黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまとコースター

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 旅行四日目ののんびりとした朝は、朝から花を片付けて、外の屋台で買ったモーニングのデニッシュに舌鼓したつづみを打ちながら始まった。
茶色い紙に入れられたデニッシュは、バターがいっぱいでサクサクのホカホカで美味しい!

「オレの番が小動物みたいで可愛い」
「ふも?」

 サクサクと食べている私の頬っぺたを指で突いて、ルーファスは上機嫌だ。
艶々していると言うべきか……結婚して二十年弱、蜜籠りをガッツリしっかり連日連夜するなんて初めてだし、ご機嫌なのかな?
まぁ、私も心なしかお肌艶々だけどね?

 ちなみに、ルーファスは干しブドウの入ったカンパーニュを食べている。カンパーニュの半分に切れ目が入っていて、生ハム入り。甘さとしょっぱさのコラボレーションを楽しめていると思う。

「今日も、アカリは可愛いな」
「お洋服が、でしょ?」
「いいや。服も可愛いが、アカリ自身が可愛い」
「もぅ、朝から何を言っているの」

 ルーファスが今日も、甘い~っ。
私を蜂蜜に漬け込んでホイップでも上にかけようという気なの?

 ちなみに、今日の私は黒いチョーカーに合うように、赤ベースのロングワンピースの上に黒いハイウェストの革ベルトと黒いレースがスカートに幾つも重なっているパッと見はゴシック系ファッションだったりする。
念のために持ってきたクロの『魔法反射カーバンクルの石』のネックレスも首からかけている。

 ルーファスは白いシャツに黒い革のベストにベルベットの赤い布地の入ったベストと黒いズボンに、ポーラータイをしている。
紐状のネクタイ部分は黒い紐で、付いている宝石は猫目石の赤……魔法反射の物に金色の蓋がしてあって、透かし彫りで狼が彫られている。
こうさり気ないペアルックっぽいところが、私達の仲の良さをアピールしているようで、なんだか照れてしまう。

「アカリは一つで足りるのか?」
「うん。なんかまだお腹が張ってる感じがするし……」
「ここら辺か?」
「にゃっ!」

 ルーファスにお腹を手で押されて、まだ昨晩の名残りで敏感な胎内なかはゾワゾワとしてしまう。
ガルルと私が言うと、ルーファスはニンマリとした笑顔なのが悔しい。

「次に触ったら噛みつきます!」
「んーっ、アカリに噛まれるのも一興だな」

 なにが一興なのか! うちの旦那様はいつからマゾになったのやら?
私が食べ終わると、ルーファスがパンを包んでいた紙をクルッとまとめて屋台のゴミ箱へ投げ入れる。
結構な距離があるのに投げ入れられる辺り、自分の能力が分かっている人は違うんだなぁ。
私がやったら、通行人の頭にぶつけるか、屋台の人にぶつけるかだろうなぁ……。

 ペロッと口元を舐められて、パンくずが付いていたのかと指で唇周りを拭くと、ルーファスが「もう付いてないから大丈夫だ」と笑い、私を抱き上げる。

「ルーファス。今日はお土産を買いますよ!」
「ミルアとナルアに頼まれたやつか?」
「はい。あの子達にお願いされたお使いメモを、私が紛失する前に片付けちゃいましょう!」
「それは急がないとな。直ぐに行こう」
「冗談なのにぃ~」
 
 ルーファスをポスポス叩きながら、ミルアとナルアに頼まれたお使いメモをルーファスに見せて、地図で何所から行くべきかを決めてもらいながらのお買い物ツアーとなった。

 幾つか、お店を回り次々と二人に頼まれた物を購入しつつ、従業員さんのお土産を買ったり、ご近所の人に買ったりと結構な量になっていた。
あって良かった、【刻狼亭】の代々受け継がれてきた倉庫の鍵!
買った先からポンポン入れて行き、手ぶらで歩けるのは非常に良い。

