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23章
風呂敷の中身
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スクルードのお誕生日が無事に終わり、二歳になったスクルードと庭で枯葉を集めていると庭に【刻狼亭】の元料理長をしていたアーネスさんが風呂敷を手にやって来る。
「大女将、ご無沙汰です」
「アーネスさん、お久しぶりです!」
「うー?」
「スーちゃん、もぐもぐを作ってくれてたアーネスさんだよ」
「もぐもぐー!」
【刻狼亭】の料亭で離乳食を『もぐもぐ』と覚えてしまっているので、アーネスさんはもぐもぐの人なのである。
「ハハッ、スー坊も元気そうでなによりですな。坊ちゃんは?」
「ルーファスなら今、入国記録を見に料亭の事務所に行ってます」
アーネスさんはルーファスのお父さんが生きていた頃から居る【刻狼亭】の古株だった人で、ルーファスが生まれた頃からいるから『坊ちゃん』とルーファスのことを今でも呼んでいる数少ない人。
「そうですか。なら、これを坊ちゃんに渡しておいてください」
「はい。ちゃんと渡しておきますね」
持っていた風呂敷包みをアーネスさんから受け取ると、「では、失礼します」と言ってスクルードの頭を撫でて、しわの深い顔で笑って庭から出て行った。
「ははうー、なーに? なーに?」
「なんだろうねー? 父上が帰ってきたら見せて貰っちゃおうね」
「うー! もぐもぐ?」
「もぐもぐかはわかんないよー?」
風呂敷を持って縁側から屋敷の中に入って、大広間のテーブルの上に置くとまた庭に戻って、私とスクルードは枯葉を拾う作業に戻る。
枯葉を集めて、枯葉に色を塗り付けて布地に押し付ける……そう、枯葉アートをするつもりなのである。それをリックサックにしようと思っているところで、二人でせっせと形の良い葉っぱを見付けている。
世界に一つしかないオリジナルというところがポイント。
それに、こうして二人で枯葉を集めつつ遊べるのも楽しいから一石二鳥かな?
「かみさんー!」
「かみさん? なにが?」
スクルードが大きな声を出して指をさし、私は後ろを振り向くと、この間の黒髪の男性がうちの屋敷の中から出て行くところだった。
一瞬、ポカーンとしてしまったけど、男性の手にアーネスさんの風呂敷包みがあったことに気付き、私は息を吸い込む。
「泥棒ー!!」
私は力の限り叫んで、スクルードが男性に駆けだそうとしたのを抱きしめて止める。
男性は屋敷の中に逃げ込み、どうしよう? とオロオロしていると、私の声を聞き付けた宿舎の従業員が「大女将どうしましたー?」と声を掛けてくる。
「屋敷の中に泥棒がいるの!」
「えぇ!? 直ぐに行きます!!」
バタバタと従業員が走って駆け付けてくれて、屋敷の中を見て回ってくれた。
その間に私はスクルードから「かみさんって誰なの?」と聞いてみたけど、「かみさーん!」としか教えてくれなくて、サッパリだった。
「大女将、屋敷の中にはもう居ないみたいですよ」
「本当? お勝手口から逃げたのかなぁ……怖い」
「一応、獣人の鼻の良いのを呼んできましょうか? まぁ、大旦那が戻れば直ぐに分かるとは思うんですけど」
「そう、だね……でも、まだ屋敷に入るの怖いなぁ……」
「大旦那を呼んでみては?」
「あっ、そうだよね」
テンパリ過ぎていて、腕輪で連絡を取るのを忘れていた。
従業員にお礼を言って、私はルーファスに連絡を取る。
「ルーファス、屋敷に泥棒が入ったの!」
『なんだと!? 直ぐに帰る! アカリもスーも無事か!?』
「うん。こないだの、男の人が犯人なの! アーネスさんからルーファスに渡すように言われた風呂敷包みを盗まれちゃったの」
『とりあえず、直ぐ戻るから安全な場所に居ろ』
通信を終えて、こないだは怖い人だとは思わなかったけど、いきなり屋敷に入ってきたりして怖いと感じる。
体がガタガタと恐怖で震え始めると、腕の中のスクルードが「ははうー?」と首を傾げる。
「スーちゃんは、母上が守ってあげるからね」
「ははうー! あはーっ」
笑顔でスクルードが拾った枯葉を手にニコニコしていて、ギュッと抱きしめてルーファスの帰りを待っていた。
「ははうー、さみーみ」
「寒いの? 母上の上着を貸してあげるね」
鼻水をスンッと吸い込むスクルードの鼻を布巾で拭いて、羽織っていた着物用のコートを脱いでスクルードを包み込むと、秋風にブルッと私も寒さを感じる。
屋敷の中は怖いけど、風避けに入った方がいいだろうか?
