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24章
恋仙人
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ハガネの作ってくれたもち米たっぷりのタケノコと角煮にワルドというシャクシャクした食感の慈姑みたいな球根っぽい食材を使った粽を食べつつ、ハガネに足湯でお饅頭の餡子をアリクイみたいな獣人に食べられたことを話すと、珍しくハガネが糸目を開いていた。
「んー、いやぁー、まさかなぁ……」
「ハガネ知ってる人?」
「あー、知り合いってわけじゃねぇんだけどよ。『恋仙人』って言われてるアリクイ族の爺かもしれねぇなーって」
「なにそのメルヘンな名前」
「その爺の特殊能力からきてんだよ。番を見付ける能力」
「ふぁー! それ凄い能力だね」
番が見つけられるなんて、結婚相手に悩んでいる人達には喉から手が出るくらいの能力な気がする。
でも、そんな人がどうして温泉大陸に来たんだろう? いや、ただの観光とか温泉を楽しみに来たのかもしれないけど。
「うーっ、スーはイーヤーにゃぁぁぁ!」
「あはは、お饅頭取られたの、根に持ってるねぇ」
「食いもんの恨みは恐ろしいかんなー。スーもやり返せるようになろうな」
ぷくぅと、ふくふく頬っぺたをぷっくりさせてスクルードが隠すように粽をもちもち食べている。
食べている姿がリスみたいで可愛い。でも、お行儀が悪いから隠さずに食べて欲しいかも? 注意すべきが悩んでいると、「アカリの子供の頃に頬張っていた写真に似ているな」と声がして、ルーファスが屋敷に戻って来ていた。
「もぅ、私はこんなに頬張ってないよ?」
「そうか? 元祖、食いしん坊アカリちゃんだからなぁ」
「もぅ~っ、ルーファス~っ」
「クククッ、まぁこうした日常を撮っておくべきなんだろうな」
ルーファスが着物の懐からカメラを出して、スクルードの粽に夢中な姿を写真に撮って、私とハガネも一緒に写るように撮ってくれる。
交替とばかりにハガネがルーファスと一緒の写真も撮ってくれて、これでアルバムに新しい写真が増えそうだ。
私のアルバムを見てから、ルーファスはこうしてカメラを持ち歩いてよく子供達を撮るようになった。
孫のレーネルくんやルビスちゃん達も良く撮っているけど。
こういうところを見ると、田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんが孫の写真を撮りたがるのが分かる気がする。
「しかし、スーは随分、ご機嫌斜めだな」
「さっきね、街中でお饅頭を食べていたら、中の餡子だけ後ろから知らない獣人の人に食べられちゃったの。それも二個も」
「それはスーの機嫌が悪くなるわけだな」
ルーファスがスクルードを抱っこして膝の上に乗せると、スクルードが粽を上に持ち上げると「あい!」と言って、ルーファスが一口食べるとにへらっと笑って、私にも「あい!」とすすめてくる。
全部食べて良いのに、分けることを覚えてくれたのは良いことだ。
スクルードは一人っ子のようなところがあるから、他人と分けるというのはあまりなく、用意されて目の前に出された物を一人で食べるという感じだったんだけど、レーネルくんやルビスちゃん達のおかげで、『他の人にも分け与える』を覚えたところだったりする。
他の兄姉は双子や三つ子だから分けるのは当たり前だったから、スクルードは心配していたけど、やはり年齢の近い子が側に居ると成長するみたいである。
まぁ、流石に、いきなり後ろから餡子を盗られたのは怒っているけどね。
「んーっ、スーちゃん美味しい。分けてくれてありがとう」
「んふーっ」
「スーも、これでお兄さんになっても大丈夫だな」
「んふーっ」
スクルードが良い顔しているからとりあえずツッコミは止めておくけど、スクルードにあまり期待させないであげて欲しい。
まだ出来てないですよー。まぁ、次の子が出来そうなくらい今回の蜜籠りは凄いけど……冬を乗り切る前に私の腰が持つだろうか?
私も子供の頃は「朱里はこれでいつでもお姉ちゃんだね」を何度聞いたか……妹が生まれるまでの涙ぐましい私の『お姉ちゃん』行動の数々……良い様に両親とお祖母ちゃんに教育されていたなぁと、大人になってわかる……。
「しかし、幼子の饅頭を餡だけ盗むとは随分な奴がいる者だな」
「あっ、うん。『恋仙人』じゃないかってハガネが……」
肩眉を上げてルーファスがハガネを見て、ハガネは粽の竹の皮を取りながら、「かもしれねぇっつーだけだよ」と、もしゃっと食べる。
「ルーファスも『恋仙人』知ってるの?」
「ああ、昔、オレの番が現れないのを心配した年寄り連中がこの大陸に勝手に呼び寄せたことがある」
「へぇー。で、どうなったの?」
「散々、我が儘放題の好き勝手に飲み食いして、オレの番は居ないと告げて帰っていった」
「あらら。偽物だったんだね。うふふふっ」
「そそ、んで、そいつアリクイの獣人だったから、そうじゃねぇーかな?って思っただけなんだけどよ。顔見てねぇから判んねぇけど、まぁ、会いたくもねぇーけどよ」
ルーファスは眉間にしわを寄せているし、ハガネも首を振っている。
あまり会いたくない人の様だ。
「ハガネはあのアリクイに散々コキ使われたからな……」
「あの爺さん、何気に何処にでも現れて、あれ食いたいアレ持ってこいうるさかったしな」
「あらまぁ……ハガネが振り回されるのって珍しいね」
「そんだけ、あの爺さんは食わせ者なんだよ」
