782 / 960
24章
嫉妬の手
しおりを挟む
食堂を出てルーファスが私を抱き上げると「唇を閉じて、声は出さんようにな」と耳元で囁いて、地面を蹴ると跳躍して宿舎の二階の窓に飛び移り、窓から宿舎内に入ると窓から少し離れて外の様子を見る。
「はわわっ」
「ああ、すまん。変な気配がついてきていたからな」
「変な気配?」
「クミンのようだ」
あの子がなんで私をつけ回す必要があるのやら?
ルーファスの腕の中で私も窓の外を見れば、クミンが少しキョロキョロした後で料亭の方へ向かっている。
おそらく事務所へ向かったのだろうけど、あの子本当に懲りてないな……。
「やはり、クミンはなにかしらやらかしそうだな」
「うーん。あの子、お仕事だけ頑張ってくれたら本当に良いのだけどね」
「さて、リューに怒られる前に行くか」
「リューちゃんなんの用だろう?」
「さっき、杖のことで調べろと言っていただろ?」
「もう分かったんだ。流石、小鬼達だね」
あの子達の見た物を瞬間記憶してしまうので、映像なんかも共有で見れるのが強みだと思う。
まぁ、『テン』の小鬼はテンが色々やらかすので、「『テン』の小鬼は怖い映像ばかりだから、送らないで―!」とキャーキャー言われたりするらしいけどね。
「それでは降りるが、舌を噛まんようにな?」
「はい」
「と、その前に……」
ルーファスの顔が近付いて唇が重なると、下唇をペロッと舐められて唇が離れる。
満足そうにルーファスが笑って、窓枠に足を掛けると落下する感覚に、ヒュンッとお腹の中がして危うく悲鳴が出そうだった。
アクロバットな移動は私には無理ぃー!!
地面に下りると、ルーファスが下ろしてくれて、ヨロヨロしながら歩いて移動すると屋敷の庭ではグリムレインとハガネとスクルードが七輪で何かを焼いていた。
「なにを焼いてるんだろ?」
「この匂いは……チーズとベーコンとトゥートとリンゴにカスタードのようだな」
「ああ、また美味しそうなことを……」
一体その材料でどんな料理を作っているのか気になるところだけど、近づきすぎるとスクルードの鼻にも引っ掛かるので、ここは一先ず退散である。
絶対あとでハガネに料理を聞いてやるぅ―!!
事務所へ向かうと、料亭内でクミンがフリウーラに怒られていた。
なにをやらかしたのやら? 横を通った時にカクンといきなり足が躓いてコケそうになったのを、ルーファスに抱きとめてもらう。
「大丈夫か? ミヤ」
「うん。平気……いきなり足がカクンってなっただけなの」
なんだったんだろう今の? なにも無いのに、いきなり足が落ちるような感じだった。
思わずクミンを見ると、クミンはフリウーラに怒られて、シュンッとしおらしい顔で涙を堪えるように小さく震えている……感じというか、演技をしている。
ハガネに演技だとバレるような嘘は止めろって言われたのに、懲りて無いなぁ。
フリウーラも困ったような顔をしていて、私と目が合うと小さく首を振る。
「フリウーラ、どうしたんだ?」
「それがねぇ、この子が事務所に入ろうとして、旦那様から立ち入りを禁止されたんだよ。そしたら、なにが悪かったのか教えてくれって……そんなのも分かんないようじゃ【刻狼亭】ではやっていけないって言われて、納得いかなかったのか、こともあろうに女将に聞くって言って、旦那様を怒らせちまったんだよ」
あー、それは駄目だわ。
リュエールは番のキリンちゃんのこと大好きだから、迷惑を掛けようとした時点でリュエールの敵認定されちゃってる。
「愚かだな。番持ちは番を一番大事にする。その番に迷惑を掛けようとした時点で、クミン、お前は近いうち辞めることになるだろう」
私と同じ意見に達しているルーファスがクミンにそう言うと、クミンがバッと顔を上げる。
「そんな……っ、私、悪いことなんて……グスッ」
___パンッ。
うるうると瞳を潤ませて涙目で訴えるクミンが、ルーファスに手を伸ばしたのを見て、咄嗟にクミンの手を叩いていた。
「あっ……」
私とクミンどっちの声だったのか、クミンが「酷いッ!」と泣いて駆け出していき、私も自分が嫉妬して人に手をあげた事で、心臓がバクバクいっていた。
完全に私が悪者のような状態になってる……と、いうか私が悪いんだけど、手を出しちゃ駄目だった。
ルーファスとフリウーラが「今のは仕方ない」と言ってくれたけど、叩いた手はヒリヒリして罪悪感が胸に渦巻く。
あんなミルア達と変わらないような子に嫉妬してしまうなんて、情けない。
ルーファスに「叩いた手は痛くないか?」と聞かれたけど、痛くないと答えた。
これは、私が人に手を出してしまった痛みで、理由なんか無い、ただの暴力だ。
今まで、何度か手を出してしまった事はあるけど、全部、理由があった。でも、今回のは醜い嫉妬でしかない。
私が自己嫌悪に陥っていると、ルーファスが「アカリが嫉妬してくれたことが嬉しいな」と耳元で囁き、手の平に回復魔法をかけてくれた。
「しかし、あの子は仕事は出来るのに、ああいうところが子供で、未完成だね」
「若いからと言って、少し査定が甘くなり過ぎていたな」
フリウーラが腰に手を当てて、クミンの走って行った方向を見ていた。
私とルーファスは事務所の方へ行き、リュエールに「遅い!」と八つ当たり気味に怒られてしまった。
「はわわっ」
「ああ、すまん。変な気配がついてきていたからな」
「変な気配?」
「クミンのようだ」
あの子がなんで私をつけ回す必要があるのやら?
