黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

見習い

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 パンパン__。
見習いさん達は固まってしまっているので、手を叩いて正気に戻す。

「さてと、大女将としては、これくらいです。あとは……」
「あとは息子に任せよう。オレ達は隠居した身だしな」
「はい。古株がいつまでも根付いたら駄目ね。あとはリューちゃん、任せますね?」

 リュエールが「はいはい」と、グリムレインがぺしゃんこにしてしまった八人を従業員に「座敷牢へ、目覚め次第、洗いざらい吐かせるように」と命じて、八人と数人の従業員が居なくなった。

 ルーファスに抱き上げられて、グリムレインを従えて私はシュトラールの横に並ぶ。
あとはリュエール任せなので、私達は扇子を広げてコソコソ話をする。

「アカリがあの場を支配していたようで、ゾクゾクした」
「ちゃんと出来たかな? ふふっ」
「我も頑張ったのだぞ?」
「グリムレインもありがとう。肉鍋屋さんでお礼は弾みますよ~」

 三人でクスクス笑いながら、私の溜飲りゅういんは下がった感じなので、いつも通りの私に戻る。
二人も私の怒りが静まったので、警戒を少し解いていくれる。まぁ、見習いの手前、完全に警戒は解けないけれど。

「小鬼の件に関しては、これ以上は問題を起こすようなことは無いと思いますが、次の件に移りますね?」

 リュエールがにこやかに笑って、残った見習いさん達は「小鬼の件だけじゃないのか?」という顔をしている。
当たり前である。見習いに紛れていた従業員の報告で、【刻狼亭】にこいつは不要とされた人が数名居るのだから。

「まず、うちの従業員は基本、冒険者ランクは最低でSランクでね。君達、見習いと一緒に行動していた従業員は、SSランク保持者だということを先に伝えておくよ」

 リュエールの言葉の意味が分かった見習いは青ざめている子が三人。
青ざめている子達が、きっとうちの大事な従業員になにかやらかしちゃったんだろう。
まぁ、少し従業員さんもそういう風に演技して誘っていたのもあるから、困ったものだ。

「『オレは冒険者でもAランク、称号も持ってんだぜー。痛い目に遭いたくなかったら、オレの仕事代わりにやっとけよな』なんて台詞は、自分に与えられた仕事一つまともに出来ないから吐けるんだろうね。そんなんだからAランク止まりなんだよ? という言葉を言っておくよ」

 リュエールの良い笑顔に、見習いの中の一人が青ざめてから耳まで赤くなってる……可哀想に、うちの息子さんはチクチク攻撃してくる子なのですよ。

「『お客様がデザートを先に持って来て欲しいって、言ってましたから6番テーブルにお願いします』『えー、6番テーブルのお客様はデザートは後でって、私ちゃんと伝えましたよ』『先輩に怒られて可哀想~』でしたか? 同じことを何度も繰り返すなんて、記憶力の無いあなたの頭に可哀想って、言葉を言いたいですね」

 リュエールは記憶力の良い子なので、報告書は頭の中にあるから、ニコニコ笑顔でスラスラと嫌味付きで毒を吐いてくる子なのです。
ああ、見習いの女の子は真っ赤になって下を向いちゃいましたよ。

「『あー、早く従業員になって暴れてぇー。ちょっとお前憂さ晴らしに殴らせろよ。こんな見習いなんてやってらんねぇーよなー』あはは。だったら、見習いを本日辞めてもらいますし、憂さ晴らしに僕が付き合ってあげますよ? 仕事のストレス、結構溜まっているので、安心して下さいね?」

 拳を握るだけでなんでバキバキ骨が鳴っているのか……不思議。
あっ、見習いが倒れた。人を殴ることは出来る癖に、自分が殴られることは想像しただけで気を失うとか、情けないぞー! と、心の中で野次を飛ばしておくけど、他の従業員も同じことを思っていそう。

「リューは怖いのぅ」
「リューちゃんはストレス多そうだからねぇ」

 グリムレインとコソコソ話していると、シュトラールも話に参加してきて「リューが禿げないように、髪が生える蘇生魔法でも覚えようかな?」と言ってきて、「ブフッ」と吹き出したら、ゴゴゴゴと音がしそうな邪悪な笑顔でリュエールに睨まれてしまって、私達三人は首を横に振ることになる。


 リュエールがコホンと、咳払いして「最後の件ですが」と言葉を発する。

「お客様からお預かりしていた物を、破損させた見習いがいた様なので、調べさせました。これに心当たりのある人は、今のうちに名乗り出てください」

 見習いの中でペテロピが手を上げると、可哀想な程、震えている。
でも、これって転ばしたのはクミンの仕業だから、犯人はクミンじゃなかったんだろうか?
私が首を傾げると、リュエールは小さく顎を見習いの一人に向ける。

 ペテロピの他に、もう一人手を上げている男の見習いが居た。
ペテロピも目を丸くしているし、眉を下げて「庇ってるの? ウチがやったのはみんな知ってるから、庇ってくれなくてもいいんだよ?」と必死に言っていた。

「実は……預かったその日に、杖を磨いておこうとして、力を入れ過ぎてヒビが入ってしまって、クミンに内緒にしておくと言われて、黙ったままでした……お客様は館内は、折り畳みの杖を使っていたので、三日間バレなくて……もしかしたら、お客様にバレないままお帰り頂けるかと……すいませんでした!!」

 頭を下げる見習いの男にリュエールが頷く。

「こういうことは、直ぐに報告するようにね。今回は問題なく母上がどうにかしたけど、これは【刻狼亭】の信用問題になるからね。まぁ、あの杖は磨いたくらいじゃ折れない世界で二番目に硬い樹で出来ているから、君達二人共、クミンに仕組まれただけだから、今後、気を付ければいいよ」

 良かったー……と、声が出て、ペテロピも同じように声を出していた。
何とか、杖の件は丸く収まって良かった。しかし、クミン、あの子はやらかしすぎでしょう!
まったく、困ったものだ。

「僕からは以上なんだけど、父上と母上は何かある?」

 ルーファスが「ふむ」と声を出して、残った見習いを見つめる。
残っているのは七人だけど、うち三人は今の話で『失格』は確実で、残り四人という感じになる。
私がここに来る途中に掴みかかってきた男は失格者の一人だし、許さないから!と言った女の子もそうだった。
残るは私をクミンを信じて諭そうとして来た子一人……まぁ、恨むほどじゃない。

「私は、無いわ」
「オレのつがいが良いのならば、それでいい」

 残ったのは、ペテロピと岩肌の男性に、杖事件の男性、諭そうした女の子。
たった十日余りで、四人しか見習いが残らなかったとは……最初は四十人くらい居たのは、気のせいだったのかしら? と、思わなくもないけど……【刻狼亭】にしては多く残った方かもしれない。
まぁ、もうしばらくは見習いとして扱かれるとは思うけど、ぜひぜひ、折角残ったのだから頑張って欲しい所である。
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