790 / 960
24章
肉鍋屋
しおりを挟む
緊急招集も無事に終わり、失格した子達は荷物をまとめてポイッと捨てられ、残った四人は「いつも通り仕事を覚えて、周りをよく見なさい」と言われて仕事に戻っていった。
座敷牢の中の八人は未だに伸びているらしく、今日中には無理だということで監視付きで本日は放置。
残った課題の小鬼ちゃん達は従業員がペアを組んで、小鬼ちゃん達の共有情報でお仕事の連携が取れるようにして、指示が小鬼ちゃん経由で飛んで来るようになった。
お仕事の効率化はこれで出来るようになったので、この子達が居なくなった後の方が大変そうだ。
それに一度、仲良くなってしまうと、離れがたいものだからね。
お役目御免だと、大広間で伸びをして「肉鍋屋さんに行こうか―!」と声を出したところ……何故か、「いいですねー! 大女将!」と……大人数となりました。
『肉鍋屋_湯炎_』と看板のあるお店は扉に『本日貸し切り』の張り紙が貼られている。
賑やかな店内の一角のテーブルでは、テンと『テン』『温泉』の小鬼二人に、三十人弱の小さな小鬼ちゃん達が二つの大きな鍋を囲んでいる。
「鍋の美味しさはタイミングです! 肉と野菜をどのタイミングで引き上げるかなのです!」
「同じ小鬼でも好きな食感はあるのです! 僕は自分のタイミングで食べるのです!」
大人の小鬼二人が箸を武器に戦う横で、小鬼ちゃん達に均等に小皿にお鍋の具を分けているテンである。
小鬼ちゃん達全員に行き渡ると、仲良く声を揃えて「いただきます!」と声を上げて、キャイキャイはしゃぐ声と大人の小鬼達が「僕等もいただきます!」と声を上げ、テンがにこやかに笑っている。
別の一角では朝までは、見習いの羽織を着ていた従業員が「お疲れさまー!」と声を上げてお酒のグラスを合わせている。
「お前、虐めに遭ってたのかよー」
「ワザとに決まってるだろ? いつ殴ろうかとの自分との闘いだったんだぜ?」
「殴れば良かったのにー」
「見習いなんて殴ったら一ヶ月は使いもんにならなくなって、旦那に怒られるに決まってるだろ」
「そりゃそうだ! アハハハ」
ようやく同僚に「先輩」と言わなくて済むことと、ここぞとばかりに同僚に揶揄われて仕事を押し付けられたことを酒の肴に、笑い話に花を咲かせての『見習い終了お疲れ様会』になっている。
他ではいつもの【刻狼亭】の従業員達が、鍋の肉を奪い合って大騒ぎを繰り返している。
「賑やかだねぇ」
「うちの従業員はいつも騒がしいからな」
「それより、早く肉だ肉! 我は肉大盛りだ!」
肉鍋のお鍋にお玉を入れていると、ハガネがスクルードを抱っこして連れて来た。
ハガネに手を振ると、他の従業員に声を掛けられながらハガネが席に着く。
「よぅ! 今日は鍋っつーから、スーと昼飯セーブしてきたぜ」
「うー! ははうー! にゃべー!」
「ふふっ、いっぱい食べようね」
ハガネからスクルードを受け取り、抱っこすると凄い勢いで甘えてきて、うちの子こんなにスリスリしてきて可愛いー!! とかニマニマしていたら、ルーファスに横から頭をくっつけられてスリスリされていた。
息子相手に何をムキになっているのか……とは、思うけど、これが我が家の通常なのだから仕方がない。
「アカリ達は今日から屋敷に帰ってくんのか?」
「荷物を貸家から持ち出さないといけないから、明日か明後日になるかなぁ?」
「ほいほい。まぁ、そのまま暫く貸家暮らしでも良いんじゃねぇ―の?」
「えー? なんで?」
「スーに魔法を教えてんだけどよ。多分、アカリが戻ってきたら甘えて中々覚えねぇだろうからな」
「ふぇー……スパルタ教育……」
でも、スクルードは将来、時間移動をして異世界を渡る能力を持ってしまうのだから、魔力のコントロールを覚えさせるのは早い方が良いのだろう。
ルーファスを見れば、目が合って「ハガネに任せよう」と言って私も頷く。
今までうちの子達を育ててくれたハガネへの信頼は厚いし、なによりハガネ以上のスクルードの魔法の先生は居ないだろう。
「まぁ、たまにはアカリが騒がしくねぇ屋敷も良いもんだぜ?」
「もぅ、酷い~っ」
「嫁は一人で騒がしいからな」
「そんなことないよ!?」
シシッと笑ってハガネが鍋からお肉をよそってくれる。
グリムレインもハガネにお皿を出して、次々とお鍋のお肉はグリムレインのお腹に収まっていく。
なんというか、わんこそば状態……。
「ほら、スーしっかり食べろ」
ルーファスはスクルードに冷ましながら食べさせているから、このわんこそば状態も我関せずである。
スクルードはよく噛んで食べる方なので、咀嚼時間が長いからゆっくり食べる方で、上の子達にはないマイペースさがある。
まぁ、他の子達は双子や三つ子だから、競争するように食べちゃっていたのだろうけど、一人っ子状態だとこんなにもゆっくりなのかと驚くくらいだ。
「はい。ルーファス、あーん」
「んっ」
私はルーファスに食べさせて肉鍋を楽しみつ、グリムレインに大盛りデザートを注文して今日のお礼をたっぷり形で示しておいた。
今日のルーファスとグリムレインは本当に心強かったから、負ける戦いではなくても、悪意のような目が向けられるのは心によろしくない。後ろに二人が居てくれなかったら、怖気付いて喋ることもカミカミだっただろう。
色々と今回はあったけど、なにはともあれ、【刻狼亭】により良い従業員が増えて『家族』としてやっていければと思う。
