黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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23章

七つ首斬首

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 雨音で余計な雑音が多い密林で六つ首になったヒドラを相手に、それぞれが息を殺して隙をつく為に神経を集中させていた。
既に攻防は四回戦目に突入しており、雨で奪われる余計な体力にイラつきすら覚えている。

 二回戦目の雷を使ったクリスタルを見付ける作戦もことごとく失敗し、三戦目はドラゴン達が中心になり、ケルチャがヒドラの体を密林の木々を使って縛り上げてローランドが炎で焼き、グリムレインが氷で燃え尽きた場所を凍らせて再生を邪魔していたが、聖属性の回復を持つ頭がそれを邪魔し、失敗に終わった。

 四回戦目はグリムレインが氷漬けにしてヒドラをミルアとナルアが扇で叩き切っていたのだが、切り取った場所に瞬時に首が生え、逆にまた吹き飛ばされた双子だったりする。
流石にもう娘達に無理はさせられないと、ルーファスが二人を下がらせ、従業員達が隙を伺っていた。

そんな時だった。

『大旦那! ヒドラの七つ目の首が本命だ!』

 ハガネの連絡にルーファスも七つ目が本命ならば、全力で引きずり出すまでだと、それぞれに「七つ目の首が本命だ! 全力で七つ目の首を出させて、首を叩き落せ!」と指示を出す。

 戦いの活路のようなものさえあれば、この戦闘に終わりはあると活気づく。

「よし! じゃあ、オレも参戦するよ!」
「シュー、お前は後方支援でも良いんだぞ? むしろお前は温存しておきたいんだが?」
「なに言ってんのさ。ここで真打登場っていうのが良いんじゃない。わかってないなぁ父上は」

 少し伸びをして、シュトラールが「全体回復するよー! あとは各自、回復ポーションでがんばれー! 【拡大・回復エリア・ヒール】」と言って、回復呪文を唱えると飛び出していく。

「アルビー! 後方で回復役任せたよ!」
「シュー、無茶しないでよー! ルーファスも無茶しないでねー!」

 アルビーが既に怪我人収容所となっている木の上で、べろべろと怪我人達を舐めてオパール色の唾液で治している。相変わらずの回復方法に、従業員としては怪我はしないでおこうと思っている。
回復魔法は魔力を使うが、唾液は使わない為に、アルビーとしては魔力温存で舐めるという方向で頑張っている。

「スピナ! 風魔法で風属性のヒドラの首をね飛ばせ! 何度でもだ!」
「了解! 首の周りにいる子は気を付けてねー!」

 風属性の緑目のヒドラの首周りに居た従業員達が一斉に飛びのいて、他のヒドラの首に向かう。

「グリムレイン! お前は火のヒドラの口を塞いで火を吐かせるな!」
「わかった! 婿よ、これが終わったら我は絶対、嫁とデートに行くからな!」
「ぬかせ! アカリとのデートは、オレが一番最初と決まっている!」

 グリムレインとルーファスが真面目な口調で馬鹿なことを言い合い、それを見たミルアとナルアが「あれは俗にいう失敗しちゃう台詞ですの」とやれやれという顔で見る。

「ケルチャ! 水のヒドラの口を木の蔦で縛り上げろ! そのままくびり殺しても構わん!」
「はぁーい。まったく、ドラゴン使いの荒いことだわね」
「兄さん、あるじさまの為なのー。がんばろ?」
「ええ、頑張るわよ。アタシ達の主君はアカリとルーファスですものね」

 ケルチャとケイトの兄妹が指示に従い飛んで行き、残ったニクストローブにヒドラの足元を土で固め身動きを制限する様に命じる。

「ローランド! 闇のヒドラをお願いするのですわー!」
「やっちゃうのですわー! ローランドが一番ですわー!」
「任せな! オレが一番だってところをみせてやるよ!」

 ミルアとナルアにおだてられる様にローランドが闇のヒドラの顔面に火を吐き続ける。
残りは聖属性と新たに生えた首である。

「回復をさせるな! 手の空いている奴はどんどん叩き落せ!」
「ここからは手加減無しだ!」
「はぁ? あんたは最初から全力でしょ!」
「強がりも大概にしとけよー!わははは」

 ほんの少し余裕も出てきたのか、軽口も叩きながら沼地に幾つものヒドラの首が刎ね飛ばされて沈んでいく。
ルーファスも六つ目の首を刎ね飛ばして、七つ目の首がどこから生えるのかを見渡しつつ手を動かす。

「命の強い場所が移動してるの!」

 エデンが飛び回りながら叫び、首の奥深くにあったヒドラの鼓動が動くのを感じ取って、その鼓動を追う。
それは尾に集まっていた。
大きくヒドラが揺れ、六つの首が一つの首になり、太い首と大きな頭が生まれる。

「これが七つ目の首か!?」
「これが本命なら、みんな一斉攻撃だ!」
「これなら楽勝!」

 従業員達もルーファス達も首を落とす為に攻撃をしているが、エデンの目にはそうは思えなかった。
尾の先へ飛んで行き、エデンは見た。七色に輝く目を持つ小さなヒドラの首が尾にある事を___。

「みんな、それは偽物なの! みんな、私の声を聞い……キャアアアア!」

 ヒドラの尾にある頭から棘のようなものが吐き出され、エデンの羽に貫通すると悲鳴を上げて落ちていく。
沼地に落ちたエデンに気付く者が居ないのは、戦闘に夢中で声も掻き消されているからだ。

「どうしよう……主様を、助けたいのに……誰か、気付いてっ!!」

 エデンの目から涙が零れ落ちると、エデンの上から回復ポーションが掛けられていく。
顔を上げたエデンの目に映ったのは、それまで戦闘を観察していたテンと小鬼だった。

「大丈夫ですかぁ~? まったく、皆さん人の言うことを聞きませんからねぇ~」
「テンさん、ココは真打登場です!」
「あはは~、もう登場した後ですけどねぇ~?」

 小鬼がエデンに目を閉じる様に言い、小鬼も目を瞑る。
テンがすぅーっと息を吐くと、「【十号室】へようこそ~」とにこやかに口に出して、恐怖魔法を展開する。

 全員が赤いランプと黒い椅子、そして軍服姿のテンに「ヒッ!」と声を上げる。

「はーい。皆さん、時間がありませんからぁ~、手短にぃ。皆さんが叩いているのはぁ、七つ目の首ではありませんのでぇ、七つ目の首は尻尾ですよぉ~。教えてくれたエデンに、ちゃんと謝っておくんですよぉ~ではでは~」

 テンの【十号室】に居た時間は瞬き程度の時間だが、それぞれドッと心臓が震えあがる思いをさせられて、長い時間居た気さえしてしまう。

「テンの奴……戦闘中になんてことするんだ……」
「心臓がヤバい!」
「いや、それより! ヒドラの尻尾を狙え!」
「そうだ! 尻尾に行くぞ!」

 ルーファスと従業員が首から尻尾へ移動するのを見て、テンは「手のかかる人達ですねぇ~」と楽し気に声を出して、エデンを起き上がらせると再び木の上に登り、ヒドラの七つ目の首が刎ねられるのを小鬼と高みの見物を決め込む。

 七つ目の首が落された時、それぞれの冒険者カードに【七つ首斬首】の称号が記載されたのだった。
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