黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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23章

泥団子とタケノコ

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 桜の花も牡丹桜になり、もう見ごろは終わりかけ、そんな日のお昼___。

「ははうー、ははうー」
「なぁに? スーちゃんどうかしたの?」

 庭で土いじりをして遊んでいたはずのスクルードに呼ばれて、縁側から庭を見に行くと、泥団子を大量に作っているルーファスとレーネルくんとドラゴン達の姿があった。

「みんな、なにしてるの?」

 ハッと、我に戻る様に顔を上げる大人達は照れたような顔で笑い、「スーに泥団子を作っていたら、熱中し過ぎた」と言う。
なるほど、理由はわかったけど、この大量の泥団子……どうするんだって感じである。
庭の半分を泥団子があるって、少しやり過ぎな気がする。

「みんな、スーちゃんと遊んでくれるのは良いけど、泥団子はちゃんと地面に戻してね?」 
「はーい!」

 返事だけはいいけど、これはまだまだ泥団子で何かしそうだ。
私が腰に手を当てて、「まったくもー」と言っていると、私の後ろで「なんだこりゃ!?」とハガネの声がして、先程のことをそのまま伝えたら、ハガネが「よっしゃ!」と言って、庭に出る。

「泥団子作んなら、俺も参加だ。任せとけ!」

 ハガネも参戦して、レーネルくんに「光る泥団子の作り方教えてやるよ」と、子供の好きそうなワードを口にして、ドラゴン達も興味津々のようだ……。

「ははうー、おにゃかすいた」
「うん。お昼ご飯にそろそろしないとね。お手々洗ってお家に上がろうね」

 スクルードの手に水玉を作って手を洗わせて、清浄魔法をかけてから乾燥魔法で手を乾かす。
顔に付いた泥を布巾で拭うと、にぱっと笑ってスクルードが元気に屋敷の中に走って行く。
スクルードは歩くことを覚えてから、走るまでが早かった事もあり、少しでも目を離すと弾丸のように走ってしまう。

「こらぁ。スーちゃんお家の中で走り回ったら、メッ!」
「ははうー、どよだんご?」

 スクルードが台所で指をさしたのは、一見泥だらけではあるけれど、泥団子ではない。
春の味覚、三角で食べ方も色々で、朝早くに地面から顔を出した物に目を付けても、昼にはニョッキリ大きく育っちゃう成長の早い植物。

「ふふっ、泥がついてるけど、これはタケノコだよ」
「たえのこ」
「たけだよ。タケノコ。お昼にお料理にしたのを出してあげるから大広間で座っててね」
「あい! たえのこー」

 スクルードは自分の分のコップとレーネルくんのコップを持って大広間へ戻っていく。
最近、スクルードはレーネルくんにこうして物を持っていってあげる事を覚えたみたいで、いい叔父さんっぷりである。まぁ、流石にコップを割ると怖いから、子供用の木のコップを持たせてあげているけど。

「さぁて、タケノコ尽くしのお昼ご飯をちゃっちゃと持っていっちゃいますか」

 本日のお昼ご飯は朝のうちに山で採ってきたタケノコで作った、タケノコの炊き込みご飯、タケノコのボイル焼き、タケノコの温牛しぐれ煮、タケノコ餃子、タケノコの薩摩煮、タケノコのお吸い物と、まさにタケノコだらけ。
タケノコのボイル焼きは、小さな出たばかりのタケノコでしか出来ないから、朝に摂るしかない。
勿論、私と一緒にタケノコを探したのはハガネである。
むじなは地中の匂いをかぎ分けるプロ獣人でもあるので、獣化して地面を掘り起こして採ってくれて、このようにタケノコの山になったわけでもある。

 えっちらおっちら、お料理を大広間のテーブルに運び、ルーファスとレーネルくんが鼻をヒクつかせて「昼ごはんだ」と言うと、みんな屋敷に戻って来る。
匂いで判ってくれるから呼ばなくて良いのは大変ありがたい。

「はい。スーちゃんミッカジュース注ぐから、コップから手を放してね」
「あい。じゅーす」

 自分の横にレーネルくんのコップを置いて、座布団をぽふぽふ叩いてレーネルくんを呼んで並んで座ると、満足そうにスクルードは笑い尻尾を振る。
自分に近い子供がいないせいか、とても懐いていてるのは良いことだけど、レーネルくんがお家に帰る時に泣かなきゃいいけど……と、心配もしている。
キリンちゃんが床上げまでは実家に戻っているので、その間は預かっている状態なのだ。

