黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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23章

屋敷の静けさ

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 朝からルーファスは温泉大陸の顔役である街の住民の代表たちとの会合に子供達と出掛けて行った。
私はシャルちゃんのお世話をしながら屋敷の中でいつも通りの家事をしている。

 家事も一通り終わってしまうと、暇を持て余してしまう。
異世界の娯楽はほぼないに等しく、いつもなら子供達の相手とかをしているうちにあっという間に過ぎていくけど、一人……シャルちゃんもいるけど、寝た子は起こしちゃいけないから、実質一人のようなものだ。

「お昼ご飯でも食べちゃおうかなー?」

 ルーファスと子供達は会合に行ったから、仕出し弁当が出るのでお昼の心配もない。
私一人だと、特に何か作って食べようって気があまり起きない。
キュウリを薄切りに切って、お味噌に絡めてご飯の上に乗せて麦茶を上に掛ける。

「夏の簡単料理~……あとは……昨日の残り物のきんぴらでいいか」

 もくもくとご飯を食べつつ、元の世界ならテレビでも見て食べていたのかも? まぁ、私はテレビ、持ってなかったんだけどね。家族の事件があってから、マスコミもテレビも嫌いになってしまったし、あのアパートでは隣りの壁は薄く、テレビの音なんて筒抜けだったしね。

「ふぅー……」

 んーっ、少し物足りないけど、まぁいいかな?
一人だと簡単に済ませちゃうし、手間もかからない。
久々に手抜き料理で一人ご飯をしたかも? お茶碗を洗うのも一人分なのでサッサと終わる。

「夏だと暑くて何かしようっていうのもないのよねー……って、一人だと独り言も多くなっちゃう」

 いつも誰かしら居るから、話せば誰かが応答してくれるのもあるけど、独り言はさすがに駄目ね。
私は寝ているシャルちゃんの顔を覗き込む。
小っちゃくて可愛い私の三人目の孫は、ミルクの香りたっぷりで毎日見ているけど、ゆっくり確実に大きくなっているので、この時期をたっぷり目に焼き付けておかなくてはいけない。
子供の成長は早いのだから。

「またアカリは子供を美味そうな顔で見ているな」

 ルーファスの声に後ろを振り向けば、真後ろにルーファスがいて、子供達もルーファスの後ろで楽しそうな顔で笑っている。

「おかえりなさい。早かったね」
「ただいま。一人で寂しかったか?」
「シャルちゃんが居たし大丈夫ですよ? 皆、ご飯は食べてきた?」
「仕出し弁当を持ち帰ったから、今からだ」

 子供達がテーブルの上に置かれた仕出し弁当の紐を解いて広げ始めている。
お弁当に夢中の子供達の目を盗んで、ルーファスが軽く唇を重ねて、「寂しかったくせに、強情だな」と、こめかみにもキスをしてから、子供達に「弁当の前に手を洗え」と水玉を出して手を洗わせている。

 少しだけ静かな屋敷は寂しかったけど、ルーファス達が帰ってきた事で、私の心からは寂しいという気持ちは直ぐに消え去ってしまったのに、ルーファスの目は誤魔化せなかったみたいだ。

「それじゃあ、お祖母ちゃんは飲み物を持ってくるね」
「じゅーしゅ!」
「はーい。ジュース持ってくるねー」

 台所に行ってジュースと麦茶を用意して戻ると、子供達は仕出し弁当に入っていたフキがお気に召さなかったらしく、ルーファスに「あげる」と渡していた。

「皆、フキは季節がもう終わっているから、今食べないと来年まで食べれないよ?」
「いにゃにゃい」
「おいしくないもん……」
「ボクもにがてです」
「ボクは普通。でも好き好んでは要らないかな」

 エルシオンすらも拒否とは……まぁ、お子様達には少し馴染まない味なのかな? ルーファスが「あーん」と言うので口を開いたら、フキを口に入れられる。
少し薄味……と、いうか上品な味すぎて、素材の味が強いのかも? 子供向けにするならもう少し甘く煮付けた方がいいだろう。

「んーっ、来年のフキの時期にお祖母ちゃんが皆に『美味しい』って言わせるようなフキ料理を作ってあげるね」

 子供達の表情はとても微妙だったけど、フキの季節に油揚げとフキの美味しい煮物を作ろう。
 仕出し弁当は他に、魚の切り身を焼いた物、蓮根の細かく入った肉団子、高野豆腐の煮つけ、切り干し大根とニンジンの酢の和え物、卵焼き、豆の入った炊き込みご飯が入っていて、少し子供向きではなかった。
 まぁ、会合に来るのはお年寄りとかばかりだから、これは仕方がないかも?
 ちょっとお弁当にテンションの上がっていた子供達は、少しガッカリ気味でスクルードはそれほど食べられないのもあって、私が半分食べた感じだった。

「みんな会合はどうだったの?」
「夏場はお客さんが多いから、色々設置するにも今からだと難しいから、【刻狼亭】にお任せだって」
「あー、確かにお昼間に設営するとお客さんのお邪魔になっちゃいそうだよね」

 エルシオンが頷いて、他のお店の参加に関しては移動屋台がミシリマーフから戻ってきたら、それをそのまま使っての参加で、氷の設営関係はグリムレインに一任___つまり、【刻狼亭】に任せるという事らしい。

「グリムレインにまた特別手当を出してあげないとね」
「それに関しては、アカリが頼めばすぐにやってくれるだろう」
「夏バテしなきゃいいんだけど……。グリムレインが帰ってきたらいっぱいアイスをあげなきゃね」

 私の従者は今年は引っ張りだこのようだ。いや、今年もというべきかな?
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