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25章
おヨメさまと弱点
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クリスタルガラスの上に広がった赤い液体が血液だとわかり、ヒュッと息を呑むと目の前が暗くなる。
温かい手が私の両目を塞ぎ、耳元で「大丈夫だ」と静かな声で落ち着かせてくれる。
ルーファスが私の目に手を置いたまま抱き上げて、ウエイターに人が落ちてきたことを伝えて、回復魔法を唱えている。
「応急処置はしておいた。後は医者にでも診せておけ」
そう言って、ルーファスが動き出し、店の外に出たのか少し寒い風にフルッと震えると私を地面に下ろして、お店のコート掛けに掛けていたコートを回収してくれていたのか、私にコートを羽織らせてくれた。
「よし、これで寒くないか?」
「ん……ありがとう」
キュッとルーファスの服を掴んで、はふーっと息を吐く。
小さく手が震えてしまう。血には慣れたと思ったのに、あの日、広がった血の色が脳裏に焼き付いて離れない。
私の家族の血の色が、思い出されてしまう____。
朝の楽しい食事のはずが、一気に影を落としてしまった。
「折角の旅行だ。面倒ごとになる前にここから離れるか」
「ギルドの人に事情聴取とかしなくて良いのかな?」
「ただの旅行客のオレ達に聞いても無駄だろう? ただの通りすがりのようなものなのだからな」
それもそうか。と納得して、ルーファスに抱き上げられて街中を見て回る。
公園のある場所に出ると、公園内で売っていたホットドリンクを買ってくれて、ベンチに座って口に含むと、紅茶にジンジャー系のスパイシーな味のものをミルクで淹れた物らしく、チャイティーに似た味がした。
「アカリ、あそこに小さい動物がいるぞ」
ルーファスが指さす方に目を向ければ、リスに似た灰色の手の平サイズの動物が、公園に設置されている餌箱から木の実を取り出して「チチチチ」と声を出している。
「わぁ、小さくて可愛いね」
「魔獣以外の動物が居るのは珍しいからな」
「魔獣と動物ってなにが違うの?」
「魔石があるか、無いかくらいなものだな」
「見分けってつくの?」
「動物の魔力は微量で感知できないが、魔獣は魔石のせいか感知できる」
「私にはわかんないや」
ルーファスが目を細めて顔を近づけると、そっと唇を合わせておでこ同士を合わせてくる。
サァ……と風が吹いて、リスもどきが「チチッ」と短い声で鳴き、枯葉の上を走っていくカサカサした音が静かにしていた。
ゴウッと次第に風が強くなり、ルーファスが耳を動かして眉間にしわを寄せた。
ガサガサと枯葉が舞い始め、つむじ風のようなものが幾つか周りに出来ると、ルーファスが私の手からコップを取り上げてベンチに置くと、私を抱き上げていきなりベンチを蹴り上げて跳躍した。
「ふぁっ!?」
今まで私達が居たベンチの周りの枯葉が人型に集まると、そこに深緑色の詰襟を着た騎士のような人達が数人姿を現した。
「な、なに? あの人達」
「あれは魔法省の風使い達だな」
「魔法省?」
「この都市独自の魔法使いによる警備兵のようなものだ」
公園の木々に足を掛けてルーファスが距離を取ると、何故か彼等は私達を追ってきていて、突風が下から吹いてきたり、横からきたりで、明らかに足止めをしようとしている。
「チッ、しつこい! 【土壁】【水玉】【雷撃】!!」
ルーファスが地面から土の壁を出して、巨大な水玉で彼等を閉じ込めると雷を落とした。
「きゅぅっ!」
雷属性に弱い水属性寄りの私は、ルーファスの体から伝わる雷の魔法に当てられて、全身ピリピリと痺れて目を回した。
「っ、アカリ、悪い!」
うう……グリムレインの氷属性は水属性のようなものだから、私が雷のドラゴンでも手に入れない限り、雷属性は無理かも……と、薄れる意識の中で思いつつ、ルーファスから離れないように、必死にルーファスのコートを掴んだ。
ちなみに、木竜と花竜のケルチャとケイトは森属性という特殊なものになる。エデンは生命属性でこれまた特殊なものだけど、聖属性と生命属性は相性が良い。
なので、私が聖属性の回復魔法を使うとごっそり魔力を持っていかれるのは、その為ともいえる。
まぁ、コントロールが下手なのが一番大きいのだけどね?
あと、水属性は森属性と相性が良いから、私が育てるハーブなんかはよく育つ。
こちらは意識せずに自然に私の魔力とドラゴンの加護が働くので、魔力切れを起こすことは無い。
森属性は生命属性との相性も良いし、私のドラゴン達はある意味バランスがいいと言える。
でも、バランスが良いのはルーファスも同じなんだよね。
ルーファスの雷属性が苦手なのが土属性と森属性なんだけど……土竜ニクストローブとケルチャとケイトとの契約をしているので、苦手属性が克服されている状態なのである。
本来、森属性は火属性に弱いのだけど、これも火属性に強い土属性のおかげで克服できているから、ルーファスは魔法に関しては、凄くバランス型と言える。
それに、私と体を繋げたり手を握るだけでもルーファスに【聖域】が発動しているので、聖属性が常に体を巡っているから、聖属性の回復魔法も使える。
これで冒険者をしていたら、無敵な感じかもしれない。
ルーファスのことだから逃げおおせると思うけど、あの人達なんなんだろう?
