黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

流石の従者

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 事務所でムスゥ~ッと頬を膨らませていると、ルーファスに後ろから抱きつかれて、頬をぷにぷにと指で突かれて「もぅもぅ!」と私がクミンへの怒りを「もぅ!」と声に出す。

「オレのつがいはご機嫌斜めだな」
「ご機嫌斜めって程じゃないけど、悪者にされた気分にされたの!」
「うん? 苛められたのか?」
「苛めじゃないけど、やられたー! って、悔しい感じかな?」
「オレの手が必要か?」
「ううん。最後まで残ってたら、正体を明かした時に後悔してもらうからいいの……って、私、性格悪い!? はわわっ」

 ルーファスにクククッと笑われて、他の事務員達にも「リューの旦那のお母上なだけはある」とか言われて笑われてしまう始末。
ううっ、今日の私は朝から酷い目にばかり遭ってるー!!
私を膝に乗せてルーファスがソファに座っていると、ハガネが事務所に顔を出して腕には子犬……ではなく、子狼姿のスクルードが居た。

「よう。今日は事務所に誰も入らねぇんだろ? だからスーを連れて来た」
「ありがとう! ハガネ~。流石、私の一番の従者!」
「最近アカリはそればっかだな」

 スクルードを抱っこしようとしたら、スクルードにイヤイヤとされてしまった。
何故に!? スクルードの反抗期? いや、この場合はイヤイヤ期?

「スーちゃん、母上だよ? どうしたの?」
「うーっ! ははうー、ちがにゃー! うーっ!」

 私の伸ばした手をペシペシとスクルードが叩いて、拒否の姿勢……あぅぅ、今日は本当に厄日なのかな?
ルーファスがスクルードに手を伸ばすと、尻尾を揺らしているし……。
ガクリと項垂れると、ハガネが「髪の色がちげぇからなぁ」とニシシッと笑って、髪を元の色に戻すポーションをくれた。
ついでにまた染める用のポーションも持ってきてくれる辺り、痒いところに手が届く従者である。
髪色を元に戻すと、ようやくスクルードに母親だと認識してもらえた。

「もう、スーちゃんったら、匂いで母上ってわかるでしょ?」
「うー?」

 首を傾げるスクルードに「パッと見だよなぁ」とハガネがポフポフ頭を叩いている。
獣化を解いたスクルードを抱っこしていると、リュエールとテンが事務所に入って来て、グリスニャタール貿易の息子を連れていた。

 なんだか顔が青紫に腫れあがっているのは、ドアごと壁にぶつけられたせいかも?
治してもらえなかったんだなぁ……まぁ自業自得? 同情はしないけど、大事な息子にあんな下衆ゲスは見せられないのでギュッと抱きしめて顔を私の方に向かせておく。

「それじゃあ、父上会議に行こうか。母上はスーとここで遊んであげててね」
「いいの? 会議に参加するのかと思ってたけど……」
「ううん。父上が母上の分まで話には参加してくれるよ。ねっ? 父上」
「ああ。アカリはスーを存分に、今日は甘やかしてくれ」
「はーい」

 ルーファスが私とスクルードにキスをして、事務所の奥にある魔法通信の部屋へ入っていく。
リュエールとテンもグリスニャタール貿易の息子を連れて中に入っていった。
中で何が行われるかは私にはわからないけど、腕の中で嬉しそうに私の胸に顔を摺り寄せるスクルードの可愛らしさに、今日は存分に遊んであげようと思う。

「ははうー、あそぶー?」
「うん。スーちゃん、今日はいっぱい遊んであげるね」
「うきゃー!」

 嬉しそうな声に、私も嬉しくなる。寂しい思いをさせているから、何をしようか? と話していると、事務員がいらない書き損じの紙をくれて、二人でお絵描きを始める、

「これ、ははうー!」
「わぁ、スーちゃんありがとう! 花丸をあげるね」

 スクルードが「はにゃまるー!」と嬉しそうな声で手を叩き、花丸をスクルードの描いてくれた私の似顔絵に描く。
これは持ち帰って額縁に飾ろう。これは親にとっての賞状のようなものでは無いだろうか?
うふふ、凄く嬉しい。

「スーちゃん、ジュースでも持ってきてあげようか? お菓子もあるんだよー」
「おかしぃー! えへーっ」

 私の後ろを尻尾を振りながらスクルードがトコトコついてきて、給湯室でミッカジュースの瓶を開けてコップに注ぐと嬉しそうな顔で私を見上げて来る。
うーん、私の息子可愛い! 今は親ばかと言われても構わない!

 私が給湯室に行っている間に、なにか事務所の方が騒がしくなり、顔を覗かせると、クミンが事務所の出入り口で事務員さんに怒られていた。
何をしているんだろうあの子? 今日は事務所の立ち入りは見習いは禁止だと言うのに……。

「兎に角、見習いは今日は入室禁止だ! 仕事場に戻る様に!」
「そんなぁ、私、ミヤさんが心配で、居ても経っても居られなくて……くすんっ」

 またあの子は嘘泣きをしているようだけど、事務所に入らない様に言われているのに、覗こうとしている辺り、本当に意地汚い子だと思う。
私は見つからない様にスクルードを抱っこして給湯室でクミンが居なくなるのを待ってから、出て行く。

「クミンは何を考えているのかしらね?」
「ありゃ、どう見ても、大旦那が来るって言うんで見に来たくちだろ?」
「やっぱりそうだよねぇ……私を口実に来ないで欲しい」
「自分に非が無いような言い方は、頂けねぇよなぁ」

 流石にハガネにはクミンのうるうるとした「心配でダメと言われても来ちゃう私は他人想いでしょ?」攻撃は聞かない様だ。

「なんつーか、ああいうしたたかなのは、男ウケが良いんだよなぁ。女には嫌われやすいのに、どうせなら同性に好感がある奴のが自分にプラスになんのに、損な生き方だよなぁ」
「ハガネは人生経験豊富だねぇ」
「まぁなー。俺は敵も多けりゃ、知り合いも多いからな。人を色々見てる分、目は肥えてんだよ」

 ニッといつも通りの白い歯を見せて笑うハガネに、私もニッと笑うとスクルードもへにゃっとした顔で笑っていた。
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