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24章
『テン』『温泉』
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事務所に顔を出すと、真剣な顔をして書類仕事をしていたルーファスの表情が、パッと明るくなる。
金色の尻尾もフリフリでご機嫌が良さそうだ。
「お疲れ様です! お茶を淹れに来ましたー!」
「ああ、それなら、さっきクミンが淹れて行ったぞ?」
「そうなんだー。じゃあ給湯室のお掃除を……」
「それもクミンがして行ったぞ」
ぐぬぬぅぅ……またクミンか!?
見習いの中にクミンという女性がいるのだけど、そつなく仕事は熟すし仕事覚えもいい、テキパキとしていてお客さんへの対応も良い……いいのだけど、一つだけ難点がある。
それは、ルーファスにモーションを掛けているということなのだ!
いや、ルーファス以外にも男性には粉を掛けていくのだ……しかも露骨なモーションを掛けるわけでもなく、こうしたお茶淹れとかを、さり気なくして行き、高感度だけが上がる感じで……パッと見れば、気の利く良い子だけど、女性にはそうじゃない。
ほんの少しの差なんだけど、女性にもお茶とか淹れてくれたりするけど……微妙ないい加減さがあるのだ。
気付かない人は気付かない程度の、本当に微妙な手抜きで、普段の私なら気付かなかったと思う……。
ルーファスの手に触れているところを偶然見てから、クミンの行動を観察し続けた私の嫉妬の成せる業である。
威張れる事じゃないけど、手が触れたのも偶然書類が落ちそうになったのを、拾おうとしてだけだけど……。
「ミヤの淹れてくれた茶が飲みたいから、淹れ直してくれるか? 手間を掛けさせてしまうが」
「はい! 任せて下さいな!」
ルーファスの、このさり気ない番への気遣いで荒ぶった私の心も、一気に晴れていくというものである。
湯飲みを持つと、淹れ立てなのか温かく……ほんの数分差だったかと思うけど、でも愛する息子のスクルードへの伝言を残す時間は絶対必要だったから、悔やんだりはしない。
「ミヤさん。僕のも淹れ直しお願いします」
「あっ、ならオレもお願いします!」
「こっちもー」
リュエールや事務に居る人達から声が上がり、お茶が少し勿体ない気もするけど、「はーい!」と声を上げてそれぞれの湯飲みを回収していく。
きっと、冬場だから体調管理に私の【聖域】が働くお茶の方が良いのだろう。
お茶を淹れ直して配ってから、私は事務所の床を【清浄】魔法で綺麗に掃除して、ひと段落したら『テン』の小鬼と一緒に、コッソリ事務所の衝立のある簡易応接間で二人でお茶菓子を食べてる。
「この最中美味しいですねぇ」
「この最中の中の温牛ミルク餅が、これまた美味しいね~」
今現在、温牛ミルクを使った色々なお菓子が試作されていて、【刻狼亭】に持ち込まれては従業員のオヤツとして出され、味の感想を絶賛お待ちしています状態なのである。
「お茶と一緒に食べるなら、夏より冬の温かい物の方が合いますね」
「うん。麦茶はどうかと思うけど、セイロンティーとかにも合うかも?」
二人で味と合いそうなお茶を言い合っていると、小鬼がピクンッと、とんがり耳を動かして立ち上がる。
どうしたのかな? と、首を傾げると「テンさん! 緑の小鬼からの緊急です!」と言って、小鬼が声を上げて直ぐにテンが小鬼を上から摘まみ上げると、事務所から素早く出て行く。
「あらら……緑のチョーカーの小鬼ちゃん、なにかあったのかな?」
私が一人ごちっていると、『温泉』の小鬼がヒョッコリ現れて、最中の包みを開く。
