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25章
おヨメさまと水の塔
しおりを挟む水の塔は他の塔と同じような造りで、違う所は旗が青いところと、廊下や階段に水槽がやたらとある所だろうか?
お日様のいい日に水槽の光で虫メガネ的なことになって燃えないのかな? という変な心配をしてみたり……。
ルーファスに抱きかかえられたまま、水の塔へと五つの塔の塔長と共に来て、医務室へ向かっているのだけど……何故、医務室が最上階なのかと聞きたいところである。
「ルーファス、私、自分の足で登ろうか?」
「なにを言っている? このぐらいはどうということは無い」
造作もないという感じでルーファスは私に頬ずりして、息も切らさずに階段をペースを落とさずに上がっていくが、他の塔の塔長さんはヒィヒィ言っている。
【刻狼亭】にもあるようなエレベーターっぽい魔道具はあるのだそうだけど、他の塔の者に操作方法を見られたくないと水の塔が突っぱねた為に、全員仲良く階段上りになったのである。
なんだかなぁという感じで、私は後ろでヒィヒィ言っている塔長さん達を半目で見る。
塔は三十階あるそうで……私、昨日はそれ以上の階段を降りていたのかと思うと、私の体力がゴッソリなくなるわけで、火の塔の羊達に「ラムチョップ!」と言いながらチョップを額にしたいぐらいだ。
「今、何階くらいかな?」
「丁度、二十五階だから後五階だな」
「あと少しだね。ルーファス頑張って!」
「ああ。腹ごなしの運動にもならないが、スーの運動には良いかもしれないな」
「あの子は二歳ですよ? まだ階段の上り下りは危ないよ」
「そうか?」
私も親ばかだけど、ルーファスも大概親ばかでついつい子供の事となると、うちの子なら何でも出来ちゃいそうと思ってしまう辺り、重症である。
私達はスクルードの話で盛り上がっている間に、最上階に到着した。
まだ塔長達の到着は掛かりそうなので、医務室と書かれた場所へ先に入ると水の塔の群青色の詰襟を着た警備兵数人とベッドの上で項垂れている若い女性……ではなく、女性のような綺麗な顔立ちの男性が居た。
「塔長達に呼ばれてここへ来た。塔長達は階段を使っているから、しばらく掛かるだろう。手が空いている奴が居たら、塔長達をここまで連れて来い」
私達のことを知ってか知らずか、水の警備兵は二人の兵を残して、階段へ塔長達を迎えに行った。
ルーファスは適当な椅子に私を抱き上げたまま座る。
「ねぇ? ルーファス。私達ただの目撃者なのに、どうしてこんな所まで出張ってるのかな?」
「あー……これはオレの習性みたいなものだな。自分の関わった物で掌握しきれていない物事はあまり好きでは無いからな」
「ああ、ルーファスは【刻狼亭】や家族内でも、群れのリーダー気質で何かと事件がある度に掌握しに行くからねぇ」
「そろそろ老兵は去るべきなんだろうがな」
「ふふっ、まだリューちゃんに任せるには、リューちゃんは若いもの。もう少しだけルーファス、頑張って」
温泉大陸で起きていることは少なからず、ルーファスは情報を耳に挟んで、たまに裏で動いているのを、私はちゃんと知っている。
狼の群れの長は群れ全体を見ると、昔ルーファスが言っていたけど、今もそれは変っていない。
リュエールも大分リーダーっぽくはなってきたけど、まだ若すぎて古参の温泉大陸の人達へはルーファスが対応している部分もある。まだまだルーファスには現役でいて欲しいとも思うし、息子の成長の為にも少しずつ手を抜いて欲しいとも思っている。
歩く屍のごとく、塔長達が警備兵に両脇から抱えられるように入室して、息切れを起こしている。
もし私も自力で階段を上がって来ていたら、同じ様な状態になっていただろう。
ルーファスが抱き上げてココまで上がってくれて良かった……このむさくるしい小父さん達の一員にはなりたくない。
「ゼー、ハー……ゼーハー……吐きそ……」
「ゼヒューゼヒュー、おぇ、ヒィー……」
「ハァハァ……ヒィ、ハァ」
「み、水……ヒィーハァー……」
「……ヒィ、ハァ、足が……ヒィ」
魔法使いは武闘派じゃねぇからなぁと、ハガネは言っていたけど、本当にこの塔長さん達は昨日の私より酷い感じのへたり方をしている。
大人しくエレベーターを使っておけばいいのに……駄目な大人達である。
「お茶をどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
水の塔の人達がお茶を淹れて持ってきて、塔長達がお茶を飲んで落ち着く。
それぞれの塔の警備兵が当事者の四人を連れて、この医務室に勢ぞろいとなった。
とりあえず、ベッドの上で、項垂れて蒼白な顔をしている美人なお兄さんに、お話を聞くことになった。
私とルーファスは部外者でしかないので、美人お兄さんのベッドの後ろの椅子に座らせてもらって聞かせて貰うことになった。
「まず、君は自分がどういう状態かは把握しているかね?」
水の塔の塔長がそう言うと、美人お兄さんは蒼白な顔色を一層白くさせて小刻みに震えている。
「はい……っ」
声も震えていて、なんだか「大丈夫ですか?」と声を掛けてあげたい感じである。
美人なお兄さんは、名前をヴェルフさんといい、特待生として魔法学園から水の塔に迎えられた人で、とても優秀な人らしい。
聞けば、この事件の五つの塔の当事者は全員、魔法学園の特待生だという。
「僕等は、ただ……新しく塔に新人が来る前に、今の状況を変えたかっただけなんです」
うん? 僕等……それはこの当事者達のことだろうか?
彼等を見れば、眉を少ししかめていたり、目を逸らしたりととても怪しい。
私以外の塔長も、五人をいぶかしげな顔をしてみており、それぞれの塔の塔長と目が合うと彼等は委縮して怒られる前の子供のように怯えている。
「……あの、部外者ではあるのですが、他の塔の人と喋ったり仲良くしたりは禁止だったりしますか?」
私は素直な疑問を、小さく手を上げて聞いてみた。
私への答えは塔長さん達全員が間髪入れずに「当たり前だ!」と怒鳴る様に言い、とてもこんな塔長達が居ては、仲良くなど出来ないだろう。
「ふむ。どうやら、部外者のオレ達が話は聞いた方が良いようだな。塔長は部屋の外に、兵士は各塔の者が一人ずつ残るだけで、他は出ろ」
「なっ! 部外者の貴方がたには権利など……っ!」
ブワッと風が部屋に巻き荒れて、ルーファスが「サッサと出て行け!」と追い立てるように塔長達を風で追い立ててしまう。
流石ルーファス、決断の人!
残ったのは、それぞれ四人を連れて来た各塔の警備兵と水の塔の警備兵、そして私達二人と当事者五人となった。
「さて、邪魔者は居ない。お前達の話を聞かせてくれ」
五人は顔を見合わせて、探るような感じでポツポツと話し始めた。
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