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24章
証言
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「ミヤがどうして、君を騙す必要があったのかな?」
やんわりとしたシュトラールの問いにクミンは目を潤ませる。
ああ、また嘘泣きして! と、私はマグノリアとテッチの後ろでギリギリしつつ、いつの間にか現れた製薬部隊のロタルスとウエイトも加わり、コソッと「面白いことになってますね」と言われ、うちの従業員は楽しんでいるなぁって、ガクリとしてしまう。
「前に、ミヤを誤解して見習いを辞めるんだねって……言っちゃって、グスッ、そしたら大きい声で怒って……グスン、怖かったんです……、あれ以来、あの子、私に辛くあたってて、グスッ」
「へぇー、じゃあなんで、そんな怖い子から目薬なんて貰ったの?」
「グスッ……、私、仲良くしたくて、だって、一緒に働く仲間ですよ? 騙すなんて……小鬼達にも申し訳ない事を……ごめんね? 私のせいで、私が騙されちゃったばかりに……クスン」
嘘泣きが鬱陶しいよー! なにその「許してね?」みたいなうるうるした目で小鬼ちゃんを見てるの!
小鬼ちゃんが逆に脅えて後退ってるじゃないですか!
ああ、今すぐ出て行ってクミンの肩を揺さぶってやりたい感じだけど、マグノリアさんとテッチに後少し待つように、指でサインを送られている。
でも、どうどう、と牛に待てをするみたいな感じで「もぅ!」と言ってやりたい。
「小鬼の目がどういうものかは知っている?」
「はい! 小鬼の目で見た物は大事なお仕事に繋がる大事な目です。目を癒してあげるのはコンビの務めです!」
「ふぅーん。大事な目ってちゃんと理解してたんだね」
「当たり前じゃないですか!」
シュトラールの目が怒った時のルーファスとリュエールの敵を見る時の目になってる。
これはのほほんとしたシュトラールを怒らせたのは間違いない。ルーファスやリュエール程じゃないけど、シュトラールも怒ると室内温度が下がった感じが出るんだよね。
私は分からないけど、小鬼ちゃん達はビクビクしているし、クミンにもそれは伝わっているのか顔の表情が硬くなっている。
「他の見習いにも君は目薬をすすめたりした?」
「いえ、それはしていません。でも、きっとミヤです! ミヤが他の見習いを蹴落としたくてやったんです!」
私がやったとは言っているけど、他の見習いに目薬を広めたのはクミンでは無いようだ。
それは表情が嘘を付いている時とは違って、必死さも演技もなかったから。
「わかった。嘘は無いんだね?」
「はい! 嘘なんか言っていません!」
「この小鬼達は、今のやり取りを記憶したから、事務所の小鬼に報告すれば証言は覆せない。証言の訂正があるなら、今のうちだけど……どうする?」
「私は、嘘など一切言っていません! 本当です! 信じてください!」
シュトラールが私にチラッと目を向け、私は小さく首を振る。
「そう、なら父上達にオレからも言っておくよ」
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げたクミンの口元と目が弓なりに笑ったのを、私は見ていた。
ああ、ハガネにも辞めろと言われ、大女将の私にも心根を入れ替えろと言われても、この子はチャンスを自分で棒に振った。
なんて、醜悪な笑みだろう……。
「ロタルス、ウエイト、他の見習いに旅館の大広間に行くように伝えて。君も大広間に行くと良いよ」
「「わかりました!」」
「はい! 直ぐに行きます!」
ロタルスとウエイトが親指をグッと上げて、私の肩を叩くと製薬室から出て行き、クミンも出て行った。
「母上、なんだか随分嫌われちゃってるんだね?」
「ええ、何故か。あの子には敵視されまくってるわ」
「リューに報告するね。大広間でそろそろ見習い達の選別をしないとね」
「そうね。もう少し、みんなの働きを見て慎重に決めたかったけど、このままじゃ小鬼ちゃん達にも迷惑を掛けてしまうものね」
小鬼ちゃん達はマグノリアさん達が後で大広間に連れて行ってくれることになり、報告をシュトラールがしに行き、私は一応見習いなので大広間へ足を運ぶことにした。
「ミーヤ―!」
私を必死に呼んで、泣きそうな顔をしているペテロピが手を振りながら走り込んで来る。
「どうしたの? なにかあったの?」
「なんか、クミンがミヤが小鬼に目薬をばら撒いたって言ってて、他の子達も言ってて……ミヤはそんなことしないじゃん! なんかみんな、ミヤ探してて……心配で」
「そう。ごめんねペテロピ、大丈夫だから。私が小鬼ちゃんにそんなことする理由は無いし、むしろ小鬼ちゃんにあんな物騒な物をご褒美で渡していたなんて、怒っている最中よ」
「うん、ミヤはそういう子だから、うちは大好きなんだよ~」
ギュウッと抱きつかれて、ああ、この子は本当に友達想いの子なんだなと安心した。
クミンの言うことを真に受けず、自分の信じた物だけを見ている。
「嫁ー!」
聞きなれた嫁呼びの声に振り向くと、人型のグリムレインが抱きついてきて、ペテロピに気付くと「なんだ? こやつは?」と首を傾げる。
「【刻狼亭】の見習いさんだよ」
「ああ、そういえば。婿が見習いを大広間に集めろと言っておったの。我に嫁の警護に付けと言われて来た」
「そう。ありがとうね」
「えっと、ミヤ、この人、誰?」
私は少し眉を下げて笑い、「私の従者だよ」と答える。
やんわりとしたシュトラールの問いにクミンは目を潤ませる。
ああ、また嘘泣きして! と、私はマグノリアとテッチの後ろでギリギリしつつ、いつの間にか現れた製薬部隊のロタルスとウエイトも加わり、コソッと「面白いことになってますね」と言われ、うちの従業員は楽しんでいるなぁって、ガクリとしてしまう。
「前に、ミヤを誤解して見習いを辞めるんだねって……言っちゃって、グスッ、そしたら大きい声で怒って……グスン、怖かったんです……、あれ以来、あの子、私に辛くあたってて、グスッ」
「へぇー、じゃあなんで、そんな怖い子から目薬なんて貰ったの?」
「グスッ……、私、仲良くしたくて、だって、一緒に働く仲間ですよ? 騙すなんて……小鬼達にも申し訳ない事を……ごめんね? 私のせいで、私が騙されちゃったばかりに……クスン」
嘘泣きが鬱陶しいよー! なにその「許してね?」みたいなうるうるした目で小鬼ちゃんを見てるの!
