黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

死活問題

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 少しイライラ気味のリュエールに謝りつつ、杖のことで小鬼達の情報共有上、別の問題が起きていることが分かったらしい。

「何人かの小鬼見習いの映像がおかしいのです」
「おかしい? どんな風にだ?」

 『温泉』の小鬼がルーファスと私を交えて、リュエールに説明を始める。
ちなみに『テン』の小鬼は、そのおかしいことを調べる為に、小鬼ちゃん達を一時回収する為に走り回ってもらっているらしい。

「まず、杖の話で小鬼見習い達に、その時間の映像を出させたのです。その場に居なかった者も含めて全員です」

 小鬼が紙を出し、刻狼亭の簡単な手書きの見取り図に、各自居る場所を印を付けたものだと説明した。

「おかしいのは、映像が不鮮明でぼやけていることです!」
「うん? でも小鬼ちゃん達は肩に乗ってるから、人が動けば揺れたりして不鮮明な感じじゃないの?」
「大女将さん、僕等は瞬時に映像を記憶するので、揺れていても大丈夫なのです! 不鮮明というのが問題なのです! 僕等にとって目から得る情報が不正確なのは、死活問題なのです!」
「もしかして……病気とかなんじゃ……」
「ええ、ですから回収を急いでもらっているのです! 子供達に何かあったら、親御さんの小鬼に申し訳が立たないのです!」

 これは一大事過ぎる……もしかして、小さな子供の小鬼ちゃん達には、温泉大陸の水が合わなかったりしたのだろうか? 
それとも、なにか病気が蔓延していて、小さな小鬼ちゃん達から感染したのだろうか?
ああ、そうしたら……スクルードや産まれたばかりのシャルちゃん達も危ない。

「どうしましょう……子供達も調べた方が!?」
「落ち着け、アカリ。アカリの【聖域】がある限り、子供達も小鬼達も対処できるだろう」
「うん、でも……また魔力の関係で強い病気とかが出て、私の【聖域】が効かなかったら……どうしよう?」
「大丈夫だ。とにかく、まだ何か分かっていないのだから、憶測だけでは何とも言えない」

 ルーファスに肩を抱かれて、どうしようという不安な気持ちだけが渦巻いてしまう。
私自身が今は病気も受け付けない体になってしまったので、病気の影響を直ぐ受けるのは___ありすさんだ。

「ルーファス、ありすさんを先に助けないと……!」
「アカリ、今は小鬼見習いを回収して調べることが先決だ」

 自分の手を両手で握ると、カタカタと震えが出てくる。

「母上、心配なのは分かるけど、落ち着こう? それに映像が不鮮明な小鬼と鮮明な小鬼の二通りがあるんだから、病気とは限らないよ」
「うん、そうだよね……」

 いつもは自分が病気になる側だったから、こんなに誰かが病気になってしまうのが怖いなんて、思わなかった。
ルーファスの胸に顔を押し付けて、どうか何事もありませんようにと、祈る思いだった。

「まぁ、とりあえず、杖の方なのですが……こちらもおかしなことに気付きました」

 小鬼が話を少し反らすかのように、杖の時の映像の話を持ち出す。

「一つは、今回のコケたと言われるペテロピさん、彼女が杖をお客に渡す時の映像で、既に杖には切れ目が入っていました」
「じゃあ、ペネロピが原因ではないのね?」
「ええ。そしてペネロピさんのコケ方が不自然なのです」
「不自然……? わざとコケたとでもいうの?」
「いいえ、逆です。ペネロピを偶然見ていた小鬼が三人いまして、うち二人は不鮮明でしたが、一人は鮮明な映像で、何もないロビーの絨毯じゅうたんの一部がたった一瞬ですが、無くなったのです」 

 絨毯が無くなる? それはそれで問題があるような……。

 あれ……? 今、なにか引っ掛かった。
さっき、私がコケた時もまるで、地面がいきなり無くなったような感じだった。
もしかして、もしかするだろうか?

「リューちゃん、見習いの子達の能力とかって書類にあるの?」
「一応、自己申告で書かせた物ならあるけど?」
「クミンのものを見せて!」
「はい。どうぞ」

 サッと書類が直ぐ出てくる辺り、リュエールもクミンが怪しいと思っていたのだろうか?
いや、違うな……リュエールの場合はキリンちゃんに迷惑を掛けそうだから、調べようとして持っていたのかも?
うん。我が家の長男は後者だわ。絶対。

 書類に目を通すと、クミンは元々大きな街の宿屋で働いていたようだ。
それで働き方に関しては手慣れた感じだったことに納得がいく。
宿屋を辞めた理由は……刻狼亭の公募を見て辞めたとある。
それであんなに、がむしゃらだったのだろうか? それにしては根性悪すぎるけど……きっと、辞めたのは他の理由がありそうだ。

「この子、魔法属性『闇』って、あるんだけど……」
「ああ、うん。闇属性なんだよね。でも、彼女は土属性九割りの闇属性一割りあるかないか。しかも、前の宿屋を辞めた理由も、闇属性の希少性を売り込もうとして、店の客を怒らせるほど執拗にアピールした。まさにその状態が今ココでも起きてる感じかな? まぁ、前の宿屋で懲りたのか闇属性はアピールしてこないけど」

 成程と、私は頷いてみる。
闇属性は聖属性と同じ様に希少な上に、血族にしか受け継いでいかない。
しかも、うちの子供達を見ても、聖属性は八人中三人にしか出なかったから、確実に出るという訳では無い。
まぁ、これでも多いのだけど、普通は八人中ゼロ人。
何代かに渡って偶然現れたら良い方なので、うちの子達三人現れたのは、実は凄いともいえる。

「第一、聖属性は王族や教会なんかに囲われて、ほぼ流出しない属性だけど……闇属性って、攻撃魔法が中心だから闇属性持ちを雇っているってなると、貴族じゃ陰謀を企てているとか色々言われて、ほぼ、見向きもされないからね。いい所で働きたかったら、普通は隠すものなんだよ。だから一般的に知られている、闇属性は希少って言っても……本人達が隠しているだけで、割りとクミンみたいに他の属性のオマケみたいな感じで、結構居るんだよ」
「そうなんだ……。まぁ、聖属性の癒しと違って良いイメージはないものねぇ」

 少し闇属性の人は生き辛そうと感じてしまう。
クミンはそれなのに、なんで闇属性をアピールしちゃうんだろう?

「それにね、闇属性って、『喪失』魔法も使えるんだ」
「喪失?」
「そっ、物を無くさせちゃう魔法。つまり、いきなり地面を無くしちゃうことも可能ってことだよ」
「なら、クミンが犯人___って、もう調べ上げているの?」
「そりゃ、僕の敵になった以上は、敵でしかないからね。調べるさ」

 ああ、やっぱり、うちの子、クミンを敵認定してた!!
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