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24章
スーと恋仙人
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年末の『堕とし札』の日ということもあり、【刻狼亭】はリュエールとキリンちゃんが二人で中心になって、各フロアの柱に貼ってある札を回収しては新しい物に取り換えているのだけど、今回は精霊が見えるハガネとグリムレインも連れて行かれている。
シュトラールは診療所が忙しく来れなかったので、ハガネとグリムレインが連行されてしまった感じである。
今年の『堕とし札』は急ぎでやらなきゃいけなくて、スピードで勝負のようだ。
その理由が、スクルードのお饅頭の餡子を盗ったアリクイ獣人の『恋仙人』なのだ。
「まったく、東国め……面倒なことをしてくれる」
「あはは……私達は知ってたけど、リューちゃんは知らないから、カンカンに怒ってましたね」
屋敷の中で戸締りをガッチリしっかりして、孫のレーネルくんとシャルちゃんにスクルードを相手に私とルーファスは、子供達を奇妙なアリクイ獣人のご老体に見つからない様に身を隠していたりする。
身を隠すというより、引き籠っている感じかな?
「がうがうがうー!」
「スーちゃん、がうがうだねぇ」
プリプリ怒っているスクルードの頭を撫でて、再びお饅頭の恨みを思い出しているスクルードを宥める。
ルーファスは獣化したままお腹にシャルちゃんを抱きかかえて丸まっている。
獣化した方が耳や気配が分かるらしく、警戒モードなのだ。
レーネルくんは私の横でリュエールに覚えておくように言われた正印を覚えている。
正印とは、各国の判子みたいなもので、封筒や書簡に蝋封で使われたり、押されたりするもの。
同じ様に見えて、色々意味があるらしい。
職業を表す形も色々あるんだとか……でもリュエールはこれを六歳くらいの時に覚えていたような?
ブルブルと腕輪が振動して、出るとリュエールからだった。本日何回目なのやら?
『母上、あの爺は来てない!?』
「リューちゃん、落ち付きなさい。こっちは戸締りして、子供達も一つの部屋でルーファスと私が見ているから大丈夫よ」
『早めに終わらせて、そっちに戻るから!』
「もぅ、心配症ねぇ」
『とにかく、母上達はシャルから目を離さないで!』
「はーい」
リュエールがここまで大騒ぎしているのは、『恋仙人』がリュエール宅へ訪れて、シャルちゃんの番は東国のヒナイ王太子だと告げたらしい。
リュエールがかなり怒って追い回したらしいのだけど「また姫に会いに来る」と言って姿を消したのだとか……。
なので、我が家に孫二人が避難中なのである。
「どうも東国が子供が生まれた事に浮かれて、あの胡散臭い爺さんに特殊能力で番を探させたのが原因のようだな」
「まぁ、第一子となると周りも浮かれちゃうよねぇ。黒髪黒目だし……シャルちゃんも黒髪黒目だから、余計に大騒ぎになりそう……」
ハァ……と、溜め息を付くと、再びスクルードが「がうがう!」と声を出す。
まだスクルードはちゃんと唸り声を出すことが出来ないので、口で「がうがう」言うだけだったりする。
「うーっ」とよく言っているのは唸り声の練習みたいで、警戒心の強い子によくみられる癖らしい。
「こうぎぶんをだすことをボクはすいしょうします!」
「うむ。オレも抗議文を東国へ出すべきだと思うな。レーネルは賢いな」
嬉しそうにルーファスが尻尾を揺らして、レーネルくんが少しはにかんだ笑顔をする。
うちの孫が可愛いっ!! ついでに賢い!! 確実に私の血では無いリュエールの血だわ……ルーファスの血筋に違いない。
「うーっ、おまんゆーとったー!」
「うん、盗られちゃったもんねぇ。許せないねー」
「がうがうがうー!」
スクルードにそう言って、窓の外を指さしていて、見れば窓の外にアリクイ獣人である。
ここは二階の元ティルナールの部屋なのだけど、足場のような物は窓の外にはない場所なのに、どうやって窓外にいるんだろう?
老人という話なんだけど、珍しく獣化したそのままの姿に服を着たままという人なので、老人かどうかは私には少し判別できない。
「うーっ! うーっ! がうがうがうーっ!」
「こらっ! スーちゃん駄目よ! 近付いちゃ!」
レーネルくんがシャルちゃんを抱きしめて、ルーファスが唸り声を上げながら窓の側で威嚇の声を上げる。
私はスクルードが「がうがうがうー」と騒ぐのを抱っこして、レーネルくん達の前に立つ。
「何をしに来た! さっさと出て行かんと喉笛を噛みちぎるぞ!」
「シシシッ、お~、怖や、怖や。姫は元気かの?」
愉快そうに目を弓なりにしてアリクイ獣人は窓ガラスにべたりと張り付いている。
イラッとするような、人をおちょくるタイプの人なのだろう。
ルーファスが毛を逆撫でて怒っているのを楽しそうに揶揄い中という感じだ。
「アカリ! リュエールに連絡を!」
「はい!」
腕輪に魔力を通してリュエールに連絡をしてアリクイ獣人が現れた事を伝えると、リュエールが『直ぐに行く!』と短く言って切れてしまった。
アリクイ獣人は服の中から温泉饅頭を出すと半分に割って、中の餡子を長い舌で舐めとって食べると、外身をポイッと庭に投げ捨てる。
「うーっ! スーの、スーのおまんゆー! がうがうがうー!」
再びスクルードが怒りだして、ぷっくり頬っぺで手をブンブンさせているけど、私はそれより、人のうちの庭に食べた物を捨てて行くなと怒りたいところである。
シュトラールは診療所が忙しく来れなかったので、ハガネとグリムレインが連行されてしまった感じである。
今年の『堕とし札』は急ぎでやらなきゃいけなくて、スピードで勝負のようだ。
その理由が、スクルードのお饅頭の餡子を盗ったアリクイ獣人の『恋仙人』なのだ。
「まったく、東国め……面倒なことをしてくれる」
「あはは……私達は知ってたけど、リューちゃんは知らないから、カンカンに怒ってましたね」
屋敷の中で戸締りをガッチリしっかりして、孫のレーネルくんとシャルちゃんにスクルードを相手に私とルーファスは、子供達を奇妙なアリクイ獣人のご老体に見つからない様に身を隠していたりする。
身を隠すというより、引き籠っている感じかな?
