804 / 960
24章
冬の風物詩
しおりを挟む
冬の師走という時期に、数多く出るのが空き巣事件である。
冬眠の獣人や亜人を狙った空き巣被害は多く、お金のある者は警護を雇い冬を越すが、そうでもない者は貴重品は信用のある場所や人に預けるのである。
温泉大陸では空き巣などしようものなら……袋叩きの上、二度と大陸に入ることが出来なくなる為に、よほどのことが無い限りは空き巣などは無い。
掏りは年に一、二回ありはするが、嗅覚の良い獣人達が匂いを辿り追いつめてくるので、相当手際よく脱出するまでの道順を確保して逃げ出さなければ、袋叩きは免れない。
温泉大陸にはあまり縁のないこの時期の事件ではあるが、『踊り子』という『蜜籠り』の時期に相手のいない者達の相手をする流浪の踊り子達に魅了されて、冬を越す頃には無一文に剥ぎ取られる……ということもあるので、無一文にされないように、お金を信用のある人物に預けるというのが、温泉大陸ではこの時期の風物詩でもある。
「大旦那様~っ、預かって下さい~っ!」
「分かった。まったく、そろそろ身を固めてはどうなんだ?」
「そうは言っても、遅咲きの番がいたら面目立ちませんってば」
「やれやれだな」
貸家の玄関先でご近所の男性に頼まれてお金の入った袋を受け取り、ルーファスが「今年もまた預かるのか」と困った顔で笑っている。
お金を預かるということは、信用されているということなのだけど、他人のお財布を預かるのは少し肝が冷えそうだなぁと、私はちゃぶ台をコタツ仕様に変えつつ思っていたりする。
ちなみに『遅咲きの番』とは、出会いが遅かった番とそのままの意味で、出会いの遅い愛が待っているかもしれないから、番以外の人と所帯を持つのをためらう人が多いのだ。
夢と希望は持ちたいよね。
それにこの世界は出産に関しても年齢がそれなりに高くても、子供は産めるし、長生きな世界なので魔力の満ちた今が一番寿命が延びやすい魔力を浴びているようなものらしいくて、番を探したり待ったりする人は多い。
出会いがあると良いよねぇ……。
「ルーファス、コタツの用意出来たよ~」
「ん、ああ。それじゃあ、今日はミッカでも採りに行くか」
「はーい。なら着替えます~」
流石にミッカを採りに行くなら、着物より洋服の動きやすい服の方が良い。
バッと着物を脱ぐと衣桁かけに着物を掛けて洋服を漁る。
なんというか、着物生活が長くなってしまって着物を脱ぐのも早ければ、着るのも早くなっちゃって、成人式の着物とか時間かかるんだろうなーってイメージだった日本に居た頃とは考え方が変わってしまった。
「よし、今日はタートルネックでいっか」
タートルネックを着ていたら、胸のところで引っかかって「ふぬぅー」と声を上げていた。うん、この世界のタートルネックって少し伸縮性が足りない。
「ぷはっ」
ようやく着れてふぅと息を付いていたら、庭にドサッと音がして、ミッカをいっぱい入れた箱を置いた温泉街の住民の男性が居た。
「あら? ミッカですか?」
「ああ、あ、あ、あの、大旦那と、ど、どどうぞ!」
「ありがとうございます~」
「あ、そ、それじゃぁあああ!!」
なにやら逃げるようにバタバタとその男性は走り去ってしまったけど、ミッカを貰ったということはお出掛けは中止かな?
「アーカーリィィ~」
「へっ? はい? な、なに? 怖いですよ? え?」
なにやらズンズンと顔を怖い顔で近付けてくるルーファスに、私は危険を感じて後退る。
声も地を這うような怖い声なのだけど? なにかやっちゃっただろうか? ミッカ貰っちゃいけなかった??
「オレ以外に、足を見せるとは、どういうことだ?!」
「ふぇ? へっ? ああああ!!!!」
私、スカート穿いて無かったぁぁぁ!!!!
あわわっ、お見苦しいものを人様にお見せしてしまった……
あの男の人がビックリするわけだ……うん。人妻とはいえ、女性が足をモロ見せなんて破廉恥行為と思っているこの世界で、私は破廉恥極まりないことを……申し訳ない!!
あっ、でも、タートルネックに悪戦苦闘しているところも見られたかも……ううっ、恥ずかしいっ!!
「あの、その、ルーファス、ドジっちゃったぁ……あはは~……でも、ミッカ貰ったよぉ……」
笑って誤魔化そうと思ったのに、ルーファスの顔は怖いままなんだけど!?
ううっ、自分の妻が破廉恥なことをしたのは悪かったけど、不可抗力! 不可抗力だよ!
ルーファスの顔の怖さにぺしょっと床に尻もちをつくと、足首を持たれて内腿にガブリと歯を立てられた。
「きゃうっ!」
強く噛まれてぢゅっと吸われて口を放されると、見事に歯形と鬱血が出来ていた。
逆側の内腿もガブリとやられて、「痛いよ」と訴えてもやめて貰えず、裸にひん剥かれて色んな所をガブガブされてしまった……ううっ。
ルーファスのご機嫌が治るまで三日間、私の泣き声と嬌声が響く貸家に、今年はこれ以上はお財布を預けに来る人は居なくて、代わりにリュエールの所にお財布を預ける人が多かったのだとか。
後でリュエールにこってり愚痴られた私は踏んだり蹴ったりである。
パンツ姿見られたのも私なら、ガブガブされまくってあんあんされまくりで、ようやく貸家からヨロヨロと外出が出来たら、息子の愚痴のトリプルパンチを食らってしまった感じである。
とりあえずの教訓は、着替えの時は注意しようってことかな?
