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24章
番の従者
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ほぼ喧嘩会議のような会議が終わり、事務所に料亭の仕出し弁当が届いた。
スクルードには特別にお子様仕出し弁当を作ってもらい、可愛いタコさんウインナー付きなのだけど、この世界ではオクトパと呼ばれていて、海獣であり、凶暴、でも美味しいから殺すか殺されるかの死闘の元、食べられる食材なので、私がウインナーでタコさんを作った時に、料亭の人には引かれたものです……。
今では、ウインナーの飾り切りも進化して、動物の形とかに綺麗に造られたりするけど、やはり、オーソドックスのタコさんだよね!
「はい。スーちゃん、タコさんだよー。あーん」
「あーん」
もちもちと、ふくふく頬っぺたを動かして食べる息子の姿に、笑顔が蕩けてしまいそう。
ルーファスに肩をトントンとされて振り向くと、口を開けられていたのでクスッと笑って「はい。ルーファスも、あーん」と、仕出し弁当の中にあったローストビーフを口に入れる。
ルーファスも可愛い人なんだからと、私は笑顔でルーファスをツンツンと指でつついて、「あーん」と口を開けて食べさせてもらう。
衝立のある簡易応接間だから、こんなことを恥ずかしげもなくしてるんだけど、事務所の中にはハガネも居るので聞こえてはいるだろうけどね。我が家では日常茶飯事……かな? 多分。
他の事務所の人は従業員宿舎の食堂で賄いご飯を食べに出ているので、今現在は留守にしている。
「美味しいね。このお豆腐みたいな、ハンペンみたいなのなんだろ?」
「そりゃ、豆腐と魚のすり身を混ぜたもんを天ぷら粉で揚げてるやつだな」
「おー、今度、ハガネ作って下さいな」
「別にいいけど、アカリだって作れんだろ?」
「揚げ物はハガネの方が絶対に失敗しないから、ハガネ任せですー」
「ったく、しゃーねぇなぁ」
衝立越しにハガネと会話をして、食事を進めていると、事務所のドアが開いた音がする。
「あん? またお前か。ここは立ち入り禁止だっつー話だろ。出て行きな」
「あの、私はいつもここでお掃除とお茶を淹れる係りなので……」
この申し訳なさと甘えるような声は__クミンだ。
証拠にもなく、また来たのか……と、いうよりも、毎回この事務所に人が居ない時に来ているとしたら、事務所の管理問題になる。
ルーファスの顔を見れば、少し眉間にしわを寄せている。
「俺はそんなん聞いてねぇな。見習いで自分を売り込みてぇんだろうが、誰も居ない事務所に入ってコソコソすんのは減点にしかならねぇ。わかったら出て行け」
「え、でも、貴方は【刻狼亭】の従業員さんじゃ、ないですよ……ね?」
「あ? だからなんだっつーんだ?」
「部外者の人は口を挟まないで下さい。私は人が居ない間に、ここの掃除をするように任せて貰っているんです!」
ハガネが【刻狼亭】の従業員じゃないと分かると、ハッキリと嘘を付くのはどうかと思う。
私達が衝立で見えないから、ハガネ一人だと思われているみたいだけど、本当に仕方のない子だな……。
「俺は【刻狼亭】の元従業員で、十五代目の当主の番、大女将の従者だ。大女将の護衛としてここに居る。今、この部屋に大女将と大旦那が居る。見えてねぇみてぇだが、今の会話は聞こえてんだぞ?」
「……っ!」
クミンの怯んだような声無き声がして、ルーファスが口を開く。
「ああ、聞こえている。これ以上、問題を起こすようならば、失格として出て行ってもらう」
「駄目ですよ、あなた。お仕事ぶりは良いと報告は受けていますから、心根さえ入れ替えれば、良い働き手になるでしょう?」
少し声色を変えて、私も大女将風なイメージの口調をして、朝の仕返しとばかりに口を出してみる。
ルーファスが少し驚いた眼で私を見て、小さく苦笑する。
私も、ふふっと声を出さずに笑う。
ハガネが「って、ことだ。サッサと帰んな」と呆れた声を出す。
「あの、あ、私、一生懸命に仕事をしたかっただけなんです! それに、み、見習いのミヤが戻ってなくて、し、心配で心配で……グスッ、グスッ」
必死な声だけど、どこか演技がかっている声に、懲りてないのかと私は少し半目になる。
ハガネが「ハァー……」と、溜め息を盛大に吐いて、「嘘くせぇー」とボソリとハッキリ言う。
やはり、ハガネの眼は誤魔化せていないようだ。
「お前は、嘘も中途半端なら、泣くのも中途半端。全体的に嘘くせぇんだよ。素の自分でやっていかねぇと【刻狼亭】じゃやっていけねぇぜ? 中途半端な演技で人を騙くらかしてる間は、一生見習いのままだぜ?」
「ひ、酷いです……私、演技なんか……っ!」
スタタタタと立ち去る足音がして、衝立から顔を出すとハガネが「ありゃ駄目だな」と、肩をすくめて首を横に振る。
「決定打になるような悪さをしないのが、あの子なのよねぇ……」
「十分、今ので追い出せるが?」
ああ、いけない声に出ていたみたい。
ルーファスが私の顔を見て「どうする?」という顔をするので、私は顔を横に振る。
「もう少し様子を見てみましょう。さっきも言ったけど、仕事ぶりだけは良いのよ。あの子、それに……」
私は一呼吸おいて、「やられたらやり返すのが【刻狼亭】でしょ? 私もやり返すんだから」と、ニッと笑ってみせた。
スクルードには特別にお子様仕出し弁当を作ってもらい、可愛いタコさんウインナー付きなのだけど、この世界ではオクトパと呼ばれていて、海獣であり、凶暴、でも美味しいから殺すか殺されるかの死闘の元、食べられる食材なので、私がウインナーでタコさんを作った時に、料亭の人には引かれたものです……。
今では、ウインナーの飾り切りも進化して、動物の形とかに綺麗に造られたりするけど、やはり、オーソドックスのタコさんだよね!
