黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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23章

夏とアイス

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 キリンちゃんが女将に復帰し、『女将亭』はフィリアちゃんからキリンちゃんにバトンタッチとなった。
実は、キリンちゃんの代わりにフィリアちゃんもしっかり働いてくれていて、私が旅館を駆けまわっている間に『女将亭』はフィリアちゃん担当だったのだ。
 そして、キリンちゃん復帰後は、フィリアちゃんは私の代わりに【刻狼亭】の旅館の方を担当になった。
まだキリンちゃんに全力で頑張ってもらうには体力が戻っていないので、フィリアちゃんは溢れる若さで頑張ってくれている。

 夏の日射しに「暑いねー」と、声を出せば子供達は舌を出して耳を下げている。
獣人の子供なのでエルシオンを筆頭にスクルードもレーネルくんもルビスちゃんも夏場はぐったりしていて可哀想な感じだ。

「アイスでも食べようかー」
「アイス!」
「あいしゅー!」
「ボク、おてつだいします!」
「おばーさまアイス!」

 夏は冷たい物の一言で子供達の元気はうなぎ登りだ。
ベビーベッドにいるシャルちゃんを見ているルーファスも、私の方を向いて尻尾を振った。
 今年もグリムレインの氷の髪留めがベビーベッドで大活躍中で、これならばシャルちゃんが汗疹とかでお肌を赤くする事もなさそうだ。

 氷庫から温牛で作ったミルクアイスを取り出して、ガラスの器に盛り付け、オマケにクッキーを二枚ずつ刺しておく。
子供達にアイスを持っていくと、元気に尻尾を振る子供達は可愛い。

 チリーン……と、縁側に掛けた風鈴が音を鳴らして夏らしさを演出してくれる。
今年は猛暑でもないけれど、じっとり熱いのは夏だから仕方がないという感じで、いつもならクロとフェネシーが追いかけっこをする姿があるけれど、日中は暑さで二匹とも縁の下に潜り込んで出てこない。
まぁ、子供達が追いかけ回すようになってしまったので、避難しているというのもあるだろうけど。

「おばーさま、ことしはアイスやさんしないの?」
「今年はミシリマーフ国の方にアイス屋さんの屋台は出張しているのよ」
「ルビス、アイスやさんたのしみにしてたのにぃ」
「ふふっ、お祖母ちゃんのアイスで我慢してね」

 今年も『氷の刻狼亭』が開催されて、リュエールがドラゴン達を総動員して働かせている。
グリムレインは特別報酬が出るとかで、主君は私だという事を忘れたかのようにリュエールに従ってしまったのだから困ったものだ。

「スーも、スーもいくー」
「スーちゃんは駄目よ。去年のお祭り騒ぎで今年は人が多くて大変だからね」
「ぶぅー、スーもいくぅー」
「ワガママ言わないの。あとでお庭にプール作ってあげるから」
「うーっ、ちちうー、スーもいくぅー」

 私が駄目とみるやルーファスにお願いするとは、うちの末っ子は切り替えが早くなってきた。
ルーファスはアイスを食べながら「ふむ」と言っているけど、無理ですからね?
キリンちゃんもフィリアちゃんもお仕事の間は、子供達を私達が屋敷でお世話する事になっているのだから、他所の国に連れて行って誘拐でもされたら目も当てられない。

「そうだな……」
「ちちうー、いく? いく?」

 ルーファスの言葉にスクルードがテーブルに手を付けて、足をピョンピョン跳ねて尻尾を振っている。
そんな期待した目をしちゃいけません。

「いいや。ミシリマーフの祭りが終わったら、温泉大陸でも氷の祭りをしてみるか」
「あら、それなら涼しいし、いいかもしれないね。まぁ、リューちゃんが疲れてしまいそうだから良い顔はしないだろうけど」
「企画と実行なら、エルシオンが去年やっているから大丈夫だろ?」
「えっ!? ボク!?」

 話を振られたエルシオンが目を丸くして、慌てて手をブンブン振って「無理無理!」と騒ぐ。
流石に子供に企画実行をさせるのは、私もどうかと思う。

「そろそろ、ティルナールとルーシーも夏休みだから三人でまたやったらどうだ?」
「うーん。まぁ、ティル達がいるなら引き受けてもいいけど……」
「なら、リューが帰ってきたら話して、許可が出たらやってみよう」
「まぁ、可愛い弟達の為だし、頑張るかなぁ」

 エルシオンがキラキラとした目を向けるスクルードとルビスちゃんに少し眉を下げつつ、「今年も忙しそうだなぁ」と苦笑い交り言う。

「ボクもおてつだいします!」
「うん。レーネルもボクと一緒に企画しよっか」
「はい! エルにいさん!」

 アイスを食べ終わると子供達はエルシオンの周りに集まって、テーブルの上で白い紙に企画書を書いていく。
半分はスクルードとルビスちゃんの落書きが埋め尽くしていたけど、真面目なレーネルくんは一生懸命、エルシオンの話を聞いたり、ルーファスに街のどの部分に人が集まりやすいかを聞いたりしていた。

「母上、レーネル達と一緒に街のどの部分に何を置くか実際に目で見て来るから、出掛けるね!」
「はーい。あっ、麦わら帽子被りなさい。あと、水筒とお小遣いあげるから、皆に冷たい物でも食べさせてね」
「母上、心配し過ぎじゃない?」
「駄目。夏の暑さは獣人の天敵なんだから」

 急いで水筒を用意して、それぞれの頭に麦わら帽子を被せると玄関で「皆手を繋ぐこと! でも、人にぶつからないように前を見て歩くこと!」と、色々注意していたら、ルーファスに「心配性だな」と言われて笑われているうちに、子供達はそそくさと出掛けて行ってしまった。

「うーん。子供達だけで大丈夫かな? やっぱりついて行った方がいい?」
「大丈夫だ。あの子達は普段も遊びに行っているだろ?」
「だって、夏休暇の時期は、温泉街にお客さん多いし……」
「警備もその分、多くなっているから心配はない」

 一度心配になると心配事は次から次へ出てくるもので、ハラハラしているとルーファスに大広間に背中を押されつつ戻された。
大広間ではベビーベッドでシャルちゃん少しぐずっていて、そろそろミルクの時間かな?と哺乳瓶の準備をして飲ませていたら、お世話をしている間に時間はあっという間で、気付けばキリンちゃんの帰宅時間の夕方になっていて、子供達も屋敷に帰ってきていた。

「お前達、企画は進められそうか?」
「うん。明日は会合があるんでしょ? それについて行っていい?」
「ああ、街の顔役の会合だな。話を通すなら顔役の意見も必要だからな」
「じゃあ、明日もみんな頑張ろうね」
「「はーい!」」

 子供達はやる気満々で、屋敷でぐったりしているよりは何かさせておいた方が、子供達は元気のようだ。
リュエールがミシリマーフ国から移動魔法で屋敷に戻った時に、ルーファスがこの事を話し許可が下りた為、次の日から本格始動するようだ。
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