762 / 960
23章
スーとハガネ
しおりを挟む
社の中をスクルードが好きに家具を置いている中で、ハガネはアカリ達に使ったマグカップを水玉で洗いながら、まだほうじ茶をのんびり飲んでいるスクルードを小さく睨む。
「お前なぁ、俺を巻き込むなよ」
「だって、未来のハガネが「なんかありゃあ、俺を巻き込めばいい。ちっとくらいは力貸してやるよ」って、本人が言ったんだから、仕方ないじゃない?」
「だーぁっ! 未来の俺かよ!」
「文句は未来の自分にどうぞだよ」
クスクス笑ってスクルードが、ハガネの洗っていたマグカップに乾燥魔法をかける。
背中の羽がハガネの背中に当たって、手でぺしっと払い除けられる。
「しかし、異世界人が子供に手を出すのは、まだ先なのか?」
「母上にまだ財布以外で接触してないから、まだだね」
「にしても、アカリも変なのを呼び寄せるな……一度、お祓いでもしてもらった方がいいんじゃねぇーのか」
「母上はこの世界の住民達に比べて、弱く見えるからね。まぁ、実際弱っちいけどさ……まぁ、母上が小さくて子供に見えたっていうのが、何とも言えないけどね」
「アカリは小せぇからなぁ……まぁ顔も若いままだから、勘違いしちまったのも仕方ねぇよな」
本人に言えば「なんですって!?」と怒り出しそうなことなので、あえて耳を塞いでアカリには聞かせなかった。
一番初めに異世界人が透明化を解いた姿を目撃したのは、アカリだった。
アカリとスクルードが屋敷の庭で隠れんぼをして遊んでいた時に、いきなり襲われたのだが、スクルードがアカリを匂いで見つけた時に「ははうー?」と言ったことで、アカリが大人で子供までいると分かると、異世界人は逃げて事件は未遂に終わった。
その異世界人の性的思考は「小さな子」で「未経験」が好みだった。
なので子供もいるアカリでは駄目だったというわけである。
次の矛先が十二、三歳の女の子へ移るが、この世界の十代の女の子というのは、魔法も使える為に返り討ちにあい、より弱い存在の幼子へと犯行は移っていくことになる。
それは残酷な事件だったという。
大人達は一様に口を噤み、事件のことを話そうとはしない為に、大人のスクルードもなにがあったかは知らない。
幼子が襲われた事件は、犯人が透明化しての犯行の為に、獣人達が匂いで捜査をして、追いつめたものの、温泉街から逃げられてしまい、数年後に再び、温泉街で殺人事件が相次ぎ、異世界から来た男を捕らえた時には、各地に幼子の被害と暗殺された人々の数で、賞金首の中でも上位に入るほどになっていた。
心を痛めたのは最初の未遂被害者のアカリで、自分が犯人を捕まえていれば、被害者は出なかったかもしれないと言っていた。そして、アカリの見た犯人を元に大々的に張り紙をして探させた為に、透明化をしての犯行となり、より捕まえるのが困難になってしまった責任があると、アカリは悔やむことになる。
アカリが襲われた時点でルーファスが【刻狼亭】の従業員を総出で捜索させたが、その時はまだ異世界人で透明化の能力を持っていることが分かっていなかった為に、捕まえ切れなかったのだ。
ルーファスもしっかり匂いで犯人を追うべきだったと、最初の事件の時にアカリの目撃した人物像だけで探してしまった事を悔やんでいた。
リュエールも当主として、温泉大陸の人々への安全面を確保できなかったことに【刻狼亭】の汚点だと言い、シュトラールは被害にあった幼子の治療をした為に、絶対に許せないと誰よりも怒っていた。
そして一番悲しんだのは、暗殺で夫を失った姉のルーシーだ。番喪失になり、今も三つ子の兄達に支えられて、ギリギリ生きている状態だ。
これはトリニア家の両親や兄姉達を含めた者達が、スクルードに託した無念を晴らす為の使命でもある。
家族写真はこの時代へ行く前に「絶対に、この写真通りの笑顔を取り戻そう」というトリニア家の決意の写真だ。
「ここで絶対に決着を付ける。誰も被害に遭わせたりしない」
スクルードが手をグッと握ると、ハガネが頭をわしわしと搔き乱して、ニッと白い歯を見せて笑う。
身長の高いスクルードの頭をこんな風に出来るのは同じ身長のハガネか、シュトラールくらいなものだ。
「あんま気張り過ぎんな。判断を鈍らせるからな」
「うん。ハガネにはいつもそう言われてるー」
「お前の教育係だかんな。いつでも言うさ」
ニシシッと二人で顔を見合わせて笑い、大きく伸びをすると「さて、動きますかー」と元気に声を上げる。
「にしても、お前、髪伸びすぎだろ?」
「願掛けだよ。これが終わったら切るつもりだよ」
「お前信心深いなぁ」
「そりゃ、ハガネに小さい頃から、この神社に連れてきてもらってるしね。神さんに願えば叶わねぇことはねぇって言われてきたから」
「まっ、俺らしいか。この時代の神さんはお前になるように、全力で行こうぜ」
「そう言って、俺を神さん化させて信心深いチビッ子の俺を作るんだから、まったく」
社の中の家具を手の平の鍵を出して、ポイポイと収納していき何も無いようにすると「次にここに来る時は未来のココだと良いんだけどね」とスクルードは笑う。
