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24章
幼馴染
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三社会談から十日程経ち、事務所には【風雷商】のアシュレイ・ビンクスがやって来て、手には大量の書類の束である。
グリスニャタール貿易と貿易交渉をしていた貿易等に【風雷商】が貿易契約を結び、次々と縁切りさせていったらしく、よくこの短期間でやれたなぁと感心すらしてしまう。
「お茶をどうぞ」
「ああ、奥方申し訳ない……」
なんだか凄くやつれているアシュレイさんに昔の面影があまり見えない。
奥さんのグロリアさんに調教されたのもあってか、私に対する態度も以前のような失礼なものでは無い。
既に息子さん達に【風雷商】を受け継がせたものの、【刻狼亭】に自分の息子を立ち入らせるにはまだ未熟との判断で、隠居の身から出てきたというところらしい。
まぁ、グリスニャタール貿易の息子の愚息っぷりを聞いたのならば、自分の息子がもしなにか仕出かしたら、第二のグリスニャタール貿易になりかねない。
アシュレイさんも昔、色々やらかしたから心配だよねぇ……。
「では、書類の方を調べさせてもらいますね」
「【刻狼亭】から送られた書類にあったもので、契約を結べるとこは粗方結んできたつもりだ。幾つかは、商売を畳んでしまうと言うので、契約はしていない。そのリストはこちらの封筒の中だ」
リュエールが書類と封筒を受け取り、アシュレイさんは「ハァー……」と一仕事終えたように肩の力を抜く。
そのやり取りを金髪で見習いに扮しているルーファスが、「これに懲りたら、うちへの口利きは息子に頼まれてもしない事だな」と笑って言う。
「そう言うなよ【刻狼亭】、こちらとしては問題の無い息子だと聞いていたようだからな」
「クククッ、お前の息子達も、気を引き締め直さないとどうなるやらだな?」
幼馴染同士の気安さで二人がお茶を飲みながら、笑っていて、その横では『テン』と『温泉』の小鬼が凄まじいスピードで書類に目を通していっていた。
「しかし、【刻狼亭】は奥方もそうだが、全然老けないな?」
「番の居る生活は若返るものだ。二歳の息子もいるから、子供にも若さを貰っている感じだな。【風雷商】は……少し丸くなったか?」
「ふふっ、子供は元気がいいから、こっちも元気になりますしね」
少し、中年太り気味なアシュレイさんのお腹にルーファスがポスポスとグーで手を入れるあたり、本当に二人は仲の良い幼馴染な気がする。
まぁ、リュエール達が五歳くらいの時に、温泉大陸への襲撃が【風雷商】からの情報だった時に、思いっきりルーファスに殴られて、顔が凄いことになっていたのも幼馴染だからこその、遠慮のないグーパンチだったのだろうけど……殴ってねって、言ったのは私ではあるけど。
「しかし、二人共随分と面白いことをしているのだな」
「見習いの良し悪しを見るには内面も見る必要があるからな」
「ふふっ、結構楽しいんですよ」
あれから十日、人数は十五人程の見習いが残り、緊張も解けてきて仕事も慣れ始めてきた感じではある。
私は三社会議の後は、相変わらずミヤとして動いているけど、数人がクミンが泣いていたのを見たことで、私に「心配している仲間に、ああいう態度は良くないよ」と言ってきた。
どうやら、クミンは自分に良いように話を盛っているようなので、私も反撃に出ていたりする。
諭してきた見習いには「私もクミンを心配しているんですよ? だって、立ち入り禁止と言われている日の事務所に、同じ日に二回も入ろうとして、大女将の従者に嘘を付いて、大旦那様と大女将様を呆れさせているんですもの。すっごく心配です!」と笑顔で言っておいた。
そう言った途端、クミンから離れる見習い達に「仲間」という言葉を使っておいて、事実確認をする前に離れる様な子達は、【刻狼亭】では無理だな……と、『失格行動』リストに書き記している。
折角、小鬼ちゃんという情報網があるのに、事実確認くらいしなさいと思う。
即座に『失格』まではいかなくても、問題ありとされている行動を取った場合は、事務所の『失格行動』リストの書類に書いていくことになっていて、リュエールが朝のミーティング前に目を通して、ミーティングで注意をしたりする。
名前は言わずに『このような報告が従業員から上がっていますので、身に覚えのある人も無い人も気を付けてくださいね?』と釘を刺す感じだ。
ただ、なんというか……見習い同士で蹴落とし合いをしているのか……配膳中に足を掛けて、転ばせようとしてきた見習いも居るらしい。
その足を引っ掛けられたのが、実は見習いに扮した従業員なので、従業員がニコニコと『失格行動』リストに書き記してました。
そんな人間観察のような感じで、何人残るんだろう? という感じではある。
「それじゃあ、今日は【刻狼亭】に泊めてもらうよ」
「ああ、ゆっくり温泉でも楽しんでくれ」
「なら、私がアシュレイさんをお部屋までご案内しますね?」
