガネがいた。
「父上、その狼が母上なの?」
「ああ。匂いはアカリだ。雨で匂い消しも消えた」
「また、アカリはなにしたんだ? ったく、なんでもホイホイ付いていくなって言ってるだろ?」
ハガネが少し呆れたように言い、リュエールは少し匂いを嗅いでから「母上……っぽいね」と眉間にしわを寄せる。
「とりあえず、体が汚れているから洗ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
ルーファスに抱えられて浴室に行くと、ルーファスがまた泣きそうな顔で私の顔を撫でる。
「アカリ、すまない……こんなに泥だらけになって」
そんなに私、泥だらけなんだろうか?
まぁ、茂みに隠れたり、雨の中走ったりしたし、それなりに汚れちゃってるのかな?
しゃがみ込んで私を抱きしめるルーファスの顔を舐めると、涙の味が少し甘くてしょっぱい。
シャワーで体を濡らしてもらって、手足やお腹をシャンプーでワシワシ洗われた。
うーん、もうお湯で体が重い……動物って水分だらけだと重くなるんだねぇ。
お湯玉で全身を漬け込んでもらい、最後に乾燥魔法でふわふわの毛になった。
水分が飛べば、体が軽い。貴重な体験かな?
浴室から出て部屋に戻ると、ハガネが手招きをする。
「アカリ、腹減ってねぇか? 色々作ってきたけど、なんか食うか?」
ハガネはやっぱり痒いところに手が届く一番の従者かも……コクコクと上下に頭を動かすと、ハガネがバスケットからお皿を出して、一口サイズで食べれるミートボールやオニギリを出してくれた。
狼だから食べにくいことまで考慮してくれる優しさが、ハガネである。
まくまくと食べていると温めのお茶も用意してくれて、有り難過ぎて涙が出そう。
「誘拐じゃなくて良かったよ。父上が温泉大陸まで戻って大騒ぎするからビックリしちゃったよ……母上、食べ終わったら話を聞きたいんだけど」
首を傾げると、子供用の木で作っている「あいうえお」等のひらがなが書いてある文字盤をリュエールが出した。
成程、それなら私も会話が出来る。
ペロッと口元を舐めてリュエールの手前に座る。
「母上、じゃあ質問。旧姓は?」
今の名前じゃなくて旧姓を聞くあたり、リュエールだわ。
『みのみや』
「母上がドラゴンで二番目に従者にしたのは?」
『えでん』
「特殊能力の名前は?」
『せいいき』
「母上で間違いないかなぁ?」
「食い方がアカリだろ? 食い意地張ってっし」
失礼な! ガブガブとハガネの足を噛むと、ハガネに手で頭をぽすぽす叩かれる。
ルーファスが獣化して私に擦り寄り、私もルーファスに擦り寄る。
「アカリは獣化……というより、動物そのものになっているな」
「魔獣じゃないから、魔力もよく分からないね」
「アカリ、お前、なに拾い食いしたんだ?」
ハガネ! 失礼ですよ!? ガブガブと再びハガネを噛むと、「冗談だって」とニシシと笑う。
私が真剣にヤバい状態かも? って悩んでいるのに、この従者~っ!
「アカリ、なにがあった?」
『だいせいどう ちょうちょ』
「ああ、あの大聖堂でアカリが見た蝶か?」
『あさ またここ でた』
「やはり精霊の仕業か……ハガネ、大聖堂に白い蝶が出てアカリが助けてから、朝起きると花をこの部屋一面に埋め尽くされるんだが、なにか意味はあるか?」
「花……ねぇ? 普通に礼だろ? 礼でその姿にされたなら、どっかで食い違いがあったかだな」
やっぱり、花を断ったのが気に入らなかったのかなぁ?
「キューン……」
「心配しなくていい。ハガネと精霊を会話させればなんとかなるだろう」
リュエールが「早速行こうか」と立ち上がり、ハガネが私のコートを手に持ってくれる。元に戻った時のことも考えてくれる優しさは流石だ。
ルーファスも「早く元に戻らないとな」と私に優しく声を掛けてくれて、お腹もいっぱいになったし、行くぞーっと、二歩ほど歩いた途端に、眩暈がしてボスンと絨毯に倒れた。
「アカリ!?」
「母上!?」
「おい! アカリ大丈夫か!」
あれ? 目がぐるぐる回る。
体が重い……お腹、気持ち悪い……?
目の前が真っ暗になって、三人の声が遠くなっていった。
ルーファスの匂いだけを追い駆けて、見失わないようにただ必死になっていた。
何度か人にぶつかって、どんどん引き離されて、雨で自分の体が重くなって毛の中の方まで雨が染み込むと冬の寒さはどんどん体温を奪っていく。
私達の楽しい旅行……なんでこんな風に大変なことにばかりなってるんだろう?
今日は、色々見て回りたかったのに……
子供がお腹に出来たかもしれないのに……
ウエディングドレスと式も挙げてもらって、幸せな旅行だったのに……
私の楽しい旅行ー!!!!
叫ぶように声を出すと、「アォォーン」と遠吠えが自分の口から出た。
「ハァ……クゥーン……」
溜め息と一緒に涙が出た。
もう疲れたよ? 夢なら、もう寝たら元に戻る?