「今日はタケノコ尽くしだね。レーネル、良い子にしてた?」
「ちちうえ、おしごとおつかれさまです」

 リュエールが大広間に来て、レーネルくんの横に座り頭を撫でて、レーネルくんは少しはにかんだ顔で尻尾を振っている。リュエールもキリンちゃんが帰って来るまでは我が家で暮らしていて、お昼時間はこうして屋敷の方へ来てレーネルくんと親子のスキンシップをしていく。

「きょうは、おじいさまとどろだんごであそんでいました」
「へぇ。父上と泥団子で、楽しかった?」
「はい。とっても!」

 笑顔で答えるレーネルくんにリュエールも満足そうに笑って、ルーファスもスクルードの横で口元を緩めている。

「れーね、れーね、あい」
「スーちゃん、くれるの? ありがとう」

 自分のお皿からスクルードがタケノコ餃子をフォークにさして、レーネルくんの口に入れている。
本当にレーネルくんが好きで仕方がないようだ。もし、スクルードに妹か弟が出来たら可愛がりそうではあるけど、今のところ私も年だからスクルードが最後の子供だと思う。
なので、キリンちゃんが里帰りから戻ったら、シャルちゃんをレーネルくんと一緒に可愛がってくれたら嬉しい。

「それにしても、父上が子供と泥団子遊びなんて初めてじゃない?」
「そうでもないぞ。ミルアとナルアのおままごとで散々、泥団子を出されていたからな」
「ああ、そういえば、あの二人もやたらと泥団子作り回ってたよね」

 二人は懐かしそうに目を細めて、庭を見つめる。
庭に大量に転がる泥団子に「懐かしいなぁ……」と、しんみりと二人が言い合う。
ミルアとナルアの小さい時は私は氷の中なので、この二人には泥団子はしんみりとしてしまうものらしい。
 共感できなくて残念ではあるけど、私としては同じ泥を弄るなら、地面からタケノコを掘って泥だらけになる方がいい。

 食事が終わって、リュエールが仕事に戻り、子供達は外に泥団子を作りに行き、ルーファス達もまだ泥団子遊びに付き合うようで庭で騒いでいた。
途中で休みの従業員達も参加したようで、私が庭を覗いた時は泥団子からの別の何かに進化していたらしく、泥で作ったお城から魔獣……そして女体と……妙な物が庭に作られていた。

「女将はどれが優勝だと思います?」
「なぁに? 優劣をつけるようなものなの?」
「良いと思う作品の前に小石を並べていくんですよ」
「あなた達……これ、ちゃんと地面に戻すんですからね?」

 とりあえず、ハガネと子供達が作ったツヤツヤに光る泥団子に小石を表として入れておいた。
参加していなかった従業員達も話を聞きつけて、表を入れに庭に来たりして賑やかな事になっていた。
夕方に優勝者の発表があって、結局のところ泥女体が優勝した。
まったく誰が作ったのやら……と、思っていたらタマホメとメビナが作った物だったらしい。

「理想の体!」
「希望の体!」

 成程、確かに自分達の理想を形にすると力作にもなるものなのかと、納得しつつ……ニクストローブに泥を庭の地面に全部戻してもらった。

「アカリは酷いの!」
「アカリは鬼なの!」

 二人にはブーイングを出されたけど、どうせ明日は雨が降るから結局は残らないのだ。
それに地面をボコボコにしたままだと、スーちゃんやレーネルくんが庭で転ぶ率もあがるので、ここは心を鬼にすべきなのである。

「はいはい。みんな、文句言わない。お詫びにたっぷり、宿舎にタケノコをお裾分けに行ってるから、今日の夕飯を楽しんで!」
「おおー! 流石、大女将!」
「春の味ですね! タケノコの天ぷらがいいな~」

 それぞれがタケノコで頭の中をいっぱいにしつつ、ぞろぞろと宿舎の方へ戻っていった。
うちの従業員は付き合いが良いから、こうした遊びにも全力投球なところは子供達には良いけど……泥だらけになった子供達にルーファスを含めた大人達には、困ったものだと言わざるを得ない。
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