黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと迷子の法則

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 チャリチャリと歩くたびに自分の足から音がする。
爪ってこんな音が出るのか……そう思いながら、トボトボと歩く。
歩き疲れた。お腹空いた……ぐうぅぅ~と、お腹が鳴っていい香りのする方へ歩いていく。

 このパンのバターの香り……、昨日のパンの屋台かも!!
茶色の袋にデニッシュ! 昨日のパンだ~!!

「ママ、しろいわんわん!」

 小さな子供は私を指さす。
あっ、そっか。私、今は白いワンワンにしか見えないんだよね。
パンの屋台を見付けて喜んではみたものの、お財布も無ければ……服も無い。
私、裸で外で回ってることになるんじゃ……流石に、それは、恥ずかしい~っ!!

「わんわんいっちゃうー!」
 
 残念そうな子供の声に、少し足を止めて、少しぐらいなら触らせてあげてもいいかな? と、足を止めると母親が心配そうな顔で子供を抱き寄せている。

 あー……うん、私も親だから、子供が犬に噛まれちゃうかも? って心配はあるよね。
くるりときびすを返して、パン屋の屋台の側の木の茂みで身を潜める。

 夢だと思っていたのに、なかなか覚めないし、現実かも? と思い始めた私は、とりあえず、ルーファスならどうするか考えた。

 迷子の法則だ。
もうすでに、お宿から離れてしまった為に、迷子の法則、『その場で動かない』は、破ってしまっている。
なので、迷子の法則二だ。
『一緒に行った場所を見付けたら、その場から動かないで待つ』

 流石に匂いを消されてしまったから、ルーファスが私を見付けるのは困難。
なので、私がルーファスを見付けるしかないけど、この狼の姿ではさっきの母親のように怖がられてしまうから、じっと人目に付かないように隠れている。
それに、もしいきなり獣化が解けて、裸で出てしまったら恥ずかしいから、この木の茂みの中でじっとしていよう。

 狼になって思うのは、毛の長さで外の寒さはそんなに厳しくは無いかな? ってこと。
丸くなっていれば、とりあえずは温かい。

 ルーファス、まだこのパン屋台に来てないのかな? もう来た後かな?
いい香りがするのに、食べられない……ここは天国に近い地獄かな? 
ルーファスが気付いたら、絶対にパンを食べさせてもらおう。

 ルーファスは普段は頭の回転早いのに、私が関わるとどうも焦ってポンコツになる気がする。
まぁ、私がルーファスを焦らせるようなことを仕出かしているのが原因だけど……

 ふーむ。
これはアレだよね。絶対あの白い蝶々の精霊のせいだと思う。
これはお礼なのか、それとも呪いなのか……
毎年の堕とし札の時に、精霊と気づかずに札と一緒に燃やすと呪われるとか言うし、なにかやってしまったかなぁ?

 ドアを開けて大聖堂に入れてあげたけど、アレが実は入れたらいけなかったとか?
それとも、お花をベッドの周りに撒いたのを「もう要らない」って拒否したのがいけなかったのかなぁ?
精霊が見えても、ドラゴンやハガネみたいに声が聞こえるわけじゃないから、意味がわかんない。

「大聖堂のステンドグラス! あれを見に行きたいのよ~」
「良いね。行こうか」

 おおっ! 大聖堂に行く!?
ピコーンッと耳が立ち、大聖堂に行けばあの白い蝶々に会えるかも! と、私は茂みから顔を出す。
勢いよく顔を出したせいか、若い女性の前に飛び出してしまい「キャアアア!」と声を上げられてしまった。
ああ~っ、ごめんなさい!!

「このっ!」

 ブンッと音がして、慌てて避けると男の人が杖を振り下ろしていた。
これは駄目かも!? 男の人の怒鳴り声と女の人の悲鳴を聞きながら、私はまた街の中を走り回ることになった。
折角、わかる場所を見付けたのに、また分からない。

 喉、渇いた……。
でも、この姿じゃ何処で何を飲めばいいんだろう?

 ポツポツとなにかが上から降ってきて、土煙りのわき立つ匂いに、雨だとわかった。
雨を避けて、街の人達が脇に避けてお店の中や店前で雨宿りをしている。
私もお菓子屋さんの店の軒下に雨宿りさせてもらっていた。

 雨の音がパラパラと物に当たって綺麗な音がする。
獣人の耳はこんな風に物音が聞こえているんだなぁ……街灯のガラスケースに当たると、カツンカツンと音がして不思議な感じ。

「おや? 犬かい? 綺麗な毛並みだねぇ」

 お店のおばさんが人好きそうな顔で私の頭を撫でる。
おばさんの手は温かくて、甘い匂いがする。手に頭を擦り寄せるとおばさんは「少し待っておいで」と言って店の中に入って、また出てくると手にお皿を持っていた。

「ほら。ミルク飲むかい?」

 私の前にミルクの入ったお皿が置かれて、有り難く飲んでみたけど、舌で飲むのは初めてなので結構難しい。
でも、必死になっていたら空腹感も紛れて、喉も潤った。
おばさんありがとう! 元に戻ったら、このご恩は必ずしますね!

「今夜は雨かねぇ。アンタ、家が無いなら店の玄関で良けりゃ雨宿りしていくかい?」

 おおっ、おばさん、お優しい!
でも、私はルーファスを探さなきゃいけないし……しかし、今日、ルーファスに探し出してもらえなかったら、夜どうしよう? ここはおばさんに甘えるべきかなぁ?

 首を傾げると、おばさんは私の頭を撫でる。
雨音の激しく鳴る音に、おばさんと一緒に外を見ると、目の前を雨に濡れて走るルーファスの姿があった。
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