アシュレイさんを連れて旅館へ行くと、旅館のロビーでは揉め事が起きていた。
お客様と見習いの間でなにかトラブルがあったらしく、従業員が頭を下げていて一緒に頭を下げているのはペテロピだった。
グリスニャタール貿易と貿易交渉をしていた貿易等に【風雷商】が貿易契約を結び、次々と縁切りさせていったらしく、よくこの短期間でやれたなぁと感心すらしてしまう。
「お茶をどうぞ」
「ああ、奥方申し訳ない……」
なんだか凄くやつれているアシュレイさんに昔の面影があまり見えない。
奥さんのグロリアさんに調教されたのもあってか、私に対する態度も以前のような失礼なものでは無い。
既に息子さん達に【風雷商】を受け継がせたものの、【刻狼亭】に自分の息子を立ち入らせるにはまだ未熟との判断で、隠居の身から出てきたというところらしい。
まぁ、グリスニャタール貿易の息子の愚息っぷりを聞いたのならば、自分の息子がもしなにか仕出かしたら、第二のグリスニャタール貿易になりかねない。
アシュレイさんも昔、色々やらかしたから心配だよねぇ……。
「では、書類の方を調べさせてもらいますね」
「【刻狼亭】から送られた書類にあったもので、契約を結べるとこは粗方結んできたつもりだ。幾つかは、商売を畳んでしまうと言うので、契約はしていない。そのリストはこちらの封筒の中だ」
リュエールが書類と封筒を受け取り、アシュレイさんは「ハァー……」と一仕事終えたように肩の力を抜く。
そのやり取りを金髪で見習いに扮しているルーファスが、「これに懲りたら、うちへの口利きは息子に頼まれてもしない事だな」と笑って言う。
「そう言うなよ【刻狼亭】、こちらとしては問題の無い息子だと聞いていたようだからな」
「クククッ、お前の息子達も、気を引き締め直さないとどうなるやらだな?」
幼馴染同士の気安さで二人がお茶を飲みながら、笑っていて、その横では『テン』と『温泉』の小鬼が凄まじいスピードで書類に目を通していっていた。
「しかし、【刻狼亭】は奥方もそうだが、全然老けないな?」
「番の居る生活は若返るものだ。二歳の息子もいるから、子供にも若さを貰っている感じだな。【風雷商】は……少し丸くなったか?」
「ふふっ、子供は元気がいいから、こっちも元気になりますしね」
少し、中年太り気味なアシュレイさんのお腹にルーファスがポスポスとグーで手を入れるあたり、本当に二人は仲の良い幼馴染な気がする。
まぁ、リュエール達が五歳くらいの時に、温泉大陸への襲撃が【風雷商】からの情報だった時に、思いっきりルーファスに殴られて、顔が凄いことになっていたのも幼馴染だからこその、遠慮のないグーパンチだったのだろうけど……殴ってねって、言ったのは私ではあるけど。
「しかし、二人共随分と面白いことをしているのだな」
「見習いの良し悪しを見るには内面も見る必要があるからな」
「ふふっ、結構楽しいんですよ」
あれから十日、人数は十五人程の見習いが残り、緊張も解けてきて仕事も慣れ始めてきた感じではある。
私は三社会議の後は、相変わらずミヤとして動いているけど、数人がクミンが泣いていたのを見たことで、私に「心配している仲間に、ああいう態度は良くないよ」と言ってきた。
どうやら、クミンは自分に良いように話を盛っているようなので、私も反撃に出ていたりする。
諭してきた見習いには「私もクミンを心配しているんですよ? だって、立ち入り禁止と言われている日の事務所に、同じ日に二回も入ろうとして、大女将の従者に嘘を付いて、大旦那様と大女将様を呆れさせているんですもの。すっごく心配です!」と笑顔で言っておいた。
そう言った途端、クミンから離れる見習い達に「仲間」という言葉を使っておいて、事実確認をする前に離れる様な子達は、【刻狼亭】では無理だな……と、『失格行動』リストに書き記している。
折角、小鬼ちゃんという情報網があるのに、事実確認くらいしなさいと思う。
即座に『失格』まではいかなくても、問題ありとされている行動を取った場合は、事務所の『失格行動』リストの書類に書いていくことになっていて、リュエールが朝のミーティング前に目を通して、ミーティングで注意をしたりする。
名前は言わずに『このような報告が従業員から上がっていますので、身に覚えのある人も無い人も気を付けてくださいね?』と釘を刺す感じだ。
ただ、なんというか……見習い同士で蹴落とし合いをしているのか……配膳中に足を掛けて、転ばせようとしてきた見習いも居るらしい。
その足を引っ掛けられたのが、実は見習いに扮した従業員なので、従業員がニコニコと『失格行動』リストに書き記してました。
そんな人間観察のような感じで、何人残るんだろう? という感じではある。
「それじゃあ、今日は【刻狼亭】に泊めてもらうよ」
「ああ、ゆっくり温泉でも楽しんでくれ」
「なら、私がアシュレイさんをお部屋までご案内しますね?」
アシュレイさんを連れて旅館へ行くと、旅館のロビーでは揉め事が起きていた。
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