黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
785 / 960
24章

証言

しおりを挟む
「ミヤがどうして、君を騙す必要があったのかな?」

 やんわりとしたシュトラールの問いにクミンは目を潤ませる。
ああ、また嘘泣きして! と、私はマグノリアとテッチの後ろでギリギリしつつ、いつの間にか現れた製薬部隊のロタルスとウエイトも加わり、コソッと「面白いことになってますね」と言われ、うちの従業員は楽しんでいるなぁって、ガクリとしてしまう。

「前に、ミヤを誤解して見習いを辞めるんだねって……言っちゃって、グスッ、そしたら大きい声で怒って……グスン、怖かったんです……、あれ以来、あの子、私に辛くあたってて、グスッ」
「へぇー、じゃあなんで、そんな怖い子から目薬なんて貰ったの?」
「グスッ……、私、仲良くしたくて、だって、一緒に働く仲間ですよ? 騙すなんて……小鬼達にも申し訳ない事を……ごめんね? 私のせいで、私が騙されちゃったばかりに……クスン」

 嘘泣きが鬱陶うっとうしいよー! なにその「許してね?」みたいなうるうるした目で小鬼ちゃんを見てるの!
小鬼ちゃんが逆に脅えて後退あとずさってるじゃないですか!
ああ、今すぐ出て行ってクミンの肩を揺さぶってやりたい感じだけど、マグノリアさんとテッチに後少し待つように、指でサインを送られている。
でも、どうどう、と牛に待てをするみたいな感じで「もぅ!」と言ってやりたい。

「小鬼の目がどういうものかは知っている?」
「はい! 小鬼の目で見た物は大事なお仕事に繋がる大事な目です。目を癒してあげるのはコンビの務めです!」
「ふぅーん。大事な目ってちゃんと理解してたんだね」
「当たり前じゃないですか!」

 シュトラールの目が怒った時のルーファスとリュエールの敵を見る時の目になってる。
これはのほほんとしたシュトラールを怒らせたのは間違いない。ルーファスやリュエール程じゃないけど、シュトラールも怒ると室内温度が下がった感じが出るんだよね。
私は分からないけど、小鬼ちゃん達はビクビクしているし、クミンにもそれは伝わっているのか顔の表情が硬くなっている。

「他の見習いにも君は目薬をすすめたりした?」
「いえ、それはしていません。でも、きっとミヤです! ミヤが他の見習いを蹴落としたくてやったんです!」

 私がやったとは言っているけど、他の見習いに目薬を広めたのはクミンでは無いようだ。
それは表情が嘘を付いている時とは違って、必死さも演技もなかったから。

「わかった。嘘は無いんだね?」
「はい! 嘘なんか言っていません!」
「この小鬼達は、今のやり取りを記憶したから、事務所の小鬼に報告すれば証言はくつがえせない。証言の訂正があるなら、今のうちだけど……どうする?」
「私は、嘘など一切言っていません! 本当です! 信じてください!」

 シュトラールが私にチラッと目を向け、私は小さく首を振る。

「そう、なら父上達にオレからも言っておくよ」
「あ、ありがとうございます!」

 頭を下げたクミンの口元と目が弓なりに笑ったのを、私は見ていた。
ああ、ハガネにも辞めろと言われ、大女将の私にも心根を入れ替えろと言われても、この子はチャンスを自分で棒に振った。
なんて、醜悪な笑みだろう……。

「ロタルス、ウエイト、他の見習いに旅館の大広間に行くように伝えて。君も大広間に行くと良いよ」
「「わかりました!」」
「はい! 直ぐに行きます!」

 ロタルスとウエイトが親指をグッと上げて、私の肩を叩くと製薬室から出て行き、クミンも出て行った。

「母上、なんだか随分嫌われちゃってるんだね?」
「ええ、何故か。あの子には敵視されまくってるわ」
「リューに報告するね。大広間でそろそろ見習い達の選別をしないとね」
「そうね。もう少し、みんなの働きを見て慎重に決めたかったけど、このままじゃ小鬼ちゃん達にも迷惑を掛けてしまうものね」

 小鬼ちゃん達はマグノリアさん達が後で大広間に連れて行ってくれることになり、報告をシュトラールがしに行き、私は一応見習いなので大広間へ足を運ぶことにした。

「ミーヤ―!」

 私を必死に呼んで、泣きそうな顔をしているペテロピが手を振りながら走り込んで来る。

「どうしたの? なにかあったの?」
「なんか、クミンがミヤが小鬼に目薬をばら撒いたって言ってて、他の子達も言ってて……ミヤはそんなことしないじゃん! なんかみんな、ミヤ探してて……心配で」
「そう。ごめんねペテロピ、大丈夫だから。私が小鬼ちゃんにそんなことする理由は無いし、むしろ小鬼ちゃんにあんな物騒な物をご褒美で渡していたなんて、怒っている最中よ」
「うん、ミヤはそういう子だから、うちは大好きなんだよ~」

 ギュウッと抱きつかれて、ああ、この子は本当に友達想いの子なんだなと安心した。
クミンの言うことを真に受けず、自分の信じた物だけを見ている。

「嫁ー!」

 聞きなれた嫁呼びの声に振り向くと、人型のグリムレインが抱きついてきて、ペテロピに気付くと「なんだ? こやつは?」と首を傾げる。

「【刻狼亭】の見習いさんだよ」
「ああ、そういえば。婿が見習いを大広間に集めろと言っておったの。我に嫁の警護に付けと言われて来た」
「そう。ありがとうね」
「えっと、ミヤ、この人、誰?」

 私は少し眉を下げて笑い、「私の従者だよ」と答える。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。