黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

ラム・クランチ

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「皆さん、お揃いのようでぇ~」
「僕等、東国から伝言お預かりしてきたのです!」

 のんびり口調の間延びしたテンと、いつも通りの元気な小鬼の二人組がやってくると、テンはラムさんを見てからルーファスの方へ向く、小鬼はラムさんに興味津々きょうみしんしんの様子でソワソワしている。

「テン、東国はなんと言ってきた?」
「依頼は臣下の者のいさみ足のようなものらしく、他意は無いのだそうですよ~」

 まぁ、番という特殊な運命がある世界ならば、番が居るかどうか知りたくはなるけど、まだ生後一ヶ月や二ヶ月程度で大騒ぎする様なことだろうか?
臣下の人の勇み足過ぎると思う。言わせてもらえば、良い迷惑ではないかな?

「しかし、それを鵜呑うのみにするわけにもいかんだろう」
「はい。ですのでぇ~、シャル・トリニアに関しては、東国はどのような条件も呑むと、言っています」
「……しかし、このラムの能力は、どうも胡散臭うさんくさい」
「はいはい! 僕等の情報では、ラム・クランチの情報がありますよ! これ次第で流しますよ!」

 小鬼が嬉しそうに指で輪っかを作り、ニンマリと笑顔を見せている。
ルーファスが財布を出すと、リュエールが「父上、僕の子ですから、僕が支払います!」と財布を出して金貨を小鬼に五枚を手渡す。

「毎度、有り難うございます!」

 いそいそと小さな皮袋に金貨を入れると、ロックヘル製なのか小さな皮袋より大きな金貨はスルスルと入っていった。

「えー、では、ラム・クランチ。年齢は百二十歳を超えています。アリクイ獣人で、特殊能力『番糸つがいし』という、番同士の糸が見えるという目を持っています。なので、番の糸が見えるのは確かなのです。ただ、このラム・クランチは性格が破綻はたんしているとのもっぱらの噂なのです!」
「性格破綻者か……まぁ、人をおちょくるいけ好かない奴ではあるがな」

 ルーファス達が、肩眉を上げてラムさんを睨み、私は腕に抱きしめている二人の頭を撫でながら様子を見守る。

「ラム・クランチは番の糸は見えても自分の番の糸の行方だけはどうしても見えないらしいですね! 前に愚痴っていたのを聞いたという情報を随分前の小鬼が残していますからね! なので、ラム・クランチは番同士を酷く嫌っています! 番の糸がすでに切れていたり、見えない者の依頼は散々振り回して結果を伝える意地の悪さ。これは有名です! たまに知らずに頼んで痛い目を見る人もいるそうなのでお気を付けくださいね!」

 ルーファスとハガネが少し目を逸らしている。
おそらく、その時のルーファスの番の糸は見えていなかったか切れていたのだろう。

「ワシの能力は稀有けうなもの、おいそれと教えるわけが無かろういて、シシッ」

 血だらけの鼻先を長い舌で舐めながら、ラムさんは笑う。
その笑いに、キリンちゃんはいつでも射貫けるように、相変わらず弓と矢から決して手を離そうとはしない。
うちのお嫁さん怒らせたら怖い……うん。元々、キリンちゃんは身軽で身体能力は高い方なのだ。
流石、リュエールの番というだけはある。戦える【刻狼亭】女将だしね。

「ラム・クランチが請け負う番探しは『不運な番』ばかりなのですよ」
「不運な番? どういったものだ?」
「簡単なものだと、年老いた番や、病でもう助からない番、出会っても共に暮らす時間が少ない番だとわかると、請け負うのです。そして、番はそこへいますよ……と、年齢や病のことは伏せて教えるのです。出会った番同士は不幸のまま終わるのです。だから『不運な番』と言われているのです」

 それは、とてもキツい。
番消失ロストで番を失った苦しみを背負うしかない不幸な人を増やすだけだ。
だったら、出会わない方がまだ幸せでいられたかもしれないのに……。

 って、ラムさんが『不運な番』を請け負うということは……シャルちゃんはどうなるのだろう?
私と同じようにみんなが思ったらしく、ラムさんを目で殺せるような目で見る。

「カイナ王はキチンと依頼した臣下を取り調べていないのでしょうねぇ~、おそらく、シャルさんを暗殺して番殺しを行い、王太子には番が現れないようにするのでしょうねぇ~。すでに臣下は計画を進めているのでしょうねぇ~」
「僕もそう思います! ラム・クランチはそういう不幸を見ることの為だけに能力を使っているのです!」

 キリキリキリとキリンちゃんの弓がまた矢を放とうとしているけど、リュエールの拳が振り下ろされる方が早かった。

 ガコンッと地面がめり込み、レーネルくんとスクルードがビクッと震えて涙目になっている。
私も少し手が震えるけど、子供達を連れて逃げることも出来ないほど、足がすくんでいた。

「このジジイ、僕の家族には金輪際こんりんざい近寄るな!」

 リュエールの口が悪いのは珍しい。相当怒っていることが言葉遣いからわかる。
テンにラムさんを連れて行くように言い、ルーファスの所へ……いや、キリンちゃんの所へ真っ直ぐに来て、キリンちゃんを抱きしめる。

「大丈夫。キリンもレーネルもシャルも僕が守る」
「リュエール、怖い……シャルになにかあったら、どうしよう……」

 ポロポロと泣き出したキリンちゃんに、「大丈夫だから」と囁く声は優しいけど、怒っている。

「うーっ、りゅー!」
「ちちうえ!」

 リュエールにスクルードとレーネルくんが足にしがみ付き、一緒になって泣いている。
スクルードは多分、リュエールの怪我に泣いているんだと思う。黒い羽が出て、回復魔法を展開しているのかリュエールの傷が塞がっていっているから。

「二人共、大丈夫だよ」
「りゅー、がうがうー!」
「うん。兄上はこれからガウガウしに少し作戦会議だから、母上の所に居るんだよ」

 スクルードの頭をくしゃくしゃと撫でて、私の方を見て少しだけ微笑む顔に「子供達をお願い」と言っていることが分かり、スクルードとレーネルくんを連れて大広間の隣りの応接間へ行き、シャルちゃんのベビーベッドをハガネが移動させて応接間に移動して、キリンちゃんがシャルちゃんを連れて応接間に来る。

「キリンちゃん、大丈夫だよ。ルーファスとリュエールに任せれば問題ないよ」
「はい……。お義母さん、わたし、こんな風に不安になるなんて、どうしていいか……」
「泣かないで。お母さんがしっかりしないと、ね?」

 キリンちゃんの背中を撫でて、落ち着かせているとハガネがお茶とウサギの形をした蒸し饅頭を持ってくる。

「まぁ、とりあえずは甘いもんでも食って、大旦那達の結論を待とうぜ?」
「我は婿の方へ行ってくる!」

 グリムレインは作戦会議に参加したいらしく、ウサギ饅頭を咥えてルーファスの肩へ飛び乗っている。
仕方のないドラゴンだ。

「さぁ、みんなオヤツにしましょう!」

 私も笑顔、うん、笑顔は大事だから、子供達を安心させるためにも、私は笑顔でいよう。
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