黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
829 / 960
25章

おヨメさまと塔

しおりを挟む
 フワフワした黒い物に包まれて、ちょっと暑苦しいと思って目を覚ますと、洋風な部屋に居た。
私の周りには真っ黒でモコモコした羊達が寝ている。
一応ベッドの上のようだけど、調度品からして貴族屋敷……?
でも、お宿はこんな赤いカーペットでは無かったし、この羊達は何なのか?

「あ……ルーファス? ルーファスどこ?」

 周りを見渡しても、黒い羊の中にルーファスの黒い毛並みが無い。
変な深緑色の魔法省の人達に追いかけられて……私が気を失ったから、掴まってここに居るんだろうか?
ベッドを降りて、自分の体を見渡し、服はコートは無いけど服装はそのままだし、腕輪もある。
ベッドサイドにカバンも置いてあり、中身を見れば全部無事のようだ。
ハイウエストのスカートに付いている四つの装飾もある。耳飾りは……ある。
シャランと音をさせて、ルーファスに音が聞こえるように何度か指で触ったけれど、ルーファスが現れない。
首のチョーカーも鎖は出ないし……どうしよう?

 腕輪に魔力を通してみるけれど、ルーファスが出てくれない。

「ルーファス、どこ?」

 肩掛けカバンを肩に掛けて、寝ている羊達を起こさないように、そろりそろりとドアを目指す。
ドアノブを回して開けると、やはりお宿では無かった。
廊下は赤いカーペットに金色の線が入っていて、歩くと床がキシと鳴る。
ビクビクしながら廊下を歩き、手すりのある階段を降りていくと、階段の途中にある窓の外に、中央の魔法学園の三角の頭の塔がやけに同じような高さで見える。
窓から下を見れば、ここが普通の屋敷ではなく、塔の上だとわかった。

「ひぅっ!」

 背筋がゾワゾワして足がギクシャクと動いてしまう。
高所恐怖症の私に、こんな高い場所は恐怖対象でしかない。
でも、ルーファスの居ない恐怖の方がまさって、私はぎこちない足を動かしながら下を目指して降りていく。

 どうして塔に私が連れてこられてるんだろう?
それに、これは五つあるうちのどの塔なんだろうか?
わからないことだらけだ。
一番は、ルーファスはあれだけ私がこの旅行で一人にならないように、色々していてくれたのに、そのどれもが反応の無いところ。
私が気を失った後でなにが起きたんだろう……。

 階段を何段降りたのか……体力不足に自信があります……あっちゃいけない自信だけど、足が別の意味でギクシャクでガクガクしてきた。

「はひ……ふぇ……足、疲れた……」

 この旅行で汽車の中でもルーファスとエッチしてたから、元々体力は削れてたけど、妙な場所が筋肉痛になりそう……明日は確実に筋肉痛に違いない。
明日はルーファスに抱っこして動いてもらおう。うん、最近薄れてきてるけど、抱き上げられての移動って、知らない土地だと少し恥ずかしい。でも、明日はそんなこと言っていられなさそう。

「あ、そういえば……ハガネが色々入れててくれたような……」

 カバンの中からポーションの入った救急箱を取り出すと、全てを見越しかのような……疲労回復ポーションと体力回復ポーションの数が入っていた。
流石、我が家の気配り名人ハガネである。

「飴も確かあったかな?」

 うちの製薬部隊の疲労回復ポーションの不味さの口直しも予想して、飴をギッシリ入れてたのかな?
飴が入っている缶を開けると、小さな紙が入っていた。

『困ったことがあったら、俺に連絡しろ』

 ハガネに腕輪で連絡をすると、ノイズが酷く途切れ途切れのハガネの声がする。

「ハガネ? なに? 聞こえないよ!」
『……魔力か、ん、が……ろ』
「魔力がなに!?」
『干渉、……装飾……で』

 魔力、干渉、装飾……? 
もしかして、このウエストに付いている装飾の魔力干渉を妨害する装飾が、腕輪の魔力通信にも干渉して邪魔してる?
装飾を外して床に置くと、ようやくハガネの声が聞こえるようになった。

『おっ、ようやく雑音が無くなったな』
「ハガネ~っ!! 助けてぇ~!!」
『今回はなにをやらかしたんだ?』

 とりあえず私は、ハガネにカフェで上から人が落ちてきたこと、公園で魔法省の人達に追われたこと、そして今現在、どこかの塔の中に居ることを説明した。

『また面倒なことになってんなぁ。アカリ、窓から見える中央の塔は少しは見上げる感じか?』
「えーと……」

 窓の外を見れば、先程と高さは変ってないような気がする。
あんなに降りたのに? もしかして、私は体力が無さ過ぎて少し降りただけでこの疲労困憊状態なの?

「あんまり変わってない気がする……結構降りたつもりだったんだけど……」
『だったら、その階段のどこかに幻惑の魔道具があるのかもしれねぇな』
「それ、どうやって見つければいい?」
『外した妨害の装飾を近づけて、目の前でなにか違和感があれば、それが魔道具だな』
「わかった。やってみるよ!」
『あと、大旦那が反応しないとなると、大旦那は魔法省の妨害魔道具のある部屋に居るかもしれねぇ。一応、小鬼に事件がどうなったか調べさせる。少しばっかし待っててくれ』
「うん。ありがとう」
『いざとなったら、移動魔法で逃げ帰れよ』
「うん……なるべく、頑張れるところは頑張ってみる」
『ああ。無理しねぇ程度にな』

 通信を終えて、もう一度ルーファスに腕輪で連絡をしたけど、返答はなかった。
疲労回復ポーションと体力回復ポーションを飲んで、飴を口に頬張ると床に置いた装飾を手に持って、階段と手すりにかざしながら魔道具が無いかを調べ始めた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。