でも、ルーファスが帰って来るまでは外に居た方が安全だから、もう少し我慢しよう。
「アカリ! 無事か!?」
「うん。怖かった……怖かったよー……ぐすっ」
ルーファスの顔を見た途端、安堵から涙がポロッとこぼれて抱きしめてもらうと、ルーファスの体温の温かさもあってか、じーんっとしてしまった。
「もう大丈夫だ。スーも大丈夫か?」
「うー! かみさーん! きたー!」
「かみさん?」
「ぐすっ、なんかね、スーちゃんが、犯人の男の人を『かみさん』って呼んでて、聞いたんだけど、かみさんとしか言わないの」
涙をルーファスに拭ってもらいながら、スクルードにもう一度「かみさんってだーれ?」と聞いたけど「かみさーん」としか言わない。
二歳児にはこれ以上聞き出すのは無理そうで、ルーファスが屋敷の中を匂いを嗅ぎながら見回ってくれたけど、不審な匂いはしなかったらしくて、屋敷を見てくれた従業員の匂いしか真新しいものはなかったようだ。
「アーネスに風呂敷の中身を聞いてくる。アカリは【刻狼亭】の事務所に居ろ」
そう言ってルーファスが出て行き、私とスクルードは戸締りをしてから事務所の方へ向かい、【刻狼亭】に戻ってきたテンと小鬼にお茶菓子を出してもらいながら、ルーファスの帰りを待っていた。
ルーファスが帰ってきたのは、夕方過ぎてからで、その顔は酷く落ち込んでいた。
ルーファスが私を抱きしめて肩に顔を埋めると、「アーネスが死んだ」と消えてしまいそうな声でそう言った。
「大女将、ご無沙汰です」
「アーネスさん、お久しぶりです!」
「うー?」
「スーちゃん、もぐもぐを作ってくれてたアーネスさんだよ」
「もぐもぐー!」
【刻狼亭】の料亭で離乳食を『もぐもぐ』と覚えてしまっているので、アーネスさんはもぐもぐの人なのである。
「ハハッ、スー坊も元気そうでなによりですな。坊ちゃんは?」
「ルーファスなら今、入国記録を見に料亭の事務所に行ってます」
アーネスさんはルーファスのお父さんが生きていた頃から居る【刻狼亭】の古株だった人で、ルーファスが生まれた頃からいるから『坊ちゃん』とルーファスのことを今でも呼んでいる数少ない人。
「そうですか。なら、これを坊ちゃんに渡しておいてください」
「はい。ちゃんと渡しておきますね」
持っていた風呂敷包みをアーネスさんから受け取ると、「では、失礼します」と言ってスクルードの頭を撫でて、しわの深い顔で笑って庭から出て行った。
「ははうー、なーに? なーに?」
「なんだろうねー? 父上が帰ってきたら見せて貰っちゃおうね」
「うー! もぐもぐ?」
「もぐもぐかはわかんないよー?」
風呂敷を持って縁側から屋敷の中に入って、大広間のテーブルの上に置くとまた庭に戻って、私とスクルードは枯葉を拾う作業に戻る。
枯葉を集めて、枯葉に色を塗り付けて布地に押し付ける……そう、枯葉アートをするつもりなのである。それをリックサックにしようと思っているところで、二人でせっせと形の良い葉っぱを見付けている。
世界に一つしかないオリジナルというところがポイント。
それに、こうして二人で枯葉を集めつつ遊べるのも楽しいから一石二鳥かな?
