黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

肉鍋屋

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 緊急招集も無事に終わり、失格した子達は荷物をまとめてポイッと捨てられ、残った四人は「いつも通り仕事を覚えて、周りをよく見なさい」と言われて仕事に戻っていった。

 座敷牢の中の八人は未だに伸びているらしく、今日中には無理だということで監視付きで本日は放置。

 残った課題の小鬼ちゃん達は従業員がペアを組んで、小鬼ちゃん達の共有情報でお仕事の連携が取れるようにして、指示が小鬼ちゃん経由で飛んで来るようになった。
お仕事の効率化はこれで出来るようになったので、この子達が居なくなった後の方が大変そうだ。
それに一度、仲良くなってしまうと、離れがたいものだからね。

 お役目御免だと、大広間で伸びをして「肉鍋屋さんに行こうか―!」と声を出したところ……何故か、「いいですねー! 大女将!」と……大人数となりました。
 

 『肉鍋屋_湯炎ゆえん_』と看板のあるお店は扉に『本日貸し切り』の張り紙が貼られている。

 賑やかな店内の一角のテーブルでは、テンと『テン』『温泉』の小鬼二人に、三十人弱の小さな小鬼ちゃん達が二つの大きな鍋を囲んでいる。

「鍋の美味しさはタイミングです! 肉と野菜をどのタイミングで引き上げるかなのです!」
「同じ小鬼でも好きな食感はあるのです! 僕は自分のタイミングで食べるのです!」

 大人の小鬼二人がはしを武器に戦う横で、小鬼ちゃん達に均等きんとうに小皿にお鍋の具を分けているテンである。
小鬼ちゃん達全員に行き渡ると、仲良く声を揃えて「いただきます!」と声を上げて、キャイキャイはしゃぐ声と大人の小鬼達が「僕等もいただきます!」と声を上げ、テンがにこやかに笑っている。


 別の一角では朝までは、見習いの羽織を着ていた従業員が「お疲れさまー!」と声を上げてお酒のグラスを合わせている。

「お前、虐めに遭ってたのかよー」
「ワザとに決まってるだろ? いつ殴ろうかとの自分との闘いだったんだぜ?」
「殴れば良かったのにー」
「見習いなんて殴ったら一ヶ月は使いもんにならなくなって、旦那に怒られるに決まってるだろ」
「そりゃそうだ! アハハハ」

 ようやく同僚に「先輩」と言わなくて済むことと、ここぞとばかりに同僚に揶揄からかわれて仕事を押し付けられたことを酒のさかなに、笑い話に花を咲かせての『見習い終了お疲れ様会』になっている。


 他ではいつもの【刻狼亭】の従業員達が、鍋の肉を奪い合って大騒ぎを繰り返している。

「賑やかだねぇ」
「うちの従業員はいつも騒がしいからな」
「それより、早く肉だ肉! 我は肉大盛りだ!」

 肉鍋のお鍋にお玉を入れていると、ハガネがスクルードを抱っこして連れて来た。
ハガネに手を振ると、他の従業員に声を掛けられながらハガネが席に着く。

「よぅ! 今日は鍋っつーから、スーと昼飯セーブしてきたぜ」
「うー! ははうー! にゃべー!」
「ふふっ、いっぱい食べようね」

 ハガネからスクルードを受け取り、抱っこすると凄い勢いで甘えてきて、うちの子こんなにスリスリしてきて可愛いー!! とかニマニマしていたら、ルーファスに横から頭をくっつけられてスリスリされていた。
息子相手に何をムキになっているのか……とは、思うけど、これが我が家の通常なのだから仕方がない。

「アカリ達は今日から屋敷に帰ってくんのか?」
「荷物を貸家から持ち出さないといけないから、明日か明後日になるかなぁ?」
「ほいほい。まぁ、そのまま暫く貸家暮らしでも良いんじゃねぇ―の?」
「えー? なんで?」
「スーに魔法を教えてんだけどよ。多分、アカリが戻ってきたら甘えて中々覚えねぇだろうからな」
「ふぇー……スパルタ教育……」

 でも、スクルードは将来、時間移動をして異世界を渡る能力を持ってしまうのだから、魔力のコントロールを覚えさせるのは早い方が良いのだろう。
ルーファスを見れば、目が合って「ハガネに任せよう」と言って私も頷く。
今までうちの子達を育ててくれたハガネへの信頼は厚いし、なによりハガネ以上のスクルードの魔法の先生は居ないだろう。

「まぁ、たまにはアカリが騒がしくねぇ屋敷も良いもんだぜ?」
「もぅ、酷い~っ」
「嫁は一人で騒がしいからな」
「そんなことないよ!?」

 シシッと笑ってハガネが鍋からお肉をよそってくれる。
グリムレインもハガネにお皿を出して、次々とお鍋のお肉はグリムレインのお腹に収まっていく。
なんというか、わんこそば状態……。

「ほら、スーしっかり食べろ」

 ルーファスはスクルードに冷ましながら食べさせているから、このわんこそば状態も我関せずである。
スクルードはよく噛んで食べる方なので、咀嚼そしゃく時間が長いからゆっくり食べる方で、上の子達にはないマイペースさがある。
 まぁ、他の子達は双子や三つ子だから、競争するように食べちゃっていたのだろうけど、一人っ子状態だとこんなにもゆっくりなのかと驚くくらいだ。

「はい。ルーファス、あーん」
「んっ」

 私はルーファスに食べさせて肉鍋を楽しみつ、グリムレインに大盛りデザートを注文して今日のお礼をたっぷり形で示しておいた。
今日のルーファスとグリムレインは本当に心強かったから、負ける戦いではなくても、悪意のような目が向けられるのは心によろしくない。後ろに二人が居てくれなかったら、怖気付いて喋ることもカミカミだっただろう。
色々と今回はあったけど、なにはともあれ、【刻狼亭】により良い従業員が増えて『家族』としてやっていければと思う。
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