「えーと、あとはドレスかな?」
「これで終わりか……結構まわったな」
「これが終わったら、どこかで一休みしましょうね」

 若い子向けなドレスの専門店『リ・ディア・モーラ』。
二人が「予約しておいたお洋服を取って来て欲しいのですわ!」と言っていたけど、二人らしい薄い桃色と薄いクリーム色のドレスを前に、ルーファスが「色に合う靴や小物を持ってきてくれ」と、お店の人に話をしながら次々と買っていて……あの二人、ルーファスが小物とかまで買ってくれることを計算に入れた上で、ドレスだけを注文しておいたのだなと確信した。

「ルーファス、私は他の商品も見てますね」
「ああ。店から出るんじゃないぞ?」
「わかってますよー」

 私はルーシーにも合いそうなドレスを探しつつ、でも成長期のルーシーは直ぐにドレスは着れなくなるだろうから、無難に可愛い小物とかかな? と思い直す。
店内を歩いていると、赤い木で出来た枠組みのガラスケースに絵本が飾られていて、その手前の台に一揃いの商品があった。

「あっ、絵本のメノン」

 ルーシーの好きな絵本『メノンとクリュスターシ』の布で出来たコースターがセットで売られている。
今まで出たシリーズがコースターに描かれていて、周りの銀のレースも絵本の内容に合わせたモチーフで編まれているようだ。
これならルーシーが喜びそう。手に取ろうと手を伸ばすと、他の人の手と当たった。

「あっ、申し訳ない」
「いえ、あのどうぞ」
「買われるのではないのですか?」
「同じ物を買えば良いだけですので、お先にどうぞ」
「いえ、これはこの1セットのみ販売されているそうなので……」
「あら、そうなの? 残念だけど。私は良いのでどうぞ」
「……かたじけない」

 なんだかとても紳士な青年で、強面こわおもてな感じだけど、コースターを見つめて目を細めている姿を見ると、良い人なのかな? と思う。
年の頃は二十歳前後だろうか? 着ている服から貴族かな?
質のいい黒いコートに、少し特殊な形の金のカフスボタンをしている。
なにかのマークのようだけど、国旗のような感じで細かすぎて私にはサッパリである。リュエールやレーネルくんなら判るかもしれないけど。


「お好きなんですか? メノン」
「あ、いえ、その……好いた女性がメノンの絵本が好きで、彼女を知りたくて読んだら面白かったです」
「まぁ! ならその人にプレゼントなんですね! 素敵ですね!」
「まだ、告白すら出来ていないので……受け取って貰えるかもわからないのですが……」

 おぉ! 初々しい~私はこういう話大好きですよ?

「あっ、もし上手くいったら、大聖堂でステンドグラスでメノンシリーズを作ってみてはどうですか?」
「ああ、それは素敵でしょうね。ありがとう。貴女と話していると、彼女と話している気さえします」

 彼は強面の顔を少し緩めて微笑み、私に一礼してからコースターセットを買い上げて店から出て行った。
笑うと幼く見えるから、もしかしたら十代かもしれない。
若者の恋路が上手くいくことを老婆心ながら応援させてもらうよ~!

 大満足な私に、ルーファスが片眉を上げて不機嫌そうな顔をしていた。

「アカリ、今の男は?」
「恋する若者ですよ!」
「なに? 人の番を……少し、噛み潰してくる……」
「ちょっ、ルーファス! 私じゃなくて、他の女性にだよ!?」
「しかし、あいつは好かん! 不快だ……」
「そうかなぁ? 怖い顔だったけど、良い人そうだったよ?」

 ルーファスが嫌悪感丸出しで唸り、私はそうかなぁ? と、首を捻った。

 まぁ、ルーファスの勘は少し当たっていたようで……

 このお店の一点セットのコースターを、春休みに帰国したルーシーが「多分、番……だと思う人から、貰ったの」と顔を真っ赤にして、私に相談してきた時、あの時の強面の人だったのかと察した。

 ルーファス、娘を取られたくないお父さんセンサーが働いたんだね……と、私は苦笑いしながら思い出し笑いをするのだった。
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