黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと魔法試合

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 グラウンド場が盛り上がりをみせ、学園長さんが『開始!』と声を出す。
最初に動いたのは土の塔長で、土魔法でルーファスの足元を泥沼に変えて足場を崩そうとした。

「これで動けまい! 【土沼アースマーシュ】」
「やれやれ。靴が汚れたらどうしてくれる? 【乾燥ドライ】」

 ルーファスの体から出ている雷で相性の悪い土属性攻撃を仕掛けたという所だろう。
ルーファスは泥沼になった地面を、乾燥魔法で瞬時に普通の地面にしてしまう。

『おおー! 土の塔長の土沼を一瞬で消してしまうとは!?』
『ふふっ、土属性で私の番に勝つのは難しいですよ?』

 まるで解説役になったような実況が学園長と私で行われている。
学園長は塔からの運営費に頼らず、学園が自由に出来るとあって、解放感を全面で表している。
一応、書類等で契約も交わしたので、ルーファスが今後十年は学園長の今のままの方針でやっていくのならば、援助金を出していくことになっている。

『ルーファス氏は雷属性が主体なのでは?』
『ええ、彼は雷属性です。でも、彼は土魔法も得意なんです』

 土竜ニクストローブが従者だから、ルーファスに土属性で負けは無い。

「これでも食らえ! 【竜巻トルネード】」
「こんな旋風つむじかぜ程度で竜巻とは……【竜巻トルネード】」

 風の塔長が出した竜巻をルーファスの出した竜巻が呑み込み、打ち消して風の塔長と土の塔長をぐるんぐるんと回して、グラウンド場の端っこにポイッと捨てる。

『おおーっ! これまた凄い! 土の塔長の竜巻も大きかった気がしますが、ルーファス氏の竜巻はその倍の大きさでしたね!』
『あら? あれでも小さい方ですよ?』
『これは土、風の塔長は降りるしかないですね』
『まぁ! 塔長なのにあれで本気だったんですか! 子供が使う程度の魔法でしたよ?』

 どよめく観客に、学園長も「え?」という顔をするが、温泉大陸ではこの程度では子猫のじゃれ合い程度である。
まさに旅行前にルーファスが言っていた子猫なのだ。

「さて、次はどいつが塔長を降りたいんだ?」

 ああ、ルーファスが悪役っぽい悪い顔~っ! でも、そこがまた格好いい!
残っているのは雷と火と水の塔長。どれも攻撃が得意な魔法使いという感じだから、これからが本番なのかな?
でも、水属性はルーファスとは相性が悪いから逆にやられてしまいそう。

「ルーファス恰好いいよぅ~はうぅ~」

 拡声器に音を拾われないように、少し離れて頬に手を当ててキャーッと騒ぐと、ルーファスには聞こえたのか、少し照れたような顔で笑ってみせる。
キュンッと胸がときめくのがヤバい……イケメン過ぎるッ!!

嫁御寮よめごりょう、もう少し心のコントロールをしろ。心が駄々洩れであるぞ?』
「だって、アクエレイン。ルーファスが格好いいんだもの!」
『やれやれだのぅ』

 アクエレインと私には主従関係が出来ているので、私の心はダイレクトに伝わっているみたいだ。
申し訳ないけど、不意打ちの胸キュンは仕方がないのだ。

「次はわたしが行かせてもらおう!」

 おお、火の塔長やる気のようだ。火に関しては土属性の高いルーファスに大したダメージは与えられないから、どんなことをするのやら?

「わたしの最大魔法【爆発エクスプロージョン】!!」

 大きな火の塊が膨らみ、閃光を放ち弾け飛ぶ。
一瞬の出来事に目をつぶり、咄嗟とっさに手で顔を防御していた。
目を開けると、ルーファスが私の前に土壁を作り守ってくれていた。

「アカリ、大事無いか?」
「うん。大丈夫……ルーファスは大丈夫?」
「ああ。何ともないが、少し服が焦げたな」

 ルーファスのコートが少し焦げていて、ズボンと尻尾の毛も少し焦げている。

「あの塔長は頭が悪いのか? 他にやりようがあるだろうに……」

 周りを見れば、炎の爆発で観客席にも被害が出ているようで、倒れている人や怪我人が出ている。
そして当の本人の火の塔長も、顔と手に火傷を負って倒れているのだから世話が焼ける。

『嫁御寮、水の回復魔法を使ってみるか?』
「アクエレイン、そんなこと出来るの?」
『やるのは嫁御寮だ。兄者と契約しておるのだから、簡単に出来るはずだ。水属性最大の魔法だが、コントロールは手伝ってやる』
「うん。やってみる」

 アクエレインが私の肩に手を置くと、水魔法の使い方が頭の中に流れ込むように解っていく。

「【水癒アクア・ヒーリング】」

 私の手から水が川のように流れ、観客席を包み込み怪我人を治して一周すると、私の手へ戻り消える。
聖魔法の回復だと魔力がゴッソリ取られるのに、全然取られていない。
アクエレインがコントロールを手伝ってくれたおかげだろう。

「上手く、いったかな?」
「ああ。オレの番は手から天女の羽衣でも出したかのような神々しさだった」

 ルーファスが私の頭を撫でて、おでこにキスをして目を細める。
全部、アクエレインのおかげなんだけど……と、思っていたら、アクエレインは『眠い、寝る』と言って、再び私の髪の毛でリボンと化してしまっていた。

「ありがとう、アクエレイン」

 リボンと化したアクエレインを撫でて、ルーファスに私の横で一緒に守られていた学園長が起き上がる。

『皆さん! 大丈夫ですか!? 各教員は生徒の確認! 各塔の警備兵も確認を!』

 少しばかり、見世物のように観客として学園の生徒と塔の人達を呼んでしまったことを後悔したものの、怪我人は治療完了でゼロ人!
さすが水属性の最大魔法なだけはある。

「さて、残りの雷と水の塔長はどうする?」

 ルーファスの問いに杖を両手で持っていた雷と水の塔長はすぐさま「負けでいい」と答えた。
これはルーファスの圧勝ということで良いのかな? まぁ、戦っても私のルーファスの圧勝だと宣言してしまうけど。

「雷属性が主体だというのに、他の属性の魔法の高さ……私のようなものが雷魔法で勝てるとは思えません」
「水の最大魔法を前に、私のなんと小さなことか……」

 二人の塔長は潔く敗退を認めてしまうのだから、他の塔よりかはマシな方なのかな?

「ルーファス! やったね!」
「ああ。これで、旅行の続きがゆっくりできるな」
「うん!」

 そう、私達まだ旅行二日目でこんなごたごたに巻き込まれたのだから、ゆっくりのんびり旅行を楽しみたい!
もう誰にも邪魔はさせるものかー!
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