黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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22章

魔国の学園祭22

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 体を揺らすとお腹からチャポンチャポンと音がして、口元を押さえて私は「ぉぇぇ~っ」と青ざめ中。

「母上、大丈夫?」
「大丈夫じゃなーい……この鬼息子ぉ~……」

 私がガルガル怒ってもリュエールは涼しい顔で黒い扇子を口元に当てて、口を緩めて笑っている。
背中を心配そうに摩ってくれるエルシオンの優しさを見習ってほしい。
私がこんな状態になった事に関しては、話は少しさかのぼる。


 ルーファスが戻って毒の染みついたハンカチを製薬部隊に届けに行って、魔国へ再度出かけた後のこと。
リュエールの腕輪には、従者にしている人達から何度か連絡があり、そこで不味いことになりかけている事がわかった。

 なんと、魔国の学園祭で招待された親御さん、生徒達に振る舞われるマデリーヌさんが振る舞う食事に『人狼薬』という、人狼族の能力、人を狼にしてしまうものが改良された物が混ぜ込まれたという。
改良された物は、女性が口にすれば男性を求めずにはいられず、より強い遺伝子を産みたがるという……種の存続に強く働きかけるものらしく、男性が口にすれば強者だけが生き残ろうとする弱肉強食本能に働きかけるものらしい。

「と、いうわけなんだけど、母上の【聖域】の力を借りたいんだけどいいかな?」
「それは構わないけど……私の能力で役に立つの?」
「人狼の能力って『呪い』なんだよ。だから母上の【聖域】は呪いも解呪してしまうから丁度いいんだよ」
「んーっ、じゃあ。手伝ってあげる」

 気軽に手伝ってあげるって言ってしまった事をこの後、私は深ーく反省することになる。
用意されたのは使っていない露天温泉で、お湯は張られていない状態で……リュエールはニッコリ笑って「ここにたっぷり聖水を作ってね」と言い、温泉の広さを考えて欲しい……私の魔力じゃお風呂場に聖水をなみなみ作るので精一杯なのに、お風呂何杯分?

「ちゃんと魔力ポーションは用意したから」
「え? えええええぇぇぇ!!!」

 木箱に並んだ魔力ポーションの瓶の数に「ヒッ!」と声を出すも、「早くしないとティルやルーシーも危ないんだよ!」と言われ、私は頑張った……何度も聖水を作って温泉に溜めていった。
製薬部隊が途中で温泉の中に旧・特殊ポーションを入れていき、ポーション瓶を聖水で洗い、空になったポーション瓶は、後日、ありすさんと私に特殊ポーションを作らせると言う……。

 確かに、魔力が満ち溢れた世界では、前の特殊ポーションの効果は低くなったとはいえ、全部切り替えるだなんて、あんまりじゃないかな?
私もありすさんも魔力切れを起こしてしまう。

「母上、とりあえず移動魔法の座標固定をしたいから、魔国への移動魔法を使って僕を送って」
「はーい。人使い荒い~」
「まぁまぁ、母上、父上にも早く帰って来て欲しいでしょ?」
「うっ……」

 リュエールを魔国へ送り、リュエールは数分で戻ってきてグリムレインとスピナを呼び出して、二人に私が作っている聖水を凍らせてグリムレインが霧状に砕き、スピナが風に乗せて散布するように言っていた。

「魔国と言えば、魔牛だよ。二人共美味しい魔牛が欲しいでしょ?」
「それならば手伝ってやらなくはない!」
「お肉! あたし頑張るー!」

 二人共、私とルーファスが主君なのに、リュエールに上手くのせられて使われてくれるようで、やる気満々のようだ。二人の尻尾がブンブンとご機嫌で揺れている間、私はひたすら聖水を作らされ、魔力ポーションを飲まされていた。

「もう、駄目……口から出る……うぷっ」
「うん。このぐらいあれば良いかな? 二人共魔国に送ってあげるから行くよ」
「肉、肉!」
「お肉ぅー!」
「二人共、お肉も良いけど、言ったことちゃんとやってきてね」
「任せておけ。肉をたっぷり食べたら、婿に連れて帰ってきてもらう」
「魔牛~とろけるお肉ぅー」

 グリムレインが温泉に溜まった聖水を凍らせて持つと、リュエールが空に移動魔法を放ち、二人は移動魔法の穴の中へ飛んで消えていった。

「喉元まで……魔力ポーションが……」

 エルシオンに支えてもらいながら屋敷に戻り、ソファの上でぐったりしているとリュエールが戻ってきて、腕輪で従者とやり取りをしているらしく、指示を出していた。

「学園側には何事も無かったと思わせて! ドラゴン達はティルとルーシーがお世話になっている礼だとでも言って、ドラゴンのご利益があるようにとでも言って誤魔化す!」

 リュエールの従者も無茶ぶりを言われているなぁと思いつつ、しばしやり取りを聞いていた。

「半分は使われていたか……仕方ないね。とにかく、半分は回収出来たんだね? 父上達が回収に来るまでは、誰にも手を出させないようにしておいて。うん。あー……あの子達も食べたのか、じゃあ、ルーシーだけは確保して、何かあったら困るからね」

 ハァッとリュエールが溜め息を吐き、少し困った顔で私と目が合う。

「リューちゃん、ティル達も食べちゃったの? 大丈夫そう?」
「うん……一応、ルーシーだけは確保させて、ティルは解呪が終わるまでは、暴れさせておくしか無いね」
「ティルなら大丈夫だよ。少なくとも追い出される前までは父上に鍛えて貰ってたんだしさ」

 エルシオンが「心配ない」と力強く言って、リュエールが「問題は怪我人を出さないことだよ」と苦笑いしてエルシオンの頭を撫でる。
私もティルナールが余所様の子供を怪我させるのが怖い。
ルーファスが筋肉質な様に、狼獣人の子供達は筋肉が付きやすく、体のばねもあるから機動力もある為に体術系も得意なので、貴族の子供ではおそらく怪我をさせてしまうだろう……大怪我かもしれないけど。
どうか、余所様の子供に怪我をさせません様に!!!

 一番心配なのはルーシーではある。
女の子だし、男性を求めるだなんて……こんな自分の意志に反したことで傷ついて欲しくはない。
どうかグリムレインとスピナが間に合います様にと願わずにはいられない。

 しばらく祈る様にリュエールが腕輪でやり取りしているのを見守り、無事にグリムレインとスピナが聖水を散布して食事を口にした人達も正気に戻ったらしいと聞いて、私もようやくホッと出来た。

 そして、冒頭に戻っていく。
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