黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
843 / 960
25章

おヨメさまと水の塔

しおりを挟む

 水の塔は他の塔と同じような造りで、違う所は旗が青いところと、廊下や階段に水槽がやたらとある所だろうか?
お日様のいい日に水槽の光で虫メガネ的なことになって燃えないのかな? という変な心配をしてみたり……。

 ルーファスに抱きかかえられたまま、水の塔へと五つの塔の塔長と共に来て、医務室へ向かっているのだけど……何故、医務室が最上階なのかと聞きたいところである。

「ルーファス、私、自分の足で登ろうか?」
「なにを言っている? このぐらいはどうということは無い」

 造作もないという感じでルーファスは私に頬ずりして、息も切らさずに階段をペースを落とさずに上がっていくが、他の塔の塔長さんはヒィヒィ言っている。
【刻狼亭】にもあるようなエレベーターっぽい魔道具はあるのだそうだけど、他の塔の者に操作方法を見られたくないと水の塔が突っぱねた為に、全員仲良く階段上りになったのである。
なんだかなぁという感じで、私は後ろでヒィヒィ言っている塔長さん達を半目で見る。

 塔は三十階あるそうで……私、昨日はそれ以上の階段を降りていたのかと思うと、私の体力がゴッソリなくなるわけで、火の塔の羊達に「ラムチョップ!」と言いながらチョップを額にしたいぐらいだ。

「今、何階くらいかな?」
「丁度、二十五階だから後五階だな」
「あと少しだね。ルーファス頑張って!」
「ああ。腹ごなしの運動にもならないが、スーの運動には良いかもしれないな」
「あの子は二歳ですよ? まだ階段の上り下りは危ないよ」
「そうか?」

 私も親ばかだけど、ルーファスも大概親ばかでついつい子供の事となると、うちの子なら何でも出来ちゃいそうと思ってしまう辺り、重症である。
 私達はスクルードの話で盛り上がっている間に、最上階に到着した。
まだ塔長達の到着は掛かりそうなので、医務室と書かれた場所へ先に入ると水の塔の群青色の詰襟を着た警備兵数人とベッドの上で項垂うなだれている若い女性……ではなく、女性のような綺麗な顔立ちの男性が居た。

「塔長達に呼ばれてここへ来た。塔長達は階段を使っているから、しばらく掛かるだろう。手が空いている奴が居たら、塔長達をここまで連れて来い」

 私達のことを知ってか知らずか、水の警備兵は二人の兵を残して、階段へ塔長達を迎えに行った。
ルーファスは適当な椅子に私を抱き上げたまま座る。

「ねぇ? ルーファス。私達ただの目撃者なのに、どうしてこんな所まで出張でばってるのかな?」
「あー……これはオレの習性みたいなものだな。自分の関わった物で掌握しきれていない物事はあまり好きでは無いからな」
「ああ、ルーファスは【刻狼亭】や家族内でも、群れのリーダー気質で何かと事件がある度に掌握しに行くからねぇ」
「そろそろ老兵は去るべきなんだろうがな」
「ふふっ、まだリューちゃんに任せるには、リューちゃんは若いもの。もう少しだけルーファス、頑張って」

 温泉大陸で起きていることは少なからず、ルーファスは情報を耳に挟んで、たまに裏で動いているのを、私はちゃんと知っている。
 狼の群れの長は群れ全体を見ると、昔ルーファスが言っていたけど、今もそれは変っていない。
リュエールも大分リーダーっぽくはなってきたけど、まだ若すぎて古参の温泉大陸の人達へはルーファスが対応している部分もある。まだまだルーファスには現役でいて欲しいとも思うし、息子の成長の為にも少しずつ手を抜いて欲しいとも思っている。

 歩く屍のごとく、塔長達が警備兵に両脇から抱えられるように入室して、息切れを起こしている。
もし私も自力で階段を上がって来ていたら、同じ様な状態になっていただろう。
ルーファスが抱き上げてココまで上がってくれて良かった……このむさくるしい小父さん達の一員にはなりたくない。

「ゼー、ハー……ゼーハー……吐きそ……」
「ゼヒューゼヒュー、おぇ、ヒィー……」
「ハァハァ……ヒィ、ハァ」
「み、水……ヒィーハァー……」
「……ヒィ、ハァ、足が……ヒィ」

 魔法使いは武闘派じゃねぇからなぁと、ハガネは言っていたけど、本当にこの塔長さん達は昨日の私より酷い感じのへたり方をしている。
大人しくエレベーターを使っておけばいいのに……駄目な大人達である。

「お茶をどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」

 水の塔の人達がお茶を淹れて持ってきて、塔長達がお茶を飲んで落ち着く。
それぞれの塔の警備兵が当事者の四人を連れて、この医務室に勢ぞろいとなった。

 とりあえず、ベッドの上で、項垂れて蒼白な顔をしている美人なお兄さんに、お話を聞くことになった。
 私とルーファスは部外者でしかないので、美人お兄さんのベッドの後ろの椅子に座らせてもらって聞かせて貰うことになった。

「まず、君は自分がどういう状態かは把握しているかね?」

 水の塔の塔長がそう言うと、美人お兄さんは蒼白な顔色を一層白くさせて小刻みに震えている。

「はい……っ」

 声も震えていて、なんだか「大丈夫ですか?」と声を掛けてあげたい感じである。
 美人なお兄さんは、名前をヴェルフさんといい、特待生として魔法学園から水の塔に迎えられた人で、とても優秀な人らしい。
聞けば、この事件の五つの塔の当事者は全員、魔法学園の特待生だという。

僕等・・は、ただ……新しく塔に新人が来る前に、今の状況を変えたかっただけなんです」

 うん? 僕等……それはこの当事者達のことだろうか?
彼等を見れば、眉を少ししかめていたり、目を逸らしたりととても怪しい。
私以外の塔長も、五人をいぶかしげな顔をしてみており、それぞれの塔の塔長と目が合うと彼等は委縮いしゅくして怒られる前の子供のように怯えている。

「……あの、部外者ではあるのですが、他の塔の人と喋ったり仲良くしたりは禁止だったりしますか?」

 私は素直な疑問を、小さく手を上げて聞いてみた。
私への答えは塔長さん達全員が間髪かんぱつ入れずに「当たり前だ!」と怒鳴る様に言い、とてもこんな塔長達が居ては、仲良くなど出来ないだろう。

「ふむ。どうやら、部外者のオレ達が話は聞いた方が良いようだな。塔長は部屋の外に、兵士は各塔の者が一人ずつ残るだけで、他は出ろ」
「なっ! 部外者の貴方がたには権利など……っ!」

 ブワッと風が部屋に巻き荒れて、ルーファスが「サッサと出て行け!」と追い立てるように塔長達を風で追い立ててしまう。
流石ルーファス、決断の人!
 残ったのは、それぞれ四人を連れて来た各塔の警備兵と水の塔の警備兵、そして私達二人と当事者五人となった。

「さて、邪魔者は居ない。お前達の話を聞かせてくれ」

 五人は顔を見合わせて、探るような感じでポツポツと話し始めた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。