ルーファスの腕の中で私も窓の外を見れば、クミンが少しキョロキョロした後で料亭の方へ向かっている。
おそらく事務所へ向かったのだろうけど、あの子本当に懲りてないな……。
「やはり、クミンはなにかしらやらかしそうだな」
「うーん。あの子、お仕事だけ頑張ってくれたら本当に良いのだけどね」
「さて、リューに怒られる前に行くか」
「リューちゃんなんの用だろう?」
「さっき、杖のことで調べろと言っていただろ?」
「もう分かったんだ。流石、小鬼達だね」
あの子達の見た物を瞬間記憶してしまうので、映像なんかも共有で見れるのが強みだと思う。
まぁ、『テン』の小鬼はテンが色々やらかすので、「『テン』の小鬼は怖い映像ばかりだから、送らないで―!」とキャーキャー言われたりするらしいけどね。
「それでは降りるが、舌を噛まんようにな?」
「はい」
「と、その前に……」
ルーファスの顔が近付いて唇が重なると、下唇をペロッと舐められて唇が離れる。
満足そうにルーファスが笑って、窓枠に足を掛けると落下する感覚に、ヒュンッとお腹の中がして危うく悲鳴が出そうだった。
アクロバットな移動は私には無理ぃー!!
地面に下りると、ルーファスが下ろしてくれて、ヨロヨロしながら歩いて移動すると屋敷の庭ではグリムレインとハガネとスクルードが七輪で何かを焼いていた。
「なにを焼いてるんだろ?」
「この匂いは……チーズとベーコンとトゥートとリンゴにカスタードのようだな」
「ああ、また美味しそうなことを……」
一体その材料でどんな料理を作っているのか気になるところだけど、近づきすぎるとスクルードの鼻にも引っ掛かるので、ここは一先ず退散である。
絶対あとでハガネに料理を聞いてやるぅ―!!
事務所へ向かうと、料亭内でクミンがフリウーラに怒られていた。
なにをやらかしたのやら? 横を通った時にカクンといきなり足が躓いてコケそうになったのを、ルーファスに抱きとめてもらう。
「大丈夫か? ミヤ」
「うん。平気……いきなり足がカクンってなっただけなの」
なんだったんだろう今の? なにも無いのに、いきなり足が落ちるような感じだった。
思わずクミンを見ると、クミンはフリウーラに怒られて、シュンッとしおらしい顔で涙を堪えるように小さく震えている……感じというか、演技をしている。
ハガネに演技だとバレるような嘘は止めろって言われたのに、懲りて無いなぁ。
フリウーラも困ったような顔をしていて、私と目が合うと小さく首を振る。
「フリウーラ、どうしたんだ?」
「それがねぇ、この子が事務所に入ろうとして、旦那様から立ち入りを禁止されたんだよ。そしたら、なにが悪かったのか教えてくれって……そんなのも分かんないようじゃ【刻狼亭】ではやっていけないって言われて、納得いかなかったのか、こともあろうに女将に聞くって言って、旦那様を怒らせちまったんだよ」
あー、それは駄目だわ。
リュエールは番のキリンちゃんのこと大好きだから、迷惑を掛けようとした時点でリュエールの敵認定されちゃってる。
「愚かだな。番持ちは番を一番大事にする。その番に迷惑を掛けようとした時点で、クミン、お前は近いうち辞めることになるだろう」
私と同じ意見に達しているルーファスがクミンにそう言うと、クミンがバッと顔を上げる。
「そんな……っ、私、悪いことなんて……グスッ」
___パンッ。
うるうると瞳を潤ませて涙目で訴えるクミンが、ルーファスに手を伸ばしたのを見て、咄嗟にクミンの手を叩いていた。
「あっ……」
私とクミンどっちの声だったのか、クミンが「酷いッ!」と泣いて駆け出していき、私も自分が嫉妬して人に手をあげた事で、心臓がバクバクいっていた。
完全に私が悪者のような状態になってる……と、いうか私が悪いんだけど、手を出しちゃ駄目だった。
ルーファスとフリウーラが「今のは仕方ない」と言ってくれたけど、叩いた手はヒリヒリして罪悪感が胸に渦巻く。
あんなミルア達と変わらないような子に嫉妬してしまうなんて、情けない。
ルーファスに「叩いた手は痛くないか?」と聞かれたけど、痛くないと答えた。
これは、私が人に手を出してしまった痛みで、理由なんか無い、ただの暴力だ。
今まで、何度か手を出してしまった事はあるけど、全部、理由があった。でも、今回のは醜い嫉妬でしかない。
私が自己嫌悪に陥っていると、ルーファスが「アカリが嫉妬してくれたことが嬉しいな」と耳元で囁き、手の平に回復魔法をかけてくれた。
「しかし、あの子は仕事は出来るのに、ああいうところが子供で、未完成だね」
「若いからと言って、少し査定が甘くなり過ぎていたな」
フリウーラが腰に手を当てて、クミンの走って行った方向を見ていた。
私とルーファスは事務所の方へ行き、リュエールに「遅い!」と八つ当たり気味に怒られてしまった。
40
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。