黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと塔の在り方

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 ヴォルフさん達五人はベネティクタ都市で生まれ育った幼馴染同士で、仲の良い五人組だったそうだ。

 このベネティクタでは他の土地から、塔の大隊長に集められて来る魔法使い等が年に一人いるそうで、しかし、そういった新しい人を迎え、その人の才能が他の塔より秀でていると、来年こそは自分の塔が秀でた魔法使いを連れてこようと躍起やっきになり、それは年々熾烈しれつな争いになっていき、気付けばベネティクタの五つの塔は仲の悪いことで有名になっていた。

「魔法学園ではどの属性の魔法であっても、仲良く出来るのです……」
「塔に入ってしまうと、口を利くことすら、塔の裏切りのような形になるのです」
「だから、おれ達は仲の悪い振りをしながら、毎回、こっそりと暗号を使って会う場所を決めたりしていました」
「しかし、この季節になると塔対抗の魔法の大会があり、大隊長達が新人をスカウトして帰ってくる」
「僕等は……魔法を勉強したくて頑張っているのに、自分の得意な属性以外を扱わせてもらえず、このままでは才能があっても伸びはしない……そこで、魔法の大会は多くの観光客も来ますし、僕等五人が実行委員というチャンスに五属性で力を合わせた魔法で、五つの塔の新しい在り方を示そうと考えたんです」

 五人はそう言いながら、肩を落とす。
五属性全てを合わせてあの事件だとしたら、随分な無茶をしたものだと思う。

「五人で揃って練習出来るのは、実行委員会の話し合いの帰りの橋の上だけ」
「それでおれ達は練習をしていたんです」
「結界をいつも通り張って、なにが起きてもいい様にしていたのに……」
「結界が妙な魔法干渉阻害をされて、気付けば結界外に魔法が飛び散り、慌てた私達は魔法の制御を誤ってしまいました」
「そして、僕が橋から落ちてしまい……でも、落下の途中で風魔法で助けられ、このままでは四人にも迷惑が掛かると思って、魔法で自分のお腹を魔法で射貫きました……まさか、ここまで大事になるとは思わず……」

 なぜ、そこでお腹を射貫くという発想に至ったのか!?
自分の命を大事にしようよー!! 他の四人は「ヴォルフには悪いけど、水の塔が先に手を出したことにして、他の塔は止めようとした」ということにして、その場で辻褄合わせをしたらしい。
若干、まぁ前後したり話が変わったりしていたけど、大本は同じ様なものだったから、そうなのだろう。
友情があるからこそ、ヴォルフさんが自分達を庇う為にお腹を射抜いたのだから、話を合わせようとなったらしいけど、それは友情なのかなぁ? と、疑問もある。

 にしても、はて? 魔力干渉の妨害に私、心当たりがあるのだけれど……ルーファスを見上げれば、ルーファスも同じ事を思ったのか、自分の襟に付いている銀の装飾を手で撫でつけている。
あ、うん。これ……私達が真下で妨害したようなものなのだね。
も、申し訳ない~っ!!!!

「お前達の話はわかった。結局は仲間同士のじゃれ合いが、事故に繋がっただけというところか」

 まぁ、簡単に言えばそんな感じだよねぇ。
五人は申し訳なさそうな顔をしながら頷き、ルーファスが「ふぅ」と小さく息を吐いてから、塔長達を部屋に戻すように言い、塔長達は追い出されていた間に喧嘩でもしたのか、酷い顔になっていた。
この老人達本当に何しているんだ……。