お茶を淹れてあげると、ニッと笑って小鬼がお茶のお代がわりに何があったかを話してくれる。
「旅館で緑の小鬼とペアを組んでいた見習いがドジをしたようで、一気に料理の配膳台を持っていこうとして雪崩を起こし、緑の小鬼が配膳台の料理の餡かけで火傷を負っているのに、まだ雪崩の下敷きになっているのです」
「あわわ! 大変じゃない! 直ぐに助けに行ってあげないと!」
「大丈夫なのです。今、テン達が付いて救出されているので、すぐに救護室に運ばれますよ」
「もう、あなたは落ち着きすぎね。仲間が火傷をしてるのに、もう!」
「ここは回復魔法の使い手が多いので、僕は安全と信頼で落ち着いていられるだけです」
本当にこの『温泉』の小鬼は冷静というか、『テン』の小鬼に比べると性格が違うのも判るし、ほんの少し顔つきもこっちの小鬼の方がキリッとしていて、『テン』の小鬼の方はふにゃっとしている感じがする。
まぁ、どちらもお喋りが好きで甘い物が大好きなのは変らないけど、この二人だけなら見分けは出来る。
「私は旅館の方の配膳雪崩の片付けを手伝いに行ってくるね。小鬼はオヤツタイムをゆっくりしてね」
「はい。お気を付けて」
小さい手を振ってくれる小鬼に手を振り返して、お茶の湯飲みを給湯室に持っていって洗っていると、背後に気配があって、腰に手を回される。
「ルーフ、旅館の方のお手伝いに行ってきますね?」
「ああ。程々にな」
上を向くと覆い被さるようにキスをされて、口の中に甘い味が広がっていき頬が熱くなる。
これ以上はヤバいと、小さく口の中に入ってきた舌を軽く噛むと、逆に奥に舌を入れられて吸われ、くらくらする。
ペシペシと手でルーファスを叩くと、喉の奥に唾液を流し込まれて飲み込むとようやく離してもらえた。
「ふぇーん。ルーフのバカー!」
「クククッ、行っておいで」
「うわーん! いってきますぅー!」
ワァーッと騒いで私は移動魔法で旅館のリネン室に移動したのだった。
事務所にもう顔出せない~っ!!! リュエールにあとでチクチク言われそうで怖い~っ!!
金色の尻尾もフリフリでご機嫌が良さそうだ。
「お疲れ様です! お茶を淹れに来ましたー!」
「ああ、それなら、さっきクミンが淹れて行ったぞ?」
「そうなんだー。じゃあ給湯室のお掃除を……」
「それもクミンがして行ったぞ」
ぐぬぬぅぅ……またクミンか!?
見習いの中にクミンという女性がいるのだけど、そつなく仕事は熟すし仕事覚えもいい、テキパキとしていてお客さんへの対応も良い……いいのだけど、一つだけ難点がある。
それは、ルーファスにモーションを掛けているということなのだ!
いや、ルーファス以外にも男性には粉を掛けていくのだ……しかも露骨なモーションを掛けるわけでもなく、こうしたお茶淹れとかを、さり気なくして行き、高感度だけが上がる感じで……パッと見れば、気の利く良い子だけど、女性にはそうじゃない。
ほんの少しの差なんだけど、女性にもお茶とか淹れてくれたりするけど……微妙ないい加減さがあるのだ。
気付かない人は気付かない程度の、本当に微妙な手抜きで、普段の私なら気付かなかったと思う……。
ルーファスの手に触れているところを偶然見てから、クミンの行動を観察し続けた私の嫉妬の成せる業である。
威張れる事じゃないけど、手が触れたのも偶然書類が落ちそうになったのを、拾おうとしてだけだけど……。
「ミヤの淹れてくれた茶が飲みたいから、淹れ直してくれるか? 手間を掛けさせてしまうが」
「はい! 任せて下さいな!」
ルーファスの、このさり気ない番への気遣いで荒ぶった私の心も、一気に晴れていくというものである。
