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25章
おヨメさまとベネティクタ
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汽車を下車すると、ここの駅も大きな樹で出来ていて、違う所は足元の床が灰色と白の石畳で出来ていることぐらいかな?
ステンドグラスは青系の色が多く、カメラを首から下げてパシャパシャ撮って、ドリアードの駅員さんにルーファスと私の写真も撮ってもらった。
「ルーファス、見て。駅の中に噴水があるよ!」
「ああ、ここは水の塔が管理している駅だから水系の物が多いのだろう」
「水の塔?」
「水魔法の研究者が集う塔で『水の棟』とも呼ばれている。ほら、あのオルドロードスの時にうるさい風使いが『風の棟に来い』と勧誘していただろ? ああいう奴等が所属している」
なるほど、ああいう物怖じしない人達の集まりなのか。
研究熱心だから、ルーファスが威嚇しても全然めげなかったのは素直に凄いと思う。
「じゃあ、風の塔や火の塔みたいな駅もあるの?」
「ああ、ここで乗り換えだからな。他の都市への駅は、それぞれの塔が管理している駅へ行く」
「そっかぁ。いつか他の所へ行くことがあれば乗ろうね」
駅の中をルーファスに抱き上げられながら見て回り、駅の外へ出ると、丁度朝の出勤時間なのか街の人々が忙しそうに行きかっている。
「朝ご飯~いい香り~」
「焼きたてパンの香りだな。宿にチェックインしてから、街の散策ついでにどこかで朝食でも摂ろう」
「うん。お腹空いてきたから、急ごう!」
街の人がパンを紙袋に入れてパン屋から出てくる姿に、お腹が「くぅ~」と鳴って、早くご飯を食べようと促し、ルーファスが「早く宿に行かないとな」と笑って、地図の描かれた大きな看板を見上げる。
地図は迷路のような感じで、ゴチャゴチャと細かく描かれ過ぎていて余計に道に迷いそうな感じだ。
もっと簡略化出来なかったのだろうか?
これ、私が迷子になったら駄目な所だ……ルーファスから離れないでいよう。
「宿はここからだと……風と水の塔の間を目指して行く感じか」
「ふぅーん?」
私にはサッパリである。
ベネティクタ都市は、魔法学園を中心として五つの塔に囲まれている都市で、真ん中の三角屋根の背の高い塔が魔法学園。そして街の端に五つの塔があり、魔法学園とは空中に橋で繋がっている。
魔法を研究する人々や、魔法使いの見習い達が魔法学園や塔に在籍しているのだそうだ。
ちなみに塔は『火』『水』『風』『土』『雷』の五つ。
宿は中世の洋風館という感じで、入ったフロントの真上に大きなシャンデリアがあって、壁には古い二対のドラゴンが模ってある置時計があった。
「うわぁ、グリムレインに似てるね」
「そちらは水竜アクエレイン様と氷竜グリムレイン様の置時計なのですよ」
「そうなんですか! 凄く似てます!」
「大昔からこの屋敷にあった物らしいですよ? ここは元々、貴族屋敷だったものを買い取って宿にしたのですが、こうした家具等も数多く残されていたのです」
「へぇー。お買い得ですねぇ」
群青色の長いメイドドレスを着た優しそうなお婆ちゃんが、お部屋に案内をしてくれながら説明をしてくれて、お部屋の中も貴族屋敷の名残りなのか天蓋ベッド付きで、絨毯にも深い青と水色と白で彩られた竜の絵が描かれていた。
このお屋敷の元の持ち主は相当、グリムレイン達が好きだったのかな?
「ふぅー。着いたー!」
「オレはリューに一応、連絡を入れておくから、アカリは少し休んでいろ」
「はぁーい。茶器があるからお茶淹れるね」
部屋にあったティーポットとティーカップをお湯玉の中に入れて温め、乾燥魔法で水気を吹き飛ばしてから、六種類の瓶に詰められた紅茶を選ぶ。
モーニングティーなら少しさわやかなミントとラベンダーにレモングラスが入った物がいいかな?
