黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと黒い羊

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 魔力干渉を妨害する装飾を手に、階段をうろつくこと数分。
階段の手すりの一部に装飾を近付けると、目の前の階段とは別の階段の手すりが見える。
手でさわさわと触ると、明らかに何かがある。

「うーん……手すりを切り取ったら怒られるかなぁ?」

 私に出来る魔法は攻撃系がほとんどない。なので水魔法を使った水圧で手すりを切り取るくらいが、私の出来ることなのだけど、弁償させられたりするかな?
リュエールに「母上ーっ! なに、この請求書!?」って怒られちゃいそう……。

 ハガネは他になにか役に立つような物を入れてくれて無いだろうか? 
カバンを漁り、出てきたのは裁縫具セットの缶。
入っていたのは、針と糸とボタンと糸切りハサミ。
うちのお祖母ちゃんも使っていた、レトロな黒いU字型のハサミ。
刃の部分じゃない方でガンガン叩けば、魔道具壊れるかな?
手すりを壊すより、魔道具を壊した方が弁償的には安く済む……と、いいなぁ。
魔道具はピンキリなので、安い物と高い物、どちらなのかが分からないのが悩む所だ。

「ええい。女は度胸!」

 ガンガンと手すりの怪しい部分を糸切りハサミで叩いていたら、階段が様変わりしていく。
木の手すりは薄い茶色の手すりから赤茶けた色に変わり、階段も木の階段に赤いカーペットが敷かれた物に変わった。
やったー! これで下りれる! ハガネありがとう~!
やっぱり持つべきものは、頼れる従者である。

 疲労回復ポーションで足も大分楽になったし、体力回復ポーションで体力は戻ったし、頑張ってルーファスを探さないと!

「えいえいおー!」

 パタパタと階段をまた下りて行き、今度はちゃんと中央の塔の位置がズレているからちゃんと下りれているようだ。
それでも階段は長く、それなりに下りたところで階段の上の方が騒がしくなってきた。

『あれ? 居ない!』
『ヤバい! 寝すぎてた!』
『早く見付けないと、ドヤされる!』

 そういった声と、ドタバタとした物音がして、階段の上から下へ足音は近付いてきている。
気付かれた!? あの黒い羊達だろうか? 急いで下りなきゃいけない。

 階段を二段飛ばしで下りながら、十分もしないうちに黒いアフロだらけのワインレッド色の詰襟を着ている人達がワラワラと階段を降りて来た。
頭には巻き角。

 あれ……? 汽車で会ったレベンさんと同じ感じだ……羊獣人は皆こんな感じの人達なんだろうか?
羊だからアフロな頭なのかな? もこもこ毛玉だし。そういえば、うちのミルアとナルアも獣化すると毛がクルッとしていてウェーブが掛かっていたなぁ。

「あっ! 魔道具壊れてる!?」
「ゲッ! どーすんだよコレ!?」
「アーッ!! 居た!!」
「みーつーけーたぁぁ!!!」

 あっ、ヤバい。
見付かった! 私はまたピョンピョンと二段飛ばしで逃げて、距離を稼ごうと思ったんだけど、体力が再び無くなってきたのと、私はとても逃げ足が遅いようで……黒いアフロに囲まれてしまった。

 じりじりと追いつめられて、私は手に持ったポーションを黒いアフロの集団に投げつけた。
バタバタと黒いアフロな羊獣人達が倒れて行き、再び私は疲労回復ポーションと体力回復ポーションに飴玉を口に入れて、階段を降りていく。

 フフフッ、私の従者は私の攻撃手段もちゃんと入れておいてくれたのだ!
必殺の睡眠揮発きはつポーションである。ありがとうハガネ! お土産は奮発するからねー!

 タンッと、階段の下まで降りると、そこは廊下になっていた。

「やったー……はひぃ、疲れた……やっと出れる~」

 息切れの死にかけ寸前で廊下をヨタヨタ走って、大きな扉を開けると外に出れた。
汗だくで体も熱いから、外の冷たい風が気持ちいい……はひぃ、明日はボロボロの筋肉痛は変らないかも……。
ハフハフと息をして、外を見渡せば、気を失う前に見た公園が遠くに見える。
後ろを見れば、塔は赤い赤い旗に白いドラゴンが描かれている。
色的に言えば火属性の塔なのだろうか?
追ってきた黒い羊獣人達もワインレッドの詰襟だったし。

 見つかる前に逃げてしまおうと、ヨタヨタ歩いて公園を目指す。
公園まで行けば、ガレット屋さんまでの道に行ってから、お宿までの道を思い出しつつ帰れば、きっと帰り着くはず。
塔の敷地から出ると、まだ公園は遠く、体力が尽きて木の下にへたり込んでいると、腕輪が振動していた。

「はひ、私……ふぇ、疲れた……」
『大丈夫かアカリ?』
「ハガネ~、塔から出れた~はふぅー……疲れたよぅ」
『お疲れさん、小鬼に調べさせて来たぜ』
「どんな感じになってるー?」
『まず、落ちてきたのは水の塔の奴だな。まだ意識が戻ってねぇらしい。んで、容疑が掛けられてんのが、火、風、土、雷の塔で……まあ、全部の塔の奴が怪しいってことだ』
「ふぇー……それで、ルーファスは?」
『それぞれの塔が自分達は違うと言ってて、目撃者が大旦那ってことになるんで、それぞれの塔が大旦那を取り調べてる』
「ルーファスは大丈夫なの?」
『大旦那だから無事だと思うが、リューがベネティクタの塔それぞれに抗議を出してる』
「どの塔にルーファスは居るの?」
『それはわからねぇが、アカリはどの塔に居たんだ?』
「多分、火かな? 赤い旗があるし……」
『とにかく、アカリは大旦那とリューが連絡を付けれるまでは、どこかに隠れてろ』
「はぁーい……疲れたぁ~」
『もう少し頑張れよ』

 ハガネとの通信が終わって、汗も外の風ですっかり乾くと次は逆に寒くなる。
コートが無いから、これは早めにどこかに入らないと熱が出そう。
風邪なら病気認定でヒドラクリスタルで自動で治るけど、熱が出ただけだと自力回復になるので長引くことになる。

「あー……でも隠れろって……どこに?」

 ここに私の隠れる場所なんて、思いつかないんだけど……楽しい旅行がどうしてこうなるんだろ?
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