湯飲みを持つと、淹れ立てなのか温かく……ほんの数分差だったかと思うけど、でも愛する息子のスクルードへの伝言を残す時間は絶対必要だったから、悔やんだりはしない。
「ミヤさん。僕のも淹れ直しお願いします」
「あっ、ならオレもお願いします!」
「こっちもー」
リュエールや事務に居る人達から声が上がり、お茶が少し勿体ない気もするけど、「はーい!」と声を上げてそれぞれの湯飲みを回収していく。
きっと、冬場だから体調管理に私の【聖域】が働くお茶の方が良いのだろう。
お茶を淹れ直して配ってから、私は事務所の床を【清浄】魔法で綺麗に掃除して、ひと段落したら『テン』の小鬼と一緒に、コッソリ事務所の衝立のある簡易応接間で二人でお茶菓子を食べてる。
「この最中美味しいですねぇ」
「この最中の中の温牛ミルク餅が、これまた美味しいね~」
今現在、温牛ミルクを使った色々なお菓子が試作されていて、【刻狼亭】に持ち込まれては従業員のオヤツとして出され、味の感想を絶賛お待ちしています状態なのである。
「お茶と一緒に食べるなら、夏より冬の温かい物の方が合いますね」
「うん。麦茶はどうかと思うけど、セイロンティーとかにも合うかも?」
二人で味と合いそうなお茶を言い合っていると、小鬼がピクンッと、とんがり耳を動かして立ち上がる。
どうしたのかな? と、首を傾げると「テンさん! 緑の小鬼からの緊急です!」と言って、小鬼が声を上げて直ぐにテンが小鬼を上から摘まみ上げると、事務所から素早く出て行く。
「あらら……緑のチョーカーの小鬼ちゃん、なにかあったのかな?」
私が一人ごちっていると、『温泉』の小鬼がヒョッコリ現れて、最中の包みを開く。
お茶を淹れてあげると、ニッと笑って小鬼がお茶のお代がわりに何があったかを話してくれる。
「旅館で緑の小鬼とペアを組んでいた見習いがドジをしたようで、一気に料理の配膳台を持っていこうとして雪崩を起こし、緑の小鬼が配膳台の料理の餡かけで火傷を負っているのに、まだ雪崩の下敷きになっているのです」
「あわわ! 大変じゃない! 直ぐに助けに行ってあげないと!」
「大丈夫なのです。今、テン達が付いて救出されているので、すぐに救護室に運ばれますよ」
「もう、あなたは落ち着きすぎね。仲間が火傷をしてるのに、もう!」
「ここは回復魔法の使い手が多いので、僕は安全と信頼で落ち着いていられるだけです」
本当にこの『温泉』の小鬼は冷静というか、『テン』の小鬼に比べると性格が違うのも判るし、ほんの少し顔つきもこっちの小鬼の方がキリッとしていて、『テン』の小鬼の方はふにゃっとしている感じがする。
まぁ、どちらもお喋りが好きで甘い物が大好きなのは変らないけど、この二人だけなら見分けは出来る。
「私は旅館の方の配膳雪崩の片付けを手伝いに行ってくるね。小鬼はオヤツタイムをゆっくりしてね」
「はい。お気を付けて」
小さい手を振ってくれる小鬼に手を振り返して、お茶の湯飲みを給湯室に持っていって洗っていると、背後に気配があって、腰に手を回される。
「ルーフ、旅館の方のお手伝いに行ってきますね?」
「ああ。程々にな」
上を向くと覆い被さるようにキスをされて、口の中に甘い味が広がっていき頬が熱くなる。
これ以上はヤバいと、小さく口の中に入ってきた舌を軽く噛むと、逆に奥に舌を入れられて吸われ、くらくらする。
ペシペシと手でルーファスを叩くと、喉の奥に唾液を流し込まれて飲み込むとようやく離してもらえた。
「ふぇーん。ルーフのバカー!」
「クククッ、行っておいで」
「うわーん! いってきますぅー!」
ワァーッと騒いで私は移動魔法で旅館のリネン室に移動したのだった。
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