グラッとして、地面が横に見えた。
ああ、私が倒れただけか……目が回る。
ザーッという雨の音が、大きいような小さいような……きっと、目を閉じたら全部、夢のはず。
そっと目を閉じて、自分の眼から溢れた涙が温かくて、私は生きているんだなぁと変な感じで実感した。
バシャッと水音がして、どこかで見た光景に見えた。
「ア、カリ……か?」
心配そうに揺れる金色の眼が、初めてルーファスを見た時のようだ。
ごめんなさい、私、あの時とは違う意味で喋れないよ。
「アカリ……」
優しく抱きしめられて、嬉しいのと寂しいのと、あと、疲れてしまったことで涙がぽろぽろ溢れた。
ルーファスが乾燥魔法をかけてくれて、自分のコートで私を包むと名前を呼びながら頬を摺り寄せて、互いに泣きながら雨の中を帰った。
お宿に着いてからまた乾燥魔法をかけくれて、部屋に着いたらリュエールとハガネがいた。
「父上、その狼が母上なの?」
「ああ。匂いはアカリだ。雨で匂い消しも消えた」
「また、アカリはなにしたんだ? ったく、なんでもホイホイ付いていくなって言ってるだろ?」
ハガネが少し呆れたように言い、リュエールは少し匂いを嗅いでから「母上……っぽいね」と眉間にしわを寄せる。
「とりあえず、体が汚れているから洗ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
ルーファスに抱えられて浴室に行くと、ルーファスがまた泣きそうな顔で私の顔を撫でる。
「アカリ、すまない……こんなに泥だらけになって」
そんなに私、泥だらけなんだろうか?
まぁ、茂みに隠れたり、雨の中走ったりしたし、それなりに汚れちゃってるのかな?
しゃがみ込んで私を抱きしめるルーファスの顔を舐めると、涙の味が少し甘くてしょっぱい。
シャワーで体を濡らしてもらって、手足やお腹をシャンプーでワシワシ洗われた。
うーん、もうお湯で体が重い……動物って水分だらけだと重くなるんだねぇ。
お湯玉で全身を漬け込んでもらい、最後に乾燥魔法でふわふわの毛になった。
水分が飛べば、体が軽い。貴重な体験かな?
浴室から出て部屋に戻ると、ハガネが手招きをする。
「アカリ、腹減ってねぇか? 色々作ってきたけど、なんか食うか?」
ハガネはやっぱり痒いところに手が届く一番の従者かも……コクコクと上下に頭を動かすと、ハガネがバスケットからお皿を出して、一口サイズで食べれるミートボールやオニギリを出してくれた。
狼だから食べにくいことまで考慮してくれる優しさが、ハガネである。
まくまくと食べていると温めのお茶も用意してくれて、有り難過ぎて涙が出そう。
「誘拐じゃなくて良かったよ。父上が温泉大陸まで戻って大騒ぎするからビックリしちゃったよ……母上、食べ終わったら話を聞きたいんだけど」
首を傾げると、子供用の木で作っている「あいうえお」等のひらがなが書いてある文字盤をリュエールが出した。
成程、それなら私も会話が出来る。
ペロッと口元を舐めてリュエールの手前に座る。
「母上、じゃあ質問。旧姓は?」
今の名前じゃなくて旧姓を聞くあたり、リュエールだわ。
『みのみや』
「母上がドラゴンで二番目に従者にしたのは?」
『えでん』
「特殊能力の名前は?」
『せいいき』
「母上で間違いないかなぁ?」
「食い方がアカリだろ? 食い意地張ってっし」
失礼な! ガブガブとハガネの足を噛むと、ハガネに手で頭をぽすぽす叩かれる。
ルーファスが獣化して私に擦り寄り、私もルーファスに擦り寄る。
「アカリは獣化……というより、動物そのものになっているな」
「魔獣じゃないから、魔力もよく分からないね」
「アカリ、お前、なに拾い食いしたんだ?」
ハガネ! 失礼ですよ!? ガブガブと再びハガネを噛むと、「冗談だって」とニシシと笑う。
私が真剣にヤバい状態かも? って悩んでいるのに、この従者~っ!
「アカリ、なにがあった?」
『だいせいどう ちょうちょ』
「ああ、あの大聖堂でアカリが見た蝶か?」
『あさ またここ でた』
「やはり精霊の仕業か……ハガネ、大聖堂に白い蝶が出てアカリが助けてから、朝起きると花をこの部屋一面に埋め尽くされるんだが、なにか意味はあるか?」
「花……ねぇ? 普通に礼だろ? 礼でその姿にされたなら、どっかで食い違いがあったかだな」
やっぱり、花を断ったのが気に入らなかったのかなぁ?
「キューン……」
「心配しなくていい。ハガネと精霊を会話させればなんとかなるだろう」
リュエールが「早速行こうか」と立ち上がり、ハガネが私のコートを手に持ってくれる。元に戻った時のことも考えてくれる優しさは流石だ。
ルーファスも「早く元に戻らないとな」と私に優しく声を掛けてくれて、お腹もいっぱいになったし、行くぞーっと、二歩ほど歩いた途端に、眩暈がしてボスンと絨毯に倒れた。
「アカリ!?」
「母上!?」
「おい! アカリ大丈夫か!」
あれ? 目がぐるぐる回る。
体が重い……お腹、気持ち悪い……?
目の前が真っ暗になって、三人の声が遠くなっていった。
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