「はい。スーちゃん、タコさんだよー。あーん」
「あーん」
もちもちと、ふくふく頬っぺたを動かして食べる息子の姿に、笑顔が蕩けてしまいそう。
ルーファスに肩をトントンとされて振り向くと、口を開けられていたのでクスッと笑って「はい。ルーファスも、あーん」と、仕出し弁当の中にあったローストビーフを口に入れる。
ルーファスも可愛い人なんだからと、私は笑顔でルーファスをツンツンと指でつついて、「あーん」と口を開けて食べさせてもらう。
衝立のある簡易応接間だから、こんなことを恥ずかしげもなくしてるんだけど、事務所の中にはハガネも居るので聞こえてはいるだろうけどね。我が家では日常茶飯事……かな? 多分。
他の事務所の人は従業員宿舎の食堂で賄いご飯を食べに出ているので、今現在は留守にしている。
「美味しいね。このお豆腐みたいな、ハンペンみたいなのなんだろ?」
「そりゃ、豆腐と魚のすり身を混ぜたもんを天ぷら粉で揚げてるやつだな」
「おー、今度、ハガネ作って下さいな」
「別にいいけど、アカリだって作れんだろ?」
「揚げ物はハガネの方が絶対に失敗しないから、ハガネ任せですー」
「ったく、しゃーねぇなぁ」
衝立越しにハガネと会話をして、食事を進めていると、事務所のドアが開いた音がする。
「あん? またお前か。ここは立ち入り禁止だっつー話だろ。出て行きな」
「あの、私はいつもここでお掃除とお茶を淹れる係りなので……」
この申し訳なさと甘えるような声は__クミンだ。
証拠にもなく、また来たのか……と、いうよりも、毎回この事務所に人が居ない時に来ているとしたら、事務所の管理問題になる。
ルーファスの顔を見れば、少し眉間にしわを寄せている。
「俺はそんなん聞いてねぇな。見習いで自分を売り込みてぇんだろうが、誰も居ない事務所に入ってコソコソすんのは減点にしかならねぇ。わかったら出て行け」
「え、でも、貴方は【刻狼亭】の従業員さんじゃ、ないですよ……ね?」
「あ? だからなんだっつーんだ?」
「部外者の人は口を挟まないで下さい。私は人が居ない間に、ここの掃除をするように任せて貰っているんです!」
ハガネが【刻狼亭】の従業員じゃないと分かると、ハッキリと嘘を付くのはどうかと思う。
私達が衝立で見えないから、ハガネ一人だと思われているみたいだけど、本当に仕方のない子だな……。
「俺は【刻狼亭】の元従業員で、十五代目の当主の番、大女将の従者だ。大女将の護衛としてここに居る。今、この部屋に大女将と大旦那が居る。見えてねぇみてぇだが、今の会話は聞こえてんだぞ?」
「……っ!」
クミンの怯んだような声無き声がして、ルーファスが口を開く。
「ああ、聞こえている。これ以上、問題を起こすようならば、失格として出て行ってもらう」
「駄目ですよ、あなた。お仕事ぶりは良いと報告は受けていますから、心根さえ入れ替えれば、良い働き手になるでしょう?」
少し声色を変えて、私も大女将風なイメージの口調をして、朝の仕返しとばかりに口を出してみる。
ルーファスが少し驚いた眼で私を見て、小さく苦笑する。
私も、ふふっと声を出さずに笑う。
ハガネが「って、ことだ。サッサと帰んな」と呆れた声を出す。
「あの、あ、私、一生懸命に仕事をしたかっただけなんです! それに、み、見習いのミヤが戻ってなくて、し、心配で心配で……グスッ、グスッ」
必死な声だけど、どこか演技がかっている声に、懲りてないのかと私は少し半目になる。
ハガネが「ハァー……」と、溜め息を盛大に吐いて、「嘘くせぇー」とボソリとハッキリ言う。
やはり、ハガネの眼は誤魔化せていないようだ。
「お前は、嘘も中途半端なら、泣くのも中途半端。全体的に嘘くせぇんだよ。素の自分でやっていかねぇと【刻狼亭】じゃやっていけねぇぜ? 中途半端な演技で人を騙くらかしてる間は、一生見習いのままだぜ?」
「ひ、酷いです……私、演技なんか……っ!」
スタタタタと立ち去る足音がして、衝立から顔を出すとハガネが「ありゃ駄目だな」と、肩をすくめて首を横に振る。
「決定打になるような悪さをしないのが、あの子なのよねぇ……」
「十分、今ので追い出せるが?」
ああ、いけない声に出ていたみたい。
ルーファスが私の顔を見て「どうする?」という顔をするので、私は顔を横に振る。
「もう少し様子を見てみましょう。さっきも言ったけど、仕事ぶりだけは良いのよ。あの子、それに……」
私は一呼吸おいて、「やられたらやり返すのが【刻狼亭】でしょ? 私もやり返すんだから」と、ニッと笑ってみせた。
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