お湯玉でハーブティーを淹れて、ルーファスの前に置いて、自分も一口飲む。
うん。爽やかなフレーバーでお口サッパリの頭もシャッキリする。
「アカリ、リューが母上にも楽しんできて、だそうだ」
「ふふっ、いっぱい楽しもうね」
「あと写真と報告書も一日一枚は書けということだ」
「ひぇぇ。私の息子が鬼上司のよう~」
「ククッ、茶を飲んだら朝飯と、観光に行こう」
「観光ってどこから行く? ミルアとナルア情報では体験グラス工房『炎のピーノ』とか、魔法歴史大展示場があるよ……って、この大展示場は、字からしてリューちゃんだ! ひぇぇ~妹達の観光メモにまで指示書のように入れ込むなんてぇ~」
これは絶対に見て来いって命令書のようなものだと思う。
うちの長男様が容赦ないよぅ~。ルーファスが私が手にしていたミルアとナルアの観光メモを手に取って、ハーブティーを飲みながら「ふむ」と、目を通していく。
「ここなんて、良いんじゃないか? 美味しいカフェ『ナン・アラ・ミィ』。美味いガレットの店らしいぞ」
「なら、そこに朝ご飯に行きましょう! ガレット楽しみぃ~」
クイーッとハーブティーを飲み干して、ピョンと椅子を降りるとルーファスの手に掴まって抱き上げられた。
うーん。迷子防止のせいか、ルーファスが私を歩かせない気満々のようだ。
「ルーファス、私歩けるよ?」
「ベネティクタの都市は背の高い建物が多いから、アカリは見上げている間に迷子になりそうだから……と、いうのは建前で、折角の夫婦水入らずの旅行なんだ。常にくっついていたいんだが、駄目か?」
はうっ! そう言われてしまうと「下ろして」とは言えない。
ルーファスの肩に手を乗せて少し腰を浮かせて、頬にキスをすると唇にキスを返され、抱き上げられたまま宿を出た。
ハガネの注意事項、宿の名前は覚える。
宿の名前は『レイン』、グリムレインとアクエレインのレインで覚えたから、間違えることは無い。
後は迷子用に持たされた写真を肩掛けカバンの中にあるのを確認。
ルーファスと私二人の写真で、ルーファスとはぐれて「この人を知りませんか?」と、聞く時用にハガネが持たせてくれた。
至れり尽くせり、心配性な従者である。
ステンドグラスは青系の色が多く、カメラを首から下げてパシャパシャ撮って、ドリアードの駅員さんにルーファスと私の写真も撮ってもらった。
「ルーファス、見て。駅の中に噴水があるよ!」
「ああ、ここは水の塔が管理している駅だから水系の物が多いのだろう」
「水の塔?」
「水魔法の研究者が集う塔で『水の棟』とも呼ばれている。ほら、あのオルドロードスの時にうるさい風使いが『風の棟に来い』と勧誘していただろ? ああいう奴等が所属している」
なるほど、ああいう物怖じしない人達の集まりなのか。
研究熱心だから、ルーファスが威嚇しても全然めげなかったのは素直に凄いと思う。
「じゃあ、風の塔や火の塔みたいな駅もあるの?」
「ああ、ここで乗り換えだからな。他の都市への駅は、それぞれの塔が管理している駅へ行く」
「そっかぁ。いつか他の所へ行くことがあれば乗ろうね」
駅の中をルーファスに抱き上げられながら見て回り、駅の外へ出ると、丁度朝の出勤時間なのか街の人々が忙しそうに行きかっている。
「朝ご飯~いい香り~」
「焼きたてパンの香りだな。宿にチェックインしてから、街の散策ついでにどこかで朝食でも摂ろう」
「うん。お腹空いてきたから、急ごう!」
街の人がパンを紙袋に入れてパン屋から出てくる姿に、お腹が「くぅ~」と鳴って、早くご飯を食べようと促し、ルーファスが「早く宿に行かないとな」と笑って、地図の描かれた大きな看板を見上げる。
地図は迷路のような感じで、ゴチャゴチャと細かく描かれ過ぎていて余計に道に迷いそうな感じだ。
もっと簡略化出来なかったのだろうか?