冬眠の獣人や亜人を狙った空き巣被害は多く、お金のある者は警護を雇い冬を越すが、そうでもない者は貴重品は信用のある場所や人に預けるのである。
温泉大陸では空き巣などしようものなら……袋叩きの上、二度と大陸に入ることが出来なくなる為に、よほどのことが無い限りは空き巣などは無い。
掏りは年に一、二回ありはするが、嗅覚の良い獣人達が匂いを辿り追いつめてくるので、相当手際よく脱出するまでの道順を確保して逃げ出さなければ、袋叩きは免れない。
温泉大陸にはあまり縁のないこの時期の事件ではあるが、『踊り子』という『蜜籠り』の時期に相手のいない者達の相手をする流浪の踊り子達に魅了されて、冬を越す頃には無一文に剥ぎ取られる……ということもあるので、無一文にされないように、お金を信用のある人物に預けるというのが、温泉大陸ではこの時期の風物詩でもある。
「大旦那様~っ、預かって下さい~っ!」
「分かった。まったく、そろそろ身を固めてはどうなんだ?」
「そうは言っても、遅咲きの番がいたら面目立ちませんってば」
「やれやれだな」
貸家の玄関先でご近所の男性に頼まれてお金の入った袋を受け取り、ルーファスが「今年もまた預かるのか」と困った顔で笑っている。
お金を預かるということは、信用されているということなのだけど、他人のお財布を預かるのは少し肝が冷えそうだなぁと、私はちゃぶ台をコタツ仕様に変えつつ思っていたりする。
ちなみに『遅咲きの番』とは、出会いが遅かった番とそのままの意味で、出会いの遅い愛が待っているかもしれないから、番以外の人と所帯を持つのをためらう人が多いのだ。
夢と希望は持ちたいよね。
それにこの世界は出産に関しても年齢がそれなりに高くても、子供は産めるし、長生きな世界なので魔力の満ちた今が一番寿命が延びやすい魔力を浴びているようなものらしいくて、番を探したり待ったりする人は多い。
出会いがあると良いよねぇ……。
「ルーファス、コタツの用意出来たよ~」
「ん、ああ。それじゃあ、今日はミッカでも採りに行くか」
「はーい。なら着替えます~」
流石にミッカを採りに行くなら、着物より洋服の動きやすい服の方が良い。
バッと着物を脱ぐと衣桁かけに着物を掛けて洋服を漁る。
なんというか、着物生活が長くなってしまって着物を脱ぐのも早ければ、着るのも早くなっちゃって、成人式の着物とか時間かかるんだろうなーってイメージだった日本に居た頃とは考え方が変わってしまった。
「よし、今日はタートルネックでいっか」
タートルネックを着ていたら、胸のところで引っかかって「ふぬぅー」と声を上げていた。うん、この世界のタートルネックって少し伸縮性が足りない。
「ぷはっ」
ようやく着れてふぅと息を付いていたら、庭にドサッと音がして、ミッカをいっぱい入れた箱を置いた温泉街の住民の男性が居た。
「あら? ミッカですか?」
「ああ、あ、あ、あの、大旦那と、ど、どどうぞ!」
「ありがとうございます~」
「あ、そ、それじゃぁあああ!!」
なにやら逃げるようにバタバタとその男性は走り去ってしまったけど、ミッカを貰ったということはお出掛けは中止かな?
「アーカーリィィ~」
「へっ? はい? な、なに? 怖いですよ? え?」
なにやらズンズンと顔を怖い顔で近付けてくるルーファスに、私は危険を感じて後退る。
声も地を這うような怖い声なのだけど? なにかやっちゃっただろうか? ミッカ貰っちゃいけなかった??
「オレ以外に、足を見せるとは、どういうことだ?!」
「ふぇ? へっ? ああああ!!!!」
私、スカート穿いて無かったぁぁぁ!!!!
あわわっ、お見苦しいものを人様にお見せしてしまった……
あの男の人がビックリするわけだ……うん。人妻とはいえ、女性が足をモロ見せなんて破廉恥行為と思っているこの世界で、私は破廉恥極まりないことを……申し訳ない!!
あっ、でも、タートルネックに悪戦苦闘しているところも見られたかも……ううっ、恥ずかしいっ!!
「あの、その、ルーファス、ドジっちゃったぁ……あはは~……でも、ミッカ貰ったよぉ……」
笑って誤魔化そうと思ったのに、ルーファスの顔は怖いままなんだけど!?
ううっ、自分の妻が破廉恥なことをしたのは悪かったけど、不可抗力! 不可抗力だよ!
ルーファスの顔の怖さにぺしょっと床に尻もちをつくと、足首を持たれて内腿にガブリと歯を立てられた。
「きゃうっ!」
強く噛まれてぢゅっと吸われて口を放されると、見事に歯形と鬱血が出来ていた。
逆側の内腿もガブリとやられて、「痛いよ」と訴えてもやめて貰えず、裸にひん剥かれて色んな所をガブガブされてしまった……ううっ。
ルーファスのご機嫌が治るまで三日間、私の泣き声と嬌声が響く貸家に、今年はこれ以上はお財布を預けに来る人は居なくて、代わりにリュエールの所にお財布を預ける人が多かったのだとか。
後でリュエールにこってり愚痴られた私は踏んだり蹴ったりである。
パンツ姿見られたのも私なら、ガブガブされまくってあんあんされまくりで、ようやく貸家からヨロヨロと外出が出来たら、息子の愚痴のトリプルパンチを食らってしまった感じである。
とりあえずの教訓は、着替えの時は注意しようってことかな?
30
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。