黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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23章

ティルとルーシーの帰国

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 ミシリマーフ国と温泉大陸の『氷の刻狼亭』というお祭り騒ぎも本日最終日とあって、ドラゴン定期便は人が多く、今日の為だけに三日間だけ有効の温泉大陸入国木簡もっかんの発行が忙しいそうだ。
木簡は字の通り、木の札に入国許可の書類を魔法でギュッと書き入れた物で、三日間だけの入国という短い間しか使えない。
ミシリマーフ国へドラゴン達が運んでくれるから、ミシリマーフ国の入国の木簡も裏に記されている今年から導入の物です。

 ちなみに、この入国に関しては他の国々も入国審査などを簡単にすべく、入国許可証を全ての国で情報開示出来るようにしてはどうか? という話し合いも出ている。
まぁ、パスポートのようなものなのかな? と、私はみている。
犯罪者や入国拒否された人物がパッとわかるのは楽だし、入国審査で書類を抱えている事務所の人達のお仕事が少しでも無くなるなら良いことだと思う。

「皆、どれだけミシリマーフ国に行きたいんだか……」
「はーい。シューちゃん、文句言わないの」
「そうです。僕も手伝っているんだから、チャッチャとやって下さい」

 【刻狼亭】の事務所でシュトラールにお茶を出しつつ、私と小鬼が声を掛けると、シュトラールは苦虫を噛み潰したような顔をする。
リュエールがミシリマーフ国へ行っている為に、いつもならばリュエールがやっている書類もシュトラールに回ってきている。

「絶対リューの奴、他の書類も回してきてる!」

 まぁ、リュエールならばそういう事はしそうだなとは思うけど。
小鬼がシュトラールの手の上を足でむぎゅっと踏みつけて「手を早く動かすのです!」と手厳しく指導している。
リュエールに置いて行かれたのもあってか、小鬼は不機嫌でもある。
折角のミシリマーフ国の情報が集められないと不満らしいので、この入国審査のお手伝いで情報をフル回転させてもらって憂さ晴らしをさせている。
彼等、小鬼は情報を取り扱ってさえいればご機嫌は良いのだ。

「ううー……オレもミシリマーフ国に遊びに行きたい……」
「シューちゃん、あと少しでティル達も帰って来るから、お出迎えに行ったルビアちゃん達も帰って来るし、働いてるカッコイイお父さんを見せないとだよ?」

 机に突っ伏していたシュトラールの耳がピクッ動いて、背筋をピンッと正すとキリッとした顔で書類に目を通し始める。
まったく、うちの次男はやる気スイッチを押さないと駄目なのだから困ったものだ。

「そういえば、母上……あっ、まぁ、いっか……」
「ん? なぁに?」
「ううん。なんでもないよー」
「気になるじゃない。言いなさい」
 
 少し目を逸らしつつ、シュトラールが「今日は父上の匂いが凄いなって……」と言い、私の顔は真っ赤になる。
確かに昨晩はルーファスとのエッチが激しかったのもあるけど、デリカシーを持って欲しい。いや、私が言いなさいとは言ったけど!!

「シューちゃん! もう!」
「いや、だって……母上の匂いの上にガッツリ父上がマーキングしてるから、夫婦仲が良いのは良いことじゃない」
「もう! もう! そういうデリカシーの無いことを言うのは、この口なのー!」

 シュトラールの口を指で引っ張って騒ぎ立てる。
ちゃんと朝ご飯の準備が終わってから、お風呂に入ってきたのに獣人の鼻はよすぎて困る。
私達が騒いでいると、事務所の扉が開き、子供達が事務所に乱入してくる。

「とーさま! ただいまー!」
「ルビス! おかえりー!」

 ルビスちゃんが一番に走って来てシュトラールに飛びつくと、お互いに尻尾をブンブン振って抱き合っている。
仲良し父子を横目に、私も走って来て転ぶところをルーファスに捕まえられているスクルードに手を広げる。

「ははうー! ははうー!」
「はーい。スーちゃんおかえりなさい。ルーファスもおかえりなさい」
「ただいま。アカリ」

 ルーファスにスクルードごと抱き上げられ、キスをするとスクルードがルーファスの顔に手をペチッと当てている。

「ちちうー、めっ!」
「ん? スーにもしてやろう」

 チュッと、スクルードのおでこにキスをすると、余計にルーファスはペチペチ叩かれてスクルードが「いやー!」と怒って、私の胸元でおでこを擦り付けて拭いてきた。

「スーも、ははうーにするー」
「こら。それは駄目だ」

 スクルードの口をルーファスが手で塞いでガブガブされて、小さく火花を散らしているけど、なんだか可愛い父子のやり取りに私は笑ってしまう。

「ふふっ、二人共これで我慢してね」

 チュッとリップ音をさせて二人のおでこと頬にキスをして、喧嘩両成敗させる。
二人が尻尾を振って、可愛い私の家族だなと思っていると、ゴホンッと咳の音がして、ルーファスの後ろでエルシオンとティルナール達が半目で私達を見ていた。

「ティル、ルーシーおかえりなさい。船の長旅は疲れたでしょ? お屋敷でお料理を用意しているからいっぱい食べてゆっくりしてね」
「ただいま、母上」
「母上は、わたし達よりも毎日顔を合わせてるスーと父上の方が好きなんだから」
「そんな事ないわよ? みんな大好きよ。うん。家族への好きは平等。まぁ、父上だけは特別だけど、ふふっ」
「流石、オレの番だ」

 ルーファスに頬を擦り寄られて、ティルナール達に半目で見られたけど、こればかりはベクトルが違う。
多分、昨日の名残りでルーファスへの愛情がかなりかたむいてしまっているから、そこは許して欲しい。
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