黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまは汽車の中

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 横になりながらの汽車の旅に興味深々で窓の外を見ていると、大きな森の中を汽車は走っていき速度はそれ程早いわけではないけど、最速馬よりも早く、でも最速船よりかは遅い……まぁ、この世界の『操舵士』という特殊能力持ちの人達が異様に船の操りが上手くて速いだけなので、『操舵士』の腕前で早いか遅いかは決まるから、一概いちがいにこの汽車が遅いということは無いかな?
うちの『刻狼丸』の操舵士のキリヒリさんの腕がピカイチとだけ言っておこう。

「暫くは森の中を走るだろうから、めぼしい物はないだろうし、少し寝ておいた方が良いんじゃないか?」
「うーん。汽車に興奮してて、お目々パッチリだよ?」
「そうか? 朝が早かったから、オレは少し寝るぞ」
「はぁーい。私はもう少し見てるね」
「アカリ、トイレはこの隣りの車両にある。探し回ったりしないようにな。あと、汽車内を探索しないように」
「わかってるよ。もぅ、子供じゃないんだから」

 疑わしいと言わんばかりの目を私に向けて、ルーファスが小さく溜め息を吐くと、ジャラッと音がして鎖が物体化する。
これは……信用度ゼロ!!
ルーファスがフッと笑って、すぅーと眠りに入ってしまった……朝からバタバタしてたし、昨日もリュエールに散々「行く前に、蔵を片付けてもらうからね!」と、言われて夜遅くまで頑張って蔵を整頓してたからなぁ、疲れも溜まっているのかも?

「おやすみなさい」

 ルーファスの頬にキスをして、ルーファスの耳が少し動くのを見届けて、私は窓の外を見る。
この旅行、両親へのプレゼントなのかな? と、思っているけど、出発する前までが大変だった。

 旅行に行く前に私は、リュエールに「余計なことをしない! 人が困ってても、その人は悪人かもしれない。困ったふりをして騙して連れて行かれたりしないように! あと、食べ物につられて変な場所に行かないこと!」と、親が子に言い聞かせるように言われ……少しでも口答えしようものなら、「今言ったことを復唱! ちゃんと聞いてたら、話を聞いてあげるよ」と、本当に厳しかった。

「リューちゃんは心配性なんだから、ふぅ」

 屋敷にスクルードの顔を見に行ったら、スクルードはハガネにべったりだし、レーネルくんやシャルちゃんが居るから寂しくも無いようで……私の存在価値が行方不明!?

 ミルアとナルアには「買ってきて欲しい物のリストですの!」「わからなかったら腕輪で聞いて下さいまし!」と、私とルーファスよりベネティクタ都市を調べ尽くしたような、お土産リストとお店屋さんの名前に地図。
あと、餞別代りなのか「ここが一番美味しいって有名なお店なのですって」と、食べ物系のお店も地図付きでくれた。

 ハガネには「変なもん食うなよ? 迷子になったら、その場から動かねぇこと、あとは泊ってる宿の名前はメモしておくこと」と、お母さんのような心配と注意事項をくどくど言われた。
なにかあった時用に、ポーション一式に塗り薬の用法用量の紙、ほしいいという非常食のような物も貰った。あとは、小さな缶ケースに裁縫具の小さい物も入っていて、他の缶ケースには飴がぎっしり詰まった物をくれた。
ハガネ……私は旅行に行くのであって、冒険とかに出るわけじゃないんだけどな……。

 グリムレインは北の国に遊びに行っているから、まぁ、後でムスッと「我を置いて行ったー!」と騒ぎそうだけど仕方がない。
お土産はいっぱい買って帰ってあげよう。

「あふ……んっ、なんか眠いかも?」

 この汽車、空調も温かくて絨毯じゅうたんはフワフワだし、隣りのルーファスもぽかぽかで……まぶたが落ちそう。
ウトウトしてルーファスの腕の中に顔を埋めると、睡魔は直ぐにやってきて、振動もしない不思議な汽車の中は快適なお休み空間と化していた。

 
 小さく揺らされて目を開けると、美味しそうな匂いがしていて、起きているルーファスが切り株のテーブルの上に木の器から立ち上るお料理を前にしていた。

「アカリ、この汽車の昼食だ。器を回収に来るらしいから、悪いが起きてくれ」
「ふぁい。んーっ、良い香りがする―」

 テーブルの上にはそら豆のような豆の入ったクリームパスタに、白身魚のムニエルに薄緑色のクリームが掛かっている。南瓜とスナックエンドウ豆みたいなとベーコンに、匂いからしてニンニクっぽい炒め物。緑色のプリンみたいなデザートもついている。飲み物はレモーネっぽい黄色いフルーツが輪切りで入っている透明な物。

「なんだかお豆尽くしな感じだね」
「ドリアード達の得意料理が豆類だからな」
「へぇー。でも、すごく美味しそう」
「それじゃあ、食べようか」
「はぁーい」

 豆の優しい味とクリームが絡み合ったパスタは美味しいし、白身魚のムニエルの上の薄緑色のクリームも豆のようで、こちらも優しい味、南瓜と豆とベーコンとニンニクの炒め物は結構パンチの利いた濃いめの味。
緑色のプリンは予想に反して、豆ではなく、マンゴーよりくどい甘さは無く、黄桃の甘さに酸っぱさが混ざったような味がした。ロルという物らしいけど、温泉街でも見ない北国とタンシムの間にある森でよく採れる物らしい。
飲み物は普通の水にレモーネが入っているだけのものだった。

「美味しかったー」
「オレはもう少し、肉が欲しいところだな」
「ふふっ、それは夜のディナーに期待しましょう」
「夜もまだ汽車の中だがな」
「ああ、じゃあ、またお豆さんかもだね」

 ルーファスが「夜は肉が出ることを期待するかな」と言って、私を膝の上に抱き寄せると唇を寄せ、むように口づけを交わすと、「これで口直し完了だ」と笑っていた。

 この後、ドリアードの駅員さんが食器を片付けに来て、私達は再びコロンと横になって窓の外を眺めるのだった。
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