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23章
お誕生日と暴走馬車
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秋が深まり始めた頃、いつもならば寒くなりそうな頃合いなので冷え性の私はガチガチに震えて一人冬装いなのだけど、ヒドラのクリスタルをルーファスと分け合って、病気や毒なんかも効かないパーフェクトボディ? になったうえ、冷え性も改善されちゃって、着物に割烹着という昔懐かし日本のお母さんスタイルでお買い物をしに街に出ている。
「大女将、今日は何にするんだい?」
「今日はねー、息子の二歳の誕生日なの。だから、特大ハンバーグにするの!」
「二歳ってことは、スー坊だね!」
「そう! 今日はお肉祭りするんですよー」
街のお店の人達と会話を弾ませて、鼻歌交じりでご機嫌な私である。
今頃、ルーファスはスクルードの二歳のお誕生日に合わせて作ってもらっていたお布団を取りに行ってくれている頃だし、スクルード本人はエルシオンやレーネルくん達が遊びに連れて行ってくれている。
ミルアとナルアがケーキを焼いてくれているし、ドラゴン達は屋敷の中で飾り付けをしていてくれている。
お誕生日は皆でワイワイ騒ぎたいから、家族総出で頑張っている最中だったりする。
「そうそう、最近この温泉大陸でもスリが出るようになったから気を付けるようにって、刻狼亭の坊ちゃんからお達しが出てたよ」
「あら、そうなの? 私は聞いてないけど……気を付けないとですねー」
「この大陸で、随分と勇気があるよねぇ」
「本当にー、うちの人達に見つかったら犯人に同情しちゃう……」
「あはは、大女将を狙う時点で命が無いからねぇ。大女将なら大丈夫だろうね」
「もぅー、うちの人達は私専用の番犬じゃないですよぅ」
そんな話をして、私はお肉屋さんに向かう。
本当は温牛牧場で直接買いたいんだけど、街中で買った方が温泉街の経済は回せるので、ここは経済を回す為にも街で買うようにしている。
温牛ミルクは鮮度の問題で直接買いに行ったりするけどね。
私がお肉屋の『どんてき』さんの所で、リュエールとシュトラールのお友達のキャンベルシーくんに挨拶をして「お肉のミンチが一杯欲しいんだけど、粗挽きなのと細かいのを半々でー……」と言っていた時、街中が騒がしくなり、キャァアァと悲鳴が上がる。
ワァーと騒ぐ声に、人の騒めき、ドドドドと何かが近付いてくる音が派手にする。
「馬車が暴走してるぞー!」
「みんな避けろー!」
そんな声が上がり、キャンベルシーくんが店の中から「どうしたんだー?」と、私と一緒に店前に出てくると、四頭引きの馬車が暴走して街中を爆走していた。
何人か冒険者が止めに入っているけど、馬車の暴走は止まらないようで冒険者が弾き飛ばされて、魔法を使って街の住民も足止めしようとしているが、観光客や街の人が多い場所なので上手くいっていない。
「大女将さんは、危ないから後ろに!」
「キャンベルシーくんも逃げないと!」
「大丈夫! これでもリューやシューと遊んでたんだし!」
キャンベルシーくんが笑顔で馬車の方に向かい拳に力を入れると、モキモキの筋肉が倍に膨れ上がる。
ルーファス達とは違うベクトルの筋肉に思わず、目でマジマジと見てしまう。
そしてキャンベルシーくんは「こいやぁぁぁ!」と勇ましく声を出す。
この温泉大陸の住民は相変わらずの血気盛んな感じだ。
ひぇぇぇ……と小さく声を出しつつも、私は巻き込まれるわけにもいかないので、お店の軒下で左右どっちにも逃げられる様に大人しくしている。
軒下に逃げ込んでいる人達も多いから、みんなが逃げている場所を見習えば一先ずは安全かな?