「かみさんー!」
「かみさん? なにが?」
スクルードが大きな声を出して指をさし、私は後ろを振り向くと、この間の黒髪の男性がうちの屋敷の中から出て行くところだった。
一瞬、ポカーンとしてしまったけど、男性の手にアーネスさんの風呂敷包みがあったことに気付き、私は息を吸い込む。
「泥棒ー!!」
私は力の限り叫んで、スクルードが男性に駆けだそうとしたのを抱きしめて止める。
男性は屋敷の中に逃げ込み、どうしよう? とオロオロしていると、私の声を聞き付けた宿舎の従業員が「大女将どうしましたー?」と声を掛けてくる。
「屋敷の中に泥棒がいるの!」
「えぇ!? 直ぐに行きます!!」
バタバタと従業員が走って駆け付けてくれて、屋敷の中を見て回ってくれた。
その間に私はスクルードから「かみさんって誰なの?」と聞いてみたけど、「かみさーん!」としか教えてくれなくて、サッパリだった。
「大女将、屋敷の中にはもう居ないみたいですよ」
「本当? お勝手口から逃げたのかなぁ……怖い」
「一応、獣人の鼻の良いのを呼んできましょうか? まぁ、大旦那が戻れば直ぐに分かるとは思うんですけど」
「そう、だね……でも、まだ屋敷に入るの怖いなぁ……」
「大旦那を呼んでみては?」
「あっ、そうだよね」
テンパリ過ぎていて、腕輪で連絡を取るのを忘れていた。
従業員にお礼を言って、私はルーファスに連絡を取る。
「ルーファス、屋敷に泥棒が入ったの!」
『なんだと!? 直ぐに帰る! アカリもスーも無事か!?』
「うん。こないだの、男の人が犯人なの! アーネスさんからルーファスに渡すように言われた風呂敷包みを盗まれちゃったの」
『とりあえず、直ぐ戻るから安全な場所に居ろ』
通信を終えて、こないだは怖い人だとは思わなかったけど、いきなり屋敷に入ってきたりして怖いと感じる。
体がガタガタと恐怖で震え始めると、腕の中のスクルードが「ははうー?」と首を傾げる。
「スーちゃんは、母上が守ってあげるからね」
「ははうー! あはーっ」
笑顔でスクルードが拾った枯葉を手にニコニコしていて、ギュッと抱きしめてルーファスの帰りを待っていた。
「ははうー、さみーみ」
「寒いの? 母上の上着を貸してあげるね」
鼻水をスンッと吸い込むスクルードの鼻を布巾で拭いて、羽織っていた着物用のコートを脱いでスクルードを包み込むと、秋風にブルッと私も寒さを感じる。
屋敷の中は怖いけど、風避けに入った方がいいだろうか?
でも、ルーファスが帰って来るまでは外に居た方が安全だから、もう少し我慢しよう。
「アカリ! 無事か!?」
「うん。怖かった……怖かったよー……ぐすっ」
ルーファスの顔を見た途端、安堵から涙がポロッとこぼれて抱きしめてもらうと、ルーファスの体温の温かさもあってか、じーんっとしてしまった。
「もう大丈夫だ。スーも大丈夫か?」
「うー! かみさーん! きたー!」
「かみさん?」
「ぐすっ、なんかね、スーちゃんが、犯人の男の人を『かみさん』って呼んでて、聞いたんだけど、かみさんとしか言わないの」
涙をルーファスに拭ってもらいながら、スクルードにもう一度「かみさんってだーれ?」と聞いたけど「かみさーん」としか言わない。
二歳児にはこれ以上聞き出すのは無理そうで、ルーファスが屋敷の中を匂いを嗅ぎながら見回ってくれたけど、不審な匂いはしなかったらしくて、屋敷を見てくれた従業員の匂いしか真新しいものはなかったようだ。
「アーネスに風呂敷の中身を聞いてくる。アカリは【刻狼亭】の事務所に居ろ」
そう言ってルーファスが出て行き、私とスクルードは戸締りをしてから事務所の方へ向かい、【刻狼亭】に戻ってきたテンと小鬼にお茶菓子を出してもらいながら、ルーファスの帰りを待っていた。
ルーファスが帰ってきたのは、夕方過ぎてからで、その顔は酷く落ち込んでいた。
ルーファスが私を抱きしめて肩に顔を埋めると、「アーネスが死んだ」と消えてしまいそうな声でそう言った。
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