これ、私が迷子になったら駄目な所だ……ルーファスから離れないでいよう。
「宿はここからだと……風と水の塔の間を目指して行く感じか」
「ふぅーん?」
私にはサッパリである。
ベネティクタ都市は、魔法学園を中心として五つの塔に囲まれている都市で、真ん中の三角屋根の背の高い塔が魔法学園。そして街の端に五つの塔があり、魔法学園とは空中に橋で繋がっている。
魔法を研究する人々や、魔法使いの見習い達が魔法学園や塔に在籍しているのだそうだ。
ちなみに塔は『火』『水』『風』『土』『雷』の五つ。
宿は中世の洋風館という感じで、入ったフロントの真上に大きなシャンデリアがあって、壁には古い二対のドラゴンが模ってある置時計があった。
「うわぁ、グリムレインに似てるね」
「そちらは水竜アクエレイン様と氷竜グリムレイン様の置時計なのですよ」
「そうなんですか! 凄く似てます!」
「大昔からこの屋敷にあった物らしいですよ? ここは元々、貴族屋敷だったものを買い取って宿にしたのですが、こうした家具等も数多く残されていたのです」
「へぇー。お買い得ですねぇ」
群青色の長いメイドドレスを着た優しそうなお婆ちゃんが、お部屋に案内をしてくれながら説明をしてくれて、お部屋の中も貴族屋敷の名残りなのか天蓋ベッド付きで、絨毯にも深い青と水色と白で彩られた竜の絵が描かれていた。
このお屋敷の元の持ち主は相当、グリムレイン達が好きだったのかな?
「ふぅー。着いたー!」
「オレはリューに一応、連絡を入れておくから、アカリは少し休んでいろ」
「はぁーい。茶器があるからお茶淹れるね」
部屋にあったティーポットとティーカップをお湯玉の中に入れて温め、乾燥魔法で水気を吹き飛ばしてから、六種類の瓶に詰められた紅茶を選ぶ。
モーニングティーなら少しさわやかなミントとラベンダーにレモングラスが入った物がいいかな?
お湯玉でハーブティーを淹れて、ルーファスの前に置いて、自分も一口飲む。
うん。爽やかなフレーバーでお口サッパリの頭もシャッキリする。
「アカリ、リューが母上にも楽しんできて、だそうだ」
「ふふっ、いっぱい楽しもうね」
「あと写真と報告書も一日一枚は書けということだ」
「ひぇぇ。私の息子が鬼上司のよう~」
「ククッ、茶を飲んだら朝飯と、観光に行こう」
「観光ってどこから行く? ミルアとナルア情報では体験グラス工房『炎のピーノ』とか、魔法歴史大展示場があるよ……って、この大展示場は、字からしてリューちゃんだ! ひぇぇ~妹達の観光メモにまで指示書のように入れ込むなんてぇ~」
これは絶対に見て来いって命令書のようなものだと思う。
うちの長男様が容赦ないよぅ~。ルーファスが私が手にしていたミルアとナルアの観光メモを手に取って、ハーブティーを飲みながら「ふむ」と、目を通していく。
「ここなんて、良いんじゃないか? 美味しいカフェ『ナン・アラ・ミィ』。美味いガレットの店らしいぞ」
「なら、そこに朝ご飯に行きましょう! ガレット楽しみぃ~」
クイーッとハーブティーを飲み干して、ピョンと椅子を降りるとルーファスの手に掴まって抱き上げられた。
うーん。迷子防止のせいか、ルーファスが私を歩かせない気満々のようだ。
「ルーファス、私歩けるよ?」
「ベネティクタの都市は背の高い建物が多いから、アカリは見上げている間に迷子になりそうだから……と、いうのは建前で、折角の夫婦水入らずの旅行なんだ。常にくっついていたいんだが、駄目か?」
はうっ! そう言われてしまうと「下ろして」とは言えない。
ルーファスの肩に手を乗せて少し腰を浮かせて、頬にキスをすると唇にキスを返され、抱き上げられたまま宿を出た。
ハガネの注意事項、宿の名前は覚える。
宿の名前は『レイン』、グリムレインとアクエレインのレインで覚えたから、間違えることは無い。
後は迷子用に持たされた写真を肩掛けカバンの中にあるのを確認。
ルーファスと私二人の写真で、ルーファスとはぐれて「この人を知りませんか?」と、聞く時用にハガネが持たせてくれた。
至れり尽くせり、心配性な従者である。
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