トンッと人と肩がぶつかって、慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「こっちこそ、ごめんね?」
ハガネの身長と変わらない背の高い男の人で、ストレートの長い髪は腰まである人とぶつかってしまったようだ。
この世界では珍しい黒い八角帽子に黒いサングラス。
質の良い茶色の裾の長い革ジャケットに小鹿色のズボン、麻のシャツに首には温泉大陸の無期限に入国できる黒水晶で出来た入国証明を下げている。
けど、なんだろう? 凄く、現代的と言えば良いのか、私のいた世界の服装に近い。
腰に下げたポーションホルダーもよく見れば、英語のロゴが入っている。
Good luck……確か、「幸運を祈る」とかだったかな? 意味のある英語は、この世界では珍しい。
「……エッチ」
「ふぇっ!?」
私がマジマジ見ていたのも悪いけど、いきなりの「エッチ」呼ばわり、こないだから「痴女」だったりと、私の評価はどうなっているのか!?
「人をジロジロ見るなんて駄目だって、お母さんに教わらなかった?」
なんだか凄く揶揄われている感じがヒシヒシとする。
あーうん、絶対揶揄ってる。サングラスの奥の目がそんな感じだ。金色の目が笑ってる。あれ? 凄くこの目を知っている。
「-っと、だから、人をジロジロ見るのは失礼だってば……って」
男性が私と話しながら、何かを指で弾くと突風のような物が私の脇を抜けて、後ろでズダーンッと大きな音がする。
後ろを振り向くと、馬車が横転して車輪がカラカラと回りながら、土煙が上がっている。
「なっー……今の、なに?」
「何でもないよ。それより、息子さんの二歳の誕生日なんだから、早く買い物して帰ってあげなよ」
「どうして、それを知っているの?」
「さっき、店先で話してたのが聞こえただけ。あと、財布落ちてるよ?」
「え? あっ、本当だ。いつの間に……」
私が地面に落ちていた財布を拾って顔を上げると、男性は消えていた。
何だったんだろう?
首を傾げて、私はまぁ、黒い水晶の入国証明を持っているなら、安全ではあるかな? と、戻ってきたキャンベルシーくんに買おうとしていたひき肉を再び注文して、買い物を続けた。
「大女将、今日は何にするんだい?」
「今日はねー、息子の二歳の誕生日なの。だから、特大ハンバーグにするの!」
「二歳ってことは、スー坊だね!」
「そう! 今日はお肉祭りするんですよー」
街のお店の人達と会話を弾ませて、鼻歌交じりでご機嫌な私である。
今頃、ルーファスはスクルードの二歳のお誕生日に合わせて作ってもらっていたお布団を取りに行ってくれている頃だし、スクルード本人はエルシオンやレーネルくん達が遊びに連れて行ってくれている。
ミルアとナルアがケーキを焼いてくれているし、ドラゴン達は屋敷の中で飾り付けをしていてくれている。
お誕生日は皆でワイワイ騒ぎたいから、家族総出で頑張っている最中だったりする。
「そうそう、最近この温泉大陸でもスリが出るようになったから気を付けるようにって、刻狼亭の坊ちゃんからお達しが出てたよ」
「あら、そうなの? 私は聞いてないけど……気を付けないとですねー」
「この大陸で、随分と勇気があるよねぇ」
「本当にー、うちの人達に見つかったら犯人に同情しちゃう……」
「あはは、大女将を狙う時点で命が無いからねぇ。大女将なら大丈夫だろうね」
「もぅー、うちの人達は私専用の番犬じゃないですよぅ」
そんな話をして、私はお肉屋さんに向かう。
本当は温牛牧場で直接買いたいんだけど、街中で買った方が温泉街の経済は回せるので、ここは経済を回す為にも街で買うようにしている。
温牛ミルクは鮮度の問題で直接買いに行ったりするけどね。