小鬼ちゃんが逆に脅えて後退ってるじゃないですか!
ああ、今すぐ出て行ってクミンの肩を揺さぶってやりたい感じだけど、マグノリアさんとテッチに後少し待つように、指でサインを送られている。
でも、どうどう、と牛に待てをするみたいな感じで「もぅ!」と言ってやりたい。
「小鬼の目がどういうものかは知っている?」
「はい! 小鬼の目で見た物は大事なお仕事に繋がる大事な目です。目を癒してあげるのはコンビの務めです!」
「ふぅーん。大事な目ってちゃんと理解してたんだね」
「当たり前じゃないですか!」
シュトラールの目が怒った時のルーファスとリュエールの敵を見る時の目になってる。
これはのほほんとしたシュトラールを怒らせたのは間違いない。ルーファスやリュエール程じゃないけど、シュトラールも怒ると室内温度が下がった感じが出るんだよね。
私は分からないけど、小鬼ちゃん達はビクビクしているし、クミンにもそれは伝わっているのか顔の表情が硬くなっている。
「他の見習いにも君は目薬をすすめたりした?」
「いえ、それはしていません。でも、きっとミヤです! ミヤが他の見習いを蹴落としたくてやったんです!」
私がやったとは言っているけど、他の見習いに目薬を広めたのはクミンでは無いようだ。
それは表情が嘘を付いている時とは違って、必死さも演技もなかったから。
「わかった。嘘は無いんだね?」
「はい! 嘘なんか言っていません!」
「この小鬼達は、今のやり取りを記憶したから、事務所の小鬼に報告すれば証言は覆せない。証言の訂正があるなら、今のうちだけど……どうする?」
「私は、嘘など一切言っていません! 本当です! 信じてください!」
シュトラールが私にチラッと目を向け、私は小さく首を振る。
「そう、なら父上達にオレからも言っておくよ」
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げたクミンの口元と目が弓なりに笑ったのを、私は見ていた。
ああ、ハガネにも辞めろと言われ、大女将の私にも心根を入れ替えろと言われても、この子はチャンスを自分で棒に振った。
なんて、醜悪な笑みだろう……。
「ロタルス、ウエイト、他の見習いに旅館の大広間に行くように伝えて。君も大広間に行くと良いよ」
「「わかりました!」」
「はい! 直ぐに行きます!」
ロタルスとウエイトが親指をグッと上げて、私の肩を叩くと製薬室から出て行き、クミンも出て行った。
「母上、なんだか随分嫌われちゃってるんだね?」
「ええ、何故か。あの子には敵視されまくってるわ」
「リューに報告するね。大広間でそろそろ見習い達の選別をしないとね」
「そうね。もう少し、みんなの働きを見て慎重に決めたかったけど、このままじゃ小鬼ちゃん達にも迷惑を掛けてしまうものね」
小鬼ちゃん達はマグノリアさん達が後で大広間に連れて行ってくれることになり、報告をシュトラールがしに行き、私は一応見習いなので大広間へ足を運ぶことにした。
「ミーヤ―!」
私を必死に呼んで、泣きそうな顔をしているペテロピが手を振りながら走り込んで来る。
「どうしたの? なにかあったの?」
「なんか、クミンがミヤが小鬼に目薬をばら撒いたって言ってて、他の子達も言ってて……ミヤはそんなことしないじゃん! なんかみんな、ミヤ探してて……心配で」
「そう。ごめんねペテロピ、大丈夫だから。私が小鬼ちゃんにそんなことする理由は無いし、むしろ小鬼ちゃんにあんな物騒な物をご褒美で渡していたなんて、怒っている最中よ」
「うん、ミヤはそういう子だから、うちは大好きなんだよ~」
ギュウッと抱きつかれて、ああ、この子は本当に友達想いの子なんだなと安心した。
クミンの言うことを真に受けず、自分の信じた物だけを見ている。
「嫁ー!」
聞きなれた嫁呼びの声に振り向くと、人型のグリムレインが抱きついてきて、ペテロピに気付くと「なんだ? こやつは?」と首を傾げる。
「【刻狼亭】の見習いさんだよ」
「ああ、そういえば。婿が見習いを大広間に集めろと言っておったの。我に嫁の警護に付けと言われて来た」
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