「お前なぁ、俺を巻き込むなよ」
「だって、未来のハガネが「なんかありゃあ、俺を巻き込めばいい。ちっとくらいは力貸してやるよ」って、本人が言ったんだから、仕方ないじゃない?」
「だーぁっ! 未来の俺かよ!」
「文句は未来の自分にどうぞだよ」
クスクス笑ってスクルードが、ハガネの洗っていたマグカップに乾燥魔法をかける。
背中の羽がハガネの背中に当たって、手でぺしっと払い除けられる。
「しかし、異世界人が子供に手を出すのは、まだ先なのか?」
「母上にまだ財布以外で接触してないから、まだだね」
「にしても、アカリも変なのを呼び寄せるな……一度、お祓いでもしてもらった方がいいんじゃねぇーのか」
「母上はこの世界の住民達に比べて、弱く見えるからね。まぁ、実際弱っちいけどさ……まぁ、母上が小さくて子供に見えたっていうのが、何とも言えないけどね」
「アカリは小せぇからなぁ……まぁ顔も若いままだから、勘違いしちまったのも仕方ねぇよな」
本人に言えば「なんですって!?」と怒り出しそうなことなので、あえて耳を塞いでアカリには聞かせなかった。
一番初めに異世界人が透明化を解いた姿を目撃したのは、アカリだった。
アカリとスクルードが屋敷の庭で隠れんぼをして遊んでいた時に、いきなり襲われたのだが、スクルードがアカリを匂いで見つけた時に「ははうー?」と言ったことで、アカリが大人で子供までいると分かると、異世界人は逃げて事件は未遂に終わった。
その異世界人の性的思考は「小さな子」で「未経験」が好みだった。
なので子供もいるアカリでは駄目だったというわけである。
次の矛先が十二、三歳の女の子へ移るが、この世界の十代の女の子というのは、魔法も使える為に返り討ちにあい、より弱い存在の幼子へと犯行は移っていくことになる。
それは残酷な事件だったという。
大人達は一様に口を噤み、事件のことを話そうとはしない為に、大人のスクルードもなにがあったかは知らない。
幼子が襲われた事件は、犯人が透明化しての犯行の為に、獣人達が匂いで捜査をして、追いつめたものの、温泉街から逃げられてしまい、数年後に再び、温泉街で殺人事件が相次ぎ、異世界から来た男を捕らえた時には、各地に幼子の被害と暗殺された人々の数で、賞金首の中でも上位に入るほどになっていた。
心を痛めたのは最初の未遂被害者のアカリで、自分が犯人を捕まえていれば、被害者は出なかったかもしれないと言っていた。そして、アカリの見た犯人を元に大々的に張り紙をして探させた為に、透明化をしての犯行となり、より捕まえるのが困難になってしまった責任があると、アカリは悔やむことになる。
アカリが襲われた時点でルーファスが【刻狼亭】の従業員を総出で捜索させたが、その時はまだ異世界人で透明化の能力を持っていることが分かっていなかった為に、捕まえ切れなかったのだ。
ルーファスもしっかり匂いで犯人を追うべきだったと、最初の事件の時にアカリの目撃した人物像だけで探してしまった事を悔やんでいた。
リュエールも当主として、温泉大陸の人々への安全面を確保できなかったことに【刻狼亭】の汚点だと言い、シュトラールは被害にあった幼子の治療をした為に、絶対に許せないと誰よりも怒っていた。
そして一番悲しんだのは、暗殺で夫を失った姉のルーシーだ。番喪失になり、今も三つ子の兄達に支えられて、ギリギリ生きている状態だ。
これはトリニア家の両親や兄姉達を含めた者達が、スクルードに託した無念を晴らす為の使命でもある。
家族写真はこの時代へ行く前に「絶対に、この写真通りの笑顔を取り戻そう」というトリニア家の決意の写真だ。
「ここで絶対に決着を付ける。誰も被害に遭わせたりしない」
スクルードが手をグッと握ると、ハガネが頭をわしわしと搔き乱して、ニッと白い歯を見せて笑う。
身長の高いスクルードの頭をこんな風に出来るのは同じ身長のハガネか、シュトラールくらいなものだ。
「あんま気張り過ぎんな。判断を鈍らせるからな」
「うん。ハガネにはいつもそう言われてるー」
「お前の教育係だかんな。いつでも言うさ」
ニシシッと二人で顔を見合わせて笑い、大きく伸びをすると「さて、動きますかー」と元気に声を上げる。
「にしても、お前、髪伸びすぎだろ?」
「願掛けだよ。これが終わったら切るつもりだよ」
「お前信心深いなぁ」
「そりゃ、ハガネに小さい頃から、この神社に連れてきてもらってるしね。神さんに願えば叶わねぇことはねぇって言われてきたから」
「まっ、俺らしいか。この時代の神さんはお前になるように、全力で行こうぜ」
「そう言って、俺を神さん化させて信心深いチビッ子の俺を作るんだから、まったく」
社の中の家具を手の平の鍵を出して、ポイポイと収納していき何も無いようにすると「次にここに来る時は未来のココだと良いんだけどね」とスクルードは笑う。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。