721 / 960
22章
魔国の学園祭22
しおりを挟む
体を揺らすとお腹からチャポンチャポンと音がして、口元を押さえて私は「ぉぇぇ~っ」と青ざめ中。
「母上、大丈夫?」
「大丈夫じゃなーい……この鬼息子ぉ~……」
私がガルガル怒ってもリュエールは涼しい顔で黒い扇子を口元に当てて、口を緩めて笑っている。
背中を心配そうに摩ってくれるエルシオンの優しさを見習ってほしい。
私がこんな状態になった事に関しては、話は少し遡る。
ルーファスが戻って毒の染みついたハンカチを製薬部隊に届けに行って、魔国へ再度出かけた後のこと。
リュエールの腕輪には、従者にしている人達から何度か連絡があり、そこで不味いことになりかけている事がわかった。
なんと、魔国の学園祭で招待された親御さん、生徒達に振る舞われるマデリーヌさんが振る舞う食事に『人狼薬』という、人狼族の能力、人を狼にしてしまうものが改良された物が混ぜ込まれたという。
改良された物は、女性が口にすれば男性を求めずにはいられず、より強い遺伝子を産みたがるという……種の存続に強く働きかけるものらしく、男性が口にすれば強者だけが生き残ろうとする弱肉強食本能に働きかけるものらしい。
「と、いうわけなんだけど、母上の【聖域】の力を借りたいんだけどいいかな?」
「それは構わないけど……私の能力で役に立つの?」
「人狼の能力って『呪い』なんだよ。だから母上の【聖域】は呪いも解呪してしまうから丁度いいんだよ」
「んーっ、じゃあ。手伝ってあげる」
気軽に手伝ってあげるって言ってしまった事をこの後、私は深ーく反省することになる。
用意されたのは使っていない露天温泉で、お湯は張られていない状態で……リュエールはニッコリ笑って「ここにたっぷり聖水を作ってね」と言い、温泉の広さを考えて欲しい……私の魔力じゃお風呂場に聖水をなみなみ作るので精一杯なのに、お風呂何杯分?
「ちゃんと魔力ポーションは用意したから」
「え? えええええぇぇぇ!!!」
木箱に並んだ魔力ポーションの瓶の数に「ヒッ!」と声を出すも、「早くしないとティルやルーシーも危ないんだよ!」と言われ、私は頑張った……何度も聖水を作って温泉に溜めていった。
製薬部隊が途中で温泉の中に旧・特殊ポーションを入れていき、ポーション瓶を聖水で洗い、空になったポーション瓶は、後日、ありすさんと私に特殊ポーションを作らせると言う……。
確かに、魔力が満ち溢れた世界では、前の特殊ポーションの効果は低くなったとはいえ、全部切り替えるだなんて、あんまりじゃないかな?
私もありすさんも魔力切れを起こしてしまう。
「母上、とりあえず移動魔法の座標固定をしたいから、魔国への移動魔法を使って僕を送って」
「はーい。人使い荒い~」
「まぁまぁ、母上、父上にも早く帰って来て欲しいでしょ?」
「うっ……」
リュエールを魔国へ送り、リュエールは数分で戻ってきてグリムレインとスピナを呼び出して、二人に私が作っている聖水を凍らせてグリムレインが霧状に砕き、スピナが風に乗せて散布するように言っていた。
「魔国と言えば、魔牛だよ。二人共美味しい魔牛が欲しいでしょ?」
「それならば手伝ってやらなくはない!」
「お肉! あたし頑張るー!」
二人共、私とルーファスが主君なのに、リュエールに上手くのせられて使われてくれるようで、やる気満々のようだ。二人の尻尾がブンブンとご機嫌で揺れている間、私はひたすら聖水を作らされ、魔力ポーションを飲まされていた。
「もう、駄目……口から出る……うぷっ」
「うん。このぐらいあれば良いかな? 二人共魔国に送ってあげるから行くよ」
「肉、肉!」
「お肉ぅー!」
「二人共、お肉も良いけど、言ったことちゃんとやってきてね」
「任せておけ。肉をたっぷり食べたら、婿に連れて帰ってきてもらう」
「魔牛~とろけるお肉ぅー」
グリムレインが温泉に溜まった聖水を凍らせて持つと、リュエールが空に移動魔法を放ち、二人は移動魔法の穴の中へ飛んで消えていった。
「喉元まで……魔力ポーションが……」
エルシオンに支えてもらいながら屋敷に戻り、ソファの上でぐったりしているとリュエールが戻ってきて、腕輪で従者とやり取りをしているらしく、指示を出していた。
「学園側には何事も無かったと思わせて! ドラゴン達はティルとルーシーがお世話になっている礼だとでも言って、ドラゴンのご利益があるようにとでも言って誤魔化す!」
リュエールの従者も無茶ぶりを言われているなぁと思いつつ、しばしやり取りを聞いていた。
「半分は使われていたか……仕方ないね。とにかく、半分は回収出来たんだね? 父上達が回収に来るまでは、誰にも手を出させないようにしておいて。うん。あー……あの子達も食べたのか、じゃあ、ルーシーだけは確保して、何かあったら困るからね」
ハァッとリュエールが溜め息を吐き、少し困った顔で私と目が合う。
「リューちゃん、ティル達も食べちゃったの? 大丈夫そう?」
「うん……一応、ルーシーだけは確保させて、ティルは解呪が終わるまでは、暴れさせておくしか無いね」
「ティルなら大丈夫だよ。少なくとも追い出される前までは父上に鍛えて貰ってたんだしさ」
エルシオンが「心配ない」と力強く言って、リュエールが「問題は怪我人を出さないことだよ」と苦笑いしてエルシオンの頭を撫でる。
私もティルナールが余所様の子供を怪我させるのが怖い。
ルーファスが筋肉質な様に、狼獣人の子供達は筋肉が付きやすく、体のばねもあるから機動力もある為に体術系も得意なので、貴族の子供ではおそらく怪我をさせてしまうだろう……大怪我かもしれないけど。
どうか、余所様の子供に怪我をさせません様に!!!
一番心配なのはルーシーではある。
女の子だし、男性を求めるだなんて……こんな自分の意志に反したことで傷ついて欲しくはない。
どうかグリムレインとスピナが間に合います様にと願わずにはいられない。
しばらく祈る様にリュエールが腕輪でやり取りしているのを見守り、無事にグリムレインとスピナが聖水を散布して食事を口にした人達も正気に戻ったらしいと聞いて、私もようやくホッと出来た。
そして、冒頭に戻っていく。
「母上、大丈夫?」
「大丈夫じゃなーい……この鬼息子ぉ~……」
私がガルガル怒ってもリュエールは涼しい顔で黒い扇子を口元に当てて、口を緩めて笑っている。
背中を心配そうに摩ってくれるエルシオンの優しさを見習ってほしい。
私がこんな状態になった事に関しては、話は少し遡る。
ルーファスが戻って毒の染みついたハンカチを製薬部隊に届けに行って、魔国へ再度出かけた後のこと。
リュエールの腕輪には、従者にしている人達から何度か連絡があり、そこで不味いことになりかけている事がわかった。
なんと、魔国の学園祭で招待された親御さん、生徒達に振る舞われるマデリーヌさんが振る舞う食事に『人狼薬』という、人狼族の能力、人を狼にしてしまうものが改良された物が混ぜ込まれたという。
改良された物は、女性が口にすれば男性を求めずにはいられず、より強い遺伝子を産みたがるという……種の存続に強く働きかけるものらしく、男性が口にすれば強者だけが生き残ろうとする弱肉強食本能に働きかけるものらしい。
「と、いうわけなんだけど、母上の【聖域】の力を借りたいんだけどいいかな?」
「それは構わないけど……私の能力で役に立つの?」
「人狼の能力って『呪い』なんだよ。だから母上の【聖域】は呪いも解呪してしまうから丁度いいんだよ」
「んーっ、じゃあ。手伝ってあげる」
気軽に手伝ってあげるって言ってしまった事をこの後、私は深ーく反省することになる。
用意されたのは使っていない露天温泉で、お湯は張られていない状態で……リュエールはニッコリ笑って「ここにたっぷり聖水を作ってね」と言い、温泉の広さを考えて欲しい……私の魔力じゃお風呂場に聖水をなみなみ作るので精一杯なのに、お風呂何杯分?
「ちゃんと魔力ポーションは用意したから」
「え? えええええぇぇぇ!!!」
木箱に並んだ魔力ポーションの瓶の数に「ヒッ!」と声を出すも、「早くしないとティルやルーシーも危ないんだよ!」と言われ、私は頑張った……何度も聖水を作って温泉に溜めていった。
製薬部隊が途中で温泉の中に旧・特殊ポーションを入れていき、ポーション瓶を聖水で洗い、空になったポーション瓶は、後日、ありすさんと私に特殊ポーションを作らせると言う……。
確かに、魔力が満ち溢れた世界では、前の特殊ポーションの効果は低くなったとはいえ、全部切り替えるだなんて、あんまりじゃないかな?
私もありすさんも魔力切れを起こしてしまう。
「母上、とりあえず移動魔法の座標固定をしたいから、魔国への移動魔法を使って僕を送って」
「はーい。人使い荒い~」
「まぁまぁ、母上、父上にも早く帰って来て欲しいでしょ?」
「うっ……」
リュエールを魔国へ送り、リュエールは数分で戻ってきてグリムレインとスピナを呼び出して、二人に私が作っている聖水を凍らせてグリムレインが霧状に砕き、スピナが風に乗せて散布するように言っていた。
「魔国と言えば、魔牛だよ。二人共美味しい魔牛が欲しいでしょ?」
「それならば手伝ってやらなくはない!」
「お肉! あたし頑張るー!」
二人共、私とルーファスが主君なのに、リュエールに上手くのせられて使われてくれるようで、やる気満々のようだ。二人の尻尾がブンブンとご機嫌で揺れている間、私はひたすら聖水を作らされ、魔力ポーションを飲まされていた。
「もう、駄目……口から出る……うぷっ」
「うん。このぐらいあれば良いかな? 二人共魔国に送ってあげるから行くよ」
「肉、肉!」
「お肉ぅー!」
「二人共、お肉も良いけど、言ったことちゃんとやってきてね」
「任せておけ。肉をたっぷり食べたら、婿に連れて帰ってきてもらう」
「魔牛~とろけるお肉ぅー」
グリムレインが温泉に溜まった聖水を凍らせて持つと、リュエールが空に移動魔法を放ち、二人は移動魔法の穴の中へ飛んで消えていった。
「喉元まで……魔力ポーションが……」
エルシオンに支えてもらいながら屋敷に戻り、ソファの上でぐったりしているとリュエールが戻ってきて、腕輪で従者とやり取りをしているらしく、指示を出していた。
「学園側には何事も無かったと思わせて! ドラゴン達はティルとルーシーがお世話になっている礼だとでも言って、ドラゴンのご利益があるようにとでも言って誤魔化す!」
リュエールの従者も無茶ぶりを言われているなぁと思いつつ、しばしやり取りを聞いていた。
「半分は使われていたか……仕方ないね。とにかく、半分は回収出来たんだね? 父上達が回収に来るまでは、誰にも手を出させないようにしておいて。うん。あー……あの子達も食べたのか、じゃあ、ルーシーだけは確保して、何かあったら困るからね」
ハァッとリュエールが溜め息を吐き、少し困った顔で私と目が合う。
「リューちゃん、ティル達も食べちゃったの? 大丈夫そう?」
「うん……一応、ルーシーだけは確保させて、ティルは解呪が終わるまでは、暴れさせておくしか無いね」
「ティルなら大丈夫だよ。少なくとも追い出される前までは父上に鍛えて貰ってたんだしさ」
エルシオンが「心配ない」と力強く言って、リュエールが「問題は怪我人を出さないことだよ」と苦笑いしてエルシオンの頭を撫でる。
私もティルナールが余所様の子供を怪我させるのが怖い。
ルーファスが筋肉質な様に、狼獣人の子供達は筋肉が付きやすく、体のばねもあるから機動力もある為に体術系も得意なので、貴族の子供ではおそらく怪我をさせてしまうだろう……大怪我かもしれないけど。
どうか、余所様の子供に怪我をさせません様に!!!
一番心配なのはルーシーではある。
女の子だし、男性を求めるだなんて……こんな自分の意志に反したことで傷ついて欲しくはない。
どうかグリムレインとスピナが間に合います様にと願わずにはいられない。
しばらく祈る様にリュエールが腕輪でやり取りしているのを見守り、無事にグリムレインとスピナが聖水を散布して食事を口にした人達も正気に戻ったらしいと聞いて、私もようやくホッと出来た。
そして、冒頭に戻っていく。
40
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。