黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

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 旅館の柔らかな赤い絨毯じゅうたんの上でガタガタと震えて涙目でペテロピが頭を下げて、今にも土下座しそうな勢いだった。
コソッとロビー担当の従業員に理由を聞けば、お客様の杖をお預かりしていた物を返そうとした時に、ペテロピがつまずいて折ってしまったらしい。

「申し訳ございません!」

 お客様は眉間にしわを寄せていて、怒っているのか困っているのか微妙な表情をしている。
ご老体のお客様なので、杖が直ぐに使えないようでは困るだろう。

杖は持ち手の場所は琥珀こはく紅珊瑚べにさんごの赤い獅子ししかたどってある物で、折れてるのは足の方でパッキリと綺麗に折れている。

「すまない、この杖の素材を聞いても良いだろうか?」

 アシュレイさんがお客さんにそう言い、お客さんは「カジュラムの樹と、黄金石だ」と言うとアシュレイさんは私にウィンクする。

「ならば、このアシュレイ・ビンクスの出番だ。任せて貰おう。杖を」
「はい。お願いします!」

 私が二手に分かれた杖をアシュレイさんに手渡すと、アシュレイさんは自分のカバンの中から四角い箱を取り出して、色々な鉱石が入っている中から、黄金の石と紅珊瑚を取り出す。

「まぁ、このぐらいなら折れる前より頑丈な物にしてみせよう」

 アシュレイさんが黄金の石を液状に手の中に溶かし、杖の折れた部分同士をくっつけると、次に紅珊瑚が草の蔦の様に杖に絡まりモコモコと形を変えて、獅子の足のような形になる。

「これでどうだろうか? もし、お気に召さないようなら【風雷商】が新しく無償で杖を作らせてもらう事も出来るが如何するかね?」

 お客様に杖をアシュレイさんが差し出し、ついでとばかりに【風雷商】の名刺を出す。
お客様は杖で床を軽く突いたり、折れた部分を確かめた後、頷き、問題は無しとしてくれた。
 お客様はこのままお帰りの様子なので、お詫びとして【刻狼亭】の無期限の宿泊チケットを用意してもらいお客様にお渡しして、なんとか切り抜けた。

「アシュレイさん、本当に助かりました」
「いや、今回はこちらも迷惑を掛けたのだから、これぐらいはしておかないとルーファスに殴られてしまう」
「まぁっ! でも、相変わらず錬金魔法の腕は凄いですね」
「これしか取り柄はないからな」

 笑ってアシュレイさんにお礼を言って、ロビーに居た従業員とペテロピに「大丈夫ですよ」と言った後で、アシュレイさんをお部屋に案内し終わると、大事無くて良かったとふぅと息を吐く。

「アシュレイさんのこと、リューちゃんにも伝えておきます」
「本当に気にしないでくれ。しかし、あの杖……少しおかしい点があった」
「おかしい点ですか?」
「カジュラムの樹と言うのは世界樹の次に硬い樹なんだ。世界で二番目に硬い樹が、たかだか少女一人の力で折れる物では無い」
「確かに……パッキリと綺麗すぎる折れ方だったと思います。でも、お客様は折れるような力の無いご老体ですし……」
「今、見習い達の中で蹴落とし合いがあるのだろう? それを疑うべきだろうな」
「そうでしょうね……本当に、困ったものです」
「まぁ、奥方も頑張ってくれ」
「はい。重ねてお礼申し上げます」

 アシュレイさんにお茶を出して、部屋から出て行くとペテロピが真っ赤な目をして廊下で待っていた。
泣きはらした目がなんとも痛々しい。

「ペテロピ、大丈夫ですよ」
「うっ、うぅ~っ、ミヤ、ごめんねぇ、ありがとぉ~」

 私に抱きついて泣くペテロピの肩をポンポンと叩いて、ここじゃお客様の目に留まってしまうので場所を移動して、従業員の休憩室で布巾を氷水で冷やしてペテロピのまぶたに当てる。

「今回は大事無かったんだし、泣かないで? 午後からもお仕事ですよ。元気出さないと」
「うん、うん。ウチ、お客様の荷物は凄く大事に扱ってたのに、コケちゃって、ドジっちゃって、先輩にもミヤにもお客様にも迷惑掛けちゃって、これじゃ『失格』になっちゃう」
「ならないですよ。私なんてお皿を割っちゃったり、仕事開始十分もしない間にサボっちゃったのを料亭のみんなが知ってるぐらいなんですよ?」

 お皿を割ったのはこの世界に来た時に、毒蛇に噛まれて仕方なくだけど、サボっちゃったのは従業員と上手くいかなくて逃げ出したのと、ルーファスにお仕事中にエッチなことされたりで……まぁ、致し方ないところはあるけどね。

「クスッ、ミヤ、それ駄目じゃん」
「うん。だから、大丈夫だよ。私、結構色々やらかしてるんだから」
「もう、ミヤったら」

 ペネロピが笑ってくれて、私も笑顔で頭を撫でて「午後からも頑張ろうね」と言って、お昼時間まで少し寝て、目を治しなさいと寝せておく。
そしてペネロピのコンビになった『茶』『黄』の小鬼ちゃんに確認の為、声を掛ける。

「小鬼ちゃん達、あなた達は見た物を映像で『テン』と『温泉』の小鬼に送りなさい」
「はいです!」
「どこから、どこまでですか?」
「そうね。お客様の杖をペネロピが受け渡して折れるまでの映像を、二人の視点から映像で送ってくれる?」
「はいです!」
「あの、僕達以外のその現場に居た見習い小鬼からも集めた方が良いですか?」
「出来るならお願い。二人共、ペネロピを助けてあげてね」
「「はい!」」

 私は腕輪通信でリュエールに連絡を取って、ことのあらましを話して『テン』と『温泉』の小鬼に送った映像からおかしなところがあるか調べてもらうようお願いした。

 お昼時間になり、ペネロピを起こして従業員宿舎の食堂に行くと、数人の見習いが私の所に来た。
どうやらロビーのことが広まったらしく、【風雷商】と知り合いなのか? と聞かれ「知り合いです」とだけ答えて、ペネロピを連れてご飯を食べていたら、ルーファスが「ミヤ、旦那が呼んでいる。事務所に来てくれ」と呼びに来て、ルーファスに連れられて、ペネロピに食器を片付けるのをお願いして食堂を出た。
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