座敷牢の中の八人は未だに伸びているらしく、今日中には無理だということで監視付きで本日は放置。
残った課題の小鬼ちゃん達は従業員がペアを組んで、小鬼ちゃん達の共有情報でお仕事の連携が取れるようにして、指示が小鬼ちゃん経由で飛んで来るようになった。
お仕事の効率化はこれで出来るようになったので、この子達が居なくなった後の方が大変そうだ。
それに一度、仲良くなってしまうと、離れがたいものだからね。
お役目御免だと、大広間で伸びをして「肉鍋屋さんに行こうか―!」と声を出したところ……何故か、「いいですねー! 大女将!」と……大人数となりました。
『肉鍋屋_湯炎_』と看板のあるお店は扉に『本日貸し切り』の張り紙が貼られている。
賑やかな店内の一角のテーブルでは、テンと『テン』『温泉』の小鬼二人に、三十人弱の小さな小鬼ちゃん達が二つの大きな鍋を囲んでいる。
「鍋の美味しさはタイミングです! 肉と野菜をどのタイミングで引き上げるかなのです!」
「同じ小鬼でも好きな食感はあるのです! 僕は自分のタイミングで食べるのです!」
大人の小鬼二人が箸を武器に戦う横で、小鬼ちゃん達に均等に小皿にお鍋の具を分けているテンである。
小鬼ちゃん達全員に行き渡ると、仲良く声を揃えて「いただきます!」と声を上げて、キャイキャイはしゃぐ声と大人の小鬼達が「僕等もいただきます!」と声を上げ、テンがにこやかに笑っている。
別の一角では朝までは、見習いの羽織を着ていた従業員が「お疲れさまー!」と声を上げてお酒のグラスを合わせている。
「お前、虐めに遭ってたのかよー」
「ワザとに決まってるだろ? いつ殴ろうかとの自分との闘いだったんだぜ?」
「殴れば良かったのにー」
「見習いなんて殴ったら一ヶ月は使いもんにならなくなって、旦那に怒られるに決まってるだろ」
「そりゃそうだ! アハハハ」
ようやく同僚に「先輩」と言わなくて済むことと、ここぞとばかりに同僚に揶揄われて仕事を押し付けられたことを酒の肴に、笑い話に花を咲かせての『見習い終了お疲れ様会』になっている。
他ではいつもの【刻狼亭】の従業員達が、鍋の肉を奪い合って大騒ぎを繰り返している。
「賑やかだねぇ」
「うちの従業員はいつも騒がしいからな」
「それより、早く肉だ肉! 我は肉大盛りだ!」
肉鍋のお鍋にお玉を入れていると、ハガネがスクルードを抱っこして連れて来た。
ハガネに手を振ると、他の従業員に声を掛けられながらハガネが席に着く。
「よぅ! 今日は鍋っつーから、スーと昼飯セーブしてきたぜ」
「うー! ははうー! にゃべー!」
「ふふっ、いっぱい食べようね」
ハガネからスクルードを受け取り、抱っこすると凄い勢いで甘えてきて、うちの子こんなにスリスリしてきて可愛いー!! とかニマニマしていたら、ルーファスに横から頭をくっつけられてスリスリされていた。
息子相手に何をムキになっているのか……とは、思うけど、これが我が家の通常なのだから仕方がない。
「アカリ達は今日から屋敷に帰ってくんのか?」
「荷物を貸家から持ち出さないといけないから、明日か明後日になるかなぁ?」
「ほいほい。まぁ、そのまま暫く貸家暮らしでも良いんじゃねぇ―の?」
「えー? なんで?」
「スーに魔法を教えてんだけどよ。多分、アカリが戻ってきたら甘えて中々覚えねぇだろうからな」
「ふぇー……スパルタ教育……」
でも、スクルードは将来、時間移動をして異世界を渡る能力を持ってしまうのだから、魔力のコントロールを覚えさせるのは早い方が良いのだろう。
ルーファスを見れば、目が合って「ハガネに任せよう」と言って私も頷く。
今までうちの子達を育ててくれたハガネへの信頼は厚いし、なによりハガネ以上のスクルードの魔法の先生は居ないだろう。
「まぁ、たまにはアカリが騒がしくねぇ屋敷も良いもんだぜ?」
「もぅ、酷い~っ」
「嫁は一人で騒がしいからな」
「そんなことないよ!?」
シシッと笑ってハガネが鍋からお肉をよそってくれる。
グリムレインもハガネにお皿を出して、次々とお鍋のお肉はグリムレインのお腹に収まっていく。
なんというか、わんこそば状態……。
「ほら、スーしっかり食べろ」
ルーファスはスクルードに冷ましながら食べさせているから、このわんこそば状態も我関せずである。
スクルードはよく噛んで食べる方なので、咀嚼時間が長いからゆっくり食べる方で、上の子達にはないマイペースさがある。
まぁ、他の子達は双子や三つ子だから、競争するように食べちゃっていたのだろうけど、一人っ子状態だとこんなにもゆっくりなのかと驚くくらいだ。
「はい。ルーファス、あーん」
「んっ」
私はルーファスに食べさせて肉鍋を楽しみつ、グリムレインに大盛りデザートを注文して今日のお礼をたっぷり形で示しておいた。
今日のルーファスとグリムレインは本当に心強かったから、負ける戦いではなくても、悪意のような目が向けられるのは心によろしくない。後ろに二人が居てくれなかったら、怖気付いて喋ることもカミカミだっただろう。
色々と今回はあったけど、なにはともあれ、【刻狼亭】により良い従業員が増えて『家族』としてやっていければと思う。
40
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。