私がお肉屋の『どんてき』さんの所で、リュエールとシュトラールのお友達のキャンベルシーくんに挨拶をして「お肉のミンチが一杯欲しいんだけど、粗挽きなのと細かいのを半々でー……」と言っていた時、街中が騒がしくなり、キャァアァと悲鳴が上がる。
ワァーと騒ぐ声に、人の騒めき、ドドドドと何かが近付いてくる音が派手にする。
「馬車が暴走してるぞー!」
「みんな避けろー!」
そんな声が上がり、キャンベルシーくんが店の中から「どうしたんだー?」と、私と一緒に店前に出てくると、四頭引きの馬車が暴走して街中を爆走していた。
何人か冒険者が止めに入っているけど、馬車の暴走は止まらないようで冒険者が弾き飛ばされて、魔法を使って街の住民も足止めしようとしているが、観光客や街の人が多い場所なので上手くいっていない。
「大女将さんは、危ないから後ろに!」
「キャンベルシーくんも逃げないと!」
「大丈夫! これでもリューやシューと遊んでたんだし!」
キャンベルシーくんが笑顔で馬車の方に向かい拳に力を入れると、モキモキの筋肉が倍に膨れ上がる。
ルーファス達とは違うベクトルの筋肉に思わず、目でマジマジと見てしまう。
そしてキャンベルシーくんは「こいやぁぁぁ!」と勇ましく声を出す。
この温泉大陸の住民は相変わらずの血気盛んな感じだ。
ひぇぇぇ……と小さく声を出しつつも、私は巻き込まれるわけにもいかないので、お店の軒下で左右どっちにも逃げられる様に大人しくしている。
軒下に逃げ込んでいる人達も多いから、みんなが逃げている場所を見習えば一先ずは安全かな?
トンッと人と肩がぶつかって、慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「こっちこそ、ごめんね?」
ハガネの身長と変わらない背の高い男の人で、ストレートの長い髪は腰まである人とぶつかってしまったようだ。
この世界では珍しい黒い八角帽子に黒いサングラス。
質の良い茶色の裾の長い革ジャケットに小鹿色のズボン、麻のシャツに首には温泉大陸の無期限に入国できる黒水晶で出来た入国証明を下げている。
けど、なんだろう? 凄く、現代的と言えば良いのか、私のいた世界の服装に近い。
腰に下げたポーションホルダーもよく見れば、英語のロゴが入っている。
Good luck……確か、「幸運を祈る」とかだったかな? 意味のある英語は、この世界では珍しい。
「……エッチ」
「ふぇっ!?」
私がマジマジ見ていたのも悪いけど、いきなりの「エッチ」呼ばわり、こないだから「痴女」だったりと、私の評価はどうなっているのか!?
「人をジロジロ見るなんて駄目だって、お母さんに教わらなかった?」
なんだか凄く揶揄われている感じがヒシヒシとする。
あーうん、絶対揶揄ってる。サングラスの奥の目がそんな感じだ。金色の目が笑ってる。あれ? 凄くこの目を知っている。
「-っと、だから、人をジロジロ見るのは失礼だってば……って」
男性が私と話しながら、何かを指で弾くと突風のような物が私の脇を抜けて、後ろでズダーンッと大きな音がする。
後ろを振り向くと、馬車が横転して車輪がカラカラと回りながら、土煙が上がっている。
「なっー……今の、なに?」
「何でもないよ。それより、息子さんの二歳の誕生日なんだから、早く買い物して帰ってあげなよ」
「どうして、それを知っているの?」
「さっき、店先で話してたのが聞こえただけ。あと、財布落ちてるよ?」
「え? あっ、本当だ。いつの間に……」
私が地面に落ちていた財布を拾って顔を上げると、男性は消えていた。
何だったんだろう?
首を傾げて、私はまぁ、黒い水晶の入国証明を持っているなら、安全ではあるかな? と、戻ってきたキャンベルシーくんに買おうとしていたひき肉を再び注文して、買い物を続けた。
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