「それで、やはり水の塔が原因でしたか!」

 嬉々として訪ねてくる塔長に、ルーファスが「こんなのが上に居たのでは若者は育たんな」とボソリと呟いて、私を椅子に座らせると立ち上がって、塔長達五人の前に立つ。

「聞くが、お前達は自分の得意属性しか使わないのか?」

「「「「「当たり前です!!」」」」」

 五人息ピッタリなのはなんだか、逆に仲良しに見えてくる。

「水で手を洗った際、風呂の後、乾燥魔法すら使わないのか?」
「いえ、それは使いますが?」
「それは生活魔法なので関係は無い」

 うんうんと他の塔長達も「生活魔法は使うに決まっている」と言って頷いている。

「乾燥魔法は『風』と『水』を用いた生活魔法で、冬場はそれに『火』も加えて温かく、水分を飛ばすものだ。この時点で、お前達は、風、水、火を使ったことになる。部屋のランプの魔力が切れかかった時に、魔力を通す時、使う物は『雷』と『土』だ。お前達、その様に長く生きていて、ランプなどの生活魔石に補充をしなかったことは無いだろう?」

 へぇー。普通に乾燥させるイメージでもう出来るようになっていたけど、色々と属性使ってたんだ。
魔石に魔力通すのに『雷』はイメージで分かるけど、『土』はなんでだろう? 魔石が割れないように補強でもしたりとかするのかな? まぁ、あとでルーファスに聞こう。

「そんな微細な魔法は使ったうちには入らない」
「貴方はなにが言いたいんだ!」
「この事件についての話をしていたのではないのか?」

 騒ぎ出した塔長達に、ルーファスはハッと鼻で笑う。

「どうやら、魔法を理解していない者が塔長の座についてしまっているようだな。これでは、学園で折角学んだ子等達が伸び悩み、大隊長が外の国から素質のある者を勧誘してくる訳だ」

「「「「「なっ!!!!」」」」」

 また五人揃うとは……この人達、仲良すぎでは無いですかね?

「今回の事件はただの友人同士の間で起きた悲劇みたいなもので、本人達も恨みも何もない。和解済みだ。それを大きく広げているのは、お前達、仲の悪い塔長達だ」
「しかし、一番初めに水の塔が手を出したのだぞ! 責任を追及すべきだ!」
「そうだ! 最初に手を出した者が悪いのだ!」
「水の塔の者が最初とはまだ決まっていない!」
「黙れ! 水の塔!」
「水の塔が全て悪いのだ! 責任を取って塔長の座から降りろ!」

 ののしり合いを始める塔長にルーファスが眉間にしわを寄せる。
なんだかとっても、子供の喧嘩を見ているような気になってきた……この人達、本当に塔の偉い人達なの? 五歳児くらいじゃない? 五歳児の方がまだ物分かりが良いかもしれないけど。

「黙れ! 魔法とは五属性全てが大なり小なり皆持って生まれてきている。第一、お前達くらいの魔法使いはこの世界にはごまんと居る。それをひけらかして優劣を決めよう等と、滑稽こっけいでしかない」
「聞き捨てならない!」
「少なくとも塔長の座についた我々は、そこいらの魔法使いには引けを取らない!」
「なるほど、では、オレ一人でお前達の相手をしてやろう。オレに負けたら、塔長の座を降りてもらおうか?」
「「「「「なっ!?」」」」」

 あっ、やっぱり五人揃った。
ルーファスは「魔法の大会があるなら、広い場所があるはずだな?」と警備兵に場所を聞いて、塔長達に「まさか、オレ一人に恐れをなした等とは言わないよなぁ? オレは魔法の使い手ではない。どちらかと言えば体術寄りだ。安心して、お前達の得意な属性で来るといい」とあおって、私を抱き上げると「では、先に行っているぞ」と部屋を出て行った。

 医務室からは「ふざけるなー!」と五人の塔長の声が上がっていて、仲良すぎでしょ? という感じだった。
ちなみに、魔石の補充に関しては、魔石に魔力を入れ過ぎて割れないように土属性で少しコーティングしながら行うと、ルーファスに聞いて「今度、私にやらせてね!」と言ったら、ルーファスは少し眉を下げて「正月前に全部補充してしまったから、あと一年は補充は無いな」と答えたのだった。
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