私が気を失ったら、ルーファスの邪魔になる。そう思うのに、意識を保つ事が出来ず、意識を手放した。
ああ、ルーファスの弱点は足手まといな、私だ____。
温かい手が私の両目を塞ぎ、耳元で「大丈夫だ」と静かな声で落ち着かせてくれる。
ルーファスが私の目に手を置いたまま抱き上げて、ウエイターに人が落ちてきたことを伝えて、回復魔法を唱えている。
「応急処置はしておいた。後は医者にでも診せておけ」
そう言って、ルーファスが動き出し、店の外に出たのか少し寒い風にフルッと震えると私を地面に下ろして、お店のコート掛けに掛けていたコートを回収してくれていたのか、私にコートを羽織らせてくれた。
「よし、これで寒くないか?」
「ん……ありがとう」
キュッとルーファスの服を掴んで、はふーっと息を吐く。
小さく手が震えてしまう。血には慣れたと思ったのに、あの日、広がった血の色が脳裏に焼き付いて離れない。
私の家族の血の色が、思い出されてしまう____。
朝の楽しい食事のはずが、一気に影を落としてしまった。
「折角の旅行だ。面倒ごとになる前にここから離れるか」
「ギルドの人に事情聴取とかしなくて良いのかな?」
「ただの旅行客のオレ達に聞いても無駄だろう? ただの通りすがりのようなものなのだからな」
それもそうか。と納得して、ルーファスに抱き上げられて街中を見て回る。
公園のある場所に出ると、公園内で売っていたホットドリンクを買ってくれて、ベンチに座って口に含むと、紅茶にジンジャー系のスパイシーな味のものをミルクで淹れた物らしく、チャイティーに似た味がした。
「アカリ、あそこに小さい動物がいるぞ」
ルーファスが指さす方に目を向ければ、リスに似た灰色の手の平サイズの動物が、公園に設置されている餌箱から木の実を取り出して「チチチチ」と声を出している。
「わぁ、小さくて可愛いね」
「魔獣以外の動物が居るのは珍しいからな」
「魔獣と動物ってなにが違うの?」
「魔石があるか、無いかくらいなものだな」
「見分けってつくの?」
「動物の魔力は微量で感知できないが、魔獣は魔石のせいか感知できる」
「私にはわかんないや」
ルーファスが目を細めて顔を近づけると、そっと唇を合わせておでこ同士を合わせてくる。
サァ……と風が吹いて、リスもどきが「チチッ」と短い声で鳴き、枯葉の上を走っていくカサカサした音が静かにしていた。
ゴウッと次第に風が強くなり、ルーファスが耳を動かして眉間にしわを寄せた。
ガサガサと枯葉が舞い始め、つむじ風のようなものが幾つか周りに出来ると、ルーファスが私の手からコップを取り上げてベンチに置くと、私を抱き上げていきなりベンチを蹴り上げて跳躍した。
「ふぁっ!?」
今まで私達が居たベンチの周りの枯葉が人型に集まると、そこに深緑色の詰襟を着た騎士のような人達が数人姿を現した。
「な、なに? あの人達」
「あれは魔法省の風使い達だな」
「魔法省?」
「この都市独自の魔法使いによる警備兵のようなものだ」
公園の木々に足を掛けてルーファスが距離を取ると、何故か彼等は私達を追ってきていて、突風が下から吹いてきたり、横からきたりで、明らかに足止めをしようとしている。
「チッ、しつこい! 【土壁】【水玉】【雷撃】!!」
ルーファスが地面から土の壁を出して、巨大な水玉で彼等を閉じ込めると雷を落とした。
「きゅぅっ!」
雷属性に弱い水属性寄りの私は、ルーファスの体から伝わる雷の魔法に当てられて、全身ピリピリと痺れて目を回した。
「っ、アカリ、悪い!」
うう……グリムレインの氷属性は水属性のようなものだから、私が雷のドラゴンでも手に入れない限り、雷属性は無理かも……と、薄れる意識の中で思いつつ、ルーファスから離れないように、必死にルーファスのコートを掴んだ。
ちなみに、木竜と花竜のケルチャとケイトは森属性という特殊なものになる。エデンは生命属性でこれまた特殊なものだけど、聖属性と生命属性は相性が良い。
なので、私が聖属性の回復魔法を使うとごっそり魔力を持っていかれるのは、その為ともいえる。
まぁ、コントロールが下手なのが一番大きいのだけどね?
あと、水属性は森属性と相性が良いから、私が育てるハーブなんかはよく育つ。
こちらは意識せずに自然に私の魔力とドラゴンの加護が働くので、魔力切れを起こすことは無い。
森属性は生命属性との相性も良いし、私のドラゴン達はある意味バランスがいいと言える。
でも、バランスが良いのはルーファスも同じなんだよね。
ルーファスの雷属性が苦手なのが土属性と森属性なんだけど……土竜ニクストローブとケルチャとケイトとの契約をしているので、苦手属性が克服されている状態なのである。
本来、森属性は火属性に弱いのだけど、これも火属性に強い土属性のおかげで克服できているから、ルーファスは魔法に関しては、凄くバランス型と言える。
それに、私と体を繋げたり手を握るだけでもルーファスに【聖域】が発動しているので、聖属性が常に体を巡っているから、聖属性の回復魔法も使える。
これで冒険者をしていたら、無敵な感じかもしれない。
ルーファスのことだから逃げおおせると思うけど、あの人達なんなんだろう?
私が気を失ったら、ルーファスの邪魔になる。そう思うのに、意識を保つ事が出来ず、意識を手放した。
ああ、ルーファスの弱点は足手まといな、私だ____。
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