「がうがうがうー!」
「スーちゃん、がうがうだねぇ」
プリプリ怒っているスクルードの頭を撫でて、再びお饅頭の恨みを思い出しているスクルードを宥める。
ルーファスは獣化したままお腹にシャルちゃんを抱きかかえて丸まっている。
獣化した方が耳や気配が分かるらしく、警戒モードなのだ。
レーネルくんは私の横でリュエールに覚えておくように言われた正印を覚えている。
正印とは、各国の判子みたいなもので、封筒や書簡に蝋封で使われたり、押されたりするもの。
同じ様に見えて、色々意味があるらしい。
職業を表す形も色々あるんだとか……でもリュエールはこれを六歳くらいの時に覚えていたような?
ブルブルと腕輪が振動して、出るとリュエールからだった。本日何回目なのやら?
『母上、あの爺は来てない!?』
「リューちゃん、落ち付きなさい。こっちは戸締りして、子供達も一つの部屋でルーファスと私が見ているから大丈夫よ」
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「もぅ、心配症ねぇ」
『とにかく、母上達はシャルから目を離さないで!』
「はーい」
リュエールがここまで大騒ぎしているのは、『恋仙人』がリュエール宅へ訪れて、シャルちゃんの番は東国のヒナイ王太子だと告げたらしい。
リュエールがかなり怒って追い回したらしいのだけど「また姫に会いに来る」と言って姿を消したのだとか……。
なので、我が家に孫二人が避難中なのである。
「どうも東国が子供が生まれた事に浮かれて、あの胡散臭い爺さんに特殊能力で番を探させたのが原因のようだな」
「まぁ、第一子となると周りも浮かれちゃうよねぇ。黒髪黒目だし……シャルちゃんも黒髪黒目だから、余計に大騒ぎになりそう……」
ハァ……と、溜め息を付くと、再びスクルードが「がうがう!」と声を出す。
まだスクルードはちゃんと唸り声を出すことが出来ないので、口で「がうがう」言うだけだったりする。
「うーっ」とよく言っているのは唸り声の練習みたいで、警戒心の強い子によくみられる癖らしい。
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「うむ。オレも抗議文を東国へ出すべきだと思うな。レーネルは賢いな」
嬉しそうにルーファスが尻尾を揺らして、レーネルくんが少しはにかんだ笑顔をする。
うちの孫が可愛いっ!! ついでに賢い!! 確実に私の血では無いリュエールの血だわ……ルーファスの血筋に違いない。
「うーっ、おまんゆーとったー!」
「うん、盗られちゃったもんねぇ。許せないねー」
「がうがうがうー!」
スクルードにそう言って、窓の外を指さしていて、見れば窓の外にアリクイ獣人である。
ここは二階の元ティルナールの部屋なのだけど、足場のような物は窓の外にはない場所なのに、どうやって窓外にいるんだろう?
老人という話なんだけど、珍しく獣化したそのままの姿に服を着たままという人なので、老人かどうかは私には少し判別できない。
「うーっ! うーっ! がうがうがうーっ!」
「こらっ! スーちゃん駄目よ! 近付いちゃ!」
レーネルくんがシャルちゃんを抱きしめて、ルーファスが唸り声を上げながら窓の側で威嚇の声を上げる。
私はスクルードが「がうがうがうー」と騒ぐのを抱っこして、レーネルくん達の前に立つ。
「何をしに来た! さっさと出て行かんと喉笛を噛みちぎるぞ!」
「シシシッ、お~、怖や、怖や。姫は元気かの?」
愉快そうに目を弓なりにしてアリクイ獣人は窓ガラスにべたりと張り付いている。
イラッとするような、人をおちょくるタイプの人なのだろう。
ルーファスが毛を逆撫でて怒っているのを楽しそうに揶揄い中という感じだ。
「アカリ! リュエールに連絡を!」
「はい!」
腕輪に魔力を通してリュエールに連絡をしてアリクイ獣人が現れた事を伝えると、リュエールが『直ぐに行く!』と短く言って切れてしまった。
アリクイ獣人は服の中から温泉饅頭を出すと半分に割って、中の餡子を長い舌で舐めとって食べると、外身をポイッと庭に投げ捨てる。
「うーっ! スーの、スーのおまんゆー! がうがうがうー!」
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