黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

魔国の学園祭23 終

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 魔国のエグザドル学園にドラゴンが現れ、氷のブレスを吐いたとあって、少々緊迫した空気があったものの、霧状で学園内全てを一瞬で包み込み、爽やかな風が吹くと何事もなく終わり、ドラゴン達は言った。

「我らの主君の子等が世話になっているようだ。これはドラゴンの祝福である」
「体に不調をきたしていた者はそれが無くなっているはずだ。感謝せよ」

 グリムレインとスピナはリュエールに考えて貰ったセリフを堂々と言い、ぐるりと学園の空を飛び……人々が騒ぎ出す前に人型になり、二人は何食わぬ顔でティルナールとルーシーのそばに寄っていった。

 アカリの【聖域】が混じった聖水で食事をした者達は、『人狼薬』が浄化されて、自分達は何をしていたのかと頭を捻る。
それはティルナールとルーシーも同じで似た様な顔で首を傾げつつ、グリムレインとスピナが二人を抱きしめると、二人が「ドラゴンの祝福だ」等と言った事に赤面して、『人狼薬』の間の事を考える事なく、騒いでいた。

 それからしばらくして、ルーファスからの連絡があったものの、途中で切れてしまい……三十分程して、ルーファスがテンと小鬼を連れて二人の無事を確かめに現れた。

「父上だー!」
「婿、待ちくたびれたぞ」
「ルー、お肉食べにいこーよー!」
「ああ、お前達少し落ち着け。ティル、ルーシー無事で何よりだ」

 ルーファスが二人を抱きしめていると、テンと小鬼は「そろそろ僕等は帰ります!」と、浄化された『人狼薬』を手に、にこやかに軍へと帰っていった。
二人はまだ軍がかつて作った実験の資料等を漁るらしく、軍に当分いるそうだ。
正月には温泉大陸に顔を出すと言っていたが、何かあれば直ぐにこうして出歩いてしまう二人の事なので、絶対に顔を出すかどうかは怪しい所だ。

 ティルナールとルーシーに再度別れを告げ、「魔牛!」と連呼するドラゴン二人を引き連れてルーファスは学園を出て行く。
学園内でまるで何事もなかったかのように、人々が笑い合うのを尻目に魔国の今回の事件での捕縛者の数は百人近く出た。

 パディオン騎士団はパディオン団長、シンガー・フィオ・デレク・パディオンによる『人狼薬』の初期実験の被害者でもある。
アカリの【聖域】による浄化でパディオン騎士団の団員達は正気を取り戻したが、今回の食事のように記憶が抜けることは無く覚えていた為に、自分のしてしまった事に絶望している者が多かった。

 シンガーの娘メルデリカは体から人狼の能力が失われた事で、今までしてきた事を無理やり交わらされた貴族の令息達から責められたが、子息達も将来の名に傷が残る事を恐れ、半ば泣き寝入りに入っている。
ただ、メルデリカは十代の子供なので魔国としても処遇については、少々厄介なようだ。
本人は「生まれた時から呪いを掛けられていた! わたしは無実よ!」と騒いではいたが、メルデリカの執拗なまでに利益になりそうな子供や大人を狙い、騎士達まで取り込んで行ったことはメルデリカの意思であると言える為、修道女として一生を終えるのではないか……と、ルーファスはみている。

 ゼリティアはパディオン家として責任を取ると言い、パディオンの家名を捨て去る事を決意したようだ。
パディオン家をこのようにし、魔国に対し、反旗をひるがえそうとしたロメルス家の人間は、首謀者として捕えられている。

 ロメルス家は軍から手に入れた人狼薬の能力を上手く使う為に、人狼族を捉えては実験していたという。
【聖女】の死亡事件から段々と没落し、この様な最下層まで落ちぶれてしまったが、一矢報いる為にも学園祭に王や貴族が集まる時を狙った事で、大罪人とまでなってしまったからには、もうロメルス家は魔国では生きてはいけないだろう。

「今回は色々巻き込まれた形で疲れたな」
「婿は早く屋敷に帰って嫁に癒されればよかろう?」
「そうだよ。ルーには温泉大陸でチビとアカリが待ってるんだから」

 ドラゴン二人はそう言うが、早く帰りたいのを先程から店の魔牛を全て食べつくすかのように、口いっぱいに頬張っている奴等がそれを言うのかと、ルーファスは半目になる。

「しかし、リュエールが居なかったらもう少し大変な事になっていたな……」
「ああ、そういえば、リューが魔国の魔牛を温泉大陸でも味わう為に、魔牛を数十頭寄越せと魔王を脅すとか言っていたのう」
「楽しみだよねー。温泉大陸産の魔牛とか、どんな味だろうねー」
「……リュエール……あいつは、本当に抜かりないな」

 魔牛は魔国のブランド牛であり、他国には肉になった状態でしか渡った事が無い。果たして、今回は何処まで条件を魔国が呑んでくれるやらである。

「それなら、お前達も魔牛が手に入ると分かっているなら、もう帰るぞ」
「チッ」
「お土産に生肉の魔牛買って、アカリにお土産にしようよ!」
「お前等が食い尽くして居なければ、土産に買っておこう……とりあえず、この店にはもう無いようだがな」

 『閉店』と書かれた木札を店員が外のドアに掛けに行くのを見つつ、ルーファスがドラゴンを見れば、二人は満足そうに口元を舌で舐めていた。

 魔牛の生肉を塊で買い、移動魔法で温泉大陸に帰る頃には陽が落ちて夜になっていた。
屋敷の庭から中を覗けば、ミルアとナルアが夕飯を大広間に運び、ドラゴン達は大広間でスクルードに離乳食を食べさせようと大騒ぎしている。
かっぽう着姿でアカリがちょこまかと料理を運んでは台所と大広間を往復している姿がある。

「あっ、父上! おかえりなさい!」
「おう。大旦那、おかえり」 
「ただいま。エルとハガネはどこかに出掛けていたのか?」

 ハガネとエルシオンが両手に紙袋を持って帰り、二人は紙袋の中身をルーファスに見せる。
中には秋らしいフルーツが色々と詰め込まれている。

「昼間に作った栗の甘露煮をお裾分けに行ったら、梨とか柿とかブドウになって返ってきた」
「ボクはお肉の方が嬉しいよ? 父上、凄くいい香りがしてる」
「ああ、魔牛を土産に持って帰ってきたからな」
「流石、大旦那!」
「やった! 父上、最高!」

 尻尾を振りながらルーファスに抱きついてきたエルシオンに、「うちの家族は魔牛に狂わされすぎだ」と笑い、ルーファス達の騒ぐ声にアカリが気付いて、縁側から外に出てくる。

「ルーファス! おかえりなさい!」
「ただいま。アカリ」
「わっ、なにそのお肉!」
「魔牛だ。土産に持って帰ってきた」
「やった! これで明日はステーキにしよう!」

 エルシオンと同じような反応に、クククッと肩を震わせて笑ってアカリを抱き上げると、笑顔のアカリから頬にキスをされて、耳元で「約束ちゃんと果たしてね?」と囁かれ、一瞬ルーファスが驚いた顔をして、アカリがニッと笑うと、「たっぷり、時間をかけて続きをしよう」とニヤリと笑い返されて、アカリが「今日はお疲れでしょうから、後日で!」と慌てて顔を左右に振っていた。

 次の日はアカリがソファの上でぐったりと眠っていて、ルーファスが機嫌良さそうに獣化してアカリの抱き枕になっている姿があった。
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