黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

反撃開始!

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 お腹を押さえて笑う自分の双子の弟に少し呆れた目をして、リュエールが次々と見習いの中から人の名を呼んでいく。
見習いの人達は、名前を呼ばれて前に立って行く、残された見習い達は不安げな顔をするか、自分では無いことへの安堵あんどの表情かという感じで、ペテロピは私を見て少し泣きそうで、横にはルーファスも立っていることで余計に不安がっているのだろう。
最後の一人が前に出ると「以上です」とリュエールが言った時、クミンを含めて、数人の見習いが意地の悪い笑みを口に浮かべていた。

 私達、前に立たされた見習いに向けられた目を、各自が見つめ返す。
そして、少し顔に笑みを浮かべる。ちゃんと、覚えましたからね? そんな意味合いを込めて。

「では、前に出た人達は、今までありがとうございました」
「いえいえ、結構、楽しませてもらいましたよ」
「本当に、短い期間でしたが面白かったです」

 リュエールがそう言い、応える見習いは勿論、見習いに扮した従業員である。
見習いに扮するのは今日までの感謝の挨拶なので笑い合っている為、クミンを含めた残りの見習い達は困惑した顔になっている。
それぞれが見習いの羽織はおりを脱ぎ、元の従業員の羽織になると見習い達の目がギョッとして大きく見開かれる。

「今、前に出て貰った人達は【刻狼亭】の従業員で、見習いの皆さんの仕事を査定してもらっていた方々です」

 リュエールが少し目を細めて笑い、青ざめる見習いの幾人かを見つめ返すと、見習い達は下を向く。

「この【刻狼亭】では信頼が無ければいけませんと、最初に言いましたよね? そして、あなた方、見習いは信用にあたいしないのだとも___、足の引っ張り合い、仕事の押し付け、暴力行為、色々と報告を貰っています」

 そんなこともしていたのかと、呆れ顔で私は下を向いた人達を見る。
別の意味で下を向いて顔を赤くしてガチガチになっているペテロピを見て、少し顔が緩んでしまう。後でちゃんと彼女には謝っておこう。

 従業員に戻った人達は他の従業員達の列に戻り、私とルーファスはリュエールの横に立っている。
私の後ろには勿論グリムレイン付きだから、かなり私という人間がどういう立場の人間か、混乱した目が向けられている。

「さて、今回は小鬼見習いについての件で、色々と報告が上がってきたからね。まずは、僕の弟のシュトラールからの報告で、クミンという見習いが、ここに居るミヤから、小鬼の目の神経を破壊する目薬を渡されたと聞いたんだけど、クミン、それは本当かな?」

 シュトラールが手をヒラヒラとして見習いに自分が弟だとアピールしている。
まぁ、黒狼族な時点で気付くと思う。まぁ、クミンみたいに大旦那だと思ってた人も居たのか、残念そうな顔をした子もいるけど……意外と、ルーファスの顔を見たい人は居るようだ。

 そして、シュトラールからクミンへ目を向ければ、少し困惑しているのかせわしなく目が動いている。
だから、私は困った顔で目をらして見せた。 

「はい。そうです! そこに居るミヤが、小鬼の目に良い物だとくれたんです! 他に目薬を貰った人もきっとミヤから貰ったんです」

 私は目線を戻して、クミンの言葉に「そうだ! ミヤがくれた物だ」と声を出している数人を見つめる。
この中の誰かが、目薬の犯人だ……従業員達も見習いの行動を全員で見ている。

「他にミヤから目薬を貰った人はいるかい? いるなら挙手きょしゅを」

 数人の手が上がり、上げていない見習いにも目を向ける。
挙動きょどうの怪しい見習いが居ないかどうかを、小鬼ちゃん達の為にも見なくてはいけない。

「では、その人達は前へ来てくれるかな?」

 前へ、見習いがクミンを含めた八人来た。

「さて、この八人は全員ミヤから目薬を貰ったんだね? 違う人はいる?」
「ミヤです! コイツです!」
「俺達は、このガキに貴重な目薬だと言って渡されたんだ!」
「アタシ達は本当に効能なんて知らなかったんです!」

 騒ぎ立てる見習い達に、ルーファスが眉間にしわを寄せてヴヴヴッと唸り声を上げているのを、左手でポンポンと叩いて落ち着かせつつ、右手で冷気をピシピシいわせているグリムレインをポンポンと叩いて落ち着かせる。

「この前に居る八人以外で、この目薬の噂や話を耳にしたことがある人はいる?」

 リュエールが残った七人の見習い達に目を向ける。
残りの見習い達はお互いに目を合わせたりして、どうするか迷っているようだ。
そこに一人の手が上がる。

「あの! ミヤは小鬼が好きで、デザートとかお菓子とかくれる子なんです! 絶対、小鬼に酷いことはしません!」

 手を握りしめて、必死に私を庇う声を上げてくれたのはペテロピで、私はそんなペテロピの言葉にうるっとしてしまいそうになった。もうしているかもしれないけど。

「それにウチがお客様の杖を折った時も、ミヤが対処してくれたんです! だからっ、だから、違うんです! ミヤは、親切で、優しくて、温かくて……」
「うん。ありがとう、その辺でいいよ。他にもこの子以外に意見はあるかな?」

 ペテロピが良い子過ぎて、感動して涙が出たのを左右からルーファスとグリムレインが指で拭いてくれる。
グリムレインに指で拭かれて少し、涙に薄氷が張ってしまったけど……。

「あの、目を良くする……って、噂じゃないのを聞きました」
「へぇ、どういう噂かな?」

 おずおずと小さく手を上げて申し訳なさそうにしているのは、体がハガネより大きい岩肌の男の人だった。
あまり接点はなかったけど、体のわりに小心な感じのようだ。

「小鬼の目をぼやけさせる目薬で、監視を逃れられるから使ってみないかと、そこのエーベに言われて、断りました」
「目をぼやけさせる……成程、他に同じ様な噂を聞いた人はいるかな?」

 エーベと名を出された男の見習いの肩が揺れて、岩肌の男性を睨みつけたのをハッキリ確認した。
他の従業員も確認した様で、頷いている。

「あの、私達も聞きました。でも小鬼は仕事中に道に迷ったり、仕事の順番で迷うと教えてくれる大事なコンビなので、断りました。……エーベさんが、話を持ってきました」

 隣りの女の子も頷いていて、エーベが私を指さす。

「俺はミヤから貰ったんだ! 他の奴にも分けてやれって言われて持ってただけだ! 目がぼやける程度で、目の神経が破壊されるなんて知らなかった! 全部、ミヤが仕組んだことだ!」

 リュエールが、私の顔を見て小さく肩をすくめる。

「そんなことをしたんですか? 母上」

 リュエールがハッキリと私に向かい「母上」と言ったので、私は笑顔で答える。

「私が大事な【刻狼亭】の不利益になるようなことをする、母親に見えるの?」
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