黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
779 / 960
24章

番の従者

しおりを挟む
 ほぼ喧嘩会議のような会議が終わり、事務所に料亭の仕出し弁当が届いた。
スクルードには特別にお子様仕出し弁当を作ってもらい、可愛いタコさんウインナー付きなのだけど、この世界ではオクトパと呼ばれていて、海獣であり、凶暴、でも美味しいから殺すか殺されるかの死闘の元、食べられる食材なので、私がウインナーでタコさんを作った時に、料亭の人には引かれたものです……。

 今では、ウインナーの飾り切りも進化して、動物の形とかに綺麗に造られたりするけど、やはり、オーソドックスのタコさんだよね!

「はい。スーちゃん、タコさんだよー。あーん」
「あーん」

 もちもちと、ふくふく頬っぺたを動かして食べる息子の姿に、笑顔がとろけてしまいそう。
ルーファスに肩をトントンとされて振り向くと、口を開けられていたのでクスッと笑って「はい。ルーファスも、あーん」と、仕出し弁当の中にあったローストビーフを口に入れる。
 ルーファスも可愛い人なんだからと、私は笑顔でルーファスをツンツンと指でつついて、「あーん」と口を開けて食べさせてもらう。

 衝立ついたてのある簡易応接間だから、こんなことを恥ずかしげもなくしてるんだけど、事務所の中にはハガネも居るので聞こえてはいるだろうけどね。我が家では日常茶飯事……かな? 多分。
 他の事務所の人は従業員宿舎の食堂でまかないご飯を食べに出ているので、今現在は留守にしている。

「美味しいね。このお豆腐みたいな、ハンペンみたいなのなんだろ?」
「そりゃ、豆腐と魚のすり身を混ぜたもんを天ぷら粉で揚げてるやつだな」
「おー、今度、ハガネ作って下さいな」
「別にいいけど、アカリだって作れんだろ?」
「揚げ物はハガネの方が絶対に失敗しないから、ハガネ任せですー」
「ったく、しゃーねぇなぁ」

 衝立越しにハガネと会話をして、食事を進めていると、事務所のドアが開いた音がする。

「あん? またお前か。ここは立ち入り禁止だっつー話だろ。出て行きな」
「あの、私はいつもここでお掃除とお茶を淹れる係りなので……」

 この申し訳なさと甘えるような声は__クミンだ。
証拠にもなく、また来たのか……と、いうよりも、毎回この事務所に人が居ない時に来ているとしたら、事務所の管理問題になる。
 ルーファスの顔を見れば、少し眉間にしわを寄せている。

「俺はそんなん聞いてねぇな。見習いで自分を売り込みてぇんだろうが、誰も居ない事務所に入ってコソコソすんのは減点にしかならねぇ。わかったら出て行け」
「え、でも、貴方は【刻狼亭】の従業員さんじゃ、ないですよ……ね?」
「あ? だからなんだっつーんだ?」
「部外者の人は口を挟まないで下さい。私は人が居ない間に、ここの掃除をするように任せて貰っているんです!」

 ハガネが【刻狼亭】の従業員じゃないと分かると、ハッキリと嘘を付くのはどうかと思う。
私達が衝立で見えないから、ハガネ一人だと思われているみたいだけど、本当に仕方のない子だな……。

「俺は【刻狼亭】の元従業員で、十五代目の当主のつがい、大女将の従者だ。大女将の護衛としてここに居る。今、この部屋に大女将と大旦那が居る。見えてねぇみてぇだが、今の会話は聞こえてんだぞ?」
「……っ!」
 
 クミンの怯んだような声無き声がして、ルーファスが口を開く。

「ああ、聞こえている。これ以上、問題を起こすようならば、失格として出て行ってもらう」
「駄目ですよ、あなた。お仕事ぶりは良いと報告は受けていますから、心根さえ入れ替えれば、良い働き手になるでしょう?」

 少し声色を変えて、私も大女将風なイメージの口調をして、朝の仕返しとばかりに口を出してみる。
ルーファスが少し驚いた眼で私を見て、小さく苦笑する。
私も、ふふっと声を出さずに笑う。
ハガネが「って、ことだ。サッサと帰んな」と呆れた声を出す。

「あの、あ、私、一生懸命に仕事をしたかっただけなんです! それに、み、見習いのミヤが戻ってなくて、し、心配で心配で……グスッ、グスッ」

 必死な声だけど、どこか演技がかっている声に、懲りてないのかと私は少し半目になる。
ハガネが「ハァー……」と、溜め息を盛大に吐いて、「嘘くせぇー」とボソリとハッキリ言う。
やはり、ハガネの眼は誤魔化せていないようだ。

「お前は、嘘も中途半端なら、泣くのも中途半端。全体的に嘘くせぇんだよ。素の自分でやっていかねぇと【刻狼亭】じゃやっていけねぇぜ? 中途半端な演技で人を騙くらかしてる間は、一生見習いのままだぜ?」
「ひ、酷いです……私、演技なんか……っ!」

 スタタタタと立ち去る足音がして、衝立から顔を出すとハガネが「ありゃ駄目だな」と、肩をすくめて首を横に振る。

「決定打になるような悪さをしないのが、あの子なのよねぇ……」
「十分、今ので追い出せるが?」

 ああ、いけない声に出ていたみたい。
ルーファスが私の顔を見て「どうする?」という顔をするので、私は顔を横に振る。

「もう少し様子を見てみましょう。さっきも言ったけど、仕事ぶりだけは良いのよ。あの子、それに……」

 私は一呼吸おいて、「やられたらやり返すのが【刻狼亭】でしょ? ミヤもやり返すんだから」と、ニッと笑ってみせた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。