ブスッとした顔のハガネにスクルードが粽を「あい!」と渡して、「あんがと」とハガネが粽に齧りついて、自分の粽をスクルードに向けて、食べ合いっこ状態でニィッと二人で笑っている。
仲良しの二人に、ほっこりしつつ、これでスクルードがお饅頭を盗られたことを忘れてくれれば万々歳である。
「んー、いやぁー、まさかなぁ……」
「ハガネ知ってる人?」
「あー、知り合いってわけじゃねぇんだけどよ。『恋仙人』って言われてるアリクイ族の爺かもしれねぇなーって」
「なにそのメルヘンな名前」
「その爺の特殊能力からきてんだよ。番を見付ける能力」
「ふぁー! それ凄い能力だね」
番が見つけられるなんて、結婚相手に悩んでいる人達には喉から手が出るくらいの能力な気がする。
でも、そんな人がどうして温泉大陸に来たんだろう? いや、ただの観光とか温泉を楽しみに来たのかもしれないけど。
「うーっ、スーはイーヤーにゃぁぁぁ!」
「あはは、お饅頭取られたの、根に持ってるねぇ」
「食いもんの恨みは恐ろしいかんなー。スーもやり返せるようになろうな」
ぷくぅと、ふくふく頬っぺたをぷっくりさせてスクルードが隠すように粽をもちもち食べている。
食べている姿がリスみたいで可愛い。でも、お行儀が悪いから隠さずに食べて欲しいかも? 注意すべきが悩んでいると、「アカリの子供の頃に頬張っていた写真に似ているな」と声がして、ルーファスが屋敷に戻って来ていた。
「もぅ、私はこんなに頬張ってないよ?」
「そうか? 元祖、食いしん坊アカリちゃんだからなぁ」
「もぅ~っ、ルーファス~っ」
「クククッ、まぁこうした日常を撮っておくべきなんだろうな」
ルーファスが着物の懐からカメラを出して、スクルードの粽に夢中な姿を写真に撮って、私とハガネも一緒に写るように撮ってくれる。
交替とばかりにハガネがルーファスと一緒の写真も撮ってくれて、これでアルバムに新しい写真が増えそうだ。
私のアルバムを見てから、ルーファスはこうしてカメラを持ち歩いてよく子供達を撮るようになった。
孫のレーネルくんやルビスちゃん達も良く撮っているけど。
こういうところを見ると、田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんが孫の写真を撮りたがるのが分かる気がする。
「しかし、スーは随分、ご機嫌斜めだな」
「さっきね、街中でお饅頭を食べていたら、中の餡子だけ後ろから知らない獣人の人に食べられちゃったの。それも二個も」
「それはスーの機嫌が悪くなるわけだな」
ルーファスがスクルードを抱っこして膝の上に乗せると、スクルードが粽を上に持ち上げると「あい!」と言って、ルーファスが一口食べるとにへらっと笑って、私にも「あい!」とすすめてくる。
全部食べて良いのに、分けることを覚えてくれたのは良いことだ。
スクルードは一人っ子のようなところがあるから、他人と分けるというのはあまりなく、用意されて目の前に出された物を一人で食べるという感じだったんだけど、レーネルくんやルビスちゃん達のおかげで、『他の人にも分け与える』を覚えたところだったりする。
他の兄姉は双子や三つ子だから分けるのは当たり前だったから、スクルードは心配していたけど、やはり年齢の近い子が側に居ると成長するみたいである。
まぁ、流石に、いきなり後ろから餡子を盗られたのは怒っているけどね。
「んーっ、スーちゃん美味しい。分けてくれてありがとう」
「んふーっ」
「スーも、これでお兄さんになっても大丈夫だな」
「んふーっ」
スクルードが良い顔しているからとりあえずツッコミは止めておくけど、スクルードにあまり期待させないであげて欲しい。
まだ出来てないですよー。まぁ、次の子が出来そうなくらい今回の蜜籠りは凄いけど……冬を乗り切る前に私の腰が持つだろうか?
私も子供の頃は「朱里はこれでいつでもお姉ちゃんだね」を何度聞いたか……妹が生まれるまでの涙ぐましい私の『お姉ちゃん』行動の数々……良い様に両親とお祖母ちゃんに教育されていたなぁと、大人になってわかる……。
「しかし、幼子の饅頭を餡だけ盗むとは随分な奴がいる者だな」
「あっ、うん。『恋仙人』じゃないかってハガネが……」
肩眉を上げてルーファスがハガネを見て、ハガネは粽の竹の皮を取りながら、「かもしれねぇっつーだけだよ」と、もしゃっと食べる。
「ルーファスも『恋仙人』知ってるの?」
「ああ、昔、オレの番が現れないのを心配した年寄り連中がこの大陸に勝手に呼び寄せたことがある」
「へぇー。で、どうなったの?」
「散々、我が儘放題の好き勝手に飲み食いして、オレの番は居ないと告げて帰っていった」
「あらら。偽物だったんだね。うふふふっ」
「そそ、んで、そいつアリクイの獣人だったから、そうじゃねぇーかな?って思っただけなんだけどよ。顔見てねぇから判んねぇけど、まぁ、会いたくもねぇーけどよ」
ルーファスは眉間にしわを寄せているし、ハガネも首を振っている。
あまり会いたくない人の様だ。
「ハガネはあのアリクイに散々コキ使われたからな……」
「あの爺さん、何気に何処にでも現れて、あれ食いたいアレ持ってこいうるさかったしな」
「あらまぁ……ハガネが振り回されるのって珍しいね」
「そんだけ、あの爺さんは食わせ者なんだよ」
ブスッとした顔のハガネにスクルードが粽を「あい!」と渡して、「あんがと」とハガネが粽に齧りついて、自分の粽をスクルードに向けて、食べ合いっこ状態でニィッと二人で笑っている。
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