黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまのアロマ時間

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 公園は目の前に見え始めたけれど、さっきは公園で見付かってルーファスと一緒に追われたのだから、公園に戻るのは愚策? そう思って、公園の近くにあった可愛い外観のファンシーなお店に入ってみた。
中はポプリとか人形とか少しアンティークで手作り感溢れるお店だった。
雑貨屋さんと言えばいいのかな?
店内の温かさと、ポプリの香りが落ち着く~。

「いらっしゃいませ。こちら今人気のお品ですよ? お手に取ってご覧ください」

 可愛らしいフリフリのエプロンをした店員さんに丸いアロマキャンドルを薦められ、手に取ると中にはハーブや花弁が入っていて、香りも程よく落ち着くものだった。
薄い黄色からピンクのグラデーションの層も綺麗。

「ふぁ……良い香りですね」
「ラベンダーにロルの花にローズマリーが入っているんですよ。それにこちらの染色の粉で色を付けているんです」
「ロル……汽車の中で食べました。甘酸っぱくて美味しかったです! お花良い香りするんですか?」
「ええ。見てみますか? アロマキャンドルの手作り体験も出来ますよ!」

 少し身を隠すんだし、疲れてるから座りたいのもあって、「やってみたいです」と答えたところ、奥に作業台のようなテーブルと椅子があり座らせてもらった。 

「こちらのハーブや花からお好きな香りを選んで下さいね。お茶を淹れてきます」

 店員さんに試験管が大量に入ったカートを目の前に出され、手に取ると試験管の中にはハーブがそれぞれ色んな種類が入っているようだ。
蓋を開けて一本ずつ鼻の周りでくるくるさせると、フワッと良い香りがする。
ラベルが一本ずつ貼ってあって、これは便利かも? とメモと写真を撮っておく。
リュエールからの宿題もちゃんと忘れていませんよ!

 木の枝のような物が入っている試験管の蓋を開けた時、「あっ、ルーファスの匂い」と思ってしまった。
森のような爽やかな匂い。これにもう少し色々足したら、ルーファスの匂いが再現できるかもしれない。

「お客様、お茶をどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」

 店員さんに紅茶を入れて貰って、ハーブ入りのクッキーも出された。
体が温まるのと、この落ち着く空間は少し前まで「逃げなきゃ」と必死だった私の心を穏やかにしてくれる。

「わたしはミッシャ・シャトールと言います。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。アカリと言います。よろしくお願いします」

 クリーム色のフワフワのボリュームのある髪を、花柄のリボンを巻きつけて一つに束ねているミッシャさんは、朱色の瞳をしていて、素朴な感じの穏やかな人間……ううん、ドリアード族とのハーフかもしれない。
耳の上に木の枝が巻き付いているし。

「いい香りは見つかりましたか?」
「あと少しで作りたい匂いが再現出来るんですけど、もう鼻が麻痺しちゃったのか、中々見つからなくて……」
「そういうことありますよね。わかります。ゆっくり選んで下さいね」
「ありがとうございます。あの、これ、アロマキャンドル以外にも作れますか?」
「ポプリとかですか?」
「はい。お人形に入れて、寝てる時も嗅いでいたいなって」
「出来ますよ。人形なら店内に色々ありますし、お時間を頂ければご要望通りの物を作りますよ」
「本当ですか! 是非! 出来れば、黒い狼のお人形が良いなぁって……」

 ミッシャさんが「それなら……」と、両腕に抱えられるほど大きさの茶色いお人形を持ってきた。
犬が丸まっているいるもので、結構使い古してあるような?

「私が使っているものなのですが、包まれる感じで枕に出来るタイプなんですよ。狼の人形もこういうタイプでどうですか?」
「す……素晴らしいです!! ミッシャさんは天才ですか!?」

 これは発想が無かった。ルーファスがいつも獣化してお腹を枕にさせてくれてるし、お人形でこの形で匂いもルーファスにしたら、いつでもルーファスの香り……ッ!!
目がギラギラさせミッシャさんにお願いして、ミッシャさんが少し後退あとずさったのは言うまでもない。
 
「これで何となく近い匂い……かな?」
「えーと、グランドモアの巨木香にミッカの花にパトゥメの葉とキャンディハーブですね」
「はい。これでアロマキャンドルと、お人形に入れるポプリを作って欲しいです」
「では、倉庫から材料を持ってきますね」

 ミッシャさんが部屋を出て行った後、腕輪が震えてハガネから連絡が来た。

『どこか隠れるところはあったか?』
「雑貨屋さんでアロマキャンドルとポプリ作りの体験をしてるよ」
『意外と動じずに楽しくしてるみてぇだな』
「ウロチョロするより、長時間じっとしてた方がいいかな? って、思って」
『まぁ正解だな。大旦那が大人しく魔法省で事情聴取されてる理由がわかった』
「なんだったの?」
『アカリがどの塔に人質にされてる状態かわからなかったみてぇだ。塔にはそれぞれ魔力干渉を妨害する装置があって、アカリに付けた装飾が変に干渉して分からない上に、大旦那自体も塔に居るもんだから腕輪も使えなかったらしい』
「そう、だったんだ……また、私のせい、だね……」
『んな落ち込むなよ。リューが大旦那にアカリが逃げ出したことを伝えたから、大旦那もそろそろ動き出すはずだ。それまでそこに居ろ。あと、塔の外に出たならもう装飾は付けて大丈夫だ。身を守っとけ』
「うん。わかった」

 ハガネとの通信を終えて、カバンから銀の狼の形をした装飾をウエストに付けて、耳飾りを耳に通す。
シャラン……と、耳飾りを鳴らして、これで聞こえるようになっただろうか?
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