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22章
魔国の学園祭20
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城内の地下施設に向かう所々で、パディオン騎士団の騎士が配置されており、許可証を見せる暇なく出会いがしらの戦闘を繰り広げ、ルーファスもテンも会話等は諦めて相手が口を開く瞬間に黙らせるように一撃で倒していく。
「それにしても~、パディオン家はロメルス家に仕えていたとは聞きましたが~、仕える必要が無くなった今もロメルス家に仕えるのはとても不思議ですねぇ~」
「それはシンガーがロメルス家の親族筋にあたる者ですからね。もう少し魔国の王が今の王の統治になるのが早ければ、娘はロメルス家の親族筋の者と婚姻を結ぶことも子供を産み、死ぬこともなかったでしょうに……」
ぐっと唇を噛みしめ、ゼリティアは今は亡き娘を思い出し、深い溜め息を吐く。
ゼリティアの言葉で、シンガーとゼリティアの関係が良い物では無いとは判る。だからこそ、元騎士でありながら、この国の情報を宝石という対価で渡しているのも、頷けるというものである。
騎士ではなくなり、騎士道から逸脱した行為ではあるものの、彼女の中に騎士という血は残っているのも確かで、宝石を対価にしているのも、宝石というものは作りて、買い手といった者の手を渡る。
宝石を辿れば、誰がゼリティアに情報を買いにきたか……それを調べることも出来てしまうことの証拠品でもある。
ゼリティア自身も情報に関しては吟味して渡してはいるが、それで罪に問われた時や、口封じで殺された時の為の足跡の様な物として扱っている。
「二人共、地下施設の扉があったぞ」
ルーファスの言葉にテンとゼリティアは余計なお喋りを止めて、城内の宝物蔵のある場所の床にある扉を開くと地下へと続く階段が広がっている。
それと同時に、酷く腐ったような匂いが鼻腔に広がり、三人は口と鼻を押さえる様に手を当てて進む。
薄暗い階段ではあるが、使われていることがわかる魔石で造られたランプが歩くたびに点いていく。
階段の途切れに足を踏み込むと、広がった地下施設は王城の地下とは思えないほどの広さが広がっていた。
両側に対になるように部屋があり、中の部屋には液体の入った丸い三メートル程の高さのあるガラスの筒が並んでいる。
「これ、なんでしょうねぇ~?」
「濁り過ぎていて中身が分からんが……廃棄物の匂いが充満しているな」
「あまり、良い物ではなさそうですね」
「一体、なにを研究していたのやらでしょねぇ~小鬼に見せたら喜ぶ……ことは無いでしょうねぇ~あの子は怖がりですからぁ~」
テンは小さな小鬼が見たら、好奇心と恐怖で目を隠しつつも手の隙間からチラチラと覗いては「キャー」と声を上げるのだろうと思うと、自然と口元が緩む。
それを見てルーファスが半目でテンを見て、小さく息を吐く。
他の部屋も同じような物があり、どれも黒く濁っている。
よく見れば下の方に白い物が沈んでいるのがわかる。陶器の様にも見えるが、それにしては形が見慣れた陶器とは違う。
コツコツと足音が近づく音に三人はハッと筒の裏側に隠れる。
「誰かこっちにきたのか? 灯りが点いているぞ」
「どうせ、また誤作動だろ? 誰か魔力を魔石に入れておけと言っているじゃないか」
「だったら、お前が入れておけばいいだろ?」
「そんな面倒な事、他の奴がやればいい」
お互いに魔石のランプに魔力を注ぐかどうかで言い合いながら、二人の男がルーファス達の隠れている部屋へ入って来る。
ルーファスとテンが目で何かあれば動ける様に頷き合う。
「今日はコレが学園祭で振る舞われるんだろ?」
「王妃もいるしな。貴族連中もいる、これで魔国も元に戻るはずだ」
ルーファスの目がカッと見開くと床を蹴り、男達の前に飛び出す。
驚いた男の一人の首に手をかけると持ち上げ、もう一人の男が逃げようとするのをテンが笑顔で回り込み、下から顎への掌底で気絶させる。
「今、言った事を詳しく話せ」
「あぐ……っ、お前達は……」
「大旦那、喋らせます」
ルーファスが掴んでいる男を力づくで跪かせると、テンが男の耳に手を当てて「【聴取】」と唱えると、男は喋り始める。
「学園祭に集まった者達は終わりに、王妃が食事を振る舞う。それにこの『人狼薬』を混ぜ込んでいる。コレで人々は元の魔国の民に戻る」
「人狼薬……なんですかそれ~?」
「『人狼薬』は、そこの筒の中に八十年あまり漬け込まれた最後の人狼族達から作られた薬だ」
「なっ!?」
「この中身が……人狼族だと?」
ルーファスの目線が筒の中に沈んでいる白い陶器だと思った物を写す。
それは、人狼族の骨だと気付き、眉間にしわを寄せる。八十年ともなれば、ルーファスが父や叔父から「人狼には関わるな」と言われてはいたが、今まで会う事などなかった理由もわかる。
ずっとココで捕らわれ、漬け込まれていたのでは、出会う訳もなかったという事だ。
「食事……、王妃が振る舞う食事は皆、食します! 早く止めなくてはいけませんわ!」
「直ぐに連絡をつける!」
「大旦那、小鬼に連絡を取ります!」
捕らえた男をルーファスが蹴り付けて、腕輪に手を伸ばそうとした時、数多くの足音がし、部屋の前を無頼者達が過ぎ、部屋の中にいるルーファス達に気付くと、部屋になだれ込み戦闘となった。
「それにしても~、パディオン家はロメルス家に仕えていたとは聞きましたが~、仕える必要が無くなった今もロメルス家に仕えるのはとても不思議ですねぇ~」
「それはシンガーがロメルス家の親族筋にあたる者ですからね。もう少し魔国の王が今の王の統治になるのが早ければ、娘はロメルス家の親族筋の者と婚姻を結ぶことも子供を産み、死ぬこともなかったでしょうに……」
ぐっと唇を噛みしめ、ゼリティアは今は亡き娘を思い出し、深い溜め息を吐く。
ゼリティアの言葉で、シンガーとゼリティアの関係が良い物では無いとは判る。だからこそ、元騎士でありながら、この国の情報を宝石という対価で渡しているのも、頷けるというものである。
騎士ではなくなり、騎士道から逸脱した行為ではあるものの、彼女の中に騎士という血は残っているのも確かで、宝石を対価にしているのも、宝石というものは作りて、買い手といった者の手を渡る。
宝石を辿れば、誰がゼリティアに情報を買いにきたか……それを調べることも出来てしまうことの証拠品でもある。
ゼリティア自身も情報に関しては吟味して渡してはいるが、それで罪に問われた時や、口封じで殺された時の為の足跡の様な物として扱っている。
「二人共、地下施設の扉があったぞ」
ルーファスの言葉にテンとゼリティアは余計なお喋りを止めて、城内の宝物蔵のある場所の床にある扉を開くと地下へと続く階段が広がっている。
それと同時に、酷く腐ったような匂いが鼻腔に広がり、三人は口と鼻を押さえる様に手を当てて進む。
薄暗い階段ではあるが、使われていることがわかる魔石で造られたランプが歩くたびに点いていく。
階段の途切れに足を踏み込むと、広がった地下施設は王城の地下とは思えないほどの広さが広がっていた。
両側に対になるように部屋があり、中の部屋には液体の入った丸い三メートル程の高さのあるガラスの筒が並んでいる。
「これ、なんでしょうねぇ~?」
「濁り過ぎていて中身が分からんが……廃棄物の匂いが充満しているな」
「あまり、良い物ではなさそうですね」
「一体、なにを研究していたのやらでしょねぇ~小鬼に見せたら喜ぶ……ことは無いでしょうねぇ~あの子は怖がりですからぁ~」
テンは小さな小鬼が見たら、好奇心と恐怖で目を隠しつつも手の隙間からチラチラと覗いては「キャー」と声を上げるのだろうと思うと、自然と口元が緩む。
それを見てルーファスが半目でテンを見て、小さく息を吐く。
他の部屋も同じような物があり、どれも黒く濁っている。
よく見れば下の方に白い物が沈んでいるのがわかる。陶器の様にも見えるが、それにしては形が見慣れた陶器とは違う。
コツコツと足音が近づく音に三人はハッと筒の裏側に隠れる。
「誰かこっちにきたのか? 灯りが点いているぞ」
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「だったら、お前が入れておけばいいだろ?」
「そんな面倒な事、他の奴がやればいい」
お互いに魔石のランプに魔力を注ぐかどうかで言い合いながら、二人の男がルーファス達の隠れている部屋へ入って来る。
ルーファスとテンが目で何かあれば動ける様に頷き合う。
「今日はコレが学園祭で振る舞われるんだろ?」
「王妃もいるしな。貴族連中もいる、これで魔国も元に戻るはずだ」
ルーファスの目がカッと見開くと床を蹴り、男達の前に飛び出す。
驚いた男の一人の首に手をかけると持ち上げ、もう一人の男が逃げようとするのをテンが笑顔で回り込み、下から顎への掌底で気絶させる。
「今、言った事を詳しく話せ」
「あぐ……っ、お前達は……」
「大旦那、喋らせます」
ルーファスが掴んでいる男を力づくで跪かせると、テンが男の耳に手を当てて「【聴取】」と唱えると、男は喋り始める。
「学園祭に集まった者達は終わりに、王妃が食事を振る舞う。それにこの『人狼薬』を混ぜ込んでいる。コレで人々は元の魔国の民に戻る」
「人狼薬……なんですかそれ~?」
「『人狼薬』は、そこの筒の中に八十年あまり漬け込まれた最後の人狼族達から作られた薬だ」
「なっ!?」
「この中身が……人狼族だと?」
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それは、人狼族の骨だと気付き、眉間にしわを寄せる。八十年ともなれば、ルーファスが父や叔父から「人狼には関わるな」と言われてはいたが、今まで会う事などなかった理由もわかる。
ずっとココで捕らわれ、漬け込まれていたのでは、出会う訳もなかったという事だ。
「食事……、王妃が振る舞う食事は皆、食します! 早く止めなくてはいけませんわ!」
「直ぐに連絡をつける!」
「大旦那